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US Lawへの誘い? (2)

前回、テストの話をしたのですが、授業はどうだったかというと・・・いわゆるソクラテス・メソッドと呼ばれる手法で、宿題の範囲にあるケース(判例)を使って、学生に「原告側ならどういう具合に主張を根拠づけるのか?」とか「今の原告の主張に対して被告なら、どう反論するか?」といったことを発言させていくような感じです。
噂には聞いていて、日本人には賛否両論という話は聞いていたのですが、受講者がLLMの学生だけということもあって、結構、皆ちゃんと予習してきているので、余り的外れな方向に議論がいくことはなく、割合ケースに沿った感じで議論が進むので、これ自体はいいのですが・・・辟易したのは、学生との質疑応答です。
入門編ということで、なるべく質問を受け付けようというポリシーがあったのかも知れませんが、ともかくところどころで"Any questions ?" と教授がいうと、途端に質問の嵐・・・それ自体は、そんな責められるような話でもないと思うのですが、何せ米国法を勉強したことがない学生への米国法全般のイントロダクションですから、トピックはいくらでも拡散可能です。
しかも、LLMの学生というのは、基本的に母国で法学の学位を持っていて、なまじ法律知識があるので、「自分の国では○○だけど、アメリカではどうなのか?」ということを始めたら、ほとんど無限に質問は続けることが可能です。しかも、いろんな国から来ているわけで・・・
1時間ぐらい本筋と関係のない質問が続き、結局、アサインメントの範囲のケースのディスカッションは15分ぐらいで終わり・・・とかいうことが起きたりして、几帳面な日本人としては「なんだかなぁ・・・」という感じもあるところです。
まあ、これが米国ロー・スクールの洗礼ということなんでしょうが、分かっていても多少面食らいました。


もう一つ、イントロダクションの授業を受けながら「やっぱりアメリカ」と思ったのは、徹底的なまでの自国愛でした。
実は教えてくれた教授はSheppardという、教科書の共著者の一人で、いわばアメリカにおける比較法の専門家ということになるのですが・・・
日本の場合は「比較法」の主眼は、他の国の議論を参照して、自国の法制度の問題点や見落とされている議論を導入するというところにあるのですが、この国では他の国の法制度を参照するのは、ひたすら「いかにアメリカの法制度が優れたものであることを論証する」ためという感じです。
・・・例えば、授業で刑事手続の話をすると、こんな感じです。

アメリカでは、裁判官は捜査機関の捜査記録を読まない。だから、全く予断のない状態で裁判に臨むことができる。他の国(英米法系の国と比較して、"civil law country"という言葉を使うのですが)についても、私はよく知っているが、他の国では裁判官はまず捜査記録を読むことから始める。そのために、捜査機関側のストーリーが頭にすりこまれてしまう。
この結果、どういうことが起きるかといえば、アメリカでは"civil law country"に比べて、被告人が無罪となる確率が圧倒的に高くなっている。これが、英米法系の国("common law country"と呼ぶのですが)が、fairnessを重視しているということの顕れだ。

・・・と、多少誇張していますが、こんな感じのことを得意満面で、"civil law country"からやってきたLLMの新入生に向かって話すわけです。
なるほど、確かに日本の無罪率なんて小指の先ほどなのに、さすがアメリカは"fair"だなぁ・・・なんて、いくら私が刑事事件には疎いといっても、こんな議論に騙されるほど無垢ではありません。
日本の刑事手続きの有罪率の高さはよく知られていますが、他方で、多くの軽微な犯罪が起訴猶予手続きという裁判前手続きで処理されていることも、よく知られているところです。
多くの事件が起訴猶予手続きで処理され、検察官の裁量の余地が大きくなっていることは、捜査機関に相対的に強大な権限を与えることになるので問題点も指摘されているのですが、他方で、裁判に要する多大なコストを回避し、前科者というレッテル貼りがなされることを防ぐといったメリットがあることも確かです。
従って、「無罪率」を比較しようとするのであれば、起訴された件数を分母にするのではなく、捜査機関による捜査手続きの開始件数を分母にしないと、「フェアな」比較ではありませんし、米国の刑事手続きと日本の刑事手続きの比較は、どちらが優れているという話ではなく、それぞれの制度のメリット・デメリットを分析して、よりよい解決策を見つけるための材料として用いられなければ意味がないはずです。
こういうことがあって、そのたびに内心苦笑いをしながら聞いていたわけですが、一つだけ、余りにも腹が立ったので、手を挙げてコメントしたことがありました。それは、アメリカ法の歴史を追っている中での、こんな話です。

私も何故だか理由を説明することはできないが、「事実」として一つ指摘すべきことがある。それは、第二次世界大戦前にファシズムに走ったのは、全て"civil law country"だったということだ。
ドイツ、イタリア、日本・・・全て"civil law country"であり、"common law country"は存在しない。この理由をどう説明すべきかは私も見解を持っていないが、事実として"civil law country"であることと、ファシズムとの間には「相関関係」(correlation)があることは指摘しなくてはいけない。

・・・さて、皆さんはどう思うでしょう?・・・というところで、続きます。

Posted by 47th : | 08:23 PM

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コメント

統計でいう「見せかけの相関」の類ですね。

反論として、逆にアメリカに意地悪な見せかけの相関を、それこそいくらでも探すことができますが、そのような嫌がらせの応酬は不毛でしょう。議論のレベルや品位を高く保つために、そうした相関については理由を述べられないのを理由に、沈黙すべきだったと思います。「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」。第一civil lawがそんなに素晴らしいものであればもっと早くきちんと教えて欲しかったですよね。1920年頃。

総じて日本人にはニヒリズムでなく「それをやってなんになるんだ?」と思えるバカバカしいことをアメリカ人は"Let's try!"と一からやるところがあり、明るく楽しくて結構ですししばしばドラマチックであるのは認めますが、一般にそういう無駄をあらかじめやらずにいるのを賢明と見る日本人からはしばしば耐え難いですね。一度きちんと理解して間違えなくなった問題ならそう何度も復習しなくてもいいですもんね。日本では「過ぎし戦の手柄を語る」は恥とされているというのも教えてあげたいですね。

Posted by bun : September 2, 2005 01:25 AM

>bunさん
私も、証拠がないのに大量破壊兵器があると決めつけて軍事侵攻を断行することとcommon lawとの間には相関関係があるとでも言おうかと思いました、さすがにそれはやめておきました^^

Posted by 47th : September 2, 2005 04:49 PM

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