« IPOにおける投資銀行の利益相反問題 | メイン | とはいえ、「裁判員制度に欠けているもの」 »

裁判員制度≒社外取締役?

陪審制度は「合理的」?について、いろいろとコメントを頂いたのですが、その後で拝見したtoshiさんの裁判員制度(弁護士の視点から)やはいじゃんぷ@よろずもめごと論さんの裁判員制度を読んでいて、私が勝手に感じたのは「市民感覚」というのは「世論」とか「民意」とか、そんな大層な話ではなく、言い方は悪いのですが、「独善的な裁判官にお目付けをつけなあかん」という、もうちょっと世俗的な話なのかなという気がしてきました。
というのも、toshiさんは刑事裁判をやる中で「裁判官というのは、検察・警察の捜査手法を否定することに消極的だ」とか、はいじゃんぷさんは「公共事業等に絡む事件では裁判官は「お上」に配慮しすぎだ」という問題意識が根底にあって、これを直すには「市民の監視の目」が必要だということなのかと思ったので・・・私の勝手な誤解だったら、大変に申し訳ないのですが<(_ _)>(ちなみに、はいじゃんぷさんは、刑事事件については裁判員制度導入には否定的なので、その点にはご留意を)
こういう意味での「監視の目」とか「外部の視線」という意味なら、確かに何も法律の専門家でなくてもいいのかも知れません。逆に、そういう「法曹界の常識」に染まっていない人をきちんと説得できないと判決が書けないとした方が、小難しいテクニカル・ワードや法律家同士の阿吽の呼吸で何とかするという「ごまかし」が効かない分、いいところもあります・・・で、この構造って、何かなじみがあるなぁと思ったら、「社外取締役だよね、これ」という気がしてきました。


そういうお馴染みの話と思って見てみると、「裁判員制度はワークするかも」という気になってきます。
ろじゃあさんは「12人の怒れる男たち」と「12人の優しい日本人」・・・裁判員制度と今の「日本人」で、「気になるヤンキース」+「話し合いましょ」が前面に出てきて(ヘンリー・フォンダはいない)となってしまうのではないかと仰るのですが、裁判官=社内取締役、裁判員=社外取締役だと考えてみると、実際には、95%(もっと多い?)ぐらいの議題=事件については社外取締役=裁判員は社内取締役=裁判官の意見を尊重して、たまに「素人なんで、ちょっと教えて欲しいんですけど」といって質問して終わりとかなってしまうんではないでしょうか?
たまに、妙に熱心な社外取締役で、社内部門で十分に根回しして出てきた中計の数字の細かいところに妙にこだわったりということもありかも知れませんが、最後は周りの社外取締役が、「まあまあ、それについては、また今後様子を見ていくということでどうでしょう」とか言っておさまったり・・・
結局のところ、そうやって95%ぐらい(もっと?)の事件の意思決定というのは、やはり情報・知識・経験ともに圧倒的な差のある裁判官=社内取締役の原案通りに進むということになるんじゃないかなという気がします。
ただ、残り5%、あるいは1%でもいいのですけど、裁判官の考えというのが、どう見ても世間一般的には受け入れ難いというケースで、裁判官に再考を促す契機になるとすれば、それなりに価値があるような気がします。
結論に影響を与えないまでも、裁判員=社外取締役に対してきちんとプレゼンテーションをしなくてはいけないといったプレッシャーがかかることで、判決を起案する過程で裁判官がもうちょっと分かりやすさとかメッセージをきちんと伝えるということに意を砕くきっかけになるかも知れません。

