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ライブドア本体(単体)粉飾疑惑の気になるところ

・・・というわけで、今ひとつわけのわからないマネー社買収絡みは「別件」で「本件」はこっちということなんでしょうか?

最初に、念のために申し上げておきますと、私はライブドアのファンではありませんし、個人的には、適法かどうかは別として同社の戦略が妥当かといわれれば首を傾げる方です。
結局のところ、ライブドアの手法を賞賛し、資金を投入してきたのは「市場」で、やり方はどうであれ、「持っていれば損はさせない」という意味で人気を集めてきたわけです。ある種の「人気商売」にとっては、スキャンダルは致命的になるわけで、そもそも強制捜査のきっかけを与えてしまったことそのものが、最終的な結末はどうであれ、「人気商売」としてのビジネス・モデルにおいては失敗だったんではないかという気がします。
ライブドアを祀り上げたのも「市場」なら、見放すのもまた「市場」であって、今回の件をきっかけに、ある意味でヒステリックな市場反応が生まれていることについては、自然の流れということじゃないかと・・・そういう意味においては、私は結構冷めてます。

・・・とはいえ、そのことと法律の解釈とか手続的適正というのは別の話です。社会的に石を投げられることと、それが法によって裁かれることは違います。
「社会が石を投げるから、罰(刑罰・行政罰)を与えていい」のなら、法律とかはいらないわけで、もっといえば、「社会が石を投げるかどうか」が基準に裁かれるところには法的安定性とか予測可能性といった経済的活動の基本は確保されません。というわけで、いろいろと今回の捜査機関の立場について疑問を提示してみようというのが、私の立ち位置というところです。

・・・と前置きが長くなりましたが、報道による、今回のライブドア本体の「粉飾決算」についても、いろいろとよく分からないところがあるんで、つらつらと思ったことなどを。会計にわたる部分は、ひょっとしたら何か勘違いがあるかも知れませんので、もしお気づきのことがあれば教えて頂けると幸いです。


まず、そもそも、どういう粉飾だったんでしょうか?
実質的に傘下にある会社の利益の付け替えということなんですが・・・経済的に意味があるかどうかはともかくとして、グループ会社間の「利益の付け替え」自体は、別にそれ自体違法でも粉飾でもありません。

例えば、利益の出ている子会社に不良在庫を売却するような取引は、それが意味があるかどうかは別として、実際に物が動いて対価が支払われる限りにおいては粉飾でも何でもありません。極端な話、税務面の問題さえなければ、利益の出ている子会社が親会社に現金を「贈与」することだって「違法」ではありませんよね。
(余談ですが、親子会社間での剰余金のやりとりにここまで神経質なのは日本だけですよね?・・・去年、とあるM&Aで、アメリカとヨーロッパのM&A弁護士に、株式譲渡の直前に運転資本(working capital)相当の現金を親会社が全部引き上げようとすると、日本では寄付金の問題が出るというと「何で?」という顔をされました)

なので、「粉飾」というからには、①全く何ら取引がないのに、子会社に財産を親会社に計上した(どうやって??)、②取引の外形はつくったが、実際にはその取引の実体はなかった、③取引の実体もあるが、経済的なリスクが実は移転していなかった(例えば同額での買い戻しが前提となっていた)・・・あたりのどれかでしょうけど、①は、いくら何でもさすがにないんじゃないかと思うんで、そうすると②か③のどちらかじゃないかと思うんですが・・・③については、一時期の「飛ばし」問題があるんで、結構監査法人も神経質になっているんで、そうすると②のあたりじゃないかという気がしてきます。

ただ、②も、(i)売買のように形式と実体の差が客観的にはっきり分かるものと、(ii)例えば、「経営指導」のようなサービスが対価となっていて、サービスが履行されたかどうかが一義的に明らかにしにくいもの、(ⅲ)一応履行はされているものの、対価的均衡がとれていない(もらっている対価にみあっていないんじゃないの?)とか、いろんなパターンがあり得ます。
(i)だと分かりやすいんですが、(ⅱ)とか(ⅲ)のパターンだとすると、そんなにきれいに「粉飾」というわけにもいかないところで、この辺りでいろいろと解釈の余地が出てきそうな話です。

・・・というわけで「付け替え」≠「粉飾」なんですが、報道からは、どのあたりが争点になりそうかは、まだ分かりませんね。

そもそも、単体決算というのは元々が非常に不完全なもので、関連会社との取引と関連会社に対する出資の評価が分断されてしまっているので、およそあらゆるグループ間取引は「単体レベル」でみれば、どこか利益の付け替え的な要素や二重評価的な状態がほとんど不可避的に生じるわけです。
こうした欠点を補うために連結会計があるわけで、およそ実際の経済界では連結の数字がベースとなっていて、単体の数字にこだわるのは、単体ベースで配当可能利益計算をやったり企業再編のときの取扱いを決めているという商法のたてつけが絡む世界だけだと思っていたのですが(・・・実際、M&A でも、会計士さんや会社の人はみな連結の数字に着目しているのに弁護士だけが商法上の問題が出てき得る単体の処理にえらくこだわるという状況もよくあるわけです)、面白いのは、asahi.comのこの部分です。

このような経理操作は、グループの連結決算では黒字でも、ライブドア本体の株価維持などのために赤字にしないようにする狙いがあったとみられている。

この動機が本当だとすれば、ライブドアは、完全に市場関係者の非合理性・・・というか、単体重視の投資行動を仮定していたということになりますが・・・極めて、興味深い話ですし、効率市場仮説に対する、かなりのアンチテーゼになる話です。
是非、どこかで連結の数字と単体の数字とキャッシュフローベースの数字のどれに対して株価が感応的なのか実証研究をやってみて欲しいところです(アメリカで有名なのは、株価は会計上の利益ではなくキャッシュフローに反応するという奴ですね・・・あれも色々議論はあるんですが、圧倒的に単体と連結との比較の方が衝撃的でしょうね)

