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「一括法」は滅びゆく運命なのか?(1)

(磯崎さんの指摘により仕訳修正)

さて、というわけで、何とも前置きが長くなってしまいましたが、本題である「一括法」と「区分法」の比較に入っていきましょう。

二つの「区分法」

まず、最初に、「一括法」との比較対象である「区分法」には二つの区分法があることを確認しておく必要があります。
これは、既に磯崎さんが「会社法下の転換社債(「区分法」と「一括法」)」というエントリーで、次のように指摘されているところです。

これだけ[引用者注:金融商品会計基準注解(注15)1]読むと発行価格100%を、社債部分(例えば95%)とオプション部分(同5%)に分けるようにも読めますが、「金融商品会計に関する実務指針」 のIII説例による解説、説例26「転換社債の会計処理(区分処理)」のとおり、社債の額面は(返済義務なので)満額100%で計上しなきゃダメですか ら、オプションバリュー部分が100%の外書きになります。

つまり、①実際の払込金額の「内枠」でデット部分とオプション部分の価値を配分する「区分法」と、②デット部分については「額面」で固定しておいて(※)、オプション部分の価値を「外枠」で計上する「区分法」の二つがあるわけです。
以下では、便宜のため、前者を「「内枠」区分法」と呼び、後者を「「外枠」区分法」と呼ぶことにします。また、単に「区分法」と言ったときには、実務で使われている「「外枠」区分法」を指すものとします。 


何故「区分法」は嫌がられるのか?

ところで、そもそも何故「区分法」は嫌がられるのでしょう?
よく指摘されるのは、「社債発行差金」の償却負担の問題です。これまた、磯崎さんが詳しく論じられていますが、「区分法」によって「社債発行差金」が計上されると、企業は均等償却義務を負うので、会計上の利益が圧縮されてしまうことになります。

実際、「内枠区分法」と「外枠区分法」の差は、決して小さいものではありません。
前のエントリーでも書きましたが、負債にも時価はあります。例えば、10年ものノンクーポン社債で同種リスク証券の割引率が5%だと仮定したとすると、そのような負債の現在価値は額面の60%程度でしかありません(ちなみに10%なら、40%弱)。
もし、CBとすることで額面価額での発行が可能だとすれば、額面の40%程度はオプション価値ということになるわけですが、これを「外枠区分法」で処理するとするとなると、これに相当する「社債発行差金」を立てないといけないということになるわけです。

具体的にどのぐらい違うのか?

ところで、具体的に「一括法」と「内枠区分法」「外枠区分法」というのは、どう違ってくるんでしょう?

今、額面1000、デット部分の価値が60%、オプション部分の価値が40%というCBを考えてみましょう。
このCBは発行後、決算期1に社債発行差金がある場合、その半分を償却して、その後40%が行使されます。更に、決算期2で残りの社債発行差金が償却されて、最終的に償還されるものとします。(社債発行費用はとりあえず無視して、行使時については、とりあえず資本金・準備金の区別は無視して「資本」と一括して表記しています。)
仕訳はこうなるんじゃないでしょうか?(・・・と、自信なさげなのは、手許に会計基準も会計処理を書いた本もなく、記憶で書いているためで、間違っていたらご指摘下さい(汗)・・・ASBJのページにいっても会計基準は有料じゃないと手に入らないんですが・・・ネット上で(合法的に)入手する方法ってないんですかね?) 

こうしてみると、「内枠区分法」と「一括法」との間では、「内枠」が明らかにされるだけの差ですが、「外枠区分法」と「一括法」(あるいは「内枠区分法」)との間では、社債発行差金が現れることによって、①各期末の償却負担、②新株予約権行使時の償却負担、③社債償還時の新株予約権繰戻益の発生といったあたりが大きく違うわけです。

この3者の異同を整理したのが次の図です。 

さて、こうした関係を踏まえて、まずはCBにおいて「社債発行差金」を認識するということが、どういう意味を持つのか、それが投資家の利益とどう関係するのかを考えていきたいと思います。


