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中央青山への処分の「重さ」の?

ようやく試験も終わり、そのまま試験の結果も出ていないのに見込み卒業式まで終わってしまっているんですが、何か緊張の糸がゆるんで、すっかりだらけてしまっています。

というわけで、中央青山の業務停止命令については、噂段階でちらっと触れて以後、きちんとフォローしていなかったんですが、その後以下のように金融庁の処分が下っています。

 平成18年5月10日金融庁「監査法人及び公認会計士の懲戒処分について

で、これについて印象を・・・とも思ったんですが、実は正直いって、次の処分の「重さ」をどう考えていいのかがよく分からないところがあります。

(2)処分内容

業務の一部停止2ヶ月(平成18年7月1日から平成18年8月31日まで)
[停止する業務] 証券取引法監査及び会社法(商法特例法)監査(法令に基づき、会社法(商法特例法)に準じて実施される監査を含む。)。ただし、一定の監査業務を除外するものとする(詳細は別紙1)。

これについては、新聞報道などでは契約企業との契約をいったん解除しないといけないとか、この期間は法定監査対象企業に対するサービス提供は一切禁じられるいう感じのトーンも見られます。もしそうだとすると、実質的には、この処分の影響は2か月という短期の問題ではなく、一旦清算しろと言っているのと同じような意味合いになるんでしょうが・・・

ただ、金融庁処分の文言と別紙1の書きぶりを見ていると、ここで停止されているのは法令に直接基づいた行為、つまり「監査証明」に限られているような印象もあります。
特に、業務停止の例外として「6月決算会社」については「8月」だけが除外されていますが、私の理解しているところでは、監査実務の実際としては、決算期直後から現場レベルでは監査法人と会社の密接な連携というのはあるはずですし、それがないと3か月以内に計算書類をファイナライズするというのは難しいはずです。
とすると、6月決算会社について7月は業務停止の対象となっているというのは、こういう実務レベルでの活動まで禁じるという趣旨ではなく、「法律に基づいた監査証明を行うことができない」という意味合いになっているような気がします。この辺りは11月決算の半期報告書についても8月だけが処分の例外とされているのと同じところ・・・というわけで、もし仮に監査証明だけを意識しているのであれば、一見の厳しさとは裏腹に別紙1と合わせて考えると、実質的なダメージはほとんどないということになってしまいます。

もしそうだとすると、この「一見厳しいが、実務的には影響は限定的な処分」を、企業が監査法人の乗り換えをしようと思えばできる時期にやるというのは、絶妙のタイミングを狙った一手ということになります。

レピュテーションを意識し、かつ、監査法人変更を行うだけの余裕やシステム的なバックグラウンドのある企業は契約を解除するでしょうが、大部分の企業は中央青山がこの処分の意味合いと改善策をきちんと説明すれば残ってくれるだろうということであれば、バランス的には悪くない落としどころという気はします。

何れにせよ、その意味で金融庁による短い処分文言をどう解釈するかによって、この処分の「重さ」は全く変わってくるような気がするんですが、何せ情報が不足しているんで・・・この辺り、どなたかご存じの方がいらっしゃれば教えて頂けると幸いです。

何れにせよ、今回の処分は、今後の監査法人への行政・刑事的処分設計を考える上で試金石となるケースのはずですので、処分側が事前にどの程度の「重さ」を想定していたのか、実際の影響との間に大きなズレは生じなかったか、生じたとすればその要因は何だったのかといった辺りの政策評価の視点からのフォローアップがきちんとなされるとよいのですが・・・諸外国との比較も含めて、この辺りを実証的に分析するのは、大学院レベルでのいいペーパーのネタにもなりそうなところですよね(・・・と、誰かがやってくれないかと期待してみたりする)


Posted by 47th : | 18:04 | コメント (11) | トラックバック (0) | 関連エントリー (0) | Corporate Governance : Compliance

