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外資の脅威を理解するための覚書(1)

先日紹介した福井さんの鹿子木裁判長が与えた憂鬱について書いた外資むしりとり論への疑問について、福井さんからお答えのエントリーを頂きました。
お忙しいところ本当に恐縮だったのですが、ミクロのレベルで見たときに理論的に成立する議論がマクロのレベルで見たときにうまく機能するのか(合成の誤謬が起きていないのか)を、どう検証すればいいのだろうという、普段考えていることの手がかりになりそうなことも教えていただきました^^
ただ、それでもなお「外資むしりとり」論のロジックが、私にはよく分かりませんでした。ので、自分の備忘のために、どこがよく分からなかったのかをメモしておこうかと思います。余りにもマクロの素人丸出しの話なので、これについて福井さんにご回答いただくのはさすがに心苦しいので、自分でマクロ経済の基本書レベルのものを読みながら、考えをつめていってみたいと思いますが、これを読めば参考になるという資料をご存知の方がいらっしゃれば、ご教示頂ければ幸いです。


外国人株主は日本株を「買い叩いている」?

まず、2004年の外資による金融投資は15兆円、そのうち株式が10兆円、債券が5兆円です。実に東証の売買の2割以上がいわゆる外人買いです。皮肉なことに外国人投資家が日本企業の潜在力、将来のキャッシュフローを一番良く分かっているのです。
他市場と比べ割安感があり、出遅れているがゆえに出し抜きやすいので「儲かる市場」と見て、非常に安く買い叩かれています。
勘違いして、外資の誘致によって市場が活性化している、と、喜んでいる人もいますが。今の歪な日本の状態が、短期の金儲けには一番リスクの少ない市場だと思います。日本国債がデフォルトにならない限り、一番おいしい場所とも言えます。なにしろ、コンペティターが相対的に手ぬるいのですから

これは私のいった「投資収益率はリスクとの関係で見るべき」という点についてお書きになっているところなので、おそらく「米国の投資収益率の高さはリスクをとっているわけではなく、日本市場における株式の『割安』感に付込んでいるだけ」ということなのだと思うのですが・・・
まず、当然のことながら、外国人の投資の額が多いこと自体は、日本の市場が相対的にリスクが低いことを示していることの証拠にはならないので、この「日本市場がリスクが少ない」ということは本当なのか?あるいは、どうやって検証すればいいのか、ということになるような気がします。
というわけで、何か客観的なデータがないのかなと思って、ちょっと資料を探してみたらOECDの統計でHighlights of Recent Trends in Financial Markets (2005)というのを発見しました、この中に市場全体の株価水準(Figure 2(p.10))のグラフがあるのですが、1998年1月の水準を100とした場合の2005年1月の株価平均は米国で130程度、日本では110弱ということで米国の方がこの5年間での平均上昇率が高くなっています。また、株式市場のボラティリティ(Figure 3(p.11))の比較グラフもあるのですが、こちらを見ていてても日本の株式市場のボラティリティは、他のOECD諸国と比べてかなり高い水準となっているように見えます。
・・・というわけで、素人目には、このデータと「日本株への投資はリスクに見合った以上の収益率をあげている『割安』である」という主張は整合していないように見えるのですが、実は、そうではなく整合的に解釈することができる、あるいは、このデータ自体が、その主張をサポートする意味合いを持つということが可能なのかどうか、というのがマクロ素人の私には分からないところです。

「二つのドル」と「日本国内の投資プロファイル」の関係

国内の資金供給プロファイルの偏りという話が出ましたが、これはアメリカの金融政策が深く関わっています。

今のアメリカは2つのドルを使い分けています。途上国に対する強いドル、これは自国のインフレ抑制、購買力維持のためのモノ経済から見たリアル・ドルとでも言うべきものです。一方、先進国の通貨に対しては反対に弱いドルが国益となります。リアル・ドルに対して金融経済用のファイナンシャル・ドルとでも呼びましょうか。
( 中 略 )

9.11以降のアメリカの対外債務管理政策は実に徹底したものです。このありがたい指導の一環で我が国はせっせとアメリカに協力すべくさまざまな金融政策を行なっていますので、「国内の資金供給プロファイルの偏り」というご指摘は単純にここをこうすれば良い、というものでもありません。これは政策変更はあれ、アメリカが主導してきたグローバリズムの-我が国側から見た場合の-本質的に持つ構造的問題であり、世界中で起こり得る普遍的な問題といっても良いのではないかと思います。アメリカ(IMF等を含む)は絶対にこのヘゲモニーを失うようなことはしません。詳しくは書きませんが、これがイラク戦争の一因となったとまで言う人もいます。