最後に、最初にちらっと書いた「別件」と「本件」ですが、もし本当に今回の「本件」がこっちなら、別件捜査もいいところですし、こうした経済事犯で、この種の別件捜査が許されるんだとすれば、結構恐ろしいことです。
個人と違って、会社というのは色々な活動をいろんなレベルでやっていて、しかも、経済活動というのは、ルールが明確なところとそうでないところの入り交じったところですので、どこか「グレー」な部分は、どんな企業にもあるわけで・・・別件捜索・差押えが広く認められることになると、その萎縮効果たるや恐ろしい話なんじゃないかと・・・

この辺りの手続的な部分でも、本来は、捜査機関のやり方について、いろいろと議論されるべきだと思うんですよね・・・ライブドアだからとかそういう話を抜きにして・・・

Posted by 47th : | 00:45 | Securities

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コメント

ご無沙汰してます。自分、フロリダぼけからようやく立ち直りつつあります。ところで、主題とは関係ないですが、「株式譲渡の直前に運転資本(working capital)相当の現金を親会社が全部引き上げようとすると、日本では寄付金の問題が出る」のところ、その寄付金の問題というのをできれば教えていただきたく。自分の理解では、利益積立金の範囲なら、みなし配当にもっていくという方向性もありえ(数年前の改正によってやりにくくはなってますが。)、そうすると、キャピタルゲインを配当所得に変えて受取配当益金不算入を使うというアメリカ人弁護士の狙いは、日本でもある程度達成できるのではないかと考えてしまっていたわけです。。。

Posted by ぶらっくふぃーるず : 2006年01月18日 01:38

↑すいません、あらためて見たら、本当に主題と関係なくて申し訳ないです。この事件、ほんと凄いことになってますね。確かに報道だけ見てると、別件捜査みたいですよね。風説を流布したという風説を、検察当局が流布したみたいな感じなんでしょうか、笑。粉飾の態様も、確かに気になりますね。決算期過ぎてから数字をいじっちゃってアウトになるというパターンも結構あると聞いたこともあります。

Posted by ぶらっくふぃーるず : 2006年01月18日 02:05

ライブドア本体にも疑惑があって、それは②取引の外形はつくったが、実際にはその取引の実体はなかった、という事案のようです。ブライダル会社を買収する前に、同会社にあった預貯金5億円についてライブドア本体の売り上げとして計上するために、架空の売上を立てた(その指示メールが押収された)、とかいう話じゃなかったかと思います(検察庁からのリーク記事ベースの話ですが)。違ってたらすみません。

Posted by ねむねむ : 2006年01月18日 02:32

何だか忙しくて、詳しく記事を追いかけている暇もないのですが(早く寝なきゃ)、帰ってきてニュースを検索しても相変わらず事実ははっきりしませんねえ。証取法違反などの特別法違反の場合は、実務上、捜索差押令状には○○法違反と書かれるだけで罰条までは記載されず、被疑事実の要旨も書かれるわけではなかったはずですので、この時点で被疑事実を正確に把握しているのは、捜査当局以外では、捜索差押令状を出した裁判官だけなのではないでしょうかね。同じ証取法違反でもインサイダー取引なんてことになると、問題となった取引がある程度特定できるので被疑事実のイメージがわきやすいですが、今回は、捜査当局がどのような事実を拾って一つの被疑事実として組み立てようとしているのかが分かりにくいですよね。捜査機関も肝心なところは公表しないでしょうし。マスコミの報道はそうした特殊性によるところもあると思いますが、結局、捜査機関からの情報を流しているだけで、今回の事件がそもそも違法なのか、違法か否かの境界線はどこにあるかなどの検証をしようとする姿勢はみられませんね。

Posted by taka-mojito : 2006年01月18日 14:58

こんにちは。

私も本体の粉飾が「本件・本丸」であったのではないかと思います。また、日本では連結よりも単体重視の投資行動が行われているという仮説は正しい(棄却できない)と思います。彼らは株式市場のあるべき姿から日本の市場が乖離している部分に大変に敏感で、株式分割の際の需給のゆがみのようにしばしばそれを利益に転化してきましたので、押収された彼らのメールは、現在の株式市場に関する実証研究のテーマの宝庫だろうな、と思っています。

Posted by bun : 2006年01月18日 21:12

>ぶらっくふぃーるずさん
税の話は、また今度飲んだときにでも^^
>ねむねむさん
いろいろとあるようですが、とりあえず、新しい日経の記事でクリアになったところもあるので、新エントリーを立ててみました。
>taka-mojitoさん
おつかれさまです。
さすが令状実務を知っている人の意見は含蓄が違いますね・・・なるほど、勉強になります。もうちょっと、その辺りいろいろとお聞きしたいところです。
>bunさん
確かに、こうしたアノマリーとかを利益に結びつけるというのは、非常に高度な話で、それを意図的にやっていたとすれば、褒められた話ではないとしても、(自分も含めて)ライブドアに対してもっと謙虚にならないといけないのかも知れませんね。

Posted by 47th : 2006年01月18日 23:01

47th様

大変申し訳ありません。
間違えて複数回トラックバックを送信してしまいました。
もし、よろしければ削除していただけないでしょうか。
ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。

Posted by foresight1974 : 2006年01月20日 08:30

早速ご対応いただきましてありがとうございました。
大量のTBが届いたことを知ったときには、目玉が飛び出る
くらいぶったまげました。

堀江さんもきっとこんな気分だったのではないでしょうか。
たぶん。。。

Posted by foresight1974 : 2006年01月20日 08:46

 
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