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レジ袋「禁止」案の「?」

採り上げたい話は他にもあるのですが、やはり今週もばたばたしています。で、そんな中、脊髄反射的に頭を抱えてしまった、この記事について。

無料レジ袋の禁止案、ゴミ減量で環境省検討 (読売新聞)

 スーパーなどから提げて帰った後は、すぐに捨ててしまいがちなレジ袋を減らそうと、環境省はレジ袋の無料配布を規制する方針を決めた。
(中略)
 同省が検討しているレジ袋削減策の中で最も厳しいのが、同法を改正して、無料配布の禁止規定を盛り込み、違反したスーパーなどに罰則を科すこと。

 ほかに、同法にレジ袋削減の努力規定を明記したうえで、小売店などの業界団体と各店が具体的な削減協定を結ぶ方式や、事業者に削減実績の報告を義務付けて結果を公表することなども検討しており、来年の通常国会への同法改正案提出を目指している。
(中略)
同省廃棄物・リサイクル対策部は「消費者の協力が前提となる啓発活動や、業界の自主的な取り組みだけでは削減効果に限界がある。現状のまま野放しにはできない」と強調している。

いろいろな意味で頭を抱えてしまうのですが、何よりも悲しくなるのは「レジ袋」の削減のために「レジ袋の無料配布を法律で規制して、違反者に罰則を科してしまえ!」という、この発想です。
この記事の中では、こうした規制の仕方が憲法上の「営業の自由」の侵害に当たる可能性があることも指摘されていますが、その点を措いたとしても、「法律で規制して、罰則を科してしまえ」という手法が、こういう問題において意図する政策目的を達成し得るのかという点には、大いに疑問が残ります。
いくつか思いつくままに、この発想の欠点を指摘してみると…

消費者はどうする?

まず、この政策が有効であるためには、レジ袋が有料化された場合に、消費者はレジ袋を要求しないという対応をとるということが前提とされています。当然、そうした効果はあるのでしょうが、そうした効果が期待できるのはレジ袋をもらうことによって得られる満足感(便益)が、レジ袋に支払う対価を下回る場合に限られます。例えば、1回に1000円の買い物をするときに、追加のレジ袋代(例えば)5円をけちるでしょうか?
「塵も積もれば山となる」で、日常的に買い物をする人のレジ袋消費を減少する効果があるというかも知れませんが、既にスーパーなどでは、買物袋を持参すると特典が受けられるようなシステムを導入しているところも多いようですし、こうした「自主的な取り組み」以上の効果がどの程度期待し得るのかは、きちんと検討する必要があります。

それでも、「副作用」がなければ、こうした手法も考えれないわけではありませんが、実際に「副作用」はないのでしょうか?
上に述べたように、個人レベルで見たときにレジ袋削減効果が生まれるためには、レジ袋による便益がレジ袋のコストを下回っていないといけないわけですから、効果を高めるためにはレジ袋代を高くすればいいわけです。ところが、当たり前のことですが、レジ袋代は、レジ袋の利用を容易に回避できない場合(出先での買物や品数の多い買物)に消費者が支払う金額を高めます。いわば、消費税が増税されたようなものです。しかも、その影響は単価が安い品物の方が大きくなることが予想されるという意味で偏りを持っています。
こういう「副作用」についての検討をしなければ、そもそもレジ袋を有料化するとしても「いくらにすべきか」という問題の回答は出ないわけですが、そもそもそうした「副作用」が念頭にあるのかどうかも明らかではありませんし、さらに言えば、それに対する分析アプローチをどうすべきかなんていうことは全く念頭にないのではないでしょうか?

小売店のインセンティブは?

更にこの発案者の方々は、「レジ袋の無料化禁止」が、レジ袋削減へのインセンティブを小売業者から消費者に大幅にシフトすることを意味していることに気づいているのでしょうか?
レジ袋が無料の世界では、「無料」分は小売業者側のコストになります。そして、消費者レベルではそれほど大きくないレジ袋の負担でも、小売業者のレベルで見れば、それなりの額になります。したがって、原油等の高騰でレジ袋自体の値段が上がってくると、小売業者は自らそのコストを補うための施策(例えば買物袋持参者への特典の付与)を色々と工夫することになりますし、環境問題への関心を消費者に高めてもらうことが、ひいては自らのコスト削減にもつながることになり、そうした啓蒙活動を行うインセンティブも生じてきます。
ところで、レジ袋が有料化されて、それが消費者に転嫁でき、場合によっては、レジ袋の購入原価との差で利益まで出てしまうようなことになれば、小売業者側では、もはや積極的にレジ袋削減に向けての活動を行うインセンティブはなくなってしまいます。
環境省は「自主的な取り組みだけでは削減効果に限界がある」といいますが、レジ袋の無料化禁止は、その「自主的な取り組み」を損なってしまう可能性があることには気づいていないのではないでしょうか?

