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何故ライツ・プランは機能するのか( or機能しないのか) (2)

前回は、ライツ・プランというのは買収者が取得した株式の価値を希釈化させて、買収費用を高めるものであって、絶対的に買収を阻止する仕組みのものではないという話をした上で、この「追加費用」というのをどう考えるかが買収防衛策の機能的な面でのポイントだという前振りをしたわけです。

ホワイト・ナイトはM&Aを殺す?

と、直接にライツ・プランの機能を云々する前に、「支配権市場」という「市場」が成立することがどういうことか、次のような議論から始めてみましょう。

しばしば、買収対抗策の中でも「ホワイト・ナイト」を探すことは、より高い価格をつける買い手を探してくるものだから、株主利益に適った買収防衛策であるという話を耳にします。
つまり、1000円でTOBをかけられたときに、対象会社経営陣が1100円でTOBをかけてくれるホワイト・ナイトを捜してくることに成功すれば、株主は100円高い価格をもらうことができるので、株主利益に適っているという話です。

このストーリー自体は、いったん買収が起きてしまった後の状況を前提にすると、正しい話なのですが、「後からホワイト・ナイトを連れてくることができるという可能性」が買収者のインセンティブに与える影響を考えると、実は、株主にとっては必ずしも手放しで喜べる状況ではなかったりします(※)。

少しややこしい話になりますが、順をおって考えてみると、こういうことです。

まず、最初の買収者が株価が割安な企業を探して、その評価をするためには、それなりのコスト(探索費用)がかかります。もちろん、買収が成功すれば、この費用も回収できるわけですが、逆に言うと、買収が失敗に終わると、この費用というのは無駄になってしまうわけです。

ところで、「いい買収先」の探索には色々なやり方があるわけですが、一番、「楽」なやり方は何でしょう?

 


釣りの話にたとえてみると 

釣りにたとえて考えてみると(※2)、潮目を読んだり魚の習性を知らない素人が「いい釣り場」を探そうとするときどうするかと言えば、「上手そうな人が釣っているところの近くにいく」ですよね。
つまり、自分ではよく分からないので、分かっている他人の努力にただ乗りするわけです。

その結果何が起こるかというと・・・もちろん、仕掛けの差や腕前というのが左右するところもあるわけですが、後から来た素人がビギナーズ・ラックで魚を釣り上げるのを苦々しく眺めないといけなかったり、あるいは、せっかくのポイントをビギナーにあらされて魚が警戒してしまったり・・・で、結局は、しばらくすると、また「いい釣り場」を探してベテランは移動しなくてはならないわけです。

せっかく「いい釣り場」を探しても、すぐに傍に素人さんがやってきて釣れなくなって、また移動というのを繰り返さなきゃいけないということになると、何だか釣り糸を垂らしている時間よりも歩き回っている時間の方が多くなって満足感よりも徒労感が増すばかり・・・結局、釣りに出かけること自体があほらしくなるか、自分もそうした素人さんと同じように他人の釣り場で漁夫の利を得る方がいいや、ということになる・・・

釣りの世界の話としては、多少誇張しているところがあるわけですが(※3)、M&Aの世界でも同じロジックが当てはまります。
「フリー・ライダー問題」(free rider problem)などと呼ばれるわけですが、最初の買収者が「いい買収先」を探す労力に「ただ乗り」する買収者が存在する世界では、そもそも自分で買収先を探索する最初の買収者自体が現れなくなってしまうという問題が古くから指摘されています。

そこで、最初のTOBがかけられた後は後発TOBは許すべきではないとか、ホワイト・ナイトを買収対象企業が探してくるのを認めるべきではない、といった議論がなされるわけです。

・・・で、何でこういう話をしたかというと、企業買収というのは、実際に手を挙げている買収者と、対象企業の1対1の関係ではなく、対象企業の支配権という賞品を巡って、複数の買収者が競合している「1対多」の関係であって、これが「支配権市場」と呼ばれる由縁だというのをイメージしてもらいたかったからです。

