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誤発注問題はアメリカではどうなるのか、ちょこっと調べてみた

もうやめるといいながら、どっぷり浸かっている誤注文問題なんですが、まあ、だから何だというところもありつつ、こういうトラブルに関してはいろんな意味で経験豊富なアメリカでは、どうなるんだろう、ということを、ちょこっと調べてみました。
えらい断片的なリサーチなんで、全然包括的なものではないんですが、例えばAMEX(カードではなく取引所の方です^^)では、Rule 135A.で、取引所に取引の取消権限が与えられているようです。

Rule 135A. Cancellations of, and Revisions in, Transactions Where both the Buying and Selling Members Do Not Agree to the Cancellation or Revision

(c) In the event of (1) a disruption or malfunction in the use or operation of any facility of the Exchange or (2) extraordinary market conditions or other circumstances in which the nullification or modification of transactions executed on the Exchange may be necessary for the maintenance of a fair and orderly market or the protection of investors and the public interest, a Senior Floor Official may review any transactions arising out of or reported through any facility of the Exchange... A Senior Floor Official acting pursuant to this paragraph may declare any Amex transaction null and void or modify the terms of any such transactions if the Senior Floor Official determines that (1) the transaction is clearly erroneous, or (2) such actions are necessary for the maintenance of a fair and orderly market or the protection of investors and the public interest;...

この規定によれば、(1)取引が明らかに誤りである場合、又は、(2)公正で秩序ある市場又は投資家と公共の利益の保護に必要な場合には、取引所が取引を無効(null and void)と宣言することや、取引の条件を変更することが可能になっているようです。
というわけで、この規定があれば、今回の誤発注について取引所が無効と宣言することが可能だったんでしょうね。ちなみにNYSEの方は、同様の規定がどこにあるのか見つけられなかったのですが、規則関係は横並びなんで、似たような規定がどっかにあるんじゃないかと推測しています。
あと、調べている過程で見つけたんですが、オプション取引の場合には、"Obvious Error Rule"というのが多くの取引所で採用されていて("Obvious Error Rule"でぐぐってみると、すぐに見つかると思います)、オプションの取引価格がfair valueから上下一定割合(概ね10%)を超える場合や取引量が平均取引量の4,5倍以上ぐらいの場合にはObvious Errorということで取引を無効化したりすることができるルールが存在するみたいです。
生き馬の目を抜く世界であっても、明白なエラーを放置すると、却って市場の公正を阻害するという考え方が背後にあると思うのは、我田引水かも知れませんが・・・
あとは、同じくリサーチの過程で見つけたIOSCO(International Organization of Securities Commissions)が2001年に公表した"Recommendations for Securities Settlement System"の"Recommendation 11: Operational Reliability"も興味深かかったです。USも含めて各国の証券当局の集合体なので、ちょっと歯切れが悪いところもあるのですが、少なくとも、単純ミスも含めたriskも放任しておくことが望ましいという価値判断は、ここには見られないような気がしました。
・・・えっ?テスト期間なのに、こんなことしてていいのか?って?・・・当然、よくありません。まあ、でもAntitrustの方の8頁は一通り書き終わったので、大分気分的には楽になってます^^

Posted by 47th : | 00:01 | Securities

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コメント

どうもです。ny47th先生のおっしゃるように、「誤発注問題」も「TOB制度改革」も、世間(というか、「専門家」?)には証券取引を一般の民商法から切り離して特別なものと考えすぎる傾向があるのではないか――私も同様の疑問を抱いています(・・という理解で正しいですか?)。雑駁な感想で恐縮ですが、証券市場を神聖視する議論と、株=博打と見下す発想って、根は同じというか、コインの裏表のような気がするんですよねえ。

素直に民商法の発想(たとえば錯誤無効)を「市場法」に発展・昇華させると、たとえばアメックスのルールのようになる(これが唯一の解ではないにせよ)、と考えるほうが、納得できます。

翻って、3分の1ルールや、今度の3分の2ルール(?)などは、株式を売買する当事者に不自然なバイアス(例:その寸前で止めておくか、みたいな)を与える制度だと思われてなりません(笑)。

