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夢真続報~株式分割の仮差止めと金融庁の対応

夢真絡みで備忘録代わりですが、夢真が株式分割の仮差止めを申し立てたようです。

株式分割差止仮処分命令の申立てについて

このプレス・リリース中の申立て理由の骨子は以下の通りです。

本件株式分割は、商法及び証券取引法の趣旨に反するものであるばかりか、現に会社の支配権に争いが生じた段階に至って、何ら理由なく、正当な事業目的に基づく当社の公開買付けを利用した株式取得を妨害することのみを目的として行われるものである。したがって、本件株式分割を決定した取締役会決議は無効である。
そこで、本件取締役会決議の無効確認を求める訴えを準備中であるが、本案の判決を待っていては当社に著しい損害が生じるおそれがあるため、これを避ける目的で株式分割差止仮処分命令の申立てを行うものである。

新聞報道では新株発行の不公正発行差止めの類推適用を利用するかのようなものも見られたのですが、このプレス・リリースを見る限りは本案はあくまで取締役会決議の無効確認請求のようです。
他にも代表取締役の株式分割の実行手続きをとらえて取締役の違法行為差止請求という途も考えられるところです(この場合は6か月間の継続保有が必要になりますが)。もっとも、このプレス・リリース自体は、単にメインの主張を書いているというだけかも知れません。
・・・ただ、取締役会決議の無効確認というのは、可能性としてはどうなんでしょう?
手許に会社法の文献が全くないのではっきりとしたことは言えないのですが、商法上の具体的な手続規定に違反しているわけではないので、本質は取締役の善管注意義務・忠実義務違反の主張になると思われるのですが、こうした包括的な義務違反を理由とした無効確認請求が、それほど簡単に認められるとも思えないところです。
もちろん、本案勝訴の可能性に加えて保全の理由の有無というところでも、いろいろと論点がありそうな話です。

金融庁の対応は・・・

もう一つ夢真絡みで今日のNIKKEI NETで見た記事で興味深かったのが・・・

金融庁、夢真HDのTOB容認・届け出認め訂正求めず

建設施工管理の夢真ホールディングスによる日本技術開発へのTOB(株式公開買い付け)で、金融庁は21日、夢真の手法に問題はないとの見解を明らかにした。撤回条項を含む夢真のTOB条件について、同庁は届け出の内容を容認し、訂正は求めない方針。株式分割に伴う将来の新株も「公開買い付け対象になる」との判断で、関心を集めそうだ。

・・・というわけで金融庁のHPを見たりしたのですが、今のところ「夢真の手法に問題はないとの見解」は見あたりませんでした。
よく分からないのが、この報道が言っているのが夢真の上申書の内容を「貴見のとおり」ということで受諾したのか、単に今の公開買付届出書の訂正を認めない方針を固めただけなのかというところです。
公開買付届出書そのものは見ていないのですが、買付公告を見る限りは、通常と違うのは次の2点だけのように見えます。

  • 2.「公開買付けの内容」(11)「決済の開始日」に(注)書きで、株式分割に対応する株券については決済日がずれる可能性が示唆されていること。
  • 同(14)②(イ)「証券取引法施行令第14条に係る事項」として、株式分割の基準日が買付期間終了までになされる可能性があること。

まず、前者ですが公開買付は株式そのもののみならずオプションや予約権も対象にできるるわけですから、技術的に株券(有価証券)のデリバリーが買付満了日までになされなければならないという要請は元々ないように思われます。(あと、確か保管振替機構を使っている場合には保振に預託されている株券については「みなし預託」という形で株券のデリバリー前の取引もできたような記憶もありますし・・・ちょっと、うろ覚えですが)
少なくとも、訂正を命じるにしても、単に上記の(注)書きを削除するだけでは意味がないので、積極的に「公開買付期間開始後に株式分割により割り当てられた普通株式は公開買付けの対象から除く」としないといけないわけですが、こんな書き方をしたら、それこそ買付の平等に反して、もっと大きな問題が出てきてしまいそうです。
という点からすると、この点について金融庁が訂正命令を出さないというのは、割合自然な気がします。
次に後者の点は微妙ですが、これ自体は法令の文言にひっかけており、これに対して積極的に訂正を命ずるのも微妙です。特に、この条件は夢真側にとっては、意思表示の要素(買付をするという意思決定の過程での重要部分)でしょうから、ここが認められなければ、公開買付けの意思表示自体に「錯誤」があり、買付自体の私法的な効力にも影響が出てくることになりかねません。
明らかに法律上の文言に反していれば「重過失」という話でしょうが(この点で、夢真が上申書で主張している買付価格の引き下げとは違うわけです)、証取施行令の文言自体が幅のある文言になっているところで、大学教授の意見書までとってやっている話ですから、「重過失」というのも微妙です。
とすると、いったん受理してしまった以上は、中途半端にこの部分の削除命令を出してしまうと、却って投資家を含めて混乱を招いてしまうことになります・・・ということからすると、金融庁としては静観ということになるとしても不思議はありません。
・・・ただし、こうした「静観」ということと、解釈として夢真の見解と同様の立場に立つかどうかは別の話です。
例えば、単に訂正命令を出さないというだけであれば、夢真が株式分割がなされた後で撤回をした場合に、投資家がそのような撤回は違法だとして買付の実行や、相当額の損害賠償を求めたり、あるいは、状況によっては相場操縦の問題が提起されたりする可能性について言及したことにはなりません。

最後に蛇足なんですが、公開買付期間中の株式分割は証券取引法に反するという主張については、公開買付けというのは、あくまで買付者側に適正な開示を求める規制であって、問題があるとすれば、撤回事由が制限されている点であって、公開買付けがなされたことによって、開示規制を超えて会社側の取り得る財務的・事業的な選択肢を束縛するというのは、解釈論として少し難しいんじゃないかという気がします。

Posted by 47th : | 12:26 PM

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夢真対日本技術開発株の決定が東京地裁のホームページに掲載されました。 これも、鹿子木裁判長。 全文は、こちら(東京地裁) いずれもう少し詳しく書く... [続きを読む]

トラックバック時刻: August 2, 2005 09:00 AM

コメント

この事件、泥仕合化してきましたね。
私のみるところ、日本技術開発は、いったん白旗を上げたものの、振り上げたこぶしをおろすわけにもいかず、公開買付届出書提出前に株式分割を決議した。夢真は、追い討ちを駆けて、防衛策が妨害策になったといって噛み付いたわけです。仮処分は難しいと思うけれど、買付期間終了前に分割決議を撤回させるのが目的でしょう。
ニレコ同様、このケースもバックの法律事務所の意地の張り合いという感じがしますね。

Posted by mousikos : July 22, 2005 10:23 AM

ごぶさたしております。
この事件もおっかけたかったのですが、
なかなか時間が無くてできずじまいでした。
そして新しく始まりそうな方に興味が引かれ。。。
新しいブログにて、ワールドネタを取り扱ってみました。
ご意見などありましたら、ぜひぜひお願いします。

Posted by grande : July 25, 2005 10:09 AM

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