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「専門化」の近道?

昨日の雨とはうってかわって、今日のNYは快晴・・・ながら、外には出ずに明日の授業に備えて家で予習をしていたりします。
こんなに晴れていて授業もない日は、ゴルフバッグでもかついで地下鉄のって市営コースを手引きカートで回るなんていうこともしてみたいのですが、明日のAntitrust Law & EconomicsのReading Assignmentがあるので、ぐっとこらえて、隣にミクロ経済の教科書を置きながら、Staple事件を検討。
というと、何だか予習ばかりで息苦しい生活みたいですが、余りストレスを感じないのは、結局「好きでやってる」ことだからなんですよね・・・
この前のエントリーでろじゃあさんの「大人度」という言葉に反応して、ちょこっと思いつきを書いたんですが、それに関連してふと日本でのことを思い出したりしました・・・


弁護士という仕事、とりわけ企業法務なんかをやっていると、しきりに「これからは専門性の時代」ということが言われるわけで、現に自分が日本で所属していた事務所とか見ていても200人ぐらいの弁護士が、一応何か「専門分野」というか、それぞれの守備範囲というのを持っているような「格好」になっています。
でも、例えば、「M&A」といってみたところで、そこに関連するベーシックな法律知識でいうと、昔出た「M&A法大全」一冊分ぐらいはあるわけです。ちなみに、M&A法大全の目次を拾ってみると・・・

  • なぜM&A取引は成立するのか
  • M&A交渉の論理と倫理
  • M&A会社法―商法・証券取引法
  • M&A租税法―M&A会計の基礎を含む
  • M&A競争法
  • M&A契約の概説
  • 企業買収における経営者の責任―買い手企業の取締役の責任
  • M&Aと資金調達―トラッキング・ストックを中心に
  • 金融機関のM&A
  • M&Aと不動産法・環境法
  • M&AとIP(知的財産権)・IT(情報技術)
  • M&Aにおける法的監査
  • M&Aと労働法
  • M&A取引の新展開

こうした法律関係だけでも、全部修めるのは結構大変な話です。(しかも、法改正とかが頻繁にある分野なので、あっという間に知識は陳腐化してしまいますし・・・)
で、それだけじゃなくて、実際にM&Aを扱おうと思ったら、これに加えて会計・税務の知識は欲しいところですし、基本的なバリュエーション・メソッドも頭に入っていて欲しいということになります。例えば、M&Aで価格調整なんかをやることがあるんですが、これをきちんと組み立てるためには、そもそも交渉の前提となっていたバリュエーションのコンセプトを頭に入れて、それと表面に出てくる会計的数値の関係を押さえた上で、after taxでの影響というのを考慮して最終的に契約文言に落とす・・・と、この時点で「専門化」で「深く」やろうとしても、相当の知識が必要になるわけです。
で、事務所に入ったばかりの後輩なんかから「何から始めればいいんでしょう?」とか「どうやって勉強したらいいんでしょう?」という相談を受けることも多いのですが・・・自分がどうやっってきたかというのを振り返ってみると、結局、今と同じでそのときどきで自分の興味の赴くことや面白いと思うことを「好きで」つきつめてきたことの積み重ねがあるだけなんですよね・・・なので、そこかしこに知識の偏りもあったりするわけですが、他方で、他の人が持っていない知識とか見方を持っていて、それが「売り」になったりもする可能性もある(はず)です。
・・・というわけで、何が言いたいのか自分でも分からなくなってきたのですが、「専門化が必要」といっても、だからといって無理矢理に「専門化のための近道」があるわけじゃないんですよね。
それを職業にする上で最低限必要な知識とかスキルは当然身につけなければいけないのですが、それは単なるスタートラインであって、その先どうやって差別化を図るかについては、どこにもマニュアルがないわけです。むしろ、そういう差別化のマニュアルがあったとしたら、みんなそのマニュアルに従っちゃうので、その時点で差別化にならないわけです。
とすれば、何が「役に立ちそう」とか考えて勉強するのはつまらないんで、自分だけの嗅覚とかセンスをどう生かすかということが大事になってくるような気がします。
で、こうした「自分だけ」の何かを探すっていうことは、結局、自分が「楽しいこと」、「面白いと思えること」をどうやって探すかということと同じなんですよね。
・・・というようなことを、日本にいるとき、後輩の弁護士に飲みながら話したなぁ、なんてことを、ろじゃあさんのエントリーを読んでいて思い出したりしたというお話でした。