Posted by けんけん : 2005年12月19日 06:26

>けんけん先生
証券市場の神聖視と蔑視は表裏というのは、仰るとおりだと思います。
TOBルールについても、まさに仰るとおりだと思います。今回のようなルールに対して当事者がどういう反応をとるかは、割合シンプルなゲーム理論モデルでも予測ができるような気がするんですが・・・そうした現実的な枠組よりも、何か観念的なものが先に立ってしまうみたいですね。
今回のTOBルールについても、いろいろと思うところがあって、またエントリーを改めて書いてみたいと思いますので、その節は宜しくお願いいたします。

Posted by 47th : 2005年12月19日 10:40

初めまして。本石町日記と申します。TB有難う御座います。今回の件は、根っこで悪いのはみずほ証券であり、東証の対応のまずさが事態を悪化させたと思います。このエントリーでご紹介されている「明確なエラーの場合は無効に出来る」のに賛成です。東証もそうしたかったけどシステム不具合で出来なかったようですが、他に無効にする手段はなかったのかと思う次第です。債券市場では数年前、比較的大きな入力ミスがあり、ミスを犯した金融機関はロス(確か億単位)を飲み、担当者は首が飛んだやに聞きます。OTCではミスは良くある話で、某外銀など為替オプションで市場のプライスが間違いだから、自行プライスと裁定しろと顧客に勧めたこともあります。ご指摘のように何でもかんでもシステムで対応できるものではなく(それこそコスト無限大)、人間の判断でサーキットブレーカーを発動できる余地を残した方がいいのではないかと愚考します。今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by 本石町日記 : 2005年12月19日 10:41

すみません、間違って違う記事をTBしてしまったようです。

申し訳ありませんでした。

Posted by 兄やん : 2005年12月20日 04:37

>本石町日記さん
日本では「間違い」は絶対にあってはいけないことといって敵視されてしまいがちですが、事前予防を徹底することが合理的な場合と、事前特定の難しいエラーの発生については事後処理に委ねることが合理的な場合とがあるんではないかと思っています。
そのバランスをどうとっていくかということが知恵の使いどころで、一義的にどちらかに傾斜する議論をすべきではないという気がしています。
今後とも宜しくお願いいたします。
>兄やんさん
スパムフィルターにひっかかっていないかも見てみたのですが、そもそもTBを頂いていないみたいです。どうしたんでしょうね?

Posted by 47th : 2005年12月20日 10:58

「明らかなエラー」を救済しても構わないのは何故か?それは、情報の非対称性が存在しない、つまり、モラルハザードが発生しないからではないでしょうか。自動車の例で言えば、(1)意図せざる事故、と(2)リスキーな運転をしたがゆえの事故、を区別できないという情報の非対称性が問題となるわけです。今回の例で言えば、誤発注は(1)に、リスクを理解した上での発注が(2)に対応します。「明らかなエラー」とは、市場参加者が皆、誤発注であることを理解している状況のことでしょうから、(1)と(2)を区別できているわけです。したがって、保険などの手段によって明らかなエラーを救済したとしてもモラルハザードは生じません。
上のコメントで「根っこで悪いのはみずほである」とありますが、ミスをするのがそんなに悪いことなのでしょうか?ミスを決しておかさないような人や組織など存在しないと思うんですが。ミスをおかすこと自体はしょうがないことだし、それを保険などの制度で救うことは「モラルハザードが生じない限り」何の問題もないと思います。

Posted by sato : 2005年12月23日 20:11

>satoさん
コメントありがとうございます。
「モラル・ハザード」の文脈にもよると思うのですが、本石町日記さんの趣旨はミスが簡単に救済されてしまうと、ミスを防ぐための事前の投資のインセンティブが弱くなるのではないかということではないかと思います。
明確な合意の下に保険が締結されている場合には保険料の設定によって事前の非効率性を防止できるのでしょうが、今回のような場合には、そうした事前の合意やリスク負担の原理が合意されていなかったという懸念は残ります。
ややこしい話ですが、そうしたトレードオフの可能性が今回の事件の悩ましさの本質にあるような気がしつつ、そのトレードオフについてもう少しつっこんでみようという趣旨でいろいろと書いています。
今後ともお気づきの点があればご指摘下さい。