世の中というのは、意外と適応するもので・・・

最後に、そもそもレジ袋というのは、より大きな「商品包装」に関する資源問題の一端でしかないのではないでしょうか?
例えば、レジ袋が有料化されたので、コンビニの弁当などが、レジ袋がなくても持ち歩きに便利なように持ち手のついたプラスチック容器に移行したり、スナック菓子が最初から袋入りになれば問題は解決するのでしょうか?
あるいは、レジ袋が法律で(例えば)5円となったときに、コンビニで「商品」として1枚1円のビニール袋が売られていたら、問題は解消されるのでしょうか?
こういう適応反応が起きれば、「レジ袋」は減ったけど、トータルでみて資源消費量は増えたなんていう笑い話すら起こりかねないわけです。
何でも「法律で罰則を設けて規制すればいい」という、この発想に脊髄反射をしてしまった日でした。

Posted by 47th : | 02:12 PM

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トラックバック時刻: June 6, 2005 12:38 PM

コメント

私も、こんなことに罰則をつけようだなんて、ほんとにしょうもない発想だと思います。記事によれば、まだ1つの選択肢として検討されているだけのようですし、仮に担当者レベルでが罰則案が選択されたとしても、最終的に法案になるまでの何段階ものチェックの過程で、この案は消えるのではないかと思いますが(と願いたい)。

とはいえ、純粋に法律上の問題としては、「こんな下らないことに罰則をつけるな」という議論は意外と分が悪いように思います。記事中のコメントにあるように罰則が憲法違反になるということは稀ですし。

法律というものは、実際にそれを使うことが全くない役人によって書かれるということがしばしばあって、彼ら彼女らは、作った法律がどの程度適用されるか、どの程度使い勝手のよいものになるかといったことについて責任を負っていません。ひどい場合、彼ら彼女らにとっては、何かの法案を作ったという形になった成果を挙げること、あるいは法案に付随した新しい規制権限やわけの分からない監督団体みたいなものを作り上げることが重要なのであって、それが必要あるいは賢明な施策であるのかには二次的な関心しかないのではないか、と思うことも稀ではありません。そして、その結果、全く発動されることのない罰則がまた付け加わり、六法がどんどん分厚くなっていくわけです。

ある時期以降、規制緩和が叫ばれるようになったためか、安易に罰則を作ろうという傾向が強まっている気がします。日本も overcriminalization の時代に入りつつあるのかもしれません。

Posted by aiam : May 19, 2005 11:31 AM

>aiamさん
お久しぶりです。
おっしゃるとおり、これで憲法違反という話はないんだろうと思いますから、あとは立法担当者の良識(と業界のロビーイング)に期待するしかないんでしょうね。
overcriminaizationといえば、独禁法や証取法で感じるのは課徴金を含め欧米並みの厳罰化が叫ばれて、立法も進む一方で、執行可能性(執行機関の体制とか違法行為探知システム)の向上の議論は、精神論だけでなかなか実行に移されないところです。まあ、後者はダイレクトに予算編成に関わるところなので、手をつけにくいところなのでしょうが、何だか非常にいびつな方向に向かっているような気がします。

Posted by 47th : May 19, 2005 01:57 PM

体調の関係でしばらく静かにしてましたろじゃあです。
本件では、レジ袋の製造業者・原料業者さんと大手小売店の間でいままでどんないきさつがあったかも重要かもしれません。優越的地位に基づいて価格を下げさせる圧力がかかってきていたのかどうか・・・そうすると従来型の経済産業省型の「土俵」で勝負するか環境省型の「土俵」で勝負するか・・・結構当事者の利害関係は錯綜しているのではないか・・・ろじゃあなどはそんなことを考えてしまいました。表に出ている話だけから考えると???ですが上記いくつかのパラメーターを考えるとなるほど・・・といえるかもしれないですよね。結局誰と誰の利害がどう調整されたのか・・・47thさんが分析しているインセンティブの問題はその意味でも重要ではないかと(^^;)。

Posted by ろじゃあ : May 25, 2005 02:31 AM

>ろじゃぁさん
体調は回復しましたでしょうか?
仰るとおり、そうした力関係もあるのかも知れません。
実は、談合の問題なんかもそうかも知れませんが、諸事情をよくわきまえた一部の人間の深謀遠慮による絶妙のパワーバランスの体現(なので素人さんは黙って見ているべし)というのが、日本では結構機能してきていたし、その中では結構直感的なインセンティブ分析(あるいは「飴と鞭」の使い分け)をうまくやっていたのかも知れませんね。
ただ、そうした特定の個人や団体の直感に頼るシステムが、うまく機能しなくなってきているというのが問題の本質なのかも知れませんねぇ・・・

Posted by 47th : May 27, 2005 06:59 PM

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