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再生プレミアム分配の難しさ (2)

前回は債権者間の利益移転問題について説明しました。

これを解消するために、例えば債権放棄や金利減免のようなリストラクチャリングが実施されるわけですが、問題は債権だけではなく、エクイティ・ホルダーとの間でも生じ得ます。

例えば、先ほどの会社Aの例に戻ってみましょう。

今、会社Aは既存債権者に対して現状に見合った状況になるために500億円の債権放棄を依頼したとしましょう。こうすれば、新債権者は安心して入ってくることができます。
しかし、既存債権者はこれでは面白くありません。なぜなら、自分たちが500億円放棄したことによって、余剰キャッシュフローが20億円(270-150-100)発生するわけですが、これは株主のものになってしまうからです。


当然のことながら、この場合、既存債権者は300億円までしか債権放棄に応じないでしょう。

こうした教科書的設例であれば、ここで終わりなのですが、実際には、最初からNPVが正のプロジェクトが存在しているということは稀で、①キャッシュフローのレベルは会社側の事業サイドのリストラクチャリングのやり方に大きく左右されることが通常ですし、②その予測は通常の事業キャッシュフロー以上に不確実性が高いという特徴を伴ってきます。

ここで、二つの要請が生じてきます。一つめは、①事業サイドのリストラクチャリングが債権者サイドの予測に従ってなされるようにコントロールを確保することで、二つめは、②債権者側の債権放棄の規模についてある程度のバッファが必要となることです。

もう少し掘り下げてみると、①については、財務的困難の状況下では有限責任の下でギャンブルを好む株主サイドの利益と債権者サイドの利益は激しく対立することが知られています。従って、少なくとも再生のめどが立ち、会社経営が軌道にのるまでは債権者サイドが実質的な支配権を握ることが債権者が再生を遂行に応じるための条件になってくるわけです。
会社更生法などの枠組みの下で株主のコントロールを実質的に停止するという選択もありますが、これは非常にコストがかかる選択肢であるため、通常は私的整理 (場合によっては民事再生手続)の中でスポンサーが議決権の過半数を超える株式を取得するという形がとられるわけです。

次に、②については、既存債権者の方では、最初控えめに債権放棄をやっておいて、また必要になった段階で債権放棄をやっていき、スポンサー(新債権者)サイドは、最初に控えめに資金を投入しておいて、後で必要になった段階でまた追加資金投入というもあり得ないわけではありませんが、(一度やってみると分かりますが(笑))銀行団などの債権者サイドの意思決定をまとめるのは、極めて難儀ですし、現行の税務・会計上の枠組みでは最初に一回的に処理する 方が何かと便利な側面もあります。
しかし、だからといって、最初にドカッと債権放棄、ドカッと資金投入で、もしそれが多すぎたら(先ほどの例のように500億円の債権放棄がtoo muchだと)、その利益はそのままでは自分たちの手許には戻ってこずに株主に行ってしまうというのでは、債権者サイドとしては再生への協力に尻込みしてしまいます。
この問題を軽減するために、少なくとも再生に必要な期間の間の余剰分が債権者に返還されるような仕組みが必要になるわけで、これがデット・エクイティ・スワップであったり、優先株式の発行だったりするわけです。

以上のような理由から、既存債権者による実質的な権利放棄とスポンサーによる新資金投入の一部はエクイティの形でなされるのが再生の場面で通常なされているわけです。

さて、ここで問題となってくるのが、こうした債権者から株主への利益移転が一部の源泉をなしている再生プレミアムの分配の問題です。

理念的には、(a)債権者からエクイティ・ホルダーへの利益移転の部分については一般株主のアクセスを認めるべきではないが、(b)純粋な企業価値の向上による利益については一般株主にもプロラタでのアクセスを認めるべきであるということが言えるかも知れません。

しかし、少なくとも現行法の枠組みでは、(a)と(b)は明確に区別されていませんし、実際的にみてもその区別は非常に困難です。

一 つのやり方は、再生を行うかどうかを決める前に、債権者サイドが残存価値として妥当と思う価格でのスクウィーズアウトを株主に対して提案し、もし株主が応 じれば債権放棄+新資金投入を行い、もし株主が応じなければ再生を行わずに分配を行うというものです。

