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徒然なるままに、ライブドア事件

今朝のNYは明るい陽射しの中、何だか既に春が来てしまったかのような錯覚も覚えるような穏やかさですが、日本はいかがでしょう?

呑気に”24" Season5のことを書いて惰眠をむさぼっている間に、ライブドア強制捜査、株価は下落、東証はシステム・キャパで取引制限、関係者から亡くなった方も出て、当のライブドアは開示注意銘柄へ・・・

私も、授業の予習そっちのけで脊髄反射的なエントリーを連発したわけですが、まあ、こういう記事は、だいたい、①書いている時はアドレナリンが出ているので、うわぁっと書けてしまう、ところが②時間をおくと「書きすぎたなぁ」と悔悟の念がじわじわとおそってくる、でも、③新しい情報や見方に触れると、また何か言いたくなって①に戻る・・・と、学習能力に欠けた行動パターンを繰り返すんですよね。
そういえば、1年前のまさにニッポン放送とライブドアの時もそうだったようなぁ、と、思って、あのとき書いたことを見直したりすると、そのぐらいの時間をおいてブログを見ると、何だか他人が書いたような錯覚を覚えてきて、人ごとのように「へぇ、そんなこと考えてたんだ。ふぅーん」と思ったり・・・気分的には小学校や中学校の時に自分の作文とかを読むようなもんで、これはこれで個人的には面白いものです。

そういう意味で、やはり恥ずかしい内容でも、とりあえずそのときの印象を書いておくというのは、いいのかなという気がします・・・と、前置きが長くなってしまいましたが、とりあえず今の時点で心に浮かんでいることを、簡単に。

証取法158条と捜査手続

依然として情報量は十分ではないんですが、とりあえず今の時点で受けている印象からいうと、検察は、個々の情報開示や怪しげな決算手法の違法性ではなく、それら全体としてファンダメンタルズから乖離した相場を作出した行為を問題視しているような気もし始めてきました。

158条(風説の流布・偽計取引)は、「別件」じゃないのということを一瞬考えたのですが、どうも最近はそうでないような気がしています。にもかかわらず、手続的な点でひっかかるのは、実は別件捜索・差押えの問題ではなく、158条が対象とする犯罪事実の特定性の問題なのかも知れません。

例えば、粉飾も情報開示の問題も、158条の下での「偽計取引」の一内容だという立場をとれば、①捜索・差押えの対象を極めて広範に設定できる、②控訴段階で罪状を個別の法定開示書類の不実記載(粉飾)に切り替えても、別件捜索・差押えということにはならない(はず・・・すっかり忘れたんですけど、基本は公訴事実の同一性の問題ですよね?)という意味では、非常に検察側にとっては使いやすい罪状ということになります。よく考えてみれば、「偽計」をおよそファンダメンタルズから離れた相場を意図的に作り出そうとする一切の試みととらえれば、刑法でいえば「手段はどうであれ、他人の意思に反して財産を移転する罪」というような条文があるようなもので、窃盗・強盗・詐欺・恐喝・横領・背任・・・要するに財産犯全体をカバーする罪状があるようなもんで、一度、そうした解釈が裁判所に受け入れてもらえれば、捜査段階での実行行為の特定の重要性は非常に低くなってしまいます。

その辺りから考えると、やはり今回の令状請求にあたっての捜査機関の法律構成が手続的なところでの肝ではないかという気がしているところです。
 


会計とソフトロー/ハードロー

今回のライブドアの件についても勿論なんですが、もうちょっと一般的に考えて、会計におけるシロクロの問題についても、ひょんなことから磯崎さんと議論になった点は重要な論点なんじゃないかという気がします。

もちろん、「真実」を伝えることが会計の目的であるということは一般論としては異論を挟む余地はないんですが、「会計」というのは企業活動のある一面を伝えるための一種の「言語」なんじゃないかという気がしていて、①語れる内容には、自ずから「言語」の性質に応じた限界がある、②究極的には「言語」で語れるとしても、媒体(財務書類)には紙幅やフォーマットの限界がある、③同じ事象を語るのに、観察者によって異なる表現が使われる可能性がある・・・という限界は自ずからあるんじゃないかと思っています。

究極的には、こうした言語の使い方が統一され、比較可能となることが望ましいと思うのですが、この統一化をどういう形でやるのがいいのかということについては、必ずしも刑事責任や損害賠償責任がいいとは限らないんじゃないでしょうか?