釣りの話になぞらえると、釣りというのは自分と魚の戦いだけではなく、自分と多の釣り師との戦いという面もあって、単に魚を出し抜くだけでは不十分で、多の釣り師との戦いに勝って初めて魚を手に入れることができるわけです。

競合する潜在的買収者に対する15%のハンデの大きさ 

ここまでくると、もう読んでいる方もお分かりだと思うんですが、高々15%程度の「追加費用」の存在は、対象企業との1対1の関係では必ずしも致命的ではないかも知れませんが、ここに「競合する買収者」の存在を加味すると非常に致命的な差になってくるわけです。

前回のエントリーの例では、プレミアムをつけない世界を前提に「高々15%程度」の「追加費用」といったわけですが、そもそも「どの価格」をベースに15%を考えるかによって、この「追加費用」の意味合いは全く変わってくるわけです。

今の時価総額に対して15%なら大したことはないかも知れませんが、「他の潜在的な買収者が提示できる最高の価格に対して15%増し」と言われたらどうでしょう?
今の時価総額が1000億円でも、もし1500億円を提示できる他の買収者Bが存在すれば、このBに勝つために、最初の買収者Aは1500億の15%増し、1725億の価格を提示できなければ、Bとの争いに勝てません。

あなたが、ある会社Xを買おうというときに、「他のいかなる潜在的な買収者」よりも15%以上の付加価値を実現できると確信できるか?・・・確信できれば、あえてライツ・プランを発動させても敵対的買収に進むのもよいと思いますが、どうでしょう、国内国外含めて数多存在するファンドや事業戦略的買収を考えている買い手も含めて、それらよりも自分が15%増しの価格を提示できると自信を持って言うのは、そうたやすいことではないはずです。

もちろん、現実には「支配権市場のプレイヤー」は防波堤の釣り師とは違って、もっと限定されますし、その行動パターンももう少し特定(予想)可能な部分もありますし、TOB自体が対象企業との交渉カードとして使われる場合もあるので、これほど単純ではありません。

ただ、友好的買収を含めて、買収を巡る攻防のエッセンスというのは、こうした「支配権市場」における競合プレイヤーとの相互作用にあり、ライツ・プランというのは、そうした相互作用の中で使い方次第では非常に強力な武器にもなり得るものとして設計されている・・・というか、私自身は、そう考えて基本的な枠組みを提案してきました。

実際にどう運用されるか、あるいは、日本での「支配権市場」の現状というところでは、色々と微調整も必要なところがあるわけですが、まあ、ライツ・プランというのは、絶対的ではないけど、運用次第では非常に強力な抑止効果を持ち得るもの・・・逆にいうと、使い方を間違えると、あんまり効果がなかったりするものであって、そういう目で買収防衛策が実際にどういう具合に使われているかを眺めると、また色々と興味深いんではないか、と・・・まあ、個別案件にはコメントできないんで、何か歯切れが悪いんですが、今回はこんなところで。



(※)この例に限らず、ある状況が発生したことを前提に考えた「事後の効率性」の達成が、当事者のインセンティブに影響を与えて「事前の効率性」を阻害するという話は、決して珍しい話ではありません。

(※2)私の釣りの知識は、大昔に読んだ釣り吉三平と、当時読んでいた釣り雑誌からのものですので、不正確なところもあると思いますが、その辺りは大目に見ていただけると幸いです。

(※3)釣り自体をやめるというのは極端だとしても、ベテランの人が、ビギナーが多い釣り場は避けるとか、週末を避けるといったことはありそうな気がするんですが、どうなんでしょうね?

Posted by 47th : | 09:57 | Takeover Defense

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コメント

釣り場の話は概ねご想像のとおりです。私は荒れていない釣り場を探すのが面倒なので、日本では渓流釣りはやりません。。って本題とは全然関係ありませんが…NYをお発ちになる前にまた是非。

Posted by nda : 2006年08月16日 14:32

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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