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「擬似外国会社」規定と「レース」 (2)

前回書いたように、疑似外国会社の問題というのは、決して新しい問題ではないわけですが、とはいえ会社法現代化の「字面」というのは厄介で、現在、存在している疑似外国会社の取り扱いをめぐって、今後、いろいろ問題が出てくることが予想されます。

一度死にかけた「疑似外国会社」規定

ただ、この「厄介さ」というのは、別に想定外というわけではなかったはずで、実は、会社法現代化の過程で一度は疑似外国会社規定そのものを撤廃する方向へと針が大きく振れた時期があります。
2003年10月に公表された会社法現代化に関する要綱試案の段階では、疑似外国会社規定を廃止する案が選択肢の一つとしてあげられていて、パブリック・コメントの結果でも、この廃止案の支持率が高かったために、一度は「疑似外国会社」規定は廃止寸前までいったのですが、最終的には「疑似外国会社と取引する者の取引安全を重視」して疑似外国会社規定は若干の修正の下で存置されることになりました。


「内国債権者保護」は本当の理由?

ただ、内国債権者の保護というのは、それ自体はもっともなわけですが、代表者の連帯責任でどれだけカバーされるのかには疑問の余地も残るところです。また、その内国債権者保護の代償として、現存のちゃんとしたオペレーションをしている疑似外国会社が再設立を要求されるというのも、ちょっとバランス的にどうかという気もします。
なので、私は、「疑似外国会社」規定が残った本当の理由は「内国債権者の保護」というところではなく、国際的な会社法レースへの参加を避けるというところにあったのではないかという気がしています。

「会社法のレース」?

「会社法のレース」といっても、何のこっちゃと思うかも知れませんが、疑似外国会社規定が完全に撤廃されたとしたらどうでしょう・・・

最近、ニューヨーク証券取引所に上場を果たした大手電機メーカーX社は、今年中にも、米国デラウエア州に会社設立地を移す考えがあることを明らかにした。
X社によれば、同社の外国人株主比率は既に50%を超えていることや、同社の潜在的成長力に着目した買収の観測が出ていることなどに鑑み、取締役の責任範囲や買収防衛策についてわが国の会社法よりも柔軟性を持つデラウエア州を採用することが妥当という判断に至ったという。
来る株主総会に必要な議案を提案する予定だが、同社の株式の過半数を占める外国人投資家筋は、かかる動きを歓迎していることから、スムーズに承認を得られる見通しである。

・・・といったことが現実に起き得るわけです。
実は、この「会社法のレース」は50の州を有するアメリカでは有名なセオリーで、特に大きな産業を持っているわけでもないデラウエア州を米国の上場企業の多くが設立地として選んでいるのは、デラウエア州が会社法の制度整備にエネルギーを投じて、経営陣にとって魅力的な法制度を用意したことによるというのが一つの見方として定着しています。
仮にわが国の会社法が「疑似外国会社」の活動を無条件に認めれば、わが国の会社法も、こうした「会社法のレース」に巻き込まれていく可能性があるわけです。
日本の場合には、地理的な条件からすると、競争相手は米国に留まらず、韓国や台湾、中国といったアジア圏の会社法も対象になってくる可能性もあります。もちろん、実際には、他国の会社法を設立準拠法として選ぶことには、法制度に対する情報の乏しさや会社法以外の法制度との関係、税制上の取り扱い、設立地変更の手法といったことが問題となるので、即、日本から脱出する会社が増えるということにはならないでしょうが、潜在的には、そうした競争原理にさらされる可能性を持つことになるわけです。

Race to the Bottom or Top ?

こういうレースの結果については、いろいろと議論もあり、「経営陣に都合のいい法制度」=「株主・債権者その他の利害関係者の利益保護の薄い法制度」に流れていく(Race to the Bottom(底辺への競争))になる可能性が指摘される一方で、一方的に経営陣に都合のいい法制度は結果として資金調達を困難にしたりするので、寧ろ競争の中で最適なバランスが達成されていく(Race to the Top(頂上への競争))という、どちらのシナリオもあり得ます。
今回、疑似外国会社制度を維持したことの意味は、こうした底辺への競争のリスクを避けたという具合にも考えられるかも知れません。
日本法を扱う弁護士としては既得権益が守られたということでホッと胸をなでおろすべきなのかも知れませんが、他国の会社法制度と切磋琢磨の中でわが国の会社法がどういう進化を遂げるのか・・・一人の法律家としては、その行く末を見てみたかった気もします。

Posted by 47th : | 05:15 PM

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