Posted by 47th : 2005年12月25日 11:25

どうもピンとこないんですよね。いくつか疑問点があります。面倒ならスルーしてください。
(*)「ミスが簡単に救済されてしまうと、ミスを防ぐための事前の投資のインセンティブが弱くなる」
(1)この文(*)をさらっと読むと、明らかにモラルハザードのことですよね。そうだとすると、なんらかの情報の非対称性が存在するわけで、いくら明確な合意の下に保険を締結したとしても非効率性を排除することはできませんよね。
(2)もしこの文(*)がモラルハザードを意味しないのなら、つまり、情報の非対称性が存在しない状況を想定しているなら、効率的な保険などの制度がありうるでしょう。そうだとすれば、今回の問題の本質は「事前にそのような制度が存在しなかったこと」なのでしょうか。そうだとすれば、今回の事件を機に、そのような制度を作ったとしても何の問題もありませんよね。
(3)そもそも、今回の件でみずほを救ったとしても、「誤発注を防ぐための投資」が減るとは思えません。なぜなら、救済されるのは「明らかなエラー(大幅な誤発注)」だけであり、「明らかでないエラー(小幅な誤発注)」は救済されないからです。大幅な誤発注よりも小幅な誤発注のほうが発生頻度は高いでしょう。そして、小幅な誤発注によっても損失は発生するはずです。だとすれば、大幅な誤発注が救済されるようになったとしても誤発注を防ぐための努力を怠るようにはならないはずです。
(4)金融機関が直面するリスクには2種類あると思われます。
(a)金融リスク:値動き、投資先の業績の変化など。
(b)その他のリスク:誤発注リスクなど。
金融機関は(a)をとることによって利益を得ようとしているのであり、できれば(b)は避けたいと考えているのではないでしょうか。保険などの制度によって(b)を消滅させること、あるいは、専門の機関を作ってそこに(b)を押しつけることができるなら、金融機関はそれをのぞむことでしょう(モラルハザードが生じない限り、このことには何の問題もありません)。これこそ、証券取引所の役割(の一つ)なんじゃないですか?
結論として、「みずほは悪くない。悪いのは東証である」「今回の件はモラルハザードとは関係がない」と思っています。

Posted by sato : 2005年12月27日 12:16

>satoさん
コメント欄で全部にお応えするのは難しいところですが、契約理論にお詳しい方とお見受けして、エッセンスだけ述べさせていただきますと・・・
情報の非対称性自体色々なレベルで生じますが、ここで問題となっているのは事前になされる明白な誤発注回避のための個々の証券会社の投資水準についての情報の非対称性なのではないでしょうか?
交通事故のアナロジーでいえば、「車の操作を間違ったこと」が客観的に明白でも、それが「通常期待される程度の注意を怠った結果」なのか、それとも「通常期待される程度の注意を払ったにもかかわらず生じた結果」なのかが問題となりますが、これは客観的な観察が難しく、そのために、「車の操作を間違った場合を全て保険で救済すること」にしてしまうことにはモラル・ハザードの問題が生じると通常考えられていますよね。
もっとも、「明白な誤発注の回避は取引所のみが事前の投資主体であり、個々の証券会社は特に(小規模誤発注防止以外の)追加投資は必要ない」という政策論をとれば、事前の証券会社個々の投資水準を問題とする必要はありません。もしsatoさんが、このお立場に立たれるのであれば、この点で意見の相違があるのかも知れませんが、私は必ずしもそうとは考えていません。というのも、証券会社レベルで行った方が安価にミスを回避できる措置があり得、しかも、そうした措置は小規模誤発注回避の手段と(多くは重なるとしても)必ずしも重なるとは限らないと思っているからです。
その意味でモラル・ハザードの問題は、やはり今回の場合にも存在し得るというのが私の考えです。
それを前提とした上で、個別事案のあてはめにおいて、私自身の立場は本石町日記さんと異なり、たとえ大口取引の返還がなされたとしても、回復されない損害や、事後処理に要した追加コスト・機会損失、評判の喪失などによって十分なサンクションが科されるのであって、みずほ証券の将来の投資インセンティブをそぐことにはならず、あてはめの結果としてモラル・ハザードの危険を強調すべきではないと考えています。
仮に、今後、保険を設計するとする場合にも、モラル・ハザードの問題は意識した上で、保険料の設定方法などを定めなくてはいけないのではないかと(なお「非効率性の防止」という言葉は不適切だったかも知れませんが、事前の保険の設計によって、保険料の設定方法の工夫や投資水準のモニタリングなどを組み合わせることによってファースト・ベストではないとしても、実務的に運用に耐えうるものができるかも知れないという意味で申し上げたものです。)
satoさんの仰るように各金融機関が(b)のリスクは避けたいと思いつつも、保険制度の採用に踏み込めないのは、やはりそこにモラル・ハザードの問題が存在しているからではないでしょうか?
以上、エッセンスだけと言いながらやはり長くなってしまいましたが、いかがでしょう?

