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日本代表における「組織」と「個」の不幸な関係

ワールドカップは、いよいよベスト4ですね。

個人的にはイタリアが順当に勝ち上がり、開催国ドイツとの決戦というのがたまりません。
デコの復帰したポルトガルとキレキレジダンを擁するフランスの対戦も中盤での攻防が楽しみ(但し、ゴール前ではイライラが募りそうな予感が・・・)。

とワールドカップは盛り上がっているんですが、個人的には、7月いっぱいは、てんぱった状態が続くので、ブログの更新も滞りがちになるかも知れません。予めお詫びを。

ところで、Vaboさんの教えてくれた日本戦終了後の川渕会長のインタビューについて、書こう書こうと思って放っておいたので、このまま旬を過ぎてしまう前に、ちょっとメモ程度に思ったことを。

例の「史上最大の失言」については、色々な方が至極真っ当なことを仰っていますし、うっかりにせよ意図的にせよ、ご本人たちは「しょうがない」とか「許される範囲」と思っているんでしょうから、何れ笑い話として語り継がれていくんでしょう。
ちなみに、上場企業、例えばソニーの取締役が次期CEOの名前をうっかり記者会見で口にしようものなら、会社から正式なプレス・リリースを発表するまで会見は打ち切り、選任過程や情報管理の妥当性についてコンプライアンスの観点から検討がなされ、失言をした取締役の責任問題・・・ということになるぐらい重大な話ですが、日本サッカー協会は上場もしていないし、意思決定は全て会長の胸先三寸で決まるんだから、問題にならないということなんでしょう。

上場会社と違うといえば、「試合内容そのものについての分析は、技術委員会が分析をしてリポートを出すので、私自身の感想はここでは控える」と言いながら、ジーコ・ジャパンの4年間の総括は展開するというのも不思議は不思議です。論理的に考えると、①ワールドカップという総決算の3試合は、ジーコ・ジャパンの評価には関係ないので技術委員会のレポートを待つ必要はないのか、②そもそも技術委員会のレポートはジーコ・ジャパンの評価には関係ないということなんでしょうか。
上場企業でいえば、新事業のプロジェクトが赤字であることは確実で、その要因の分析はまだだけど、プロジェクトは成功だったと会見で言うようなもんでしょうか?
まあ、何れにせよ、上場会社的なガバナンスの常識は通用しないんでしょうから、いいんでしょうねぇ。

・・・と、本論と関係ない愚痴が長くなりましたが、本論は川渕会長の次の発言部分について(下線は筆者)。

ジーコ監督は、選手自身が考えるサッカー、自分たちが試合の中で臨 機応変に対応する力をしっかり身に付けさせようとした。「自分たちは強い」と自信を植え付けさせる4年間だったと思う。選手自身が失敗を恐れずに思い切っ てトライする初めての大会だったが、残念ながら成果には表れなかった。われわれも当然分かっていたことだが、組織だけで勝ち切るのは限界があって、個の力 を高めた上での組織力が、(W杯を)勝ち抜くためには絶対に必要不可欠なものであると、明確な形で見せ付けられた大会だったと思う

ジーコ監督がやってきたことは、ネガティブ・シンキングではなくて、「君たちはやれるんだ」という自信を植え付けさせるポジティブ・シンキングだったと思 う。今後もその方向を変えてはならないと思うし、それがジーコ監督がこのチームに残していったものだと思う。選手がそれを理解し、実現するレベルまでは残 念ながらいかなかったが、この方向性をわれわれサッカー協会は重く受け止めて、新たなチーム作りをしていきたい。今度の日本代表監督も、そのことを理解 し、監督のやりたいサッカーではなく、選手自身が判断し思い切ってトライする人を選ぶために今、交渉をしている

さすがに後段の部分については、記者からつっこみが入って、次のように弁解しています。

「監督のしたいサッカー」でなく、「選手がしたいサッカー」と言う と表現が極端に聞こえるが、選手を重視する――やはり監督にも「チームのあり方」があるので、それを全部無視するわけじゃない。しかし、その時々で選手が ベンチ(監督)を見るのではなくて、いろいろな局面でも自分で判断できることが大事であって、選手たちが思い切ってトライし、自分の考えで難局を突破して いく、そういうものを植え付けてほしいという意味。監督の作りたいサッカーはなくていい、というわけではまったくない。ジーコも決してそうじゃない。「選 手自らが考えるんだ」ということを強調して表現しただけ。

と、この発言を見ていて、非常に不安になったのが、川渕会長に依然として残るトルシエ・アレルギーと、非常に根本的なところに存在する「組織」と「個」との関係に対する誤解です。