私の底には、余りにも「言語」のあり方を強いサンクションでしばってしまうと、経済実態の発展自体の障害になることがあるんじゃないかという感覚があるんだと思います。bunさんが、いみじくもサッカーの試合にたとえていましたが、経済社会においてレッドカードかイエローカードなのか、それとも笛すら吹かれずに試合が流されるのかは、微妙な匙加減の必要なところで、そこはフィールドにいる審判に委ねるのが適切であって、いきなり警察がフィールドに入って捜査を始め出すと、試合そのものを殺してしまう・・・よくも悪くも、その意味で法律というのは、図体がでかくて融通のききにくいところがありますから・・・

このテーマは、非常に興味深いので、また、この事件なのか、他の件なのかは分かりませんが、折りに触れて考えていきたいところです。

「時価総額主義」の追及の終わり?

さて、磯崎さんのライブドア事件は「時価総額追求の終焉」か?という記事で、「「ライブドアがこんなことになったことで、時価総額を追求する経営というのも疑問視されてくるんじゃないですかね~」てなことをテレビでおっしゃる方が非常に多いわけですが。」というのを聞いて思ったんですが、問題は企業の側の行動原理だけでなく、ライブドアのような企業を求めていた市場の側にもあったんではないかという気もしています。

といっても、だから「投資家は反省すべき」とか「勉強が足りない」とかいう、「お金だけが幸せではないことに気づくべきです」と同じ類のお説教は、私なんかのやるべきところではなく、私が漠然と思っているのは、金銭的利益を追求することを仮定した世界において、何かライブドアのような企業に有利な環境的条件があったんだろうなぁ、というような話です。

確かに、ライブドアは時価総額を追求したわけですが、株価の前提となるはずの企業価値とか(エイジェンシーコスト対策としての)ガバナンスといった条件と切り離された「時価総額追求」というのは、本来そんな簡単な話ではありません。報道されている「時価総額追求」手法は、確かに「怪しさ満点」ですが、ファンダメンタルズと切り離された相場作出の常套手段である受給そのものを見せかける手法や、全く根拠のない有利な情報を流すという手法が使われているわけではありません(少なくとも報道されている限りは・・・乱暴な話をいえば、確かに資本取引と損益取引の区別は大切ですが、市場を暴落させずに株式を高値で売り捌いて現金化したわけですから、何というか、その意味では単に数字だけをいじったというのとは違うことも確かなところで・・・)。

むしろ、ライブドアに特徴的なのは、根拠は定かではないけど「うちの株価はあがる」というメッセージを発し、それを投資家が信じたというところのような気がします。ファンダメンタルズと関係なく、「ダイレクトに株価をあげる手法」というのが存在していたとすれば、効率市場仮説どころの話ではなく、企業側としては謙虚にライブドアのやり方を研究して、それを(つかまらないように)アレンジして応用させていただければいいことになります。

このやり方が通用した原因というのは、個人投資家と機関投資家それぞれに固有の要因があるとは思うのですが、日本の金融市場の資源配分のシステムや行動原理がライブドアのような企業にとって有利な形でのバイアスが存在しているんじゃないかと・・・といっても、今はそれを具体的に指摘するほどの材料はないんですが(ノイズとかをそのまま適用するのも能がないしなぁ・・・)、これも、何か思いついたら何れということで。

Posted by 47th : | 11:16 AM

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