金融庁と中央青山の危機管理

風邪と花粉症のダブルパンチで頭痛がひどくて、明後日の締切までにエッセイとペーパーを書き終わるなんて、本当にできるのか、かなり不安です。
まあ、こういう気分は日本にいるときは珍しくなかったんですが、すっかり感が鈍っているんで不安です。

というわけで、ブログを書いている暇もあらばこそなんですが、やはり、相当話題になっているニュースについては、少しインプレッションを、というわけで、とりあえずNIKKEIの記事を。

金融庁は8日、中央青山監査法人に対し、カネボウの粉飾決算などで所属会計士の不正を未然に防ぐ内部管理体制に重大な不備があったとして、週内にも監査業務の一部停止命令を出す方針を固めた。期間は1―2カ月となる見込みで、すでに監査を担当している一部企業への監査業務も停止の対象となる。・・・
中央青山への処分は公認会計士の監査を公的な立場から審査する公認会計士・監査審査会に諮ったうえで正式決定する。同審査会は9日に開かれる予定。

この処分が、どの程度の影響を持つのかという話も興味深いといえば、興味深いんですが、こればっかりは処分の具体的内容を見ないと分かりませんし、日本の場合は、(良くも悪くも)個人の会計士の先生への信頼が大きい部分もあるので、ネットの影響というのはそれほど大きくならないかも知れないという気もしています。

むしろ、この記事を見たときの私の野次馬的関心は、「(9日の)公認会計士・監査審査会に諮ったうえで正式決定する」という部分。

neon98さんの記事を拝見すると、一時期は「全面業務停止」という報道もなされたようですし、審査会に諮る前に結論が決まっているような書きぶりになっているところからしても、金融庁としては意図しないリークだったという気がするんですが・・・これを見て思ったのは、当の中央青山は、事前にこの処分についてどの程度相談されていたのか、ということと、金融庁と(もし事前に知らされていたとすれば)中央青山は、今回のような情報のリークがあった場合の対処について、どういう具合に考えていたんだろうということです。

とりあえず、今金融庁と中央青山のHPを見たところでは、どちらもこの話題は触れていません・・・が、潜在的な影響の大きさを考えると、それなりの情報管理と危機管理は当然やっていなければならないはずです。
まあ、監査法人は上場していないので、個別に依頼者と連絡をとって理解を求めればいいのかも知れませんが、これが上場金融機関や顧客が一般人の場合には、かなりの混乱が起きそうな話です。

そういう意味では、こういう処分に際しては処分自体の内容もさることながら、余計な混乱を避けるためのソフト・ランディングのための手順というのは、やはり重要ですね・・・と、思ってアイフルの時はどうだったんだろうと振り返ってみると、4月10日の値の下がり方が若干気になるものの、11,12,13については滲み出しの徴候は(ぱっと見)見られないので、一般的には(当然ですが)相当に気を遣っているということではないかと。
ただ、情報というのはかなり意識的に管理していても、漏れるときは漏れますし、その漏れ方のせいでまとまるはずのディールが壊れることもあるんで、M&Aなんかでも終わりが近づくにつれ、こういうリスク・シナリオというのは重要になります。
今回の場合の、金融庁と中央青山の対応はネットからだけでは何とも分かりにくいんですが、個人的には、その辺りにも興味が湧きます。

最後に、また正式発表があってから考えたいとは思いますが、組織ぐるみの意図的な行為ではなかった場合に、内部統制体制の不備という理由で厳しい処分を下すべきかどうかについては、いろいろと考えるべきポイントがあるような気がします。特に、この場合の「あるべき監査水準」を余りに高く設定してしまうと、実質的に結果責任を負わせてしまうことになり、過度に監査法人が保守的になったりといったことも生じてしまいます。
世の中では、監査法人の責任を強めれば企業不祥事は解決するという見方もあるようですが、前例の乏しい金融取引や企業再編について「前例がないから」とか「会計基準にあてはまらないから」という理由だけでストップがかけられてしまうと、経済活動のダイナミズムは大きく損なわれます。
会社の場合は、それでもうまくいった場合の利益が大きければ「リスクをとっていきましょう」という話もありますが、監査法人にとっては、もらえる報酬は限度があるのに、万が一後で違法と言われた場合のリスクは「廃業」・・・という話になりますから、必要以上にコンサバになる理由はいくらでもあります。

