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クイズ:もしあなたが○○だったら(P大統領編)

さて、ここしばらくの特番モードはひとまず終わりにして、通常営業再開ということで。

春学期にとっているBehavioral Law & Economics(行動経済学を使って法的制度を考察するコース)の内容から、かるーい気持ちで出題したクイズ解説第2弾です。

"24"をもじったシチュエーションで問題をつくったところ、想定外の事態に陥ったのがP大統領編です。

まず、最初に私が期待していた「結果」(ストーリー)をお話しておきましょう。

実はこれがやりたかった

元々、2つの事例でやりたかったのは、フレーミング(framing)の違いによって、同じ内容でも選択が変わってしまうという問題でした。

600人の死亡が予想される伝染病に対する次の2つの対策のセットを見てください。

Positive Form

  • プログラムAが採択されれば200人が助かる。
  • プログラムBが採択されれば、1/3の確率で600人が助かり、2/3の確率で誰も助からない。

Negative Form

  • プログラムAが採択されれば400人が死亡する。
  • プログラムBが採択されれば、2/3の確率で全員が死亡し、1/3の確率で誰も死亡しない。

Positive FormとNegative FormのプログラムA、Bは全く同じことを言っているということを確認してください。
また、プログラムAとBはいずれも「助かる人間」の期待値は200人で、違うのはリスク(プログラムBの方がリスクが高い)という点も確認しておきましょう。(「助かる人間の数」以外を効用の指標に使うアイディアについては後で触れます)

プログラムAとBの何れを選ぶかは、最終的にリスクに対する意思決定者の態度に依存するというのが通常の説明でしょう。つまり、安全志向(リスク回避的)の人はAを選び、ギャンブラー(リスク愛好的)な人はBを選ぶというものです。

ところが、実際に、2つのグループに対して、この選択を実施すると、Positive Formの場合はプログラムAを選ぶ割合が高く、Negative Formの場合はプログラムBを選ぶ割合が高いことが報告されています。(実験手法の詳細は原文が手に入らなかったので分からないのですが、20年以上のpeer reviewにさらされている論文ですから、とりあえず実験手法や統計手法に問題はないと仮定しておきます)

両者の違いは、Positive Formが「助かる数」を問題としているのに対して、Negative Formが「死亡する数」を問題としているということを除けば全く同じです(この問題の立て方を「フレーミング」といいます)。

こうしたフレーミングの違いにより結果が異なるということは、例えば、陪審員に対する諮問の仕方によって、結果が異なる可能性があるということを意味するとされる・・・ということを、やりたかったわけですが、皆さんから頂いた回答を拝見すると、質問1と3における回答の選択は一貫していて、そうした差がうまく出ませんでした。

・・・というわけで、以下、敗軍の将として、その原因を分析してみましょう。

 


学習あるいは刷り込み効果

まず考えられるのは、質問1で一度Positive Formの形でのフレーミングが与えられてしまったために、結局、質問3での細かいレトリックの違いは無視されて、Positive Formの形で認識されてしまったという可能性です。

ただ、フレーミングというのは、結構強力で、それ故にその影響を取り除くことも容易でないということからいうと(例えば最初の設例を見比べたときに、両者に対して全く同じ判断が可能かを考えてみてください)、少し疑わしいところです。

セルフ・セレクション

もう一つの可能性は、ブログにコメントしてくださった方は、元々、こういう類の意思決定に興味を持っている人で、期待値とリスクという2つのパラメーターの比較で考えるという思考プロセスを既に持っているために、フレーミングの違いに惑わされなかったという可能性です。これも要因はあると思うのですが、フレーミングの強力さを考えると、まだ疑問が残ります。

誤ったフレーミング

実は、これが一番大きかったんではないかと思うんですが、私がお遊びで"24"仕立ての小細工をしてしまったために、「一国の大統領による意思決定のあり方はどうあるべきか?」というフレーミングが与えられてしまったという可能性があります。

Apricotさんが説明責任、bunさんが支持率、bewaadさんが批判を、それぞれ効用の指標に選んだ辺りに、それが如実に出ているような気がします。他の方も、効用の指標こそ「助かる人数」のままですが、微妙に批判とか国民受けを考えている節があり、やっぱりこれがまずかったかなぁという気がしています。

ただ、ここから無理矢理に教訓を引き出すとすれば、何故、bunさんは「支持率」を考え、bewaadさんは「批判」を考えたかと・・・もしかしたら、「大統領」というフレーミングの含む意味合いがbunさんとbewaadさんで違ったという可能性があります(特にbewaadさんはお仕事柄?)

もう一つApricotさんは、ワクチンか避難かというところでもフレーミングに違いが生じる可能性があることを示唆されています。これも全く思いつきませんでした。

総じれば、フレーミングを利用しようとしても、意図したとおりのフレーミングを設定できるとは限らない、ということで。

ちなみに、私ははぐれバンカーさんやgood countryさんと同様、安全派かも知れません・・・

小僧さん。中心極限定理まではさすがに思い浮かびませんでした^^;
もちろん、実際に大統領のシチュエーションなら、どういう統計手法で算出した数字かとか信頼度についてしつこいほど問いただすんでしょうね。しかも、あのエージェントは、いうこと聞かずに、すぐ暴走してしまうんで、最終的にはそこのリスクも考慮に入れないといけないでしょうし・・

以上、出題ミスもありましたが、少しは楽しんで頂けましたでしょうか?