ただし、逆にいうと、現在の裁判員制度に社外取締役以上の機能を期待するのは難しいという話にもなってきますので、これが裁判員制度によって社会全体に生ずるコストと適切に見合っているかというところは、どうだろう?という気もします。
特に、刑事事件の場合、裁判官と裁判員の意見が対立するのは、toshiさんが例にあげたような「実体真実的には有罪かもしれないが手続的正義に反する」という場合よりも、もっと感情的な「あんなかわいい子供を殺して無期では軽すぎるのではないか」とかいうことであったり、あるいは、「あいつが犯人なのは明らかなのに、『責任能力』がないとかいうのはおかしい」とか、あるいは「自白していて証拠も見つかっているのに、何で無罪なんだ」とかいう方向にもなり得るので、そういう意味での「判断のエラー」が高まる方向にいく可能性も相当程度あるわけで、この辺りのリスク・ファクターもよく検討する必要があるような気がします。
社外取締役制度も似たようなものかも知れませんが、社外取締役の場合は、一応株主による選任過程でのスクリーニングが入ったり、畑が違うといっても「ビジネス」というフィールドでは共通の基盤を持っていたりということがありますから、その辺りでコスト面での違いはあるのかなという気がします。

というところで、今の私の「感じ」としては、裁判員制度は社外取締役の導入と同じような意味で制度として思ったより「ワーク」するかも知れないけど、制度のもたらすコストやリスクとベネフィットが見合っているかというと疑問を覚える・・・って、何かPosnerみたいなコメント・・・

Posted by 47th : | 13:15 | 雑感

関連エントリー

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://WWW.ny47th.COM/mt/mt-tb.cgi/71

このリストは、次のエントリーを参照しています: 裁判員制度≒社外取締役?:

» 裁判員制度と社外取締役 from le Quatorze Juillet
47thさんのブログ http://ny47th.com/fallin_attorney/ に「裁判員制度≒社外取締役?」という記述があり、「言い得... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年06月09日 00:26

» 裁判員制度は日本になじまない from よろずもめごと論
 「裁判員制度」は、米国の「陪審制度」を手本としている。先のエントリーにトラックバックをいただいた「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」さんによれば、 実際に訴訟に携わ... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年06月09日 05:23

» 裁判員制度≒社外取締役??(^^;) from 法務の国のろじゃあ
47thさんが、裁判員制度≒社外取締役?という記事をエントリーしました。 その中 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年06月09日 05:36

» 「存在」の機能について  from 明日は明日のホラを吹く-Tomorrow, I'll give you another big talk-
仕事でなくて例えば自治会の活動など特に構成員の間で序列の定まっていない集まりの話し合いでよく感じることだけれど世の中にはすべきことを全くしなくなったため一刻... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年06月11日 09:24

» 裁判が分かりやすくなりそう/裁判員制度導入の副作用 from よろずもめごと論
 以前に裁判員制度、裁判員制度は日本になじまない、という2つのこの制度に批判的に読めるエントリを書いた。実はこれのエントリには日本における裁判員制度の導入を否定... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年07月07日 08:02

コメント

こんにちは。TBありがとうございます。≒社外取締役ですか・・・  全然意識していませんでした。(笑)
私も元々は保守的な思想でしたけど、あまりポリシーがないせいか、「できちゃったらしかたない」ということで、じゃあどうやったら社会に根付くか考えてみようか・・くらいの意識は出てまいりました。
検察庁と裁判所の取り組みに比べて、弁護士会はかなり遅れている、というのが現状ではないでしょうか。

Posted by toshi : 2005年06月08日 22:13

TBいつもありがとうございます。
うわぁ、時間がなくてコメントできない。以下要旨のみで失礼。「≒社外取締役」については違和感あり。たぶん、読む人において捜査構造論における(刑事)訴訟の捜査観(糺問的、弾劾的、訴訟的←超懐かし!)により裁判官の役割・位置づけが相対的だろうと思われるのと、「社外取締役」観が現状では相対的なのでこの点についてのそれぞれのずれが私の頭に混乱を生じさせているのだと思います。あと、そもそも刑事裁判の枠組みが会社制度の統治の枠組みとパラレルに語れるのかどうか・・・これも違和感の原因だと思います。再整理して、またエントリーします。