まず、最初の部分の「組織だけで勝ち切るのは限界があって、個の力 を高めた上での組織力が、(W杯を)勝ち抜くためには絶対に必要不可欠なものである」という認識は、同じグループのオーストラリアやクロアチアがブラジル相手に善戦し、最終的にはオーストラリアが2勝1敗でGLを突破した事実や、韓国がブラジルを破ったフランス相手に(いくら本調子でなかったとはいえ)引き分けたことと、どう整合するのでしょう?
サッカーのチーム力を敢えて「個の力」と「組織力」に二分するのであれば、今回の結果において、どちらが原因かは一概に結論が出せるものではありませんし、むしろ国内リーグの台頭で個の技量については向上しているはずのUSAが全く結果を出せなかったことなども見ると「組織力」に問題があったという見方も十分にあり得るはずです。
百歩譲っても、原因が何だったのかは「技術評価委員会のレポート」を待って判断すべきことのはずですが、それを待たずに川渕会長の中では既に「個の力の不足」が原因であると結論が出され、それをベースに次期監督の選任が進められていることになるわけです。
前のエントリーで適切なモニタリングの必要性があるんじゃないかという話をしたわけですが、どうも、この部分からは客観的な評価軸があるのか疑問が残ります。

もう一つ気になるのは、川渕会長が「組織」と「個」を対立的なもの、あるいは前者は後者を阻害するものと捉えている点です。
余程トルシエのやり方に含むものがあったのでしょうが、サッカーのような集団競技においては「個」の力が発揮されるためには、優れた「組織」が必要です(※)。
フィールド上で11人のプレイヤーが存在し、90分間、目まぐるしく試合展開が変わる状況においては、ある状況に対して「チームとして、どう対応するか」についての約束事がないといけません。
「個」として高いレベルの力を持てば持つほど、その「個」の力を発揮するためにはチームとしての約束事が徹底していないといけません。
もし、傑出した一人の「個」があって、それを活かすと決めたのであれば、他の10人は、その「個」を活かすために自分のプレイ・スタイルを犠牲にしなくてはいけないかも知れません。(例えば、今大会ではシェフチェンコ頼みのウクライナでしょうか)
逆に、11人全員が「個」の一部をあきらめることによって、チームとしてのシナジーを求めるという方向性もあるはずです。(主力選手でも必要に応じて控えに回すオーストラリアやポルトガル辺りがこれでしょうか?)
何れにせよ「個」を活かすといっても、そのためには、それをどういう形で活かすのかについてチームとしての「ビジョン」が必要であり、そのビジョンに沿った形での「組織」の構築が必要なのは、別にサッカーに限らずビジネスでも同じことです。

川渕会長の最後の発言のように、「試合中に監督を見なくてすむ」とすれば、試合に入る前に色々な約束事がきちんと決まっているか、決める必要もないぐらいに共有されているからです。
前者だと川渕会長がいやがるトルシエのスタイルに近くなるので、おそらく理想は後者なのでしょうが・・・そこで「共有」されている感覚が、日本の国内チームでのみ通用する感覚だとしたら、どうなるでしょう?
日本人選手が前ポジション満遍なく海外リーグで活躍するようになって、「暗黙知」が世界レベルにんれば別かも知れませんが(※2)、そうでなければ、その「暗黙知」は世界レベルでは全く通用しないかも知れません(このコラムでは「明確な戦術的方針を打ち出さなかったジーコ率いる日本代表は必然的に選手が普段慣れ親しんだJリーグの戦術を選択した」と指摘されています)。

日本選手の「個」を世界レベルで活かすためには、それに相応した「組織」の構築が必要であって、両者は対立するものではありません。
トルシエのように強権的に振る舞うかどうかはともかくとして、優れた「組織」を造り上げ、それによって日本選手の持つ「個」のポテンシャルを開放したという意味においてトルシエの方向性は間違っていなかったわけですが、川渕会長には、おそらくトルシエ個人に対する嫌悪感が先に立って、「組織」と「個」を二項対立の図式に位置付けてしまっているような気がします。

オシム氏は日本は「できるサッカー」と「やりたいサッカー」の差が大きすぎるとコメントしたようですし、「組織」と「個」の調和に高い手腕を持つ方だと聞きます。もし就任されるのであれば、日本のサッカー界を「組織」と「個」のジレンマ、あるいは、トルシエに対するトラウマから解き放ってくれるのではないかと密かに期待しています(※3)。

 

(※)プロ・スポーツやオリンピック・レベルでの競技に関していえば、おそらくゴルフ、テニス、陸上といったプレイヤー自体は単独の競技ですら、スタッフとの連携という意味で優れた「組織」は必須になりつつあるのではないかという気はします。