 

Posted by 47th : | 00:23 | Law & Economics

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コメント

カテゴリが「Law & Economics」だった点にも、出題の意図を深読みしてしまうという副作用があったかもしれません(僕だけじゃないはずっ)

Posted by tockri : 2006年01月25日 00:37

私の場合は、なまじ問2が「答えのある」問題だったために、問1と問3も答えのある問題なんだろうなというフレーミングが・・・(^_^;

かく言う私も、これが(Quizでなく)現実になると、わかっていても、プロスペクト理論的な(非合理的な)価値判断をしてしまっている自分に気づいてしまいます。株式投資とか、買い物とか、恋愛とか。
ほんと、人って弱いもんです・・・

Posted by Apricot : 2006年01月25日 08:59

フレーミングの違いも影響すると思いますが、政策判断の場合と自分の資産を賭けた投資判断では結果が違ってくるのではないかと思います。
元々のカーネマン・トヴァスキーの著作ではそこのところはどのように考慮されているのでしょうか?(私は読んだことが無いので...)

Posted by 非合理的不経済人 : 2006年01月25日 10:30

>>tockriさん
そこでも、ありましたか・・・
確かに、そういう周辺情報から、出題者の意図を読み取るのは、クイズの重要な要素ですもんね。
>>Apricotさん
そうなんですよね。
ただ、今とっている授業では、一見不合理と見えることの中に潜む合理性を追求した後で、その後に残る非合理性を見つけ出すというアプローチをとっているので、その意味では面白いですね。
>>非合理的不経済人
仰るとおりで、私も原典は読んでいないのですが、授業中にまさにその話が出ていて、教授がいうには、元の実験では、実際の医者を被験者として選んだということです。

Posted by 47th : 2006年01月25日 11:05

こんにちは。

ははあ、そうでしたか。気づきませんでした。フレーミングの差を明確にして出題したいのであれば、3.も全く同じウイルスの問題にすればいいのですが、それじゃなあ・・・ということだったんですね。

>実際に、2つのグループに対して、この選択を実施すると、Positive Formの場合はプログラムAを選ぶ割合が高く、Negative Formの場合はプログラムBを選ぶ割合が高いことが報告

恥ずかしながらこの報告、存じ上げませんでした。しかしグループというのはアメリカのグループですよね?日本で同じ実験して明らかに同様の結果が出るとはにわかには信じがたいのですが・・・新たに裁判員制度が導入されることですし(早くなくなってほしいのですがw)研究が待たれます(もうあるのかな?)

Posted by bun : 2006年01月25日 19:53

>bunさん
いやぁ・・・そうなんです。迷彩かけようとしたら、かけすぎてしまいました(- -;)

確かにフレーミングは文化(そもそも言語)によっても違ってきそうですね。元々は認知心理学の領域を導入しているので、そちらの流れなら色々あるのかも知れませんね。
それが余り政策決定の基礎として使われているかどうかは、また別の問題ですが・・・

Posted by 47th : 2006年01月25日 20:19

>bunさん

私は、むしろ、日本人はさらにその傾向が強いんじゃないかと思っています。
磯崎さんのブログで、年収2千万円が効用最大?みたいなのがあったと思います。
つまり、大きな利益での正の効用がより弱い効用曲線を描くんじゃないかなーと。

よって、「利益」を意識させるフレーミング(x人助かる、とか)のもとでは低リスクな選択を好み、
「損失」を意識させるフレーミング(x人死ぬ、とか)のもとでは高リスクな選択をより好む傾向が(米国人よりも)強そうだと思います。

Posted by Apricot : 2006年01月26日 08:58

5 count で中心極限定理に行き着いた訳ではないので、言い訳がてら補足させていただきます。
問題文では A は少なくとも 20% 助かるということしか言っていません。 よって 20% しか助からないわけではないから 50% 位助かる可能性もあるゆえ A を選択した次第です。という訳で「ワクチン A でもっと助かることはないのか」と聞いたうえで「ほとんどないでしょう、20% 強は助かるかもしれませんが」とその場合を封じておけば A と B の期待値があまり変わらないというところに落ち着くとは思います。
とはいえ、このようなシチュエーションが現実に起こったら、私の様なへたれではもっと助からないのかさえも聞くことは出来ないでしょう。

さらに思い付きの屋上屋を架してみると、このような framing (文章構造から受ける印象) 問題を絶賛開催中の LD 祭りやヒューザー祭り(あえてふざけた表現をしています) での flaming (炎上) 問題に適用すると興味深いとは思いますし、もしかしたら冷静になるために使えるの...かもしれません。

Posted by 小僧 : 2006年01月26日 10:36

Apricot様

場をお借りします。またコメントをまたぐ小僧さんごめんなさい。

>bunさん

私は、むしろ、日本人はさらにその傾向が強いんじゃないかと思っています。
磯崎さんのブログで、年収2千万円が効用最大?みたいなのがあったと思います。
つまり、大きな利益での正の効用がより弱い効用曲線を描くんじゃないかなーと。

この場をお借りして、ご指摘に感謝いたします。なるほど、思い起こせば究極の選択で「お金と日本人であることどちらをとる?」となったら日本人を取るだろうという話がありました。と、すればある水準以上の利益に無関心ということになり、ご指摘のような結論に至ること、誠にごもっともです。

実は私が常日頃付き合っている日本人がどいつもこいつも平均から乖離しているのをすっかり忘れておりました(笑)。

また遠慮のないご教示願います。

Posted by bun : 2006年01月28日 04:20

 
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