アメリカやヨーロッパでも、第三者専門家をゲートキーパーとして使うことによって、過度の萎縮効果があることは十分に意識された上で、制度設計について議論がなされているわけですが・・・さて、日本の場合はどうなのか、今回の件は一つの試金石になるのかも知れませんね。

 


Posted by 47th : | 01:59 | コメント (6) | トラックバック (10) | 関連エントリー (0) | Corporate Governance : Compliance

訴追と防御のバランス:会社による弁護費用支払いをめぐって

実は先週から両親がNew Yorkに遊びに来ている上に、来週からはロースクールの春学期試験が始まり、その準備と並行してゼミのペーパーも書かなくてはいけないという、なかなかしびれる状況にあるため更新が滞っています。

ただ、旬の話は書き留めておかないと忘れてしまうので、New York Timesからのこんな記事を。

Judges Press Companies That Cut Off Legal Fees (New York Times)

The judge in the tax-shelter trial of former tax professionals at KPMG last week ordered a hearing to determine whether prosecutors had improperly put pressure on the accounting firm to stop paying the defendants' legal bills....
This shift from a long tradition of paying such costs, one that is codified in many companies' bylaws and in some states' laws, has come since the Justice Department set guidelines in 2003 amid a sweeping crackdown on corporate fraud.
The guidelines, contained in the so-called Thompson memorandum... lay out factors that prosecutors can weigh when deciding whether to seek an indictment of a company — a virtual death knell for many companies, as it was for the accounting firm Arthur Andersen in 2002. Among the guidelines is to stop advancing lawyers' fees to employees caught up in investigations.
Other principles spelled out in the memorandum have drawn fire from defense lawyers in recent years, in particular one that encourages companies to waive their attorney-client privilege...The United States Sentencing Commission recently announced that it was dropping language in its own guidelines that encouraged waiving the privilege if white-collar defendants wanted leniency in sentencing.

要するに、司法省が、犯罪の嫌疑に関して会社自身を訴追するかどうかを決する際に、会社が役員や従業員のための弁護費用を支払っていると不利に取り扱われる=訴追される可能性が高まるために、嫌疑がかけられた場合に、会社が役員・従業員のための弁護費用の支払いを止めてしまうことがあるという話です。

そもそも犯罪の嫌疑がかけられている役員・従業員のための弁護費用を会社が支払うという発想に対して日本では嫌悪感が強いのかも知れませんが、その点については次のように書かれています。

...The cutting off of legal fees "is the hardest one to justify," said Stephen J. Bronis, a Miami lawyer who is the chairman of the white-collar crime section of the American Bar Association. The suggestion "flies in the face" of existing laws and the constitutional right to representation and a fair trial, he said.
...Defense lawyers, including Mr. Bronis, said that to avoid indictment, companies may feel that they have no choice but to show cooperation with investigators by cutting off legal fees, among other things.
...Less money for legal fees have can a notable impact, particularly in complex cases that turn on an arcane tax code. It means sifting through fewer papers in search of evidence, doing less case research, filing fewer motions, hiring fewer expert witnesses, doing fewer background checks and not hiring trial consultants.
It can also mean not being able to hire a top-notch lawyer to appeal a conviction. A truly indigent defendant receives a court-appointed lawyer, but that lawyer may not necessarily be the most skilled at handling complex cases.

