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郵政民営化 pro or con ? (4)

このシリーズは(3)で終わりにして、別のことを書こうと思っていたのですが、Sさんから素晴らしいコメントをもらったので、コメント欄に留めておくのはもったいないので、ご紹介いたします。

結局のところ、何で民営化(逆に公社維持)が必要かという議論に尽きるのではないかと思うのです。
ユニバーサルサービス維持という観点からも、公社という形態を維持することが必要か否か自明ではありませんし。
そもそも公社であればなぜユニバーサルサービスが維持されることになるのか、私には理解できません。
例え公社であっても、高コスト地域でのサービス提供コストがあまりにも大きくなった場合、当該地域の切捨てをしないとも限りません。
それを避けるためには、ユニバーサルサービス提供義務を課したり、取締役の選任を認可制にするなど公社の経営をコントロールする必要がありますが、かかる義務を課すのであれば、公社でなくとも日本郵便株式会社でもユニバーサルサービスの提供は確保されるわけです。

公社or民営の議論はさておき、郵便局にユニバーサルサービス義務を課すことの是非については、47thさんご指摘のエッセンシャルファシリティ(不可欠設備)に関する議論が参考になるかと思います。(ただし、エッセンシャルファシリティとユニバーサルサービス義務は直接的にはリンクしていないと思います。)
エッセンシャルファシリティ(不可欠設備)の開放義務を独占的事業者にのみ課した結果、当該事業者の設備投資インセンティブ(例えば光ファイバ設備に関する投資)を阻害されると主張しているため、米国では、ブロードバンド設備に関し、独占的事業者の他事業者に対する設備開放義務を撤廃する方向で制度改正が進められているところですが、ユニバーサルサービス義務についても同様に、事業者のユニバーサルサービス提供インセンティブに関する議論はありました。
ユニバーサルサービス提供義務については、赤字地域の採算を確保するため、ユニバーサルサービス基金を創設、固定電話サービスに係る全事業者は一定の金額を拠出し(利用者から回収されています。電話の明細にUSFと書かれた費目があるかと思います。)、基金から赤字地域において電話サービスを提供している事業者に赤字分が補填されるという仕組ができています。(実は近年のIP電話等の出現により、拠出金が不足してきているという難点はありますが。)
日本でも同種の法的仕組みはありますが、まだ不採算地域の赤字が顕著にはなっていないので、基金の発動はしていません。(現在制度改正中で直に発動されるでしょうけど。)

郵便サービスについても、ユニバーサルサービスの提供の確保(不採算地域へのサービス提供確保)は、市場原理では担保できない問題ですので、民営か公社かという問題とは別に、補助金又は基金で担保する必要があるのではないかと考えております。

要すれば、以前のコメントの繰り返しになりますが、
-公社とする必要性が感じられないので民営化自体は消極的賛成。(特段、メリットも感じられないという意味で消極的。)
-ユニバーサルサービスの確保は、民or公とは別の議論。田舎で本当に必要なサービスが提供されない事態になれば、補助金やユニバーサルサービス基金等の仕組みを創設すべき。(使われない公衆電話を多数設置することや、空席だらけの電車を田舎で運行させることがユニバーサルサービスの確保か。)
ということです。
ただし、ユニバーサルサービス基金の発動には、郵便サービスに参入する黒字事業者(いいトコどり(クリームスキミング)事業者)の存在が必要なので、郵便サービスに新規参入が認められないという現状認識に立てば、ユニバーサルサービス制度は機能しないかもしれません。
(その場合は、単一の郵便事業者が独占利潤を確保できるのでユニバーサルサービス基金は不要となり、むしろ必要なのは料金規制(プライスキャップ・公正報酬率規制等)になります。)

蛇足ですが、低サービス高コストの米国の郵便局(USPS)こそ民営化すべきだと心から思います。

・・・「なるほど」というか」、「素晴らしい」の一言です。コメント欄で、こんなに価値のあるコメントをして頂いて本当に感謝です。
恥ずかしながら、1年アメリカに住んでいながら、固定電話にUSFと書かれた項目があるなんて知りませんでした。慌てて確認したら・・・確かに、とられてます。
自分の「思いつき」に対して、こういう具合に、本当によく分かっている人から教えてもらえるというのは、ブログの醍醐味ですねぇ。

