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Going Privateのメリット?

1週間、ネット環境から切り離されていると、自分のブログが更新できないのは勿論のこと、他の方のブログも見ることができないので、その溜まったエントリーを拝見しているだけで、あっという間に夕方になってしまうわけで(笑)、本当にインターネット時代の情報量たるや恐るべしですね(※)。

色々と興味深い話はあったのですが、個人的な関心からいうと、やはり米ヘッジ・ファンドAmaranthの巨額損失事件に関する話(※2)が面白かったところです。そもそもヘッジ・ファンドをどう捉えて、どういう形で規制の枠組みをつくっていくのかという辺りは、それ自体として非常に興味深いテーマなわけですが、とりあえずこの辺りは実際に現場で活躍されている方々の考え方を拝見しているところで(※3)、まだアウトプット段階にはないのでパスします(笑)。

次に興味深かったのは、harry_gさんのウォールストリート日記でのMBO(LBO)関連記事3連発。

harryさんが書いているように、キャッシュフローが不安定でLBOには不向きというのが教科書的定説であったIT企業にLBOマネーが向かっているというのは、非常に興味深いのと同時に、若干の不安も感じないわけでもありませんが、何れにせよ、数か月前にharryさんとソフトバンクによるヴォーダフォンのLBOは謎が多いという話をしたのが思い出されます。

続いて、harryさんは、LBOによるGoing Private (非上場化)が増えた要因として言われていることのうち、「(短期の業績ばかりに注目する)ウォールストリートが嫌いだから」という理由と、「監視されるのはコリゴリだから」という理由に着目して、「現実はそんなに甘くはないのでは」ということを指摘されています。

harryさんが指摘されているように、私も非上場化によって経営者がより大きな自由を手に入れる、とか、よりのびのびと経営できるといった類の話は、かなり眉唾だと思います(※4)。

ただ、他方で、マネッジメントが自らの懐を潤すというのが主たる動機というのも、ちょっとシニカルに過ぎる気もしますし、非上場企業の増加はSOX法の施行による上場費用の増加とも相関関係があるという話もあるので、もう少し別の角度から、あり得るGoing Privateのメリットについて考えてみたいと思います。


Tailor-made Monitoring

harryさんが指摘されているように、上場廃止したからといって、投資家への情報開示が「緩く」なる保障はありません。むしろ、LBOでは、対象企業に厳しい情報開示や事業上・財務上の制約を課すことが一般的であり、「たまたま今期の業績がよくて多額のキャッシュが手に入ったので、異なる事業を営む会社を買収してみました」なんていうことは、上場企業でいたままの方が可能な場合もあります。

その意味では、投資家からの監視(monitoring)が「緩く」なるというの誤解があります。
もっとも、証券規制によって上場会社に求められる情報開示は、会社の規模、事業内容、成長ステージ、財務内容,etc...の異なる無数の上場会社全般に通じるような最大公約数のものであって、個々の企業レベルで見たときに、それが最も適切なフォーマットとなっている保証はありません。
一度、米国の上場企業の開示書類の現物に触れてみると分かると思うのですが、自分の求める情報を本体と添附書類からなる膨大な開示書類の中から見つけ出すことは、決して容易なことではありません。

しかし、その企業にとってどれだけ重要性の低い情報であっても、法定開示書類の内容である以上は万全を期す必要がありますし、そのためのコストは決して馬鹿にはなりません。

その意味で、絶対的な監視のレベルが「緩く」はならないとしても、上場廃止によって、不必要な開示やモニタリングのコストを削減できる可能性はあるように思えます。

Soft Information Flow

上の話は不必要なコストの削減の話でしたが、実は、上場企業では、「必要なモニタリング」が阻害されるという側面もあります。

有名な話ですが、米国では将来の予想業績の公表は投資家の誤解を招くということで禁止されていた時期があります。さすがに、将来情報の全面的禁止は却って投資家にとって不都合ということで、現在では適切な警告文言と組み合わせることで開示を認めています(この辺りは以前、「裏側」情報の開示は投資家を救うか?というエントリーで触れましたが)。