恐らく、このアメリカのヘゲモニーに真っ向から対立できる、あるいはしようとしている国は、アジアでは中国くらいのものでしょう。
intelligenceもmilitary powerも、nuclear weaponもない我が国が国際基軸通貨となることはあり得ませんし、アメリカのヘゲモニーに逆らえる道理がありません。

「2つのドル」の話は恥ずかしながら初耳でした。これが、先進国の通貨が一般的に途上国に対して強く、先進国内ではドルは弱くなっているものの、先進国の通貨全体が途上国に対してマージンを持っていること以上に、アメリカだけが、そうした使い分けを可能としているという意味だとすれば、それがどうやって可能なのか、非常に興味深いのですが、その点と「国内の資金供給プロファイルの偏り」がどう連動するのかが、よく分かりませんでした。
アメリカが対先進国に対する弱いドルを維持するために、日本の資金がリスクマネーに向かわないように操作しているということなのでしょうか?
あと、私の薄弱な為替に対する知識から生まれる疑問としては・・・

  • ドルが強い方が外資による日本企業株式には都合がいいのでは?(日本円ベースで同じ価格の株を買うときに、ドルが強い方が、より「安く」買える?)
  • ドルが弱い場合には、アメリカ企業にっては対外輸出による成長が期待できる半面、対米輸出割合の高い日本企業日本企業の対米輸出にとってはマイナスなので、その状況が維持されると予想されるのであれば、日本企業よりもアメリカ企業に投資する方が合理的?(手許に米国企業による外国企業買収のデータがあるので、全体的なM&Aの案件数に占める外国企業買収の割合と為替レートとの間に相関が見られるか、時間があるときに検討してみようかなと思います)

外国企業に買われることが何故「悪い」ことなのか?

何故、アメリカをやり玉に挙げるのか。それはアメリカのみが我が国の政策決定に重大な影響をを及ぼすからに他なりません。(今やEUの証券規制委員会からも別な圧力がかかったわけですが)
そして、欧米のみならず中国や韓国にも狙われることになります。私が三星(samsung)の経営者なら、シャープか東芝を狙います。三星の時価総額ならこれらの企業は射程範囲内です。何しろ東芝の2兆4000億に対して三星は8兆円の時価総額があるのですから。 昔ならいざ知らず、現在においてはたとえ日本語ができなくとも対日投資は比較的容易です。バランスシートやその他のIRを見るだけで分かりやすくなっていますから。これはアメリカの要望によって、長い時間をかけてその為に会計基準などを変えてきた結果と言ってもいいでしょう。

長くなってきましたし、やらなくてはいけないこともあるので、今日はここまでにしておこうと思うのですが、やはり「欧米のみならず中国や韓国に狙われること」がいけないのか、ここがやっぱり分かりません・・・
ひょっとしたら、この部分が福井さんなどから見ると、私が最も理解していない点なのかも知れません。「日本人以外が日本の企業をコントロールすることの怖さ」「言語・文化の違う者が日本人をコントロールすることの怖さ」・・・
正直に言います。卑近な例ですが、自分の上司として積極的に中国人や韓国人の方を迎えたいかと、「今」、問われれば、おそらく無条件に「うん」とは言えないものが自分の中にあるのは確かです。自分と違う文化・言葉を持っている人たちは、自分のことを理解してくれないかも知れない・・・その不安を感じないのかといわれればうそになります。
でも、私は、それを認めた上で、次に考えようとするでしょう。
「でも、何が不安なんだろう?」と・・・
企業買収、M&Aについても同じです。私が知りたいのは、そうした「漠然とした不安」以上の何かもっと具体的なところに何があるのだろう、と。
・・・またまた人類補完計画みたいになってきましたが、今日はこのあたりで。

ところで、せっかくなので前に外資陰謀論の行方を紹介してもらったゴーログにも投稿してみようかなと思います。古い記事へのTBなので、ご本人がご覧になられるかは分かりませんが^^

Posted by 47th : | 18:11 | Crossborder Transaction

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コメント

47th様

少し、小休止ができますので気になることを一言だけ。

2つのドルの件ですが、私が勝手に言っているだけです。
どなたかの立派な学説でもありませんので念の為。(試しに検索もしてみましたが誰もそんなことは言ってないようです)

ただ、どうしても米ドルの持つ2面性というものを見ていかないと説明しづらいことがたくさんありましたもので。
2つのドル、などと言わずに2面性とでも表現すればよかったかもしれません・・・

