« 平等社会=上限金利引下げ? | メイン | 何故ライツ・プランは機能するのか( or機能しないのか) (2) »

何故ライツ・プランは機能するのか( or機能しないのか) (1)

日本ではお盆休みで、誰がどこを参拝したという話が話題になっているようですが、私にはその問題を論じる能力も気力もないので野次馬モード。
上限金利規制の話の続きも悪くないかなと思ったんですが、ちょっと目先を変えてtoshiさんのブログのコメント欄で話題になっていた買収防衛策の機能について簡単に整理してみようかなというところで。

ライツ・プランの効果:経済的価値の希釈化

「買収防衛策」というと、何だか買収を完全に阻止することができる万能のツールのような印象も与えるんですが、残念ながら?、あるいは、幸いにして?、アメリカで一般的なフリップ・イン型ライツ・プランをベースに日本に現在導入されている買収防衛策は、一応理念としては(※)、そういう絶対的なものにはなっていません。

ごくごく簡単に言ってしまうと、無断駐車を防ぐために空地に鉄条網を貼り巡らすのではなく、出入りは自由にできるけど、看板にでかでかと「無断駐車は壱萬円」と書かれているようなもんです。

今の日本のライツ・プランというのは、大体20%でトリガーされて、トリガーされると買収者以外の株主の持株数は2倍になるという感じになっているんですが、この仕組みをベースに買収防衛策を無視してTOBを行った場合に買収者がどれぐらいの「罰金」を課されるかというと・・・時価総額が1000億円、株式数が100で、(非現実的ですが)プレミアムなしのTOBを行ったと仮定すると、次のような感じになります。


 

注目して欲しいのは右端の損失額の欄です。
一回だけしか買収防衛策が発動されず(※2)、その後に一般株主に対して二度目のTOBを行い、これが成功したとした場合には、右端の額が買収を完了するために追加で必要となる費用ということになります。

これを見ると、当初のTOBでの取得株式数にもよりますが、たとえ買収防衛策が発動されたとしても、時価総額に対して15%前後の追加費用で買収を完了することができる計算になります(※3)。

15%程度の追加出資なら大したことない?

その意味では、その追加出資を覚悟すれば買収防衛策は無効化できるという言い方も可能なわけです、が・・・そこで問題となってくるのは、この「15%前後の追加費用」のとらえ方です。(数字は希釈化の程度にもよりますし、公開買付等の費用は計算に入れていないので、「15%程度」というのは、あくまで一つの目安ということにはご注意下さい)

非常に静的なイメージで考えると、この15%前後の追加費用を買収者が呑めるか呑めないかは、買収者の財力と対象会社に対する評価次第であって、15%程度であれば、突進していけるんじゃないかと思われるかも知れませんが、本場アメリカでは(希釈化割合が違うというのもありますが)、実際にはあえて買収防衛策を発動させ希釈化を甘んじて受けながら買収を完了させた買収者というのは20年にわたるピルの歴史の中でも現れていないわけです。

実は、これは対象企業の支配権をめぐる支配権市場が成立していると考えれば、全く不思議な話ではなく、10%でも5%でも希釈化が起きてしまうと、買収者が買収を完遂する確率というのは限りなく下がってしまうわけです。

・・・というわけで、次回はこういう動学的なイメージの中で買収防衛策がどう機能するのかということについてです(予定)。 

あと、個別案件に絡む話や論文にも書いていない営業秘密に属する話(笑)はお答えできませんが、一般的な買収防衛策に関する質問等あれば、どうぞご遠慮なく。

では。 

(※)厳密にはライツ・プランの形態により、その買収阻止効果には差があって、特にいわゆるオープン・エンドな事前警告型は、かなり強力な買収阻止効果を持ち得る場合もあるんですが、この辺の詳しいことにご興味がある方は武井ほか「日本における平時導入型買収防衛策の標準形-「条件決議型ワクチン・プラン」の設計書-」企業買収防衛戦略Ⅱ所収(初出:商事法務1739,1743,1745号)をご覧下さい。

