利息制限法の超過金利、支払いは原則無効・最高裁が初判断 (NIKKEI NET)
利息制限法の上限金利を超える高金利で自営業者に融資したアイフル子会社の商工ローン、シティズ(京都市)が、返済期日を過ぎた場合に残額の一括返済を求められる特約に基づき自営業者と連帯保証人に返済を求めた訴訟の上告審判決が13日、最高裁第2小法廷(中川了滋裁判長)であった。同小法廷は「上限を超える金利について、事実上強制されて支払った場合、特段の事情がない限り、無効」とする初判断を示した。
既にろじゃあさんが紹介されていますが、実務に与えるインパクトは非常に大きい気がします。この判決では、期限の利益の喪失による実質的な利率の上昇による返済の動機付けを「事実上の強制」として捉えています。期限の利益の喪失は、スケジュール通りの弁済の動機付けとして最も有効な手段であって、およそあらゆる契約ではこの方式が用いられていることからすれば、最高裁は現在の実務についてデフォルト・ルール(原則論)として利息制限法違反であると宣告したことになります。
元々、利息制限法というのは、一定以上の利率を超える部分については「無効」といいつつも、弁済が「任意」になされた場合には取り返せないという意味で、「無効」というよりは「履行について法の援助を受けることができない」という構造になっています。ただ、裏を返すと、裁判所に履行を求めることはできないとしても、任意の返済を動機付けることは、それが脅迫とか詐欺のようなものでなければいいということにもなります。
(1/13 追記:さらに貸金業者については、貸金業法43条で一定の要件を満たす「任意の支払い」については「返還を請求できない」というだけではなく「有効」とされます。厳密にいうと、両者は法的効果が違う(利息制限法の下では自然債務としては残る)わけですが、「任意の支払いである限りは無効とされない」という点で余り区別して扱っていませんので、その点ご注意下さい。)
実際には、こうしたインセンティブ付けには色々なやり方があり得ます。例えば、最初に高い利率を設定しておいて、約定通りに返済された場合には減免をする、約定通り元利金まで完済されたら一部を返還する、一定期間約定通りの利率を支払ったら残りの期間の利率を減免する、約定通りの返済を行ったら与信枠を拡大する、etc...、期限の利益喪失による実質的な利率上昇は、そうしたテクニックの一つに過ぎないとも言えるわけですが、今回、この形でのインセンティブ付けは「事実上強制されて支払った」という法的評価が下されたことになります。
・・・さて、こうなると気になるのは、上にあげたような他のタイプのインセンティブ付けはどうなのか、というところです。およそ、インセンティブ付けを一切禁止してしまうのか、それとも、どこかで線を引くのか・・・線を引くとすれば、どこで線をひくのか・・・
法的なレトリックで言えば、この線引きは「特段の事情」というところでなされるのでしょうが、この「特段の事情」には何が入ってくるのかは最高裁判決からは明かではないような気もします。そもそも、インセンティブ付けそのものを問題視するのか、それとも、インセンティブのつけかた(反した場合のサンクションの過酷さ)を問題とするのか、それとも、個別の債務者の属性(例えば、利息制限法の存在について熟知していたとか?)をみるのか・・・そもそも、最高裁が、どのようなロジックで「事実上の強制」と「任意」を区別するのかが明らかでないために、この辺りもよく分からないところです。
判決理由の短さが問題となっていますが、この最高裁判決も、その意味では短すぎる・・・というか、この「結果」が経済にもたらすインパクトの大きさから考えて、その後の予測可能性を保証するという意味では明らかに不十分ではないかという気がします。今後、この判決の背後にある理論、特に私からみると、「事実上の強制」という概念の分析と、金融において用いられる返済インセンティブ創出との関係が議論によって明らかにされることが期待されるところです。
・・・というのが、「ちょこっとローエコ」的な本判決に対する私の見方ですが、もうちょっと、大きな枠組みでみて、そもそも国家が一定の利息上限を設けることの意義というのも考えてみるに値するような気がします。10日で1%とか、年率が100%とか、200%というのは、いかがなものか(暴利じゃないの)というのは何となく分かるのですが、年率15%を超えると無効というのは、果たして制度として望ましい制度なんでしょうか?
と、この辺りのことを、また、ちょこちょこっと考えていきたいと思います。
ちなみに、私的には、この判決のロジックには疑問があるものの、結論については、今のところ是非どちらもありません。
個別の事案において中小企業金融において過酷な取立がなされていることや、よりマクロな視点でみても破産制度に対する社会的なスティグマが依然として大きく経済的再出発に対するハードルが大きいという社会背景と合わせて考えたとき、借手保護的な政策への傾斜は分からないわけでもありません。
他方で、これから考えていくように、一律の利息制限が却って真に資金を必要としている借り手への資金供給を阻害してしまう可能性も無視できないところです。
結局、最後は、市場メカニズムに対する修正がどの程度必要で、そのために望ましいメカニズムは何かということになってくるわけで、更にいえば15%前後という水準が適切かどうかというのは、本来はより実証的なデータに裏づけられるべきなんだろうな、というのが、直観的な結論です。
・・・ところで、上告代理人の方って、もしかして・・・