Posted by 47th : 2005年12月27日 14:46

丁寧な返答をありがとうございます。調子に乗って続けさせていただきます。
(1)「ここで問題となっているのは事前になされる明白な誤発注回避のための個々の証券会社の投資水準についての情報の非対称性なのではないでしょうか?」
まさしくその通りだと思います。逆に言えば、「明らかでないエラー(小幅な誤発注)を救済することは出来ないし、そもそも問題になっていない。」という点に見解の相違は無いと思います。(bewaad、馬車馬、本石町日記の各氏はこの二つを区別せずに議論していたように思えるんですけど、そう思いませんか?それじゃまずいような気がするんですけど。)
(2)「そうした措置は小規模誤発注回避の手段と(多くは重なるとしても)必ずしも重なるとは限らないと思っているからです。」
具体的にどのような違いがあるのでしょうか?誤発注が生じる具体的な原因の一つとして、「注文の瞬間にくしゃみをしてしまい、キーを打ち間違える」というケースがありうると思います。このとき、1円とか2円といった感じで「小幅に」打ち間違えることもあるでしょうし、桁を一つ二つ間違えるような「大幅な」打ち間違いもありうるでしょう。このケースでは「小幅な誤発注を防止する努力」と「大幅な誤発注を防止する努力」は完全に同じものですよね。大幅な誤発注「のみ」(あるいは小幅な誤発注「のみ」)を防止するような措置とはどのようなものなのか、想像できないのですが。。。。
(3)保険をかけたときにドライバーが事故防止努力を怠るようになるのは、努力を怠るインセンティブがあるからですよね。つまり、事故防止努力を怠ることには「より早く目的地に着く」とか「そのほうが運転が楽しい」といったメリットがあるわけです。だからこそ「あえて『危険な運転』をする」わけです。翻って、大幅な誤発注に対して完全な保険をかけたときに、「あえて『大幅な誤発注』をする」インセンティブがあるのでしょうか?完全な保険があるのですから、『大幅な誤発注』をしても損失はありません。しかし、『大幅な誤発注』をすることで利益が得られる可能性は、はっきり言ってゼロですよね。このような状況で「あえて『大幅な誤発注』をする」インセンティブがあると思えないのですが。確かに、この状況では、証券会社は「大幅な誤発注防止努力」をしなくなるでしょう。しかし、そのことによってどのような非効率性が生じるのでしょうか。
(4)「各金融機関が(b)のリスクは避けたいと思いつつも、保険制度の採用に踏み込めないのは、やはりそこにモラル・ハザードの問題が存在しているからではないでしょうか?」
「明らかでないエラー(小幅な誤発注)」については正にその通りだと思います。1000円近辺で値動きする株を1200円で買った証券会社がいたとしましょう。そして、この会社が損をしたとします(つまり値下がりした)。このような損失に対して「誤発注保険」を掛けることは出来ません。なぜなら、この「1200円」という注文が、「(1200円以上への値上がりを予想した)意図的な注文」だったのか「誤発注」だったのか区別できないからです。もしこのような状況で誤発注保険を掛けてしまったら、証券会社はそれこそリスク管理を怠り、一発逆転的なリスキーな投資行動を取るようになるでしょう。損失を出しても、「誤発注でした」と言えば良いわけですから。これこそモラルハザードですよね。だから、「明らかでないエラー」に対する保険は存在しないのだと思うのですが、どうでしょうか。
それに対して、「明らかなエラー(大幅な誤発注)」を救済する制度は既に存在するわけですよね。Obvious Error Ruleとか。(「取引の取消」というのは保険みたいなものだと解釈しちゃまずいんですかね?「他社が誤発注したときに得られるはずの利益をあきらめる=保険料」で、「自社が誤発注したときの損失は取り消される=保険金」みたいな感じで。)例えば、1000円近辺で値動きする株に対して、「1円での売り」とか「1万円での買い」といった注文が入ってきたら、「あぁ、これは誤発注だな」とわかるわけですよね。なぜなら、そのような極端な注文によって利益の出る可能性はゼロなのですから、意図的にそのような注文を出すはずは無いからです。つまり、このような注文では「意図的な発注」と「誤発注」を区別できているわけです。したがって、この場合モラルハザードは発生しない。ゆえに、Obvious Error Ruleのような制度があっても何の問題もない。と考えているのですけど、どうでしょうか?