(※)この点について、デット部分とエクイティ部分の両方について、独立の「公正価値評価」をする方向も考えられますが、理論的には、発行価額が時価であれば「内枠区分法」と同一の結果にならなくてはいけないはずです。
ただ、「区分法」の採用を主張する方々は、社債とオプションを独立に公正評価した場合には、払込金額を上回るということを前提にしているようにも見受けられます。
この点についても、次回以降のエントリーでもう少しつっこんでみる予定ですが、とりあえずはCBは総額が総額において公正価値で発行されていることを前提に考えて検討しておきます。

Posted by 47th : | 00:20 | Corporate Finance

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コメント

すごーい!
「仕訳の書ける弁護士さん」というのを生まれて初めて目撃して感動しています。
(でも、何箇所か、貸借がバランスしてませんですね。
「外枠」区分法の発行時点の仕訳とか、40%権利行使時の一括法の部分とか。)

会計は基本的な考え方がコンサバなので、(企業会計原則一般原則6保守主義の原則)、資産は引当金や減損会計などでなるべく小さく評価しようとしますし、負債は債務の額満額(額面)で評価するのが原則なので、基本的に「左右非対称」です。
つまり、「内枠区分法」という負債を額面以下の時価で表示しようという概念は、会計の発想としてはありえないので、これを見た全国の会計士は、「きゃっ」と顔を赤らめて手で顔を覆っちゃったりしてるんじゃないかと思いますが、経済的実態を考えるための仮想のものとしてはおもしろい発想かもしれないので、ちょっとじっくり考察させていただきます。

Posted by Tetsuya Isozaki : 2006年06月01日 04:29

あくまで「原則」で、退職給付会計のように例外もあるので、

会計の発想としてはありえない
→会計の発想としては「ありえなーい」

くらいのほうが適切な表現かも、です。
(では。)

Posted by Tetsuya Isozaki : 2006年06月01日 04:50

>(でも、何箇所か、貸借がバランスしてませんですね。
>「外枠」区分法の発行時点の仕訳とか、40%権利行使時の一括法の部分とか。)

・・・あ、ほんとですね(- -)
コピペでいじくっているときに、修正し忘れた模様・・・なれないことはするもんじゃないですね。
後で訂正しておきます(恥)

>「内枠区分法」という負債を額面以下の時価で表示しようという概念は、
>会計の発想としてはありえないので、これを見た全国の会計士は、
>「きゃっ」と顔を赤らめて手で顔を覆っちゃったりしてるんじゃないかと思いますが

えぇ。そんなこと言われると、逃げたくなってきました。
・・・っていうか、私の存在そのものが「特異点」??

と、冗談はさておき、経済実態とか法的な観点からの整理を提示して、会計士の先生に「ありえなーい」という顔をされるのは、実は初めてではなく・・・ただ、議論をしていくと、それなりに面白いと思っていただけることもあるようなんで、とりあえず続けてみようかと思いますので、宜しければまた的確なツッコミをお願いいたします。

Posted by 47th : 2006年06月01日 09:09

確かに弁護士さんに仕訳を書かれてしまうと、私などの出る幕はなくなってしまうのですが・・・

一部の先進的(必ずしもいい意味には使っていません)な会計士さんには「ありえなーい」話ではなく、金融負債の公正価値評価については、国際会計基準審議会を中心としたメンバーにより2000年に草案が出されています。もっとも「ありえなーい」と考える方々が多数派で現在は店晒しの状態になっていたかと思います。

(概要は以下
http://www.azsa.or.jp/b_info/letter/24/02.html)

これをやると、信用リスクの高い負債ほど少額で表示される→つぶれそうになると利益が出るというあたりが私も含め拒否反応を示すところかと思います。

もっとも、会社計算規則第六条第二項三号では時価を付すことが適当な負債もありうるという考えとなりましたので、会社法上はまったく「ありなーい」ということもなくなったのかもしれません。

Posted by KOH : 2006年06月01日 16:39

>KOHさん
ありがとうございます。
先進的、というか、急進的、というところでしょうか。
さすがの私も、CB以外の負債にまで公正価値評価的な考えを、と言うつもりはなくて、あくまで「一括法」を考える上でという留保付です。
ただ、資産サイドでmark-to-marketの流れが進んでいく中で、負債サイドが時間価値とリスクを無視したままで、左と右の断絶が進んでしまうことは、企業会計の役割から言っても余り好ましいことではないのかな、という気もしています。

Posted by 47th : 2006年06月01日 22:30

 
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