当たり前の話ですが、企業レベルで犯罪の嫌疑がかけられた場合には、分析しなくてはならない資料は膨大な量であり、また、弁護士なら誰でもいいという訳ではなく、そうした事件のためのスキルが必要です。

これがあって初めて武器対等という話になるわけですが、そのための弁護費用は膨大な額に上ります。
会社の業務との関連で嫌疑をかけられた場合には、会社が弁護費用を補填することができるというのが、アメリカの会社法上の一般的な整理なのですが、これに対して「会社法上やってもいいかも知れないが、そんなことをすれば会社自体を起訴するぞ(それがなければ、会社は不起訴にしてやってもいい)」と言われれば、役員・従業員、特に従業員が実質的な防御をすることは極めて難しくなるわけです。

他方で、本当に違法行為に関与していた場合には、そうした役員・従業員は自業自得というところもあるのが、制度設計としては悩みどころです。ただ、そのメリット・デメリットを考慮した上での一つのバランスが会社法上の整理であって、これを無意味にしてしまうようなガイドラインを司法省が定めることについては、問題が残ることも確かです。

もっとも、それ以上に私の印象に残ったのは「悪いことをした(と疑われている)奴には情けをかける必要はない」という発想ではなく、訴追側と防御側のバランスで物事を考える姿勢の部分ということで、ご紹介まで。


Posted by 47th : | 13:12 | トラックバック (0) | 関連エントリー (0) | Corporate Governance : Compliance

「自主規制」強化と競争法 (1)

昨日に引き続いて業界団体(事業者団体)の活動と競争法の関係するお話です。

上場企業監査、登録制に 会計士協会が自主規制強化 (asahi.com)

日本公認会計士協会(藤沼亜起会長)は6日、上場企業を監査する監査法人や公認会計士の個人事務所に、07年度から登録制を導入すると発表した。一 定の水準に満たない事務所は登録リストから除名し、上場企業の監査を続けることが事実上難しくなる。・・・
 ・・・監査法人の評価などを担当する同協会の品質管理委員会に新組織を設け、上場企業の監査を手がける全事務所に登録を求める。登録事務所には、品質管理体制について文書で提出させ、要求水準に達しているかをチェックする。
 申告した水準の業務を実行できなかった事務所には協会が改善を勧告するが、不十分な場合は除名を含めた処分を出す。
 監査法人や会計士は法律上、上場企業の監査を手がけることに特別な制限はない。しかし、協会の登録から除名されると評価が低下し、投資家の信頼を重視する上場企業の監査からは、事実上排除されるとみられる。

さて、「上場企業の監査水準の向上」は、少なくともそれ自体は社会的にも望ましくみえる目的ですし、現に与謝野金融相も「自分たちの力と判断で運営し、不祥事を少なくしていこうという努力は高く評価したい」「(登録制の)運営を暖かく見守っていかなければならない」と評価しているようです(NIKKEI NETの記事より)

こういう善意に満ちた創意工夫をしようとしているときに水を差すようなことを言うので弁護士は嫌われるんですが、動機としての善意は結果としての善を何ら保証するものではありませんし、ある行動の持つ負の側面を見つめることが社会的にみてより望ましい結果をもたらし得ると信じて、この取組において生じ得る競争法上の問題に触れてみたいと思います。


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Posted by 47th : | 11:23 | コメント (3) | トラックバック (0) | 関連エントリー (0) | Corporate Governance : Compliance

エンロンはいつでも起きる (Enron Happens)

・・・という刺激的なタイトルのHENRY T. C. HU(テキサス大学教授(会社法・証券取引法))がNew York Timesに寄稿した論説の紹介。

別にライブドア事件を念頭において書かれたのではなく、こちらではエンロンの元CEOケネス・レイらに対する刑事事件のトライアルが始まったと言うところで、折しもエンロン回顧ムードが高まりつつあります。

そんな中Hu教授は、こんな書き出しで論説を始めます。(以下日本語訳は適当に意訳もあり)