これに対して、日本の私的再生の実務では、多くの場合、既存株主をそのまま残します。その上で、債権放棄等を行った旧債権者とス ポンサーはエクイティ持分を持ち、それを(1)次のスポンサーに譲渡するか、(2)最終的に再生が成功した段階で普通株式に転換してIPOで換価するという選択肢をとります。

最初の段階でスクゥイーズ・アウトで現金化されるのと、いつになるか、また、その時点での株価がいくらになる か分からない再上場まで引っ張られるのとどちらが一般株主にとって望ましい制度かは一概には判断がつきませんが、もし、(1)のスポンサーへの譲渡の際の 価格設定に制約が加えられることになると、そもそも再生に関する債権者間の合意が成立しないか、あるいは、最初の段階でスクゥイーズ・アウトしておくという実務に傾斜していく可能性もあるわけです。

再生が軌道にのり始めた段階で、「事後的」にみると、一部のエクイティホルダーだけが確実なエ グジットを保証されているという状況は「フェアではない」と見えるかも知れませんが、そうしたエグジットメカニズムは、債権者から株主への利益移転の懸念 を最小化するという意味で、そもそも再生がなされるかどうかや、再生時に(破綻している状況での企業価値評価を前提に)スクゥイーズ・アウトがなされるかどうかという「事前」の選択と密接に関わっています。

もっとも、再生が軌道に乗り始めた段階で、純粋な企業価値の上昇分を独占するためにスポンサーがスクゥイーズ・アウトを行うことは、「事前の」効率性の観点からも望ましくありません。

ただ、再生プレミアムには債権者から株主への利益移転部分も存在するため、そうした要素のない通常のスクゥイーズ・アウトの文脈の議論をそのまま適用することは難しい(通常のスクゥイーズ・アウトの文脈では効率的な制度でも、それが再生の文脈でも効率的とは限らない)という問題は残ります。

これが、通常のスクゥイーズ・アウトと今回の問題が異なると私が考える由縁のところです。

・・・ もっとも、ここに書いたことは、私が実務の経験と支配権市場に関する議論をベースに考えていることなので、その意味ではまだ十分に練 られているとは言えない見解であるということと、私自身は件の事例には直接関与していませんが、機構による上場企業再生のモデルケースとなった三井鉱山の ストラクチャー策定をやっていたので、スポンサー側へのバイアスが存在する可能性があることについては読まれる方の注意を促しておきたいと思います。

また、最後に、しつこいようですが、スクゥイーズ・アウトの価格が妥当性については判断することはできませんし、それについて一般株主の方々が反対意見を述 べることは全く正当だと思いますし、政策論として、開示の充実を図るべきではないかという点についても特に異議を差し挟むものではありません。

さらに、これまたしつこいようですが、現実の事案では、法技術的な議論よりも関係者の「納得感」が大切であって、その部分で今回の件が十分だったのかは、これも軽々に言うべきではないとは思いつつ、批判的に検証されるべきであり、再生案件に携わる者として考えなくてはいけないことなのだろうと考えていることを繰り返しておきます。

Posted by 47th : | 18:18 | Law & Economics

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コメント

興味深く読ませていただきました。
私は、ブログにてカネボウ問題を訴えている者です。http://kanebo162.exblog.jp/

>もっとも、再生が軌道に乗り始めた段階で、純粋な企業価値の上昇分を独占するためにスポンサーがスクゥイーズ・アウトを行うことは、「事前の」効率性の観点からも望ましくありません。

カネボウはまさにこの事例にあたります。
産業再生機構の下で、減資、債権放棄、粉飾発覚と行ったうえでもなお上場時に株価は700円以上をつけていました。
そして上場廃止後も事業リストラも順調に行われ、既に再生計画以上の何十億もの経常利益を上げるまでになっています。
今のカネボウは誰が経営しても利益の出せるもので、再生はほぼ完了したと言えます。
それであるのに、機構から株を譲りうけたファンドは、当初の再上場を目指す方針を撤回し、流動性の無いことを理由としてスクイーズアウトをちらつかせ、弱者を騙すかのような脅迫めいたTOB公告文で、162円という不当な価格で買い取りました。公告文を見ていただければ、その文面や価格算定根拠に驚かれると思います。
またこのカネボウ問題は、更に大きな問題が複数あります。

