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Moral Hazard Everywhere

(追記あり)
この話題はもうやめておこうと思ったんですが、bewaadさんから「みずほ証券誤発注に伴う利益についての考え方」というTBを頂いたので、ちょこっとだけ、ミクロの世界・・・というか、ローエコの世界の住人として、今回のみずほ証券の救済がモラル・ハザードを招くという議論について、ちょっとだけ。
おそらく、bewaadさんが引用されている本石町日記さんのエントリー部分が、今回の件に関する「モラル・ハザード」の問題を端的に指摘されているように見受けられるので、そちらを引用してみます。(なお、本石町日記さんは、利益の返還先がみずほ以外になる可能性があるということで、モラル・ハザードの問題については割愛して下さいという追記をされているのですが、bewaadさんの方で引用されているので、敢えて引用させていただきます。また、私の以下の見解は、返還先の如何にはかかわらず、たとえ返還先がみずほ証券であったとしても同じです)

さらに気になるのは、モラルハザードの懸念だ。今回のミスはオペレーショナルリスクが極大に顕現化した典型例と受け止められ、多くの金融機関が教訓にすべき事例。ところが、相当額が救済されるなら、リスク管理を真剣にやるインセンティブは薄れる。金融庁・日銀はそれでもきちっとやれと言うのだろうが、少なくともマーケット取引に関しては大失敗ほど救済される悪しき事例が残る。取引ミスは日常茶飯事であろう。個人が取引ミスで破たんした場合、普通は誰も救わない。銀行が困るぐらい金を借りた企業が救済(債権放棄)され、小額借りた零細・個人が追い込まれた不良債権処理と同じ構図が透ける。

さて、ローエコの世界ではモラル・ハザードという言葉は頻繁に出てくるわけで、ごく簡単にいうと(ちょっと正確ではない)、結果について責任を問われずにすむのであれば、結果発生を避けるインセンティブがなくなってしまうということを指します。
・・・ところが、これを突き詰めると、およそ何か損害や間違いが起きた場合には、言い訳を許さずに責任を負担させることが望ましいということになってしまいます。
「間違いをやったんだから、責任をとるのが当然だろう」というような感覚を、ひとまずよそに置いた上で、何が社会的に効率的かという観点から見てみましょう。
こうした結果責任は、過剰投資やそもそも投資の回避行動をもたらすために非効率的であると考えられます。例えば、車を運転していて、事故を起こしたら、全て運転手が責任をとるべきだとしましょう。
当然、運転手は注意深く運転するでしょうが、逆に、余りにも注意深くなってしまって、道路に渋滞の山が生まれるかも知れません(過剰投資)。あるいは、そもそも車を運転することをやめてしまうかもしれません。これは社会的にみて効率的な状態とはいえません。
もう一つは、他のプレイヤーの機会主義的行動を誘発する危険です。例えば、どんなことがあっても結果責任が問えることが分かっていれば、事故にあえば個室病室で普通に働いているときには食べられなかったような食事を毎日注文したり、働かなくても逸失利益を保証してもらえることが分かっていれば仕事への復帰の努力もしなくなるかも知れません。
特に、最安価損害回避者の側にモラル・ハザードが生じてしまう仕組みは、社会的な損失を高めてしまいます。
・・・と、何が言いたいかというと、モラル・ハザードの問題というのは、それを防げばいいというほど単純な話ではなく、過剰投資の問題や、新たに生じるモラル・ハザードの問題への対処も必要になるということです。
個別の評価において、逆の立場がある可能性は否定しませんが、私は、今回の一件は、取引を成約させて結果責任的な処理を行うことが効率性をもたらすかという観点でみたとき、相当に微妙な事案だと思っています。
今回の件については、損害の規模がここまで拡大した背景には、証券会社と機関投資家の積極的な関与があると思っています。(bewaadさんは情報の非対称性を問題とされていますが、今回のような場合に、みずほの反対売買に先んじて売買対象株式数を超える発注を現に行った投資家については、そうした非対称性は(情報経路がどういうものかは深入りしたくありませんが)存在していなかったと考えていいように思われます。)
逆にいえば、こうした機会主義的行動をとらないことが、損害拡大の発生には最も安価なわけで、これを上手く組み合わせるようなインセンティブ設計が、私のローエコな発想からは導かれるわけです。
・・・というわけで、bewaadさんご指摘の点のひとつひとつに応えるものではありませんが、一応、こんなところで^^

(追記)
その後bewaadさんのところに、コメントしましたので、そちらもご参考までに。

ご紹介ありがとうございます。
いや、bewaadさんのような論客に理路整然とつっこまれると怖いものですね。とはいえ、非常に勉強になります。 モラル・ハザード問題については、TBで少し述べさせていただきましたが、若干補足いたしますと、追加コストのみを問題としているわけではなく、絶対的な事前の投資水準を問題として、過剰投資となるのではないかという懸念を申し上げたつもりでした。(磯崎さんの問題意識と近いかと)
2点目は証券市場は、原則は匿名性が維持されるわけですが、非常事態における匿名性が剥奪されることが否定されるわけではありません。典型的なのはインサイダー取引ですが、こうした市場の公正性に悪影響をもたらす取引をトラックするために、(直接の)市場参加者には一定の規制がなされているのではないかと思います。アルベルトさんの、「市場メカニズム」は信奉することと「市場」を信奉することとは別の立場という考えには、法律家としては強い共感を覚えます。
最後の損害の問題については、舌足らずだったかも知れませんが、私としては額そのものを問題としているのではなく、損害の拡大の経路(機会主義的行動の介入)を問題としたつもりでした。この場合に、機会主義的行動による損害拡大についても、当初のトリガーを引いた者に「全ての責任」を負わせることは、みずほ証券のみならず、市場参加者と市場運営者に過剰投資のインセンティブや必要以上のリスク回避的行動をもたらす可能性があるという意味で「事前の」非効率性をもたらすのではないかという類のお話です。その意味で、私の枠組の中では、今回の処理のコストはみずほ証券という当事者のみではなく、(投資家にも手数料率の上昇や非金銭的な取引コストの上昇という形で)市場参加者全体と市場運営者(官庁による事前介入の増加も含むんでしょうね)に非効率性をもたらすのではないかと思っております。
コメント欄にながながと書き込んでしまい、申し訳ありません<(_ _)>

Posted by 47th : | 20:40 | Law & Economics

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