ただ、それでも公表した将来予想と実績値に大きな乖離が生じてしまえば、投資家からの集団訴訟のリスクに曝されることは避けられないわけで、余りにもソフトな情報の開示には慎重にならざるを得ません。

もう一つ厄介(?)なのは、情報開示のレベルを相手によって変えること(選択的情報開示)には一定の規制があることです。
例えば、プロの投資家であれば、ソフトな情報については、そのソフトさに応じて投資判断の基礎とすればいいわけで、何も会社の発信したソフトな情報の全てを鵜呑みにすることを仮定して投資家保護を語る必要はないわけです。
ただ、こうした投資家のレベルに応じた差別化は、上場している場合には容易ではありません(※5)。

こうした面でのソフトな情報の伝達の規制が外れることによって、当該企業の特性に応じたモニタリングの設計が可能となるという意味でのメリットは、やはり非上場化において認められるのではないかという気がします(※6)。

Litigation Cost

最後に、生臭い話ですが、やはり経営陣にとって無視できないリスクとして、投資家による集団訴訟リスクがあるのではないかという気がします。

訴訟を起こされても、やましいところがなければいいじゃないか-というのは、全くの正論ですが、訴訟制度というのは、必ずしも正義の実現を保証しません。
例えば、訴えが却下(motion to dismiss)を免れ、ディスカバリー(証拠開示)の段階に至れば、会社内の関連する膨大な書類が原告側弁護士の手に亘り、原告側弁護士は、その書類の山の中から少しでも問題のありそうな記載を見つけ出し、和解の材料に使われます。
経営陣としても、自らの責任を認めない和解の形であれば保険でカバーされるので、自らの懐を痛めずに済むので、ある程度までいけば、積極的に和解を薦めるインセンティブを持っています。

これが、経営陣にどれだけの萎縮効果をもたらしているのか、あるいは、経営の規律にどれだけ役立っているのかは、果てしない議論があるわけですが、少なくとも、こうした訴訟を意識することによるコストを、会社経営陣としては感じないわけにはいかない面もあることは確かではないかという気がします。

・・・というわけで

非上場化というのは、証券法が強制する画一的なモニタリング・システムの代わりに、それぞれの企業にあったモニタリング・システムを設計することを可能にするという意味で、取引費用を削減するという積極的なメリットも理論的には十分にあるんではないかという気もするわけで、そうした観点から昨今のLBOブームを見てみるのも面白いかも知れない・・・などと、旅行明けのぼけた頭で思ったりしたわけです。
 

(※)もっとも、個々の人間の情報処理能力や思考能力が同じスピードで進歩しているのでないとすれば、これは必ずしも喜ばしい話ではないわけですが、この辺りはまた何れ改めて。

(※2)もちろん、日本の新内閣の下での経済政策も重要なわけですが、こちらは何かコメントするような知識もないんで、もっぱら人のブログを見てお勉強ということで。

(※3)Amaranth関係で参考にさせていただいたブログをクリップしておきます。(記事の順番は私が気づいた順番ということで)

(※4)もっとも、非上場の選択肢を検討する時の経営陣の念頭に、こういう動機がある可能性までは否定しません・・・が、そうした「期待」が実現されるかは(悲しいかな)全くの別問題です。

(※5)実際には上場企業であっても、投資あるいはM&Aに先だって一定のデュー・デリジェンスは行うわけですから、全く不可能ということではないと思うのですが、それでも非上場の状態に比べれば多くの制約があることが予想されます。

(※6)もっとも、harryさんが指摘するように、社債を発行する上で証券法上の一定の開示が必要となる可能性はあります。 ただ、この辺りは推測になりますが、社債であれば米国内では私募に留めることによって法定開示の制約を限定することや、ヨーロッパ市場を利用するということによって、厳格な米国証券法上の法定開示の多くの部分を回避することができるんではないでしょうか。


Posted by 47th : | 17:49 | Corporate Governance

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コメント

ご無沙汰しております!楽しい話題なので、こちらにも書いてみました。お時間あるときに見ておいてくださーい。DI

Posted by Daisuke : 2006年09月29日 08:54

>Daisukeさん
拝見しました。
エッセイの出版も決まったということで、おめでとうございます^^

Posted by 47th : 2006年09月30日 18:32

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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