エンロンがまた起きることは「あり得る」か?あり得るだろう。では、それは我々のコーポレート・ガバナンスのシステムが詐欺的な行為を抑止するのに十分でないかだろうか?いや、必ずしもそういうわけではないのだ。
(CAN Enron happen again? Yes. Does this mean our corporate governance system isn't doing enough to deter fraud? Not necessarily. )

そして、次のように述べて一定の詐欺的行為の存在は社会にとって望ましい状態であると述べます。

確かに株主の利益は唯一の指標とはなり得ない。会社による詐欺的行為は株主のみならず、とりわけ市場に対する一般的な信頼を傷つける。サーベンス・オクスレー法や他の手段を通じて政府が株主にとって最適な水準よりも、より厳しい水準の抑止措置を求めることは筋が通っている。
それでも、会社の取締役に必要以上の時間を見回りに費やすようにしむけることには現実的なコストが生じる。詐欺的行為を重視しすぎることは、経営陣の選任・監督、報酬システムをの設計、戦略的なアドバイスの提供といった株主の利益にとって重要な活動に注がれるべき労力を別の方向にそらすことになる。そして、結局のところは、詐欺的行為のコントロールに対する注意を少なくして、より経営陣の監督に意識を向けることが、単に会社の業績を上げるだけでなく、詐欺的行為を減らすこともあり得るのだ。

(Obviously, shareholder welfare cannot be the sole touchstone. Corporate fraud hurts not only the shareholders but also, among other things, general market confidence. Through the Sarbanes-Oxley Act and other means, it makes sense for government to require more in terms of deterring fraud than may necessarily be optimal for shareholders.
Still, there are real costs associated with forcing corporate directors to spend too much time playing sentry. Focusing on fraud diverts directors from activities like choosing and monitoring management, devising compensation systems and offering strategic advice — all things that are important to shareholder welfare. And as it turns out, concentrating less on fraud control and more on overseeing management may not only enhance corporate performance but can sometimes also reduce fraud.)

ここに見られる、「一定の悪はむしろ社会的に望ましい」というドライな発想は、たぶん、アメリカでも一般うけはしない発想だと思うのですが、ドライなだけに真実をついているという面があると個人的には思っています。察しの言い方は既にお気づきのとおり、私は、かなりの部分でこういう基本的な発想をしております。
実は、Becker-Posnerの例の臓器売買の話についても、私はあんまりアレルギーは感じないところで・・・ただ、臓器に関しては、生態適合性みたいに価格シグナルの中に織り込めない情報が資源配分の効率性においてキーとなる(高い価格がつけられても、適合性が不足して臓器が廃棄されれば損失が生じる)というところと、予算制約線による制約が簡単にヒットしそうなので、初期資源の配賦の公正の問題を避けて通ることはできないんじゃないの?(逆にいえば、貧富の差の小さい社会なら別にいいかも・・・)・・・という、極めてドライな理由により、Beckerのポジションに必ずしも賛同していないだけだったりします。まあ、これは蛇足ですが・・・

(本当は全文をご紹介したいんですが、著作権が怖いんで・・・ただ、WSJと違って、NYTは基本的なサブスクリプションは無料なのでご安心下さい(過去記事は有料ですが))


Posted by 47th : | 17:52 | コメント (6) | トラックバック (3) | 関連エントリー (1) | Corporate Governance : Compliance

「正義」のコスト

日本では堀江氏とライブドア幹部の逮捕について、どういう受け止められ方をしているのか、今ひとつよく分からないのですが、私個人的には、実に暗澹たる、というか、やりきれない気持ちで今回のニュースを聞いています。

特に暗澹たる気持ちになったのが、このasahi.comの記事です。

東京地検の伊藤鉄男次席検事は、「証券取引の公正を害する重大な法律違反があることが証拠上明らかになった。ライブドアグループの存立の中心のところで違反をしている。全容解明に全力を尽くす」と話している。

