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郵政民営化 pro or con ? (2)

前回は、郵便事業の話で終わってしまったので、今回は金融保険事業についてです。
またまた色々と書いていますが、要は「思いつき」の話なんで、「そういうことを言っている奴もいたね」なんて頭の片隅に置きながら、ちゃんとしたところは各政党のマニフェストやマスコミなんかの解説を見ていただくという、そのぐらいのものとして見ていただくこととして、まずは民主党の考え方を見てみると・・・

⑧ ・・・当面は預入限度額の上限を引き下げ、徐々に規模縮小を図るとともに、国債管理政策の観点から現実的なソフトランディングを図るべきだと考える。具体的にはプライマリーバランス均衡までの間は、公社の経営改革の継続に加え、預入限度額の上限引き下げによる段階的規模縮小を図る。

要するに「郵貯・簡保は段階的に縮小すべし」ということなんですが、これも私的には納得間の高い考え方です。
昔の記事でも書いたんですが、この部分についての私の最大の疑問は、資金運用やリスク管理のノウハウのない郵貯・簡保が、民営化で競争すれば成功するなんていうバラ色の未来を想像できるのか、全く理解ができないということです。


銀行業務で言えば、収益の中心は貸出債権と預金金利との間のスプレッドと預金者からの手数料がメインだと思うのですが、前者は貸出債権のリスク管理が極めて重要で、これを間違えれば不良債権の山ができるか、安全面を行き過ぎれば貸付金からの金利収入が乏しく預金の金利払い負担を免れないという状況になるわけです。この部分で民間銀行というのはしのぎを削って、信用リスク管理のシステム構築やノウハウを蓄積しているわけですが、こうした部分にノウハウのない郵貯が民営化した途端に収益をあげることができるという根拠はどこにあるんでしょう?
後者の手数料収入についても、金利スプレッドによる収入モデルが厳しくなる中で、民間金融機関はビジネスモデルとして手数料収入モデルを志向しているわけですが、これも簡単な話ではなく、証券や信託を含めた総合的な金融サービスの提供による付加価値向上と共に大幅な人員削減や支店統廃合による徹底的なコスト削減によって、ようやく達成しているわけです。UFJが単独ではやっていけなくなるぐらいの競争環境の中で、これまた、一方でユニバーサル・サービスをうたう郵貯が、どうやって収益を確保していくんでしょう?

保険事業については、いわゆる利差・死差・費差が収益の源泉になるわけですが、これもまた民間の生命保険会社が収益状況の改善に必死になっている中で、運用面でのノウハウに乏しく、ユニバーサル・サービスの絡みでコスト削減に自ずから縛りがかかる簡保事業が、どうやったら収益性の高いモデルを構築できるか、甚だ疑問なわけです。
郵貯・簡保が、他の金融機関との間で比較優位性を有するのは、ユニバーサル・サービス性を逆手にとった支店網の部分だけなのですから、収益性のあるビジネスモデルを追及するとすれば、イトーヨーカ堂なんかが狙ったように、金利負担のある預金を受け入れず決済業務に特化する、いわゆるナロー・バンクを目指すのが合理的という結論にいきそうな気がします。
で、これは民営化しようがすまいが、郵貯・簡保が目指すべき方向性ですが、こうしたソフト・ランディングの間は公社形態で政府のコントロール化で行うというのは、私個人的には納得間が高いわけです。

郵貯が、既存のメガバンクの一つでも買収したり、海外の一流金融機関と全面提携でもして、先行する金融機関のノウハウを入手する計画なら分からないでもありませんが、そうでもない限り、郵貯が既存の民間金融機関と対等に競争できるとは、私には到底思えないんですよね。
・・・で、競争にさらされて、郵貯・簡保がうまくできず、不良債権や逆ざやの山を築いたらどうなるんでしょう?・・・350兆を破綻させて、ペイオフを超える損失は預金者負担で収まるんでしょうか?・・・理屈の上では、10年前と違って決済システムは金融機関の破綻があり得ることを前提として構築されているので、その意味で単純に"too big to fail"が当てはまるわけではありませんが、やはり国民の総金融資産のン%が単純に失われて終わりというわけにはいかないんじゃないでしょうか?
その意味でも、350兆の資金を運用ノウハウのない金融機関に委ねるというのは、ちょっと背筋に寒気を覚えるわけです。
・・・とはいえ、郵貯・簡保の預金金利・配当を賄うために国債購入を続けるというのも・・・それなら、個人で国債を買ってもいいわけで・・・結局、民主党の主張のように国家の管理の下で「段階的な縮小」を目指すというのが、一番穏当で合理的なシナリオなんじゃないかという気がしているわけです。

