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「裏側」情報の開示は投資家を救うか?

上場企業、経営の「裏側」開示を・経産省が導入促す (NIKKEI NET)

経済産業省は上場企業に対し、経営実態や成長戦略を細かく開示する「知的資産・経営報告書」の作成を促す。客単価の推移や受けつけたクレームの数など有価証券報告書ではわからない経営関連指標の公開も求め、投資家が企業の将来性を判断する目安にする。開示基準案を10日にも公表し、まずは企業による自発的な導入を目指す。

この記事だけからではよく分からなかったので、METIのサイトを見てみると、どうやら、これは6月10日に開かれる産業構造審議会新成長政策部会知的資産小委員会で審議される「知的資産経営開示ガイドライン(案)」のことを指しているようです。


この内容自体は勿論分からないのですが、前回の小委員会で配布された「知的資産の切り口と開示の大枠(案)」を見ると、何となく目指す方向が見えてきます。これによると開示の目的は次のように書かれています。

企業の経営に関する情報の開示は、企業側にしてみれば知らせたい情報を市場等(のステークホールダー)に伝えることによって、その将来的な価値創造の可能性についてより高い評価を得ることにあり、ステークホールダー側にしてみれば、開示された情報をベースに企業の将来性などを判断して投資等の具体的行動に向けた判断材料にすることを目的としている。双方ともに、将来的な価値創造の可能性に興味があるにもかかわらず、現在の開示の仕組みや実態は、双方をともに満足させるものとなっていない。双方のニーズを踏まえた開示の仕組みを作り、両者のキャッチボールを可能にして、お互いの認識や行動を修正しつつそれぞれの企業の企業価値の本質についての理解を深めることができれば、ステークホールダーにとっても企業にとってもメリットは大きく、それによって企業価値が増大すれば国富も増大していく。

また「企業価値」がマジックワードのように使われている点への脊髄反射はひとまず措いておいて(笑)、「企業側にしてみれば知らせたい情報を市場等(のステークホールダー)に伝えることによって、その将来的な価値創造の可能性についてより高い評価を得ることにあり」というところに「ぴくっ」と来るのは私だけなんでしょうか?
ディスクロージャー制度の目的にもいろいろな考え方があるのでしょうが、法制度的に見れば、「企業としては隠したい投資家にとって重要な情報」を提供させるのが、一つの大きな目的のはずであって「知らせたい情報を伝えるため」というのは・・・何か少し「あれっ」という気がするわけです。
まあ、とは言っても、今回のは別に「法的な」開示制度ではなくて、「任意」開示制度の話しをしているのだから、そんな過剰な反応をする必要はない・・・のでしょうか?
法的な開示制度を支えているのは、情報の正確性であり、不正確な情報や誤解を招く情報を提供した者に対する適切なサンクションです。
この関係で、開示制度において非常に取り扱いが悩ましい問題として存在するのが、法廷開示制度の外で行われる様々なコミュニケーションにおける不適切な情報開示と将来情報への対処です。
この分野に対する私の知識は限られているのですが、この2点の取り扱いは伝統的に米国証券法の開示規制の中でも常に議論の的となってきて、これに関して様々なルーリングが存在するところだったような気がします。
いくら「法定開示」を厳格化してサンクションを厳しくしても、「任意開示」を野放しにすれば、簡単に骨抜きにできてしまうわけで、この辺りについて、実は日本の証券取引法の開示制度の意識は薄いために、ニッポン放送の経営権の争いのときのように、本当に言ったんだか言わないだか分からないような怪情報がマスコミをにぎわせて、株価が乱高下するなんていうことを許してしまうわけですが・・・
何というか、この新しい「任意開示制度」を導入しようとする気持ちが善意に発していることは疑いようがないのですが、それが濫用された場合やそれによる法定開示制度への影響という部分については余り意識されていないようです。
もっとも、こういう動きに対しては、本来、証券市場の規制担当である金融庁が、こうした開示制度と強制開示制度との調整を図るべきだと思うので、経済産業省やこの部会の委員の方を責めるわけにはいかないのかも知れませんね。
ちょっと気になるので。、6月10日の委員会の資料が公表されたら、また見てみたいと思います。

(18:00 追記)
さっき「アメリカではさまざまなルーリングがあるはず」と書いたのですが、手許の文献で米国の規制について、ちょっと見てみたところ、forward looking statementについては、紆余曲折の末に警告文言(bespeakes caution)の問題に帰着してしまっているように見えます。例えば、次のような感じで、

