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株主総会の「法的」権限と買収防衛策

(6/6 追記・訂正あり)
ニレコ決定は、ブログのネタとしては最適なのに、直接に書くのがはばかられるのでフラストレーションを感じているのですが(笑)、黙って他の方の意見をROMっていると楽しかったりします。
ひょっとして、究極の「開かれた司法」とは、判決がブログで公開されてTBとかコメントがつけられるようなことを言うのかも知れませんね。判決の人気度?も、コメントやTBの数で分かったり・・・関係ないスパムが多量について終わりというのもあるかも知れませんが^^;
まあ、そういうお馬鹿な妄想はどうでもいいのですが、ニレコ決定とか、その周辺に漂う株主総会至上主義みたいなものについて、どうも会社法の基本的構造が脇に置かれているんじゃないかと思うことがあるんですよね(・・・って、要は総会至上主義の発想がいやというだけなんですが・・・)

会社法は株主総会の権限について、こう言っています

商法230条ノ10[総会の権限]
総会は本法又は定款に定むる事項に限り決議を為すことを得

でもって、裁判例でも、「法令又は定款に定める事項」を逸脱してなされた株主総会の決議は法令違反として無効とされていたりします(東京地判昭27.3.28下民集3-3-428)。
ついでに、会社法現代化後は、どうなっているかというと・・・

会社法295条(株主総会の権限)
1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。

閉鎖会社について総会による自治の範囲を大幅に広げるために1項を入れたので、少し分かりにくいのですが、公開会社は取締役会設置会社になるので2項が適用されて、ここでも「この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り」決議が可能ということになっています。

「買収防衛策の導入」は「法令・定款」のいずこに?

さて、では「買収防衛策の導入について株主総会の承認が必要」というとき、「買収防衛策の導入に総会決議が必要」というのは法令・定款のどこに書いているんでしょう?
企業価値研究会の最初の論点公開のときから、私の腑に落ちないのがこの点です。
実際には6月総会で導入する会社がとろうとしている総会決議というのは、「新株予約権の有利発行決議」であって、「買収防衛策の導入」そのものを対象とするわけではないんではないかと思います。
まあ、それでも有利発行決議という形で「ひっかける」ことのできる法令があるならいいのですが、それができない場合(例えば株式分割の事前警告型とか)には、このままでは株主総会の決議対象にすることができません。
じゃあ、「定款変更をして株主総会の権限にしておくか」ということになるかも知れませんが、仮にその定款変更が否決された場合は・・・株主総会に授権することを否定されたのだから、法的には、取締役会の権限に戻るだけなんですよね・・・でも、取締役会で入れようとしたら、それを不公正だというとすれば、実質的に商法230条の10(あるいは会社法295条2項)と抵触しちゃって、何かぐるぐる回っちゃってしまうような感じがするんですよね。

ちなみにアメリカでは

ちなみにアメリカでも同じような問題があるんですが、こちらではもっと進んでいて、買収防衛策の導入権限を定款で株主総会に与えることは違法であるということで(少なくともデラウエア州では)、ほぼ判例法は固まっているようです。米国の多くの会社の設立地となっているデラウエア州では、直接に判断した判例はないのですが、オプションの発行に関する取締役会の権限に関する判例の流れから、このような定款変更に法的拘束力を持たせることは違法とされる可能性が高いということで専門家の意見は一致しているようです。(6/6 一部訂正)
よく、アメリカでは最近機関投資家が株主総会で買収防衛策の導入に反対しているということが言われるのですが、あれは法的な拘束力は何もないわけで、一種の世論調査に過ぎません。
もちろん、「世論」とはいえ、それを無視すれば総会で再選されないわけですから、取締役としては事実上その結果を無視するわけにはいきません。でも、それはあくまで「事実上」のもので「法的」に裏付けられているわけではありません。
・・・まあ、アメリカと同じである必要はないわけですが、そうした部分を取締役と投資家との間での選解任権を通じたコントロールに委ねるというアメリカの裁判所の「引き」の美学みたいなところは、もっと見習ってもいいんじゃないかという気がします。

「型」への依存心?

ただ、それでも「事前の株主総会の有無」という分かりやすい指標で違法・適法を区別したいという誘惑は、日本の法的判断のスタイルからいえば、なかなか断ちがたいんだろうとも思います。
日本の法律家の発想の中には、こうした「型」への依存心とでもいうべきものが、凄く根強いような気がします。なので、「権限分配秩序」→「株主意思」という「型」というのは、ものすごく魅力的なわけです。
でも、そうした「型」の発想のために、逆に「実際に買収が起きていない段階の株主」の判断を問うことが、「現実に買収が具体化した段階における株主」の保護にとって、どれだけの意味を有しているのか、とか、そもそも「何を」株主に決めさせるのが、効果的なのか?といった問題にはエネルギーが裂かれずに終わってしまうような気がします。

何だか、いろいろあるんですが、私が一番反発しているのは、ひょっとしたら「買収防衛策の採用について事前に株主の意思を問うべきかどうか」という結論そのものではなく、その結論を導いている「型」への依存心なのかも知れません(・・・実際、昔は「(スキームによっては)総会決議必要というのも仕方ないんじゃないですかぁ」とか言ってたぐらいなんで・・・)

