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株価をつり上げて売り抜けるのはインサイダー取引か?

さっきの会計的話のエントリーに比べると、こちらは我々(法律家)にとっては結構整理しやすい話の割りに、ひょっとしたら一般の方には分かりにくいのかもと思ったのがインサイダー取引の話です。

rasさんのコメントを引用させていただきますと

本件の本質的なまずさは、投資組合を介したインサイダーに当たる点ではないのでしょうか?
売却後に収益をどれほどあげたとしても、買収を発表し株価を吊り上げて売り抜ける方法それ自体に問題があるような気がします。

株式分割のような①重要事実が、②未公表の段階で、③会社関係者が、④株式を売買等をするとインサイダー取引にあたるわけですが、今回の場合は、株式の入手方法は「株式交換」であって「売買等」に該当しないので、LD株の入手段階をインサイダーに問うのは難しいところです。(これは、「原始取得」は「売買等」に該当しないという立法担当者による解説が一般に実務で受け入れられているからで、立法論的には議論の余地はあり得ます)

次に、株式分割が公表されて株価があがった後で売却した点については、株式分割という重要事実は既に公表されていますので、「未公表の重要事実」を用いたということにはなりません。なので、こっちの方は、インサイダーで引っかけるのは難しいところです。かなりひねるとすれば、今回のスキームの裏側自体が「重要事実」(公表されれば株価は下がるor上がらなかったはずということで)として、これを「未公表の重要事実」と捉えて、株式の売却をインサイダーとして捉えるというところでしょうか?

ただ、更に投資組合の意思決定者(業務執行組合員)がインサイダーであるか、一次情報受領者であることを別に立証しなければいけません。

・・・というあたりで、何か株価が上がったところで売り抜けてというところを見るとインサイダーっぽいのですが、必ずしもストレートにインサイダーにあたるわけではないのが今回の事案で、どちらかというと相場操縦的な方向性が本質ではないかと思われます。そういう意味でも、「よくできている」スキームで、結構この辺りの規制構造に詳しい人もいたんでしょうが・・・

ただ、言うまでもありませんが、株式分割をやることを聞いた第三者が予め市場で株を買ったような場合には、こっちは(一次情報受領者である限り)インサイダー取引にひっかりますね。

・・・と、ごく簡単ですが、こんなところで。 


Posted by 47th : | 01:21 PM

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トラックバック時刻: January 20, 2006 04:28 AM

コメント

こんにちは。

それから、ということですが、株式分割がそもそも株価の上昇を当然に招くということは、今ではすっかり常識になってしまいましたが、理論的には当然とはいい難い一時的な需給バランスの乱れという特殊な条件が必要なことであるのに、注意が必要ですね。私も、初めてこの事象を知ったときには、不思議で不思議で仕方がなかったのを告白しなければなりません。全くもって、

♪分割しただけで、株価上がるの、なんでだろー、

でした。

またこれに関連して、彼らは、分割をしたのに株価が全く上昇しないかもしれないそういうリスクをちゃんととっています。その点にも注意が必要です。こういう案件は、「事後」見ると全て意図的に当事者が全てを操縦可能であったかのように見られがちで当事者が冷や冷やしながら取ったリスクを軽視しがちなのですがそうした軽視がされないよう注意しなければ、懸念されておられる通りで不必要な萎縮を招きますね。

Posted by bun : January 19, 2006 10:56 PM

磯崎さんのブログを見ていて気になったのですが、
フジテレビの依頼を受けて、LDのDDを行った
弁護士や会計士は、会計操作を見抜けなかった
ことで何らかの責任を問われたりするのでしょうか?

DDレポートには、ディスクレイマーがばっちりと
ついていることが通常であり、今回も、内部資料
を十分に提出して貰えなかったので、分からなくて
当然だ、みたいな話かな、と思ったのですが、一方、
磯崎さんは、公開されている情報だけで、あそこ
まで読み解いている訳だから、重過失ありのような
気もするのですが・・・。

Posted by maru : January 19, 2006 11:34 PM

>bunさん
仰るとおりですね。
今回の偽計取引の関連でいうと、違和感を覚えるのは、ライブドアが収益をあげる前提は、株式分割であれ何であれライブドアが自分たちの株価の上昇のタイミングをコントロールする力があるということになるわけで、その辺りも、そんなにストレートな話ではないような気がしています。
>maruさん
こればっかりは、どういう観点で、どの程度のスコープでDDをやるという合意をしたかによるので、何とも言えないところがありますね。
磯崎さんの分析も、今から見れば、全てがつながるわけですが、今回のような事実が出てこなければ「なんか変だけど、よく分からない」ということになるでしょうし、それについて質問をしても、当然相手方もつっこまれたときに一応は筋が通る理屈は持っているんでしょうから、それを超えて見つけることができるかというと・・・それほど簡単な話ではないような気がします。
DDというのは、任意も任意で、むしろ相手方の機嫌を不必要に損ねてはいけないという意味では任意以下という面もあるんで、相手が隠そうと思ったら、それを暴くのはなかなか難しいんですよね・・・

Posted by 47th : January 20, 2006 01:21 AM

はじめまして。いつも見させていただいております。
DDについては本当にその通りですね。対象会社としては精一杯かっこよく見せたがりますし、弁護士会計士の方々としてはそれへのつっこみに限界がありますし。ディールが終わっていざグループ入りとなってみて初めて実情に気付くなんてことはざらに・・・しかもそうなってみても弁護士会計士はたまた対象会社にも(こっちが金出してるにもかかわらず)何も言えず・・・我々フォワード部隊としてはディール後は知らん振りでもいいかも知れませんが、その後の尻拭い部隊の人たちからすればオイーちゃんとせーよ!ってな感じで嫌われているような気がしないでもない、と・・・(すんません愚痴ですね。)

Posted by 匿名法務部員 : January 20, 2006 01:54 AM

>匿名法務部員さん
その悩みよく分かります。
で、たまたま問題を見つけちゃったりして、しかも、その問題が大きな問題に発展するかもしれないけどしないかも知れないという潜在的なものだったりすると、ともかくディールを進めたかった人たちには、それはそれで嫌われちゃったりして・・・つらい仕事ですよね(半笑半泣)

Posted by 47th : January 20, 2006 09:18 AM

47th先生

今,密かに,専門家(だけではなくなっていますが)の
間で,LD事件をめぐって話題になっている会計専門家のブログがあります。

おそらくご存知ではないと思うので,お知らせ
しておきます。

なお,このブログでは今回の事件のガサが入る前に
LDをめぐる疑惑を指摘されていたことで,一躍
注目を浴びるようになったようです。
(私も最近知りました)

http://blog.goo.ne.jp/yamane_osamu

Posted by 身元不詳 : January 20, 2006 01:02 PM

>身元不詳さん
情報提供ありがとうございます。
時間のあるときに拝見させていただきます^^

Posted by 47th : January 21, 2006 11:29 AM

47th先生

過去ログ見落としていたので、今頃読みました(汗
インサイダーにひっかけるのは、
単純にはいかないのですね。。。

かなり手の込んだスキームを、
見事に作ってきている感じがします。
勉強になりました。

Posted by grande : January 22, 2006 12:07 PM

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