"Safe Harbor" Statement Under the Private Securities Litigation Reform Act of 1995: Information in this release relating to A's future prospects, which are "forward-looking statements" are subject to certain risks and uncertainties that could cause actual results to differ materially, including, but not necessarily limited to, the following:[具体的に差違が生じ得る要素について列挙]

とすると、アメリカにならうとすると、今回の「裏側」情報についても、①証券取引法上の開示規制の範囲に取り込みつつ、②適切な警告文言のドラフトで対応するという方向になるということかも知れません。
何れにせよ、このあたりの将来情報や不確実な情報が本質的に持っている「曖昧さ」が開示する側の都合のいいように使われないようにしないと、本当の意味での投資家保護にならないような気がします・・・ま、この辺りはもう完全に証取法というか金融庁マターであって、この委員会の方向性自体の問題ではないような気がしてきました・・・

Posted by 47th : | 12:56 | Corporate Governance

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トラックバック時刻: 2005年06月14日 00:36

コメント

47thさん、こんにちは。あいかわらずの鋭いご指摘、考えさせられますね。。私の意見としては、ひとまず「任意」での開示というのも、ひとつの工夫かもしれないと思っています。政府側の期待としては、まず投資家を増やすことが第1条件と考えて、このような情報開示をすれば投資家が増えるのか、減るのか、経済的な実証例が欲しいのではないでしょうか。いきなり証券取引規制のレベルで強制にしてしまうより(入り口での投資家保護は金融サービス法のようなもので損害の負担者を振り替えておいて)もし、任意開示ということで投資家の数が増えたり、投資家のレベルが向上した場合には、企業と投資家の調整機能として証券取引法レベルでの強制開示の問題と捉える、とするのもひとつの方法論かなあ・・・・と思います。まずはアメリカのように庶民の金融資産が証券に振り向けられないと、証券取引自体が「国富」とは結びつかないようにも思われ、企業にとっての不利益情報の強制開示ということもその次の問題かなあ、と考えたりします。

Posted by toshi : 2005年06月06日 05:41

>toshiさん
脊髄反射的に書いてみた後で、どうせどの企業もポジティブな情報を発信するインセンティブはあるので、その情報発信の信頼性を高めるための枠組みと考えるのであれば、意味があるような気もしてきて、やはり出来上がりを見てみないと評価は難しいという気になってきました。
ただ、それとは別に「薔薇色の未来」に対する開示が、証券取引法の枠外で行われたときに、それを信頼した投資家をどう救済するのかは考えないといけないような気がします。投資家を増やすという意味でも、発信される情報がポジティブかネガティブかということ以上に、その情報の「信頼性」(不確実なものについては、その不確実性を判断できるだけの情報が提供されることも含みますが)をどうやって担保するかというところが重要になってくるのではないかという気がしています。

Posted by 47th : 2005年06月06日 13:09

47thさん、こんにちは。開示規制は、開示を促進するだけでなく、開示された情報が他社情報との間で比較可能にするという面があるはずで、開示するかどうかは自由だけど、開示する場合にはこの規則にしたがってくださいという規制であれば(もちろん内容にもよりますが)受け入れやすいのかなという感じがします。でも客単価とか、小売業にとっての企業秘密そのものじゃないの?という気もしますね。
米国での任意開示規制は、Rule 10b-5などの詐欺責任(およびそのSafe Harbor)のほか、有価証券発行の際のGun-jumping Ruleで行われているという理解でいます。でも、S-O法によって、オフバランス取引の開示、GAAPに合致しない財務指標を使用する際の開示規制などが法定開示規制に取り込まれてしまったので、従来の任意開示の分野(企業が開示したいというインセンティブを持つ分野)は少なくなってきているのかもしれません。不勉強なもので間違えていたら申し訳ないです。
Barの勉強の息ぬきで拝見していたら、取り込まれちゃいましたね。これも47thさんのBlogの魅力ということにして、自分の忍耐力のなさをごまかしておきます。

Posted by neon98 : 2005年06月06日 17:22

>neon98さん
私も有用なものになるかも知れないと思い始めているのですが^^;、日本では、確か、募集・売り出しに際して用いられた場合以外には任意開示の資料の不実記載については証取法上の不実開示責任の対象外となってしまう構造だったと思うので、そこのところで開示の正確性の担保がなされるのかが、ポイントになるような気がします。
Barの勉強はすさまじいと聞きますが、また息抜き程度に遊びに来てください^^

Posted by 47th : 2005年06月07日 10:14

 
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