Posted by 47th : | 07:15 PM

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トラックバック時刻: September 27, 2005 08:09 PM

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トラックバック時刻: September 29, 2005 02:18 PM

コメント

基本的に同感です。が、御社に入所してこられるような弁護士であれば自分がしていて「楽しいこと」「面白いと思えること」を探したらどうかと示唆することで十分でしょうし、逆に彼らの中にマニュアルを欲しがる風潮がもしあれば、戒めなければなりませんね。
ただ、日本全体に眼を向けると、これはなかなか難しい問題のような気がします。つまり、我が国に少なからず存在するニートあるいはフリーターと呼ばれる人たちは、(おそらく)「自分が何をしたいのか分からない」と思っている訳で、こういう人たちに「自分が好きでやりたいことを探せ」といっても響かないのではないでしょうか(「甘えているだけだ」と切り捨てることは簡単ですが、自分でも分からないというのはおそらくある程度は真実だと思います)。逆に、もう一歩踏み込んで言えば、自分の好きなことをして食っていける人なんていうのは社会のほんの一握りの人たちなのではないのか。なんてことを、「この人はいったいどんな希望を抱いて生きている(生きてゆける)のだろう?」と思わずにはいられない光景をこの大都会で目にして再認識しています。
さて、じゃあ、自分は何ができるのか?
かくいう私も「いったいお前がやりたいことはなんなんだ」「お前が好きでやりたいことはなんだんだ」と問われると、答えに詰まってしまうのですけれど。
NYのロースクールにいるのにこんな答えしかできないのでは怒られますかね?笑

Posted by ny48th : September 27, 2005 09:51 PM

(全部書き終わらないうちに送信してしまいました)
タイトルからすこしずれた感がありますが、以上のような感想を抱いたのでした。

Posted by ny48th : September 27, 2005 09:59 PM

47thさん、ny48thさんへ
47thさんTBありがとうございます。
ny48thさん、おはつです。よろしゅう。
>自分が「楽しいこと」、「面白いと思えること」をどうやって探すか
これが、大切なんですよねえ。ところが、今の若いのは高校でも、大学でも、大学院でも(!)、たぶん一部の専門職大学院でも(!)、そして多くの場合は就職に際して、就職後も、この視点と、それぞれの段階で自分が学ぶあるいは研究しようとしている対象を結びつけるのに苦労している・・・というか途方に暮れている奴が多いのではないかと思うのです。
ろじゃあは彼らがどうにも可哀想で・・・可能性の前である種の規範にすら直面できない・・・これは誰のせいなのか・・・なんてことを法務部にいるときから考えてきました。この問題には段階があって、各ステージでの基礎とは何でそれをどう修めるかという問題と自分の専門をどう確立するかという問題、そしてそのために(あるいはその過程で)何をさらに修めていくかという問題が少なくともある訳です。この羅針盤は?ある程度のものがある分野とない分野があるのです。ところがこのある分野とない分野の区別がよく判別できない・・・これは断定はできないのですが、少なくとも実社会に入らないとわからない部分が大きいと思うのです。実は社会人経験者が大学や大学院に入る社会的意義というのはこの辺にあると思うんですよね。悪童さんとお話しすると最終的に教育の話に行くんですが(^^;)、今回47thさんとのエントリーのやり取りと同じ問題意識がからんできます。長くなったのでこの件についてはろじゃあの方のエントリーでまた書きますね。

Posted by ろじゃあ : September 27, 2005 11:03 PM

専門化への近道なんて、なさそうですよね。まず、その分野での知識を人並み以上持つことは不可欠です。それだけでも大変なことなのに、それだけでは足りないことが難点です。ろじゃあさんが、専門を二つ以上持てという趣旨のことを述べられていたかと思いますが、同感です。同じ事象を他の視点から眺めることによって、もともとの専門知識が深みを増すからです。法律家が経済学等を学ぶことによって、ひとつの企業活動を異なるアングルから見つめられることができるようになれば、さらなる飛躍は間違いないと思います。その意味で、47thさんは経済学にハマられているようですが、今以上にもっと大物になっていく予感がして、すえ恐ろしいですね(笑)。