Posted by sato : 2005年12月28日 15:03

>satoさん
だんだん、論点が明白になってきたような気がしますが、お尋ねの件について、できるだけ簡潔に答えさせていただきます。
(1)bewaadさんと本石町日記さんの見解については、ご本人に尋ねないのと分からないのですが、私自身は、ご両人とも明白なエラーの部分について議論をされているのかなと思っていました。
(2)くしゃみについては、くしゃみをするなとは言えないので仰るとおりだと思います^^
私はシステムの専門家ではありませんが、小規模なエラーは日常的に生じるのでそのパターン自体を認識する費用は比較的低いでしょうが、大規模なエラーは滅多に生じないためにその特定自体が困難という点で、やはりそこには質的な違いがあるのではないかと思っています。
(3)ドライブが目的地につくためになされるように、証券取引も利益を得るためになされます。交通事故を望むものも誰もいませんが、証券事故を望むものも誰もいません。けれどもドライブと交通事故が表裏一体であるように、証券取引と今回のようなエラーも表裏一体です。そこで問題になるのが、事故あるいはエラー防止に対する適切な投資水準であり、ここにモラル・ハザードの問題があると考えればいかがでしょう?
(4)このエントリーでの私の分析は非常に断片的なものですが、Obvious Ruleをとることはモラル・ハザードを否定することとは一致しません。誤発注がObvious Ruleで救済されないとしても、そのような誤発注を行った証券会社には改善報告の提出や頻発する場合には会員資格の停止などの措置がとるといった形でのモラル・ハザードの防止措置がとられていてもおかしくないのではないかと思っています。