Posted by ろじゃあ : 2005年06月08日 23:42

>toshiさん、ろじゃあさん
早速のレスポンスありがとうございます^^
裁判員制度と社外取締役を等値するのは、かなり乱暴だと我ながら思いつつ、思いついてしまったので書いてみました。ご批判・ご意見楽しみにお待ちしています。

Posted by 47th : 2005年06月09日 00:20

>ただ、残り5%、あるいは1%でもいいのですけど、裁判官の考えというのが、どう見ても世間一般的には受け入れ難いというケースで、裁判官に再考を促す契機になるとすれば、それなりに価値があるような気がします

賛成です。
47th様が「≒社外取締役」と言われている”そのココロ”は、「最終決定に至る過程に、当事者以外の第三者的意見が表明される機会を与える」(うまく表現できませんが)ということなのではないでしょうか。こういう意見を集約する過程や監視機能として「利害関係のない第三者を登場させる」という発想とその運用にかけては、アングロサクソン系の人達は本当に上手だと思います。で、日本はその正反対でどちらかというと、「シロウトは黙っていろ」という風潮が強いような気がします。鴎外の「最後の一句」でしたか、「お上の考えに間違いはございますまいから」という、あのダメ押しに全てが言い尽くされていると思います。

G8と言われている国の中で、裁判に市民参加の途がないのは日本だけのようですね。改めて日本って後進国だなぁと思います。欧米の法律家に「日本って、21世紀にようやく裁判員制度ができたんだよ」と言ったら、彼らがどういう反応をするか、興味あります。(思いっきり仰け反られて、”Why!?”と言われるか”What's!”と呆れられるか)

Posted by 悪童 : 2005年06月09日 04:30

TB&引用ありがとうございます。
残念ながら「裁判員制度」は刑事事件のみを対象としているようです。

この制度が「日本に」なじなまない理由を改めて書いてみました。(トラックバックしました。)

Posted by はいじゃんぷ@よろずもめごと論 : 2005年06月09日 05:53

>悪童さん

>欧米の法律家に「日本って、21世紀にようやく
>裁判員制度ができたんだよ」と言ったら、
>彼らがどういう反応をするか、興味あります。
>(思いっきり仰け反られて、”Why!?”と
>言われるか”What's!”と呆れられるか)

今のところ、個人的には、(アメリカ企業法務弁護士限定ですが)日本には陪審みたいな制度がないというと「その方がいいよね」という反応で、これから入れると「何で?」という反応が多いですねぇ・・・

>はいじゃんぷさん
新しい記事、拝見しました。
また、少し思ったところがあるので記事を追加してみます。

Posted by 47th : 2005年06月09日 10:07

賛成。実に魅力的な問題機制です。この2つについて考えるとどちらについて考えても確かに脳細胞の同じ部分が活動している感じがあります。みなさんご指摘のような違いはこのような大胆な比較検討には常に生じるはずの問題点であり、そうした違いを全て認めてもなお魅力的な比較だと思います。違いがあったり問題点があるからといって比喩や比較を認めないのは議論を貧しくするのではないでしょうか。私は比喩・並列・比較・検討はどんなに無関係と思われるものについてなされても構わないと思っていまして勝負は問題点の少なさではなくそうして得られる議論の豊かさに求めるべきだと思います。実際この両者の並列には確かに豊穣の予感がある。実際「公益の実現を担保するヨソモノ≒シロウトの導入」という共通点の方に着目して議論してみると面白いと思いますよ。またこの共通点は今日本に必要な新しい動きや流れをとらえるのに重要な視点だと思います。裁判員に刑事事件に必要な構成要件該当性の厳格な検討が可能か、など違いの方はそれぞれに議論されればよろしい話でしょう。