そして、人並み以上の努力で、人並み以上の知識が得られたとしても、周りから認められないと「専門化」とは言えなさそうなのも、難儀なところ。ひたすら事務所の仕事を、集団でやり続けていても、自分個人の名前がマーケットに出なければ意味がないし。(事務所内部で評価されて、いずれパートナーになるかも、という将来的効果はあると思いますが。)そうすると、執筆とか経歴とかで、自分の専門を外に示すことも必要だと思います。この点でも47thさんは既に条件を満たされているようで、これまた凄いですね。(現時点で、十分、外資のグロパになれますよ。最年少ねらったらどうですか?笑)


Posted by Bfs : September 28, 2005 01:43 AM

bfsさんへ
>自分個人の名前がマーケットに出なければ意味がない
→企業法務の人間は結構一生懸命やっていただいているセンセのことはなんだかんだと共有知になってたりするんですが、問題は仕事依頼する前の段階の企業内の決裁権限者ですかね(^^;)。これがシステム的にはまだ中途半端なところはやりづらいかもしれません。前近代的?なところと先進的なところはいいんですよ。前者は「お前がそういうなら問題なかろう」って上司が結構いたりしますし、後者は決裁権限持ってる方は目利きの方がついてますので。
>執筆とか経歴とかで、自分の専門を外に示すことも必要
→この辺は事務所運営の中でシステム化というかそれが前提になってるところは増えましたよね。ろじゃあ的には悪いこっちゃないと思います。ただいろんなセンセがおるので中には・・・(書込み自粛)(^^;)。その辺、企業の実務家は結構目が厳しくなってますので最近はお気をつけ頂いた方がいいかもしれません。特にはじめての業界とかについて書くときは10年前に比べると相当厳しいかもしれません(^^;)。
「弁護士先生のための企業法務部との付き合い方」ってセミナー企画をモーソーしたことあるんですけど皆さん来るかなあ(^^;)。ははは、ちょっと脱線しちゃいました。47thさんごめんなさい。

Posted by ろじゃあ : September 28, 2005 02:39 AM

なるほど、システム的に中途半端なところはやりづらそうですね。外資とかは、海の向こうに決済権者がいるところも多くて、激務の後のむなしさは、そんな事情が原因しているのかもしれませんねえ。それから、執筆については、おっしゃるとおりです。最近、若手が強引に書いているような論文も散見され(他方で47thさんみたいに若いのに高度な論文を書いてらっしゃる方もいらっしゃいますが。)、「これくらいなら書けるかも」なんて思っていたところがあるのですが、「これくらい」じゃ、ダメだってことですね(笑)。

Posted by Bfs : September 28, 2005 10:21 AM

>ろじゃあさま
パートナーに仕事がきているのか、それとも自分が買われて依頼が来ているのか良くわからなくなるときが「たまーに」ありますが笑、私は謙虚に行きたいと思います。

ちなみに私は好きなことを探すよりも「自分で稼いで飯を食う」ことの方が今の若い人には重要だと思います。あるかどうか分からないものを探すのに時間を使うのはもったいないですし、問題を先送りするだけなのではないかと思います。別にそんな好きでもなかったけどやっているうちに面白くなった、ということは世の中たくさんあると思います。専門化の過程としてもありうる話でしょう。
なお私は同業他社Sです。失礼しました。

>Bfsさん
またお会いしましょう。

Posted by ny48th : September 28, 2005 12:52 PM

ny48thさん
今の若い方は「自分で稼いで飯を食う」ことをいつぐらいまでできればいいと扱われてんですかね。基本的には賛成ですけど。なんか大きなファームだとある程度猶予を見ていてくれてそうで、入った途端に結構ハードなドラフティングが次から次へと回ってきて、24時間体制になっちゃうところってありますよね。これがいつぐらいまで続くのか。企業法務の現場だと「自分で稼いで飯を食ってる」実感というのが中々感じ「させにくい」(^^;)という悩みもあるようです。
あと、何をもって「自分で稼いで飯を食ってる」と認めてくれるのか・・・これは同一の専門家の世界でも相当個人差というか個体差がありそうで・・・。
たぶん、その過程で同時並行で少しずつ自分の好き嫌いというのも醸成されていくのだと思います。んで出来上がったのが、立派な専門家かあるいはハエ男か、はたまた「練成」に失敗した○○○か〔^^;〕・・・とは言ってもろじゃあは、そういう意味での「ハエ男」は好きです。ちょっと意味が混乱してきたなあ・・・。47thさんのところでこんなに書き込んじゃってごめんなさい。

Posted by ろじゃあ : September 28, 2005 02:40 PM

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