「証券取引の公正を害する重大な法律違反」とは、そして「ライブドアグループの存立の中心のところで(の)違反」とは、結局、何だったのでしょう?
適正手続きを定めた日本国憲法31条の下では、「構成要件は何か?」あるいは「実行行為は何か?」という、犯罪認定でいえば、いろはの「い」にあたる問いすら明らかにならないままに、国家権力が個人の自由を奪うことができるということなのか?・・・そして、その個人の活動の自由を制約のみならず、数十万人の株主のいる会社の経済活動を実質的に麻痺させてしまうことが可能ということなのか?・・・もし、そうだとしたら、我々ビジネスの世界に生きる人間にできることは、ひたすら「検察の目にとまらないよう、お怒りを買わないよう」に、いつもお上の目を気にしながら歩くことぐらいしかできないのではないだろうか?・・・

私は、職業柄、この種の事案では、いつも「もし自分が代理していたら」ということを考えます。

この件でも、任意捜査の段階、強制捜査の段階、それぞれにおいてどういう形で依頼者を守ることができるだろうということを考えながら見ていました。特に、断片的ながら、アメリカで捜査機関からの捜査が入った場合の手続についてもかかわる機会があったので、それとの比較を考えていたのですが、今回のような日本の捜査のやり方の下では、ほとんど「防御」の余地はないことに気付き・・・そして、暗澹たる気持ちになっていきました。

まず、何よりも、「何に対して防御をすべきか?」ということすら分からないのに、どうやって防御をすればいいのでしょう?
証取法158条という罪状こそあれ、具体的に何をどういう形で違法としているのかは分からないまま、毎日のように、新しい「疑惑」が報道されていく・・・いったい、何を調査して、何に対して防御すればいいのか、幹部の身柄拘束に至った今でも、検察が問題としている具体的な構成要件、実行行為の内容は明らかにならない・・・時間がたてば経つほど評判へのダメージは拡大していく・・・けれども、検察が当初ほのめかした内容について見解を発表しても、すぐにうわさや報道は「それだけではない」といい、そのうわさや報道にも対応しなくてはいけない・・・これで効果的な内部調査をしろといわれても・・・

そして、内部で事実関係を確認しようにも、今回のようにいきなり強制捜索がなされ、一切合切の書類が差し押さえられてしまえば、何も対応のしようがありません。アメリカであれば、弁護士の最初の仕事は、こうした書類の提出に関する範囲や手続について捜査機関との合意です。日常業務への影響や被疑者側の防御の権利を図りつつ、捜査の便宜や証拠隠滅を防ぐための手順について、捜査機関と弁護士が合意をし、その合意に従って、捜査機関側への書類の提出手続が内部調査と並行して粛々と進められていきます。

・・・けれども、嵐のように一切合切の書類の原本が持ち去られてしまうとすれば、内部調査はもちろん日常業務すら全うすることはできません。もし押さえられた書類のうち、容疑とは関係ないけど、日常業務には欠かせない文書があったとしたらどうでしょう?・・・それによって生じた機会喪失は「疑われるようなことをしてしまった会社が甘受すべきコスト」なのでしょうか?

そして、おそらく何よりも違うのは、アメリカでは、嫌疑をかけられた側が、「防御」のために弁護士をはじめとした専門家と対策を練ることは「最低限の権利」であり、こうした「防御」活動を妨げてはならないのはむろんのこと、こうした「防御」のためのディスカッションの内容や関連する書面は捜査機関側に提出する必要はありません(秘匿特権"privilege")。もちろん、弁護士と相談したり、関係者間で対策の会議を行うことは、「防御」のための当然の権利です。

・・・もし、こうした対策会議を行うこと自体が「証拠隠滅活動」であるとみなされたり、弁護士との間で相談した文書や内容も捜索差押えの対象となるとしたら、いったい、どうやって嫌疑をかけられた側は「防御」をすればいいのでしょう?
(ただ、内部調査や会社としての防御の責任者は、現経営陣ではなく、少なくとも監査役、更に望ましいのは、外部からの招聘だったとは思いますが・・・)

