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なぜ過剰取立は起きるのか?(イントロ)

テストも目前に迫って忙しいときに限って、余計な思いつきは生まれるので困ったものなのですが(苦笑)、貸金業制度等に関する懇談会では、上限金利規制と並んで取立規制の強化についても触れられています。

確かにアイフルの件などでも、過剰な取立方法の問題というのは出ていますし、私自身、修習生時代には指導担当の先生と一緒に債務整理などにも関わったので、苛酷な取立手法は必ずしも例外的な事例ではないし、問題だとは思います。

ただ、「問題だから規制を強化すればいい」というのは、余りに短絡的に過ぎる上に、往々にして期待したような効果は得られないものです。病気にたとえてみれば、本当の原因を理解せずに単にその症状を抑えるための薬を与えていても、根本的な問題が解決しなければ、何れはまた症状が現れ、それを押さえるために、より強い薬を使わなければならなくなり・・・そして、薬が強くなればなるほど副作用も大きくなるからです。

・・・と、前置きが長くなりましたが、そもそも何で消費者金融業者は苛酷な取立を行うんでしょう?

「よりたくさん回収したいからに決まっているだろう」

と言われそうですが、ちょっと立ち止まって考えてみると、ことはそれほど単純ではないんじゃないでしょうか?

というのも、消費者金融というのは通常は無担保あるいは担保が限定された貸付で、返済原資の中心をなすのは、債務者個人が将来にわたって稼ぎ出すキャッシュフローだからです。
その意味では、これは企業に対する無担保貸付にもよく似ています。そのアナロジーで考えてみると、すぐに分かるのですが、取立を厳しくすることは、色々な形で債務者の稼ぎ出す将来のキャッシュフローに悪影響を与えます。

典型的なのは、職場に対する取立電話や、朝駆け夜討ちの電話・訪問ですが、こうしたプレッシャーによって債務者がナーバスになって仕事に集中できなければ生産性は落ち、それが稼ぎ出すキャッシュフロー(給与)に悪影響を与えたり、もし勤め先を失うことになれば、キャッシュフローはとまってしまいます。

非常に単純化されたモデルで、債権者が一人で、債務者の稼ぎ出したキャッシュフローの一定割合が確実に債権者への返済に回されるのであれば、過剰な取立てで債務者の生産性を削ぐのではなく、むしろ債務者には仕事に専念してもらうようにすることが望ましいはずです。

・・・にもかかわらず、実際には過剰取立が後を絶たないのは、その単純なモデルの前提が現実において当てはまらない場合があるからだと考えられます。ということで、この前提が当てはまらないことによる過剰取立の原因を考えて、それに対応するための制度的枠組みを少し思いつくままに書いてみようかななどと思います。

ローエコ的な発想を養う、一種の頭の体操ということで宜しければお付き合いください。


Posted by 47th : | 13:36 | Law & Economics

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コメント

>この前提が当てはまらないことによる過剰取立の原因

ただの当て推量ですが・・・

①債務者について、ゴーイング・コンサーンをそもそも前提としていない②「あと幾ら借りれるか」といった「信用状態」を事実上の担保と考えている(つまりババ抜き)って辺りかな?多重債務者相手ならそれなりに合理的ではあります。対策は・・・多重債務者への貸し出しに対する業界自主規制くらいしか思い浮かばないなぁ。

Posted by な : 2006年04月19日 07:09

理由:
「多重」債務というように、債権者(業者)が複数存在する状態では、債権者同士で「囚人のジレンマ」問題が発生し、パレート最適である「キャッシュフローからこつこつ回収する」はなく、ナッシュ均衡点である「自分だけさっさと全額回収する」、という選択肢を債権者が選ぶから。

対応する制度的枠組み:
①取り立て規制の強化(自分だけさっさと回収できにくくすることによりパレート最適を目指す。)
②個人別の無担保貸付額の総額規制を行う。(キャッシュフローで返済ができないほど過剰に貸せないようにし、サステイナブルな回収によるパレート最適を担保する。)
③「1業者につき50万円または顧客の年収の10%以内とする」という金融省ガイドラインを撤廃(そもそも「多重」債務でなければ、囚人のジレンマ問題は起こらない。メインバンク制みたいな感じ?)