Posted by 47th : 2005年12月28日 22:38

しつこくてすいません。私の頭の中もだいぶ整理されてきたので、長々と書き込むのはこれで最後にします。
(4)「誤発注がObvious Ruleで救済されないとしても」とありますけど、これは「誤発注がObvious Ruleで救済されたとしても」のまちがいですよね?おもうに、47thさんの洞察とは「現実的には、完全な補償はありえない。その『補償の不完全性』がモラルハザードを防止するはずである」というものなのではないですか?確かに現実的にはそのとおりだと思います。
・モラルハザードの問題とは、保険をかけることによりagentが「過度にリスキーな行動をとるようになる」ことですよね。ドライバーの例なら、「過度にリスキーな運転をするようになる」ことが本質的な非効率性の源ですよね。今回のような金融市場参加者の例なら、保険をかけることにより「過度にリスキーな投資行動をとるようになる」ことが本質的な問題なのであって、「誤発注防止努力を怠ること(誤発注を起こしやすくすること)」は本質的な問題では無いように思います。「過度にリスキーな投資行動」とは、例えば「値上がりする可能性がかなり小さいのに、一か八かで買ってしまうこと」などです。これは明らかに金融機関としてまずいわけですが、「くしゃみ止め薬を飲む量を減らす」とか、「端末で注文する際に警告を出す回数を減らす」といったことが金融機関としての本質的な非効率性だとは思えないんですよね。
というわけで結論として「obvious error ruleによって誤発注防止努力は確かに減るかもしれない。しかし、それは本質的な問題ではない」と思います。
・完全な誤発注保険が存在する場合、金融機関は次のように行動するでしょう。
(i)過度にリスキーな投資行動をとる
(ii)その結果、もし損失が出たら、「あの発注はミスでした」という嘘をつく。→損失補償を受ける。
つまり、保険を悪用してハイリスクハイリターンをねらうようになるわけです。それでは、例えばハイリスクな株を買おうとするとき、どのような値付けをするかというと「取引が成立しうるなかで最も安い価格」で買おうとしますよね。あまりにも当然ですが、これより安いと取引が成立しませんし、これより高いと儲けが減ってしまうからです。要するに、保険を悪用する場合でも「望ましい発注価格」が存在する=誤発注などしたがらない、ということです。この場合、金融機関は「くしゃみ止め薬をちゃんと飲みながら悪事を働く」のです。というわけで結論として、「完全な誤発注保険が存在したとしても、誤発注防止努力は減らない」と思います。

Posted by sato : 2005年12月31日 20:23

>satoさん
何となく分かったんですが、「リスキー」ということのとらえ方の差ではないかと思います。
投資行動・・・というか金融活動には、いろいろな種類のリスクがあります。典型的には、投資自体においてどの程度のリスクをとるべきかという問題ですが、それだけには限られません。
SEC検査の検査マニュアルでは、証券会社の直面するリスクを「市場リスク」「信用リスク」「流動性リスク」「事務リスク」「システムリスク」に分類されており、この分類を用いれば、今回の件では後2者のリスクが問題となっていると思われます。
satoさんのお立場では、「事務リスク」「システムリスク」は、証券会社自体の投資活動にとって非効率なのだから、手当をしなくても適切な水準の投資がなされるということになるように思われますが、実際には、これらのリスクの一部は証券市場全体や顧客に転嫁されてしまい(例えば一時的な市場の情報効率性の喪失や、もっと泥臭いところでは対顧客との関係では契約免責で注文がミスで発注されなかったとしても、その機会損失を証券会社は負わずにすむ)、外部性が生じてしまうために望ましい投資水準がなされない可能性があるというのが、伝統的な証券会社規制の発想ではないかという気がします。
したがって、これらの外部化されたコストを何らかの形で内部化する必要があり、そのルートとして「評判」と規制機関による「検査・是正命令発動」とそのおそれがあるわけですが、更に金銭賠償制度による損失の内部化まで必要かどうかというのが私の問題設定です。
仮に前2者すらしかなければ、証券会社による「事務リスク」「システム・リスク」対策への投資水準は過小になり、その意味で保険がない状態でもモラル・ハザードは生じる可能性があると考えている点でsatoさんと基本的な立場を異にし、本石町日記さんやbewaadさんと同じ前提に立つ。
但し、実際の防止対策としては「評判」と「検査・是正命令発動」とそのおそれは機会主義的行動の防止に役立っており、他方で、市場全体に波及した損失を全て負わせることは、逆に他のプレイヤーの機会主義的行動を誘発し、結果として過剰投資をもたらすので、結論としては、今回のようなケースにおいて取引を無効とすることは問題がない、という点で、結論においてsatoさんと同じで、本石町日記さんやbewaadさんとは異なる
・・・と、まとめてみると、こういうことかと思いました。
とまれ、今回の議論は非常に興味深い議論でした。今後も契約理論いに触れることもあると思いますので、また、何かの機会に気づいたことがあれば是非ご指摘下さい。ありがとうございました^^

Posted by 47th : 2006年01月07日 10:54

私は大学生です。講義のレポートで「情報社会とモラルハザード」という題がでました。全くわからないので、調べていたらこのサイトを見つけました。論点はずれてしまいますがよければこの事について教えてください。お願いします。 

Posted by 幹 : 2006年01月12日 03:54

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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