そもそも、ある会社の中心人物の身柄を押さえるということは、極めて大きなコストを会社にもたらします。もちろん、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあれば、それでも、「やむを得ず」身柄を押さえることは必要になるでしょう?
でも、今回の場合、堀江氏が逃亡を図るというおそれは考えがたいところです。「証拠隠滅」?・・・いったい、あれだけの捜索差押えの後に隠滅すべき証拠とは何で、それにはどんな可能性があるのでしょう?・・・また、どうやって、これを「証明」できるのでしょう?
・・・もちろん、そうした「建前」であっても、実際には、およそ「疑わしければ逮捕が可能」というのが運用です。あって、今回の場合に逮捕について準抗告をしても認められる可能性はほとんどないでしょう。
ただ、これが可能ということは、一度嫌疑がかけられれば、嫌疑に関連のある経営陣を刷新しなければ、会社は日常業務すら安心して営むことはできないということです。もちろん、内部調査の進展によっては、一刻も早く新体制を構築することも必要ですが、いずれにせよ上のような事情で内部調査もままならないまま「1週間」で逮捕がなされるという状況では、会社側で対応できることは、ほとんどありません。

そして、「強制捜査が入ったこと」、そして、「逮捕されたこと」自体が、「悪事の動かぬ証拠」であるとばかりに、マスコミや世論が「検察=正義」という構図を広めてしまい、「防御」は「悪あがき」と同視されれば・・・

以上、簡単にまとめれば、一度嫌疑がかけられれば(しかも、嫌疑の内容が具体的にわからなくても!)、もはや会社としては「防御」の余地はないんじゃないかと。

・・・「ライブドアだから仕方ない?」・・・また、空が落ちてくる類の話かどうかになるかも知れませんが、上場会社の経済活動に携わる方々にとっては、少し想像力を働かして、同じ立場に陥る可能性が全くないと言い切れるかどうか・・・そして、もし、ある取引の一つの断片を「誤解」されて捜査が入ったときに、どうやってその「誤解」を解けばいいかを考えてみてはいかがでしょう?
会計士の方と当初意見が対立していたが、最終的にディスカッションを重ねて合意に達した・・・そうした取引について、当初の会計士の方の印象と同じ印象を検察が持ったらどうか?・・・長年監査を担当している会計士の方とですら、長いディスカッションを経なければ理解してもらえなかったことを、検察が隠密の内偵の中で理解に達してくれる可能性がどのぐらいあるのか?・・・そして、もし当初の「印象」に従って、捜査が入ったら・・・全ての関連資料を押収され、関係者の身柄が押さえられた後で、どうやって捜査機関の「誤解」を解くことができるのか?・・・

私にとっては、ライブドアが「最終的に」どれだけのことをやっていたかではなく、「この1週間の間に」ライブドアに起きたことが、とても恐ろしいことのように思えてなりません。

(最後に、しつこいようですが、私はライブドアがやったことがいいことだったと言うつもりはありません。そもそも、それを判断する材料すら手許にはありません。私が暗澹たる気持ちになるのは、判断する材料すらないままに、国家権力が行使され、一つの会社が死刑宣告を受けたのと同じ状況にあることそのものです。その点ご理解いただければ幸いです)

(あと、普段の私の方針とは異なり言及していないブロガーの方の関連エントリーにもTBを打たせていただいます。文化圏の違い等により、ご迷惑な場合は、ご遠慮なく削除下さい。)

(また、賛同・反対を問わず、ライブドアに対する捜査・報道姿勢に関するコメント・TBをお待ちしております。)

 

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Posted by 47th : | 14:25 | コメント (54) | トラックバック (69) | 関連エントリー (1) | Corporate Governance : Compliance

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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