てなところでどうでしょう?

Posted by Apricot : 2006年04月19日 08:58

何の根拠もない直感ですが、マクロで見ると デフォルト・リスクと貸出金利はバランスしているものの、債務者単位では「一度も遅延なく完済する大半の人と、一度遅延してそのまま全損してしまう人がほとんどで、何回か延滞するものの結局は完済できる人というのはほとんどいない」という両極端のリスク分布の仕方になっているのではないでしょうか。
 つまり一度でも延滞した債務者は結局完済できない可能性が極めて高いので、期失させてとっとと全額回収しないとまずい、というような経験則があるのかもしれません。
 だとすると、上限金利を下げても貸し出し側のマクロのリスク許容度が減るだけでかえって取り立てはきつくなり、逆に上限金利を上げて貸し出し側のリスク許容度を上げたほうがいい、ということになってしまいますね。
 ただそうなると、無責任な債務者が貸し手に負わせるコストが真面目に返済する債務者に転嫁されることになるので、それを防ぐためには抑止力としての苛酷な(しっかりした)取立ても一定程度必要になる、という理屈が成り立ってしまいますが・・・

Posted by go2c : 2006年04月19日 09:49

あくまで一つの議論として。

そもそも返済する意志の無い潜在的借り手も少なからずいる市場と思われますので、過剰取り立てはそのような悪質な借り手が寄ってこないようにする効果があったのかもしれません。

つまり、CM等でソフなイメージを一般消費者に売り込むと、悪質な借り手も同時に呼び寄せてしまう。そのため時々タフな取り立てを実行し、且つその情報を少し調べればわかる程度に流通させることで、悪質な借り手への融資を減らし、結果として融資回収率を高めるために合理的な判断だった・・・という可能性もある気がします。

Posted by ご : 2006年04月19日 16:03

「返済原資の中心をなすのは、債務者個人が将来にわたって稼ぎ出すキャッシュフロー」という前提に疑問があるような気がします。キャッシュフローから返済原資をうみだすことができる層はほんのわずかであって、返済原資の多くは専ら借り換えによるのではないでしょうか。債務者の返済のインセンティブとなるのは職場や家族への連絡をされたくないという名誉欲であり、そのインセンティブを維持するためにはもともとあてにならないキャッシュフローを害してでも、現実に連絡をする事例を積み上げていくことは脅し効果として必要なのではないかという仮説も成り立ちうるでしょう。職業柄多くの債務整理事例にあたってきましたが、取立ての手口というのは概ね借り換えのすすめです(やり方はかなりやばそうなものまで色々ありますが)。

職業柄多くの債務整理事例にあたってきたというだけで、私の意見は消費者ローンの顧客層に関して強いバイアスがかかっている可能性は大きいので、その点は割り引かないといけませんが。

ちなみに私自身は債務者に早くあきらめさせるために一定の上限金利(固定か、どの程度の利率かはともかくとして)を法で強制すること自体は合理的と考えています。

Posted by neon98 : 2006年04月19日 16:45

今回のアイフルさんの場合は、貸金専業大手さんのここ10年の状態と大きく関係しているのかもしれないと思ってたりします。
失われた10年の関係でいろいろな業態が停滞した一方でわが世の春を謳歌してたのが貸金専業者大手さんです。貸出量が相当増えていきましたが貸付の特性(包括契約に基づく随時弁済方式で金利が入ってればよし型とか)から他の業態のミニマムペイメント型(月に最低でも1万ぐらいは元本部分は払わないとだめ)とか残高スライドリボ型(残高が多いと最低支払額が月に3万円とか高くなる)とかよりは債務者の実際の信用毀損度が悪くないように見えるようなところもある訳で。
ところがさしものわが世の春も実際に金利すら払えない方々についてはその後の残高に対する影響度が相対的に高いので何とかしないといけない水準まできてしまったのではなかろうかと。
あるいはグレーゾーン金利の分についての過払金返還訴訟がらみで和解が増えたことで実際にグレーゾーンの分のとりはぐれ分が相当大きくなり従来の未収リスクを吸収できないような水準までになってきていたのではないかと。
いろいろと想定されるところはあるかと思うのですが、ある程度の回収率を維持しないと資金を流している金融機関による評価も下がってしまいますのでその影響もあるかもしれません。
いずれにしろ47thさんがご指摘されてるように、この辺の問題はそう単純な問題じゃないかもしれないと共に、ただ、「え?そんな単純な問題だったの?」と唖然とするような問題なのかもしれない可能性もありそうな・・・ろじゃあ的にはもしかしたら「特殊な」問題の性格もあるのかもしれないなあなどと考えているところでございます。歯切れ悪くてすいません。