(※2)信託型は難しい面がありますが、他のライツ・プランでは、理論的には買収者が買収を完了するまで何度でもピルを発動できるので一回とは限らないわけですが、話がややこしくなるのでとりあえず一回だけという前提で考えましょう。

(※3)もっとも、これは一度だけしかピルが発動されず、他の防衛策がとられないとうい前提のものですので、実際には、二の矢、三の矢まで考えないといけないわけで、その辺りの読みやすさが株価形成にも影響を及ぼすわけですから、実際にはもっと多くのパラメーターを勘案しないといけないわけです。

Posted by 47th : | 12:28 | Takeover Defense

関連エントリー

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://WWW.ny47th.COM/mt/mt-tb.cgi/502

コメント

47thさんのこういった話題を拝読しますと、あのドリコムブログの時代の47thさんのブログを思い出します。まだ世の中に「ポイズンビル」という言葉が周知されていないころ、なんのマニュアルもないころに、ブログという媒体を通じて敵対的買収防衛策(を含むM&A対応策全般)というものを世に広められた功績は大きいと思っています。私も毎日、あのながーーいエントリー(磯崎さんのもかなり長かったですけど)を食い入るように眺めておりましたです。
ところで、ごく基本的な質問なのですが、「本場アメリカでは(希釈化割合が違うというのもありますが)、実際にはあえて買収防衛策を発動させ希釈化を甘んじて受けながら買収を完了させた買収者というのは20年にわたるピルの歴史の中でも現れていないわけです」とありますが、そもそもアメリカのピルの歴史のなかで、防衛策が発動されたことというのはあったのでしょうか?たしか私の記憶では、手続を間違えて発動してしまったことが1回だけあったということではなかったかと。
しかし、5%や10%の希釈化でも、やっぱり現実問題としては突き進むのは難しいのですね。「動学的なイメージでの防衛策」、これもかなり興味をそそられる話題です。ぜひ近いうちに続編をお願いいたします。

Posted by toshi : 2006年08月15日 13:11

>toshiさん

確かにドリコム時代はM&Aと敵対的買収ネタが圧倒的に多かったんですが、こちらに移してからはめっきり減ってしまいましたね。
どうも、ライブドア事件以降余りにメジャーになってしまって私自身が食傷気味になったのと、実際の案件として動き出すとコンフリクトの問題もあって、なかなか書きづらいということがあったものですから^^;
でも、toshiさんのブログを拝見していて、論文などでは上手く伝わらないニュアンスの部分を一般論として情報発信することもいいかなと思ったので、久々に取り扱ってみました。
今後とも宜しくお願いします。

で、ご質問の件ですが、

>そもそもアメリカのピルの歴史のなかで、
>防衛策が発動されたことというのはあったのでしょうか?
>たしか私の記憶では、手続を間違えて発動してしまった
>ことが1回だけあったということではなかったかと。

アメリカの弁護士に聞いても答えはまちまちなんですが、私の記憶把握している範囲ですが、①最終的に希釈化までいったのは、経営陣の許可を得た買収だったにもかかわらず、その許可がプランで予め定められていた方式を遵守していなかったか、寸止めのはずが計算を間違ったか何かで、一般株主が「ピルは発動されているはずだ」と主張して提訴して勝ってしまったものが1件、②Distribution Dateの要件を充足してしまいライツは分配されたが、希釈化効果が生じるためのflip-in eventが生じないまま、各株主にライツは分配されたが誰も行使できないという塩漬け状態になってしまったものが1件、③フリップ・オーバー型で経営陣の同意なしでthreshold amountを超える株式取得をやったものの希釈化の前提となる二段階目の合併に進まずに実質的に買収を完了したものが1件というところです。
おそらく、多くの方が仰っている1件というのは、①のことではないかと推察していますが、何れにせよ、本文で書いたように、意図的に希釈化を甘んじて受けながら買収を完遂した買収者というのは私の知る限りでは存在しません。

Posted by 47th : 2006年08月16日 09:49

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
このブログをご覧になる際の注意点や管理人の氏素性についてはAbout This Blogご覧下さい。