・・・とはいえ、Sさんも仰っているとおり、ユニバーサル・サービス提供の問題は市場原理では担保できない話なので、補助金又は基金による担保-前者は納税者間、後者は利用者間という母体の違いで本質的には政府を介した財の分配だと思いますが-が、必要なわけで、そのときに民営形態と公社形態のどちらが望ましいかは一概に言えないのではないかと思います。
特に、民営化といっても、国が取締役選任権を実質的に保持する状態では、投資家による経営陣刷新による規律は生じないわけで、あとは株価の(心理的な)プレッシャーがあるだけです。
他方で、そうはいっても、国は株主の一人という状態になるわけで、他の株主と比較して極端に大きな監査権限や経営介入権限を持たせることも難しく、その意味ではガバナンスは弱くなります。
補助金や基金による担保の場合に生じ得るモラル・ハザードの防止のためには、分配の意思決定権を有する国なり地方自治体が経営に関する情報を把握する必要があると思うのですが、この部分で民営化というのは、公社形態よりもガバナンスが弱まるのではないか?・・・というのが、私の思っているところです。
もちろん、そもそも国や地方自治体の意思決定権者が、分配の公正性や効率性の向上に対する動機付けが弱いとすれば、非効率性は残るわけですが・・・これは、結局、民営化しても国や地方自治体が取締役の選任権を保有する限りは存続する問題です。
・・・というわけで、私の場合は、公社形態から民営化することによる大きなメリットが期待できないのであれば、公社形態の中で進められる効率化をやっていく・・・例えば、都心部の集配事業をコンビニの運送業者に委託するとかいったアウトソーシングの利用ということでいいんじゃないの?・・・と、いわば、民営化でそんなメリットが期待できるもんでもないから、公社形態でいいんじゃないの?と、消極的な意味で民営化には懐疑的というところです。
ただ、この辺りは、どちらが社会的に効率的な状況を生み出しやすいのか厳密なデータやモデルに基づいているわけではないので、結論は何とも・・・というか、こういうことこそ、各政党がシンクタンクでも使って、ちゃんとしたデータを提示して国民に訴えるべきところなんでしょうけど、日本の政治は、ポスターや広報車、イベントにはコストをかけるけど、こうした政策立案部分にはお金をかけないわけで・・・・民営化よりも何よりも改善しないといけないのは、その辺りなのかも知れませんね。

Posted by 47th : | 12:52 PM

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» アンケート(郵政民営化&郵政民営化法案) from 一誠館〜日々の戯言〜
この前「郵政民営化法案と郵政民営化」について書いたのですが、マスコミの報道を見ると郵政民営化の賛成か反対のみで郵政民営化法案の賛成・反対について触れるところがほ... [続きを読む]

トラックバック時刻: August 21, 2005 10:20 AM

コメント

実際サービスの質ではダントツの日本の郵便局にこれ以上改善というのもかわいそうな気もします。ぶっちゃけた話、他の国の郵便がもっと何とかならないものか。

お金の使い方も近視眼なのですね。わかりやすく自分の組織が潤うところばかりにお金を回すものだから、そうした使い方にふさわしく近視眼にしか潤わない。

Posted by bun : August 16, 2005 10:45 PM

「国会審議の参考の用に供するために作成したもの」として
郵政改革の動向, 調査と情報 ISSUE BRIEF No.17, 2005, 国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0469.pdf

があり、問題点としてデータに基づく検討が必要と書かれているのですが...
他にも同様の目的で作成された資料は

国と郵便局の金融サービス提供に関する検討の実例, レファレンス No.651, 2005, 国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200506_651/065102.pdf

スウェーデンの「基礎的キャッシャーサービス法」の制定と見直し, レファレンス No.651, 2005, 国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200506_651/065102.pdf
などがあります。

Posted by 小僧 : August 17, 2005 11:32 AM

URI の紹介の追加です

民主党の「郵政改革に関する考え方」ついて関係議員の方の文章が
http://homepage2.nifty.com/gara-i/seisaku/seisaku-main.html
にあります。宣伝文句が入っているなど、当然割り引いてみる必要がありますが。

Posted by 小僧 : August 17, 2005 11:53 AM

丁寧に取り上げていただきありがとうございます。
ユニバーサルサービスについては、47thさんの仰るとおり、民か公かどちらがよいか一概には言えない問題ですね。

あと一つ民か公かを考える上で重要な論点として、規制の中立性の問題があると思います。
これは市場が開放され新規参入者が十分見込まれるときに初めて生じる問題かもしれませんが、郵便市場が開放され郵便サービス(又は信書便サービス)に現郵政公社以外の業者が参入してきた場合、規制者が同じく国の機関である郵政公社を優遇するのではないかという懸念が生じます。(下種の勘繰りかもしれませんが。)
この場合は、規制の中立性を担保するためにも、民営化が必要になるかもしれません。
貯金や簡保については、既に同種サービスの競合事業者が多数いるので、規制の中立性の観点からは、民営化の必要性が高いかもしれません。(民営化してもNTT同様株式を保有していれば同じだと言う意見もあります。)

Posted by S : August 17, 2005 01:21 PM

>bunさん
アメリカにいてしばしば感じるのが、日本の郵便網・物流網のすばらしさです。国土の広さが違うという面は割り引いてやらなくてはいけないのでしょうが、この部分でのインフラの継続的な確保は、結構重要な気もします。
そうしたところを確保しつつ、効率化を達成するというタスクは民か公かという二項対立で割り切れないような気がします。
>小僧さん
いつも貴重な資料の紹介をありがとうございます。
こうなると、データをベースにした検証を、ちゃんと見たかったですね・・・
>Sさん
貴重なご意見本当にありがとうございました。
私自身も色々と考えるきっかけになりましたし、民営化されるにせよされないにせよ、今後の郵政事業のあり方を考えるときの色々な視点が見えてきたような気がします。
今後とも、宜しければ色々と教えてください。
では。

Posted by 47th : August 17, 2005 04:04 PM

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