それだけです、自論はあらためて述べさせていただきます。

Posted by 福井 : 2005年06月24日 10:09

>福井さん
お忙しいところ、ありがとうございます。
元々、純粋法学畑だったのですが、会社法をやっているとローエコやファイナンス理論と付き合うのが不可欠なので、ミクロ的なことはつまみ食いしているのですが、マクロは全く土地勘がありません。ので、的外れなところも多いと思いますが、お許しください。
がんらい、本を読むよりも手や口を動かして議論をしないと頭に入ってこないので、こういう機会があると、つい書きすぎてしまうかも知れませんが、ご負担にならない程度におつきあい頂ければ本当に勉強になります。

Posted by 47th : 2005年06月24日 13:01

47thさん

>こういう機会があると、つい書きすぎてしまうかも知れませんが
実は結構私も好きです。場所柄があり、エントリに出す予定原稿もありますので、頻繁にエントリは立てられませんが、手が空いたらコメント欄などでお付き合いいただければこちらもありがたいです。

うちの若手にコメント書かせています。http://nishio.main.jp/blog/archives/2005/06/post_181.html#c686
現役なのでこき使おうかと(笑)
秋からそちらの方へ行く予定らしいです。

アメリカへのマネーの集中とドルの持つ2面性の話、国債過剰流動性とその転機・・・あたりを書くと思います。
上記エントリの「二つのドル」と「日本国内の投資プロファイル」の関係の説明になるようにと言っています。

週末の遊びが優先のようで、続きが中途半端ですが。

Posted by 福井 : 2005年06月24日 18:20

こんにちは。学生時代はマクロ経済学(計量経済学)のゼミにおりました。総じて引用されている文章にひっかかりを感じるのは2点でした。

1.何でもかんでもアメリカの意志に沿って実現していると言  い過ぎていると思います。アメリカは世界で一番はっきり  こうしたいという国ですが、他の国が自らの国益にもきち  んと照らして判断して、「ま、いいんでないの」と他国が  それに好意的に応じたからといって、世界を「思い通りに  動かした」かのような言い方になっていないでしょうか。  もはやそんなに強くはないと思っております。ヨーロッ   パ・中国の顔色もちゃんと見ている。

2.「二つのドル」というのは結局のところ、南北格差が大き  く各国通貨の強さのレンジが広いというだけの話ですね。  広いレンジの真ん中にいれば上も下もできる、ということ  でさほど含みの多い作業仮説とは思えません。また狙って  そのような位置にいる、というとらえ方もどうかと思いま  す。アメリカは、ぶっちゃけた話ということであれば、ど  の国に対しても徹底的に強いドルでいたいに決まっていま  す。しかし戦後、その強さを自国で食いつぶしてきてしま  った歴史の因果があるのでそうばかりも言っていられなく  なったというだけの話。

アメリカはいわれるほど強くもなく、一枚岩でもない、というのが私の認識です。国内にアメリカを弱体化させ、世界をもっと多様化しようとする勢力も多い。

為替については2点とも47thさんのご指摘通りだと思います。「国際基軸通貨」でない通貨同志の強弱を一方的な損得とみることはできませんで、どの国についても国益には中立です。ただし「国際基軸通貨」という特殊な属性をもつ通貨(hard currency)については別途議論が必要です。特権があるため、国際基軸通貨としての流通実態を失わないまま、かつできるだけ弱くするのがお得なのです。現にずっと戦後そうされてきました。これは市中に出回る貨幣にバレないよう混ぜモノをしつ続ける悪政に等しいことを考えるとわかりやすい。管理通貨制度だからといって話が違うわけではありません。

国際基軸通貨のこうした「シニョレッジ」はものすごい特権です。アメリカは国際基軸通貨国というブラック・カードをもっているのです。自国民がかかわらない取引(どことどこでもいいですが、例えば日本とポーランドとか)の決済にドルが使われるので、多少堕落させても他の通貨のようにすぐには国内に舞い戻ってこない(インフレになりにくい)。国際基軸通貨を発行する国には簡単に通貨を堕落させないようにする義務があると私は思いて他国は国際基軸通貨国に新井白石のようなことを言ってやらねばならないのですがしかし既に相当に堕落させてしまったのでどうやら過去の多くの通貨の例外となることはできなかったということになりそうですね。

国際基軸通貨に関する議論は岩井克人東大教授の「貨幣論」に詳しく、このコメントもその受け売りです。

Posted by bun : 2005年07月24日 07:05

 
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