Posted by 47th : | 04:29 PM

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このリストは、次のエントリーを参照しています: 株主総会の「法的」権限と買収防衛策:

» ポイズン・ピル〜ニレコ事件、異議審の行方は? from le Quatorze Juillet
 今やライブドアに続いて有名人となったヨットマン・鹿子木裁判長ですが、 ライブドア決定の時ほど、腑に落ちないような気がします。 ... [続きを読む]

トラックバック時刻: June 5, 2005 06:37 AM

コメント

47thさんこんにちは。ほんとうにマニュアルで全体の質の底上げをするのはフランチャイズチェーンのアルバイトまででとどめていただきたいものです。むしろ型で処理できないものを是々非々に処理できるから「専門」家でしょうにね。「型」への依存の正当化する言い訳としては、たとえば法人格否認の法理に対する批判にみられるような大岡裁きの忌避のため、などが予想されますがこと私法の分野ではそのように公明正大で不必要なほど遵法的な方に裁かれるくらいならむしろ大岡に裁いていただきたいという需要も散見される一方でことごとくこうした需要が無視されていると思います。私法の分野では顧客満足度の観点からすればこうした需要もあまりバカにできないのではないかとみております。

Posted by bun : June 3, 2005 09:56 PM

こんにちは。実は、僕は47thさんとは違う印象を持っていまして、少なくとも今回の認定のように、既存の株主さんの持っている株式の投資資産としての価値に直接影響が出るのであれば、それは株主総会マターなのかな、と。まあ、ニレコ決定の射程の話なのかもしれませんが

Posted by ねむねむ : June 4, 2005 12:01 PM

私は法律についてド素人なので単なる妄想に過ぎないのですが、「『型』への依存心」は日米の国や社会の成り立ちの違いからではないかと私は思っています。
お互いの権利主義主張のぶつかり合いからルール、制度が作られるのではなく、日本ではお上が作ったルールなどをいかに守るかが価値観、倫理観のベースとなっている様に私には思われます。
一定の「型」を守りさえすれば良いと言うルール作りにならないことを理想とするのは分かるのですが、おそらく「『型』への依存心」は、法律家に限らず日本人一般に根強くあるのだと思います。
 
ところで、アメリカで「買収防衛策の導入権限を定款で株主総会に与えることは違法」と言うのは、何故そのようになったのでしょうか?
株主総会の法律上の権限の範囲外であり、定款変更により取締役会の権限を侵してはいけないと言うことからでしょうか?

Posted by HardWave : June 5, 2005 02:59 AM

>bunさん、ねむねむさん、Hardwaveさん
もちろん「型」的な思考というのが有効に機能する領域もたくさんあると思いますし、予測可能性という観点の重要なわけですが、事前規制の明確さは当事者の選択肢の限定というトレードオフを伴ってしまうわけで、企業活動という場面では、特にこのトレードオフ関係が意識されるべきではないかというのを感じるわけです。

>Hardwaveさん
昔リプトン弁護士の論文を訳したときの朧気な記憶で書いてしまいましたが、ちょっと自信がなくなってきました。関連文献を仕事場に置いているので、明日、確認してみます。
確か、ロジックは、防衛策の導入は会社法上取締役会に専権的に与えられている権限であって、株主総会といえどもこれを奪うことはできないということだったと思います。

Posted by 47th : June 5, 2005 07:05 PM

ニレコ決定が「型」的な発想であるか否かというのはともかくとして、本件では、少なくとも結論としては妥当ではないかと言いたかったんですけど。今回の決定を嘆くのは簡単ですけど、裁判長が移動になればまた別の発想から判断される可能性もあるわけで、そのような中で、我々としては与えられた決定をどのように位置づけるのかを考えるべきではないかと思っています。

Posted by ねむねむ : June 5, 2005 09:33 PM

47thさん初めまして。TBしておきながらすぐにご挨拶せず失礼いたしました。いつもたいへん興味深く読ませていただいてます。ニレコや新会社法については今後も素人ながらいろいろと考えていきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

Posted by le Quatorze Juillet : June 6, 2005 12:16 AM

確認したところ、今のところデラウエアでは直接的な判例はなく、あくまで法律家の間での支配的な見方ということのようです。その趣旨で一部訂正いたしました。
なお、デラウエア州以外で出ている判例では、オクラホマとジョージアで一勝一敗という感じのようです。

Posted by 47th : June 6, 2005 12:58 PM

異議審、決定理由要旨が出ていますね。

http://www.asahi.com/national/update/0609/TKY200506090267.html

あまり利害関係人の方にコメントを求めるのも無粋ではありますが・・・ご参考までです。

Posted by le Quatorze Juillet : June 9, 2005 06:08 AM

>le Quatroze Jullietさん
情報提供ありがとうございます。原決定維持でしたね。
ニレコのピル自体は、私は直接関わっているわけではないので、そういう意味での利害関係はないのですが、人間関係を犠牲にしてまでネタに走ることもできず、口をつぐんでいます。はい。

Posted by 47th : June 9, 2005 10:01 AM

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