Posted by bun : 2005年06月09日 11:47

>bunさん
ありがとうございます。
社外取締役と比べても、裁判員制度には、色々と問題は出てきそうな予感もあるのですが・・・とはいえ、もう決まったことは決まったことですし、そうである以上、壮大な社会実験の試みとして、うまく知恵を使って日本的にワークする制度が構築されるといいですし、そのときに社外取締役とのアナロジーというのが、ビジネス関連の人からの頭の整理には役立つといいなと思います。

Posted by 47th : 2005年06月10日 12:07

bunさんへ
>違いがあったり問題点があるからといって比喩や比較を認め>ないのは議論を貧しくするのではないでしょうか。私は比
>喩・並列・比較・検討はどんなに無関係と思われるものにつ>いてなされても構わないと思っていまして勝負は問題点の少>なさではなくそうして得られる議論の豊かさに求めるべきだ>と思います。
ひょっとしてろじゃあのコメントに対してのコメントですか?比喩や比較を認めない・・・って読めちゃいました?bunさんがおっしゃってるように「無関係と思われるもについて」「比較・検討」を「既に」してるからああいう書きぶりになってるんですよ。今までのろじゃあの47thさんとかとのやり取り見てればそんな「議論を貧しくするような」「後ろ向きな」コメントするわけないことはbunさん、わかってくれてると思ってたのに・・・ろじゃあ、悲しい(T T)。スターウォーズのトラウマ消去したのに・・・ううっ(;;)。ちなみにbunさんって「明日ホラ」のbunさんですよね?

Posted by ろじゃあ : 2005年06月10日 13:42

法務省としては、裁判員に社外取締役的役割を期待していると考えたら、すっきりと腑に落ちます。比喩としては、すばらしいと思いました。
実際の裁判員制度は、取調べの可視化や、刑務所の処遇問題など、先に考えるべき問題があるだろう!ということで、わたしは反対の考えです。守秘義務に罰則があることなども含めて。
そして、刑事事件の、しかも重大な殺人事件しか、扱わないのが最大の問題です。一審で裁判員が無罪にしても、控訴できるし、二審以降は、裁判員なしでやる、というのはいかにも付け焼刃ではないでしょうか。などなど・・

Posted by ヒロコ : 2005年06月10日 23:36

ろじゃあさんへ
「明日ホラ」のbunです。上記コメントは私によるものです。「みなさんご指摘のような」というのは漠然としたみなさんのことでよく検討されずに書かれた、私の内面で自動化された、不用意な批判でした。ごめんなさい。私はコメントする際にはいつも他の方のコメントは見ないようにしておりましてTBその他のいろいろな関連文書を拝読して受けた、全体的印象から述べたものです。後で出てきてまとめて斬ったわけではありませんでろじゃあさんについてろじゃあさんが懸念されているような誤解をしていたわけでは全くございませぬ。トラウマ消去の件心より感謝しております。またご教唆下さい。

Posted by bun : 2005年06月11日 04:04

>ヒロコさん
私は職業弁護士のくせに刑事事件とは、余り縁のない生活をしているもので裁判員制度についても、実はちゃんと理解しておらず、自分の扱う領域に引きつけて考えてみただけで、で問題点や議論状況というのも、よく分かっていないのですが、ヒロコさんのように裁判員制度に強い関心を寄せている方にとって何かのヒントになれば幸いです^^
>ろじゃあさん、bunさん
けんかをやめてぇ、二人をとめてぇ・・・って、喧嘩しているわけじゃないですね(激しい論戦をちょっと期待していたりして…)
それはともかく、「明日ホラ」はゴロもよくていいですね。うちは「ふぉりあと」?…うーん、だめだ。何か。

Posted by 47th : 2005年06月12日 11:53

私は最近大変にSFに関する非常に重要なことを教えていただいたばかりですし、そもそも通常もっと容易に勝てそうな相手と喧嘩します(笑)。もと経済学徒としては公正取引委員会≒社外取締役も面白いと思ってます。

Posted by bun : 2005年06月13日 01:36

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
このブログをご覧になる際の注意点や管理人の氏素性についてはAbout This Blogご覧下さい。