・・・と、以上、つらつら述べたことからすれば、私の立ち位置は郵政民営化全面反対ということになるはずなのですが・・・現に、つい数週間前まではそう思っていたのですが、最近、実家に戻って日本の、特に地方の空気とかに触れていると、経済的な文脈だけでは見ることができないという気もしています。
実は、この辺りが民主党としても、(私から見ると)これだけ筋の通った郵政民営化批判の材料を持ちながら、今ひとつ歯切れが悪くなっている原因なのかななどと妄想しているわけです。
大した話ではないのですが、その辺りは次回ということで。

Posted by 47th : | 10:42 AM

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トラックバック時刻: August 16, 2005 08:46 AM

コメント


お金の流れを民間にということであれば、民営化しなくても今の公社のままでいくらでもやりようがあるので、私も「民営化」には疑問だらけです。

また、私も郵貯に収益力はないと思います。

近所の郵便局でおそるおそる飲料の自動販売機を設置している姿を見た(笑)ときもそう思いました。とにかくリスクとつき合うことなしにリスクなしで儲かる商売の提案ばかりが集まっている。収益に対応して引当金を戦略的に積めれば、リスクなど実現してしまったところで一般的な費用とかわりはなく、日本人が不必要におびえるような「危険性」などまるでないのですが、日本の経営ではこれがテンで理解されない。「失敗したらどうしてくれるんだ!お前一人で責任とれないだろう」という恫喝ばかりがまかり通っている。私は「「費用」にしてくれる。責任とる必要などない」と答えてますが(笑)。

今まで売ってきたような「定額貯金」などの金融商品を、純然たる民間になっても売ることができるはずがないですね。政府の権力の支えがあってこその金融商品ばかりでした。そこをわかっていない、というご指摘かと存じます。私も賛成です。だから「国家の管理の下で「段階的な縮小」を目指す」べきだと思います。僻地のじいさん・ばあさんは元気でNHKの取材に○○銀行がないと困ると言えないから郵便局がないと困ると言っている程度のことでしょう。

やはり「郵政民営化」は選挙用のわかりやすいお題目としてずっと以前から選ばれており、小泉首相がしばらく前から国民に戦略的にこのお題目のすりこみを行ってきたもの、と考えるのが筋ではないかと思っています。反対派と民主党を同時につぶすべく実に丁寧に選ばれたお題目であり、実によく練られたシナリオに裏打ちされていると思います。

Posted by bun : August 15, 2005 02:31 AM

郵貯の金を民営化会社が全部運用すると思っておられるようですが、今の法案では、ほとんど(9割ぐらい)は政府が管理します。
新会社は残り1割を引き継ぎ、新規に預金を集めることになってます。
10年ぐらいかけて民営化するわけでいきなり運用しなければいけなくなるわけでもありません。
今の法案は確かに欠陥が多いですが、よく読みもせず批判するのはやめたほうがいいと思います。

Posted by 勘違いでは? : August 15, 2005 05:35 AM

>bunさん
私も理屈で考えたら、今回の民営化の意味には?で、ずっと小泉さんのパフォーマンスとか妄執の類だと思っていたのですが、小泉さんに対する偏見(笑)をとりさらって、実は本当に国家(と自民党)の百年の計を考えているとしたら・・・という妄想も考えてみて、もう一つエントリーを書いてみました。そちらの妄想も笑ってみて下さい。
>勘違いでは?さん
ご指摘ありがとうございます。
仰っているのは、旧郵貯・簡保の公社管理のことではないかと思われるのですが・・・私は、あれは政府保証を外す際の移行緩和措置の意味合いで、基本的なストーリーは、順次民営化会社の新貯金・保険への切り替えを図っていって、350兆の大部分は(時間は多少かかりますが)民営化会社に移っていくのだと思っていました。民営化会社の新貯金・保険の勧誘の中心も、(当面は預け入れ限度額もありますし)旧契約の切り替えが念頭に置かれているんじゃないかと、勝手に推測していました。それで、ほとんど区別せずに書いてしまったのですが、何せネットでちょこちょこと収集できる範囲での情報収集でマスコミの解説などは見ていませんので、その辺りの前提で勘違いがありましたら、またご指摘頂けると幸いです

Posted by 47th : August 15, 2005 10:05 AM

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