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「開発」(あるいは「発展」)って何だろう? (4)

前回はファイナンシング・ギャップ・モデルに対するEasterlyの批判を簡単に紹介しました。
このうち余剰労働力の仮定に関する批判は、実はEasterly独自のものではなく、モデルの開発者であるHarrod自身が既に50年前に認めており、その後もSolowなどの経済学者によって問題点が指摘されてきました。

にもかかわらず、ファイナンシング・ギャップ・モデルが生き残ってきたのは何故でしょう?

ここはちょっと自信がないのですが、仮に労働力余剰が存在しないとすれば、資本的生産要素(設備投資等)の投入量に対して生産量は徐々に少なくなっていかなくてはならないはずです。ということは、経済成長に関していえば、当初は生産量が伸びるものの、ある程度の成長を見せると、それが鈍化するという現象が見られるはずです・・・が、実際の経済発展においては、しばしば、成長は鈍化するのではなく、初期の成長が更なる成長をもたらす現象、つまり、ファイナンシング・ギャップ・モデルと整合的な現象が観察されるというところにあるようです(自分でデータを見たわけではないので自信なし)。
(また、生産量が逓減するとすれば、成長が促進すると投資に対するリターンも少なくなっていくため、投資は自ずから成長段階が低いところに向かうはずです(この現象をConvergenceと呼びます)。しかし、現実には国際間更には一つの国内の地域間でも、このようなConvergenceは容易に起きていないことも、上のような生産量逓減モデルと現実とが対応していないことを示唆しているといわれます。)

この現象を説明するための、一つの理論は「投資」の対象として、物的資本だけでなく人的資本(human capital)の存在を仮定することです。細かいところは勉強中なのですが、物的資本だけなら逓減が見られるとしても、人的資本の開発の余地があれば、合わせてみれば生産量の逓減は見られないということのようです。
もう一つは、技術(technology)の発展を仮定することです。つまり、新しい技術がコンスタントに発明されれば、必ずしも生産量は逓減しません。

厳密にいうとEastelryの立場は、上の2つの何れとも若干異なるようですが、大きな枠組みでいえば、①技術発展が成長の要因であること、②人的資本の蓄積が重要な要因を占めるという点では共通しています。

技術発展と成長

Easterlyは技術発展と成長の関係について、以上のような特徴を指摘します。


  1. スピル・オーバー

    一つめの特徴は、技術はその社会全体に浸透する性質を持っているということです。例えば、最初は一部の者だけが用いていた技術であっても、それが高いリターンをもたらすことが判明すれば、周りの者はすぐにそれを模倣し、それによって影響は波及していくというものです。

  2. マッチング

    もう一つの特徴は、技術に関するリターンは、高いスキルを持つ労働者同士が集まることによって増加するというものです。Easterlyによれば、シリコン・バレーのように、高い技術と生産性を持つ産業は地域的に密集する傾向があるのも、この効果だというわけです。また、一定の技術にはネットワーク効果(その技術を利用する者が増えれば増えるほど、その技術の価値が増す)が見られるという点も指摘しています。

  3. フリー・ライダー問題

    スピル・オーバーの負の一面として生じる問題が、よく知られたフリー・ライダー問題です。つまり、模倣されることが予測されれば、そもそも発明に対する投資欲は減殺されてしまいます。特許権などの工業所有権などによる保護もありますが、必ずしも完全ではない上でに、余りにもこれが強くなるとスピル・オーバーが生じなくなってしまうことになります。

  4. 世代間コンフリクト

    もう一つの問題は、技術発展は、一方で旧技術に対する投資の価値を低めてしまうという問題です。例えば、古い技術の習得に投資をした人々にとっては、新しい技術は自分たちの価値を貶めるものになってしまいます。また、旧技術に対して巨大な投資をした後で新技術にシフトすることは、感情的に容易ではないこともあります。
    こうした旧勢力からの感情的抵抗(どっかで聞いたような話ですが・・・)が、技術発展の活用を阻害する可能性があることをEasterlyは指摘します。

  5. 経路依存性(パス・デペンデンス)

    また、一定の技術がどれだけのリターンをもたらすかは、マッチングがうまくいくかどうかによるとすれば、そうした高い技術が集約するような基盤の有無が成長にとって大きな問題となります。例えば、産業技術を指導する教育機関が歴史的な経緯で設置された地域は高い経済成長を実現できる一方で、そうした歴史的な経緯をたまたま欠いた地域は経済成長を達成できないということが起こり得るということです。これは、経済成長が過去の歴史的な資源配分に影響を受ける可能性を示します。

  6. 人的資本との関係

    また、マッチングが示唆するように技術は、そうした技術を使いこなせる労働者がいてこそ、その効果を十分に発揮することが可能となります。その意味では、基本的な人的資本の有無が技術発展による経済成長を達成できるかにとっては重要となることを示唆します。

  7. 正負のスパイラル

    以上のような技術発展と経済成長の関係は、経済成長が歴史的な経緯と独立ではいられないことを示します。例えば、人的資本の蓄積があり、旧技術への投資が少ないところに技術がもたらされれば、一気に高い経済成長をもたらすことが可能ですが(Easterlyは戦後の日本の高度経済成長にこのパターンをあてはめます)、逆に人的資本の蓄積が乏しく、古い技術を背景にした既得権益が存在するような場合には、技術発展の恩恵を十分に受けることができません。そして、こうした技術発展による経済成長は循環性を持ち、技術発展にひょる成長が達成されることによって、更なる技術発展が促されることになる一方で、逆も然りということも言えるわけです。


以上のような技術発展と経済成長の性質を踏まえた上で、Easterlyは歴史的経緯による負のスパイラルからの脱却のためには政府による積極的な技術発展支援の必要があると訴えます。
また、対外直接投資を促すことで技術のスピルオーバーによる発展が促されると説きます。

・・・ただ、こうした具体的な政策提言の段階になると、Easterlyの主張は迫力に乏しいというのが偽らざる心境です。それもむべなるかな、従来の援助政策がインセンティブに対する視点を欠いていたことは確かだとしても、インセンティブのコントロールは、現代の組織理論においても最大の難問の一つです。
「適切なインセンティブを与えなくてはいけない」という着地点は見えていても、具体的にどのような政策手段や制度的枠組みを用いることで、その目標を達成できるかについては、もっとありふれた問題・・・例えば会社における経営陣に対する適切なインセンティブの提供という問題ですら、未だ激しい論争の過程にあるわけです。
逆にいえば、この分野については、私がこれまで学んできた会社法におけるインセンティブ問題に対するアプローチを応用することは十分に可能ということでもあり、私にとっては、ちょっと嬉しい?部分でもあります。

以上、Easterlyの主張の要点を、開発経済学の素人が自分の頭の整理がてらまとめてしまおうという無謀な話でした。
乱暴にまとめてしまったところや誤解に基づくところもあるのではないかとおそれていますが、多少なりとも雰囲気が伝わったのであれば幸いです。
Eastelryの本自体は、具体的なエピソードが豊富に織り込まれ、経済学の前提知識のない人にも楽しめるように工夫がされていますので、興味を持たれた方は、ご覧になってみるといいかも知れません。

では、とりあえず今回はこんなところで。

Posted by 47th : | 01:43 | Law & Development

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