Posted by ろじゃあ : 2006年04月19日 19:34

>皆様
コメントありがとうございます。
さすがにグッとくるポイントを皆さん衝かれていますね。
おいおいローエコ的な点からの私の考えをアップしていくので、その中でコメントには触れさせていただく予定ですが、その前に、その文脈では触れにくい点についてコメントさせていただきます。
>neon98さん
(ひょっとしたら「な」さんのゴーイング・コンサーンと考えていないという指摘も同趣旨なのかも知れませんが、)返済原資として借換を期待しているということなんですが、「最後の貸し手」が供与する信用は、「最後の貸し手」が期待している返済原資が形を変えたものに過ぎません。「最後の貸し手」は、借り換えに期待できないはずですよね?その「最後の貸し手」が期待しているものが将来キャッシュフローであれば、その前の貸し手が期待しているものの本質も将来キャッシュフローでしかないんじゃないでしょうか?
あと、借り換えの問題は、借り手のリスクに応じた自己選別の過程と考えることも可能なはずで、少なくとも効率性の観点からは、その是非は簡単には決められないように思われます。そうしたことも考え合わせると、上限金利が規制される結果、本来は返済能力を持っている層に対する与信がなされなくなる可能性は現実的に大きいと思うのですが、その辺りについてはどう考えられているのかもうかがえると幸いです^^
>ろじゃあさん
大人の事情を詮索するのはやめておきます^^;
前段の「見かけの信用状態」の問題は、行動経済学的な観点からも重要な問題だと思いますし、過剰「取立」というよりは、過剰な「借入」、あるいは、本来は意図していない高いリスクをとる要因として重要なものだろうと思います。
後段の「取立」の部分については、個々の取立の「動機」や「意図」は非常に単純なものである可能性はあると思いますが、結果としてとられている行動様式そのものは「合理的」である可能性が高いのかなぁと思っています。
この分野はろじゃあさんのお詳しいところですので、今後のローエコ的な分析と政策的インプリケーションについても、宜しかったらまたご意見をお聞かせください^^

Posted by 47th : 2006年04月19日 23:58

>「最後の貸し手」が期待しているものが将来キャッシュフローであれば、その前の貸し手が期待しているものの本質も将来キャッシュフローでしかないんじゃないでしょうか?

将来CFというより、それを包括した「返済原資」という捉え方をすべきではないでしょうか?
一般に、多重債務者の借入先は、カードキャッシング→サラ金→街金ないしヤミ金という経緯を辿りますが、それぞれが対象としている返済原資には差があるのではないかと思います。

例えば、
カード、サラ金:個人資産、現状の個人将来CF、同業ないし下位貸付機関からの借り換え
ヤミ金:上記+親族友人からの強制借入れ+転職強制による個人CF増加分+その他各種強制違法行為からのCF

貸し手は下流になるほど脱法・違法能力にもとづく強制力を持ちます。それによるキャッシュ創出を上流の貸し手が見込んでいるのなら、借り換えの暗黙的推奨は合理的な行動かと。そして、下流の貸し手はあの手この手で借り手のケツの毛まで抜きつつ、ババ抜きによる勝ち抜けを目指す訳です。

貸し手は多重債務者(予備群)に対し、ゴーイング・コンサーンなぞハナから期待していない、というのはそういう意味です。

Posted by な : 2006年04月20日 20:07

 
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