個別的な話をして申し訳ありません。
多くの方にこの問題を知っていただきたくてコメント差し上げました。お許し下さい。
もしよろしければ、私のブログもごらんいただけると幸いです。間違った点もあると思いますが、カネボウ問題を少しはご理解頂けるかと思います。
長文、失礼しました。

Posted by カネボウ株主 : 2006年03月31日 23:59

>カネボウ株主さん
コメントありがとうございます。
個別の案件としては、色々な評価があり得るところだと思いますし、完全なアウトサイダーというわけでもありませんので、立ち入ることは避けたいと思います。
ただ、ライブドア事件などでもそうですが、一般株主の方々が経営陣や大株主と異なる評価を持っているときに、その見解のギャップを埋めるためのハードルが高いという現実はひしひしと伝わってきました。
その中で声を上げられて活動されることは大変なことかと思います。
私自身は、この問題について直接にお力になることはできませんが、再生・M&Aの実務に携わるものとして、提起されている問題については、真剣に受け止めて考えていきたいと思います。

Posted by 47th : 2006年04月01日 02:20

はじめまして。
カネボウの件Fund の会社に多分知人がいらしゃると思います。Buyout Fund の法律
の勉強このHPでできればと思います。
遊びのHPですがマーチャント・バンク、インベストメント・バンクのコーナーを設けています。
シギーのジャズ的アドリブ道 というHPです。
今後ともよろしくお願いします。

Posted by シギー : 2006年04月01日 12:34

カネボウ株主ですが、事実関係に誤認があると思います。

今回、カネボウ再生の局面でのスポンサーはあくまで再生機構や三井住友銀行であったはずです。
そして、再生機構は先日トリニティに対して株を売却して利益を生んでエグジットしました。
今回はエグジット先のトリニティが不当な株価で一般株主に対してTOBをしているわけで、これは再生に際してのスポンサーと既存株主の問題とは全く異なります。

再生機構が入って増減資を行い、ある程度の道筋が見えてから株主になった一般株主も多数いると思いますが、今回のTOBに応じれば全員損をすることとなります(マーケットでは今回のTOB価格まで下がったことはありません)。
なぜトリニティに再生の果実を独占させる必要があるのでしょうか。

ファンド側も譲歩するつもりはないでしょうが、一般株主も(少なくとも私は)譲歩するつもりはありません。
というわけで、よく指摘されているスクイーズアウトのリーガルリスクが日本で初めて顕在化する例となりそうですね。

Posted by たけ : 2006年04月01日 21:22

>ジギーさん
はじめまして。
ジャズと金融の組み合わせは、なかなか興味深いですね。
私はジャズに疎く、せっかくNYにいながらその環境を生かせずにいるので、勉強させて頂きます^^
>たけさん
ブログも拝見させて頂いていますので、たけさんのご意見についても存じ上げておりますし、エントリーを書く際にも念頭にありました。
ただ、このエントリーで述べた「理屈」の面についてのご意見・ご批判があれば更に議論させて頂くのはやぶさかではないのですが、個別の事案への「あてはめ」の部分について、これ以上の議論は避けさせて頂きたいと思います。
というのも、私自身が機構に不利な結論をこうしたブログ上で公に述べることは難しいという意味で、個別事案への「あてはめ」の部分について議論をした場合に結論の方向性は決まってしまっています。そうした状態では、双方にとって実りのある議論を提供することが難しいと思うからです。
それでも、こうしたセンシティブな問題に触れたのは、個別事案の結論に触れない範囲では、通常のスクゥイーズ・アウトとは異なる側面があり得るという「理屈」あるいは「情報」そのものは、それに対して準備や対応を考えることもできるという意味で、株主の方々にとっても価値があり得るのではないかとも思ったからです。
非常に分かりにくく、また自分勝手な線引きですが、どうかお察し下さい。

Posted by 47th : 2006年04月01日 23:45

47th さん ぜひN.Y.の本場、ヴィレッジ・バンガード、Blue Note などのライブ・ハウスでJazz Live 楽しんでください。あと航空機の引渡しの写真の中でひょっとしたら47th さんの先輩が写っているかもしれません。
もしそうなら本人に写真載せているのを許可もらっていないから秘密にお願いします。(笑)

Posted by シギー : 2006年04月02日 12:58

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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