(※2)それですら、各リーグのスタイルや、リーグ内での戦術の違いからすれば、「暗黙知」に頼るのは難しいことは、はからずも今回のブラジル代表が示してしまったような気もします。孤立するロナウジーニョとカカーが、何れもセリエAとリーガを代表する戦術家のチームに所属していたのは偶然ではないような気もするところです。

(※3)個人的には高齢が気になるところですが、今の日本が陥っているジレンマを止揚する途を示すという目的で2年間やってもらった上で、(サッカー協会の独断ではなく)オシム氏の意向を踏まえた後継者に引き継ぐというのが望ましいような気がします。

Posted by 47th : | 11:02 | Sports

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トラックバック時刻: 2006年07月03日 23:44

コメント

はい。まったくおっしゃるとおりだと思います。
私もオシムには非常に期待するところがあるのですが、結局その後がつづかないのではしょうがないと、それが心配です。
加茂監督と当時のユース、五輪監督、トルシエまでの流れには非常に明確なビジョンがありました。日本は個人の技術や体格で劣るから、コンパクトな組織で守り高い位置でボールを奪い、素早く点を奪う。ところがジーコ代表は全く別の考え方で、それはそれで良いとしても五輪監督は山本さんという、ちぐはぐさで日本のサッカーは拠り所を失ってしまった。
今回、ジーコへの批判が出るというのはわかりますが、川淵さんへの批判が少ないのはどうにも不思議です。

Posted by hal* : 2006年07月03日 12:51

 個人的な体験では、「馬鹿じゃないから、言われなくても分かる」とのたまう方によくでくわします。
 そのまま進めると、途中で全員違うことを考えていることが判明し、空中分解寸前になったこともw。
 ビジョンを明確化し共有することってホントに大事ですよね。

 指差し確認!!。安全第一。

・・・・笑ってはいけないw。

Posted by 金鉱マン : 2006年07月04日 05:47

>hal*さん
ワールドカップを見ていると、ヨーロッパの激戦を勝ち抜いてくる国というのは自分たちのスタイルを持っていますよね。それがはまることもあれば、こけることもあるわけですが、そのアイデンティというのは一貫しているわけですが・・・日本の場合は・・・
アフリカの国の強さが安定しないのも、同じ原因がありそうですね。
>金鉱マンさん
暗黙の了解というのは、コミュニケーションで埋められるところをきちんと埋めた後で生きるものなのに、そこの手を抜くと悲惨な結果になりますよね。
私も、大きな案件を動かす時には、最初の段階でのプロトコルをきちんと決めることに結構労力を使う方です。

Posted by 47th : 2006年07月04日 20:56

わざわざエントリーに取り上げて頂いて、有難うございます。
興味深く拝見しました。
(W杯観戦疲れが出てしまい、反応が遅くなりました...m(_ _)m)

拝見した印象は
「同じものへの着目点や評価が、ここまで自分と違うのか!」
という驚きでした(笑)

私は、
・ご指摘の前段部分には、何も感じずスルーしてました..(自分の鈍さ痛感中です)
・『最大の失言』部分については、
 個人的に「人間である以上ミスは仕方ない、その後が大切」と思っているので、
 「事後対応として、急遽10分間で公開へ方針を切替えた臨機応変さは合格点かな」
 と、むしろ前向きに評価しておりました。
 (10分の間に、ジェフの『フロント』に対しては了承を得る連絡取ったようですし..)
・最もツッコみたくなったのは、下記 最後の部分です...
> ――オシムさん以外に交渉を進めている候補は
> 田嶋 まったくおりません。
...読んで即座に、(これは交渉術上、ヤバいだろう)と感じました。

日本人相手ならまだしも、海外の方が交渉相手の場合は
a)受けてくれる場合も、競争相手いないと相手の吹っかけ放題(~そういう人が多そう)
b)仮に他の人になる場合は、「自分は当初想定外」と知られてしまう
 (⇒後手に回ってる事で足元見られるか、就任の際のモチベーション低下)
と、この発言から生じるのはマイナスの効果しか思いつかなくて...

後になって、オシム氏の人となりを本やWEBで知ってからは、
「オシム氏を知ってるから、この誠心誠意の答弁で良かったのかも?」
とも思いましたが...やはり成熟した大人の対応が出来てるとは思えません。

この後のジェフを交えた会見応対も、オシム氏とJFAでは面白い程に対照的でしたので、
今では、ひそかに
(こうしたJFAの未熟さ・軽率をたしなめられる点でも、オシムさんが最適任かも)
と、期待しております...

Posted by vabo : 2006年07月08日 03:15

 
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