« もう10月ですね | メイン | モハマド・ユヌス氏にノーベル平和賞 »

クラブ・ディールと競争法

harryさんが紹介されていますが、PEのクラブ・ディールにアメリカの競争当局が興味を示し始めているという話が昨日のWall Street Journalでとりあげられていますが、New York Timesでも関連記事がとりあげられています。

もっとも、こうしたウォール街で見られる金融機関同士の協調行動と競争法の緊張関係は必ずしも新しい話ではありません。
NYTの記事では株式公募の際の共同引受けに関する1950年代のMorgan事件が紹介されていますが、買収における協調行動ということでいえば、(私訴ですが)1990年にWilliams法の開示規制の下でSECがレビューしたビッドについては反トラスト法違反とならないことを示唆する判決を第2巡回裁判所が出しているようです。

もっとも、この判決に対しては学界からの批判が強いようですし、90年代にはゲーム理論に基礎をおいた暗黙の協調行動(tacit collusion)に関する理論も目覚ましい発展をとげていることからするとウォール街的には安閑としているわけにはいかなさそうです。

もっとも、NYTの記事を見る限りはSubpena(正式な情報提供手続のための令状)が出されたわけではなく任意の質問レベルに留まっているようですから、何れにせよ結果が出るのはまだまだ先になりそうな気配ですが、競争法的にポイントになるであろう点についてメモ程度に。


市場画定:会社支配権市場?

そもそもPEファンドによるLBOのようなディールにおける「市場」をどう定義するのかという問題があります。Hovenkampの論文など見ると、競争法の学者は、「会社支配権市場」(Market for Coporate Control)が関連市場だと考えているようにも読めるのですが、会社法の人間から見ると、「市場」という言葉にひっぱられすぎではないかという印象も残ります。

会社法では、非効率な経営陣が淘汰されるメカニズムとして「会社支配権市場」という「市場」を観念しますが、これは内部的なガバナンスや議決権を通じたコントロールとの相互作用の中で位置づけてこそ意味があるものです。
そもそも、会社の利害関係者内部での「支配権」の分配自体(しばしば株主主権とか従業員主権とか言われたりしますが)が固定的なものではなく、例えば、対象会社経営陣は、工場の閉鎖と従業員の大量解雇を前提としたオファーと従業員への継続的雇用コミットメントを前提としたオファーを単に価格だけで比較しなければならないのかということについては、今も尚会社法の世界で論争が続いていますし、実務でもこうした買収後の支配権の分配はディールの重要な要素として扱われているからです。
もちろん、こうした部分での条件の違いも「支配権市場」における非価格的競争の一環として取り込むことも考えられるわけですが、そもそも取引対象となる「支配権」自体の中身が変わってくるんではないかというようなことも会社法的には気にならないわけではありません。

協調行動=カルテル?

次に、果たしてjoint bidのようなものを普通のカルテルや談合(bid rigging)と同視できるかという問題があります。

確かに、合意の上で入札価格を決めるという面では典型的な価格カルテルのようにも見えるのですが、典型的なカルテルの基本的な特徴は「合意がなければ競争の結果、より安い価格(買い手カルテルの場合はより高い価格)が実現できるのが阻まれる」という点にあるわけで、クラブ・ディールがこれに当てはまるかは事案ごとに見る必要があります。

ただ、NYTの記事にもあるように、DOJが注目しているのは、元々単独ビッドがなされていた案件で競合関係にあったファンドが突然ビッドを取り下げ、その後で協調ビッドがなされているような事例のようにも見えます。

この場合は、最初のビッドをあきらめなければ競争が続いたはずのところを、競争を回避する代わりに、後で協調ビッドを通じて利益の配分がなされるという関係にあるとすれば競争阻害的な行為と見ることはできるような気がします。

おそらくDOJの関心は、単にファンド間で協調ビッドの話し合いがなされていたかどうかという「合意」そのものではなく、一連の繰り返し的な関係の中で利益の配分に関する一定のルールが形成されていたかどうか(つまり、単独でビッドをかけていくよりも、協調した方がトータルでの利益があがるという判断の下になされたいたか)という辺りではないかという気がします。

単独でリスクをとりきれない巨大案件でクラブ・ディールが増えることというよりは、それが従来単独ビッドの対象とされてきた中小案件にも拡大しつつあったり、そのスキームの一環として巨大案件でのクラブ・ディールが使われる(例えば、元々巨大案件ディールのプレイヤーとして認知されていなかったファンドも巨大案件ディールに加えてもらう代わりに、中小案件での競合を避けるといった取引がなされているような場合)可能性に着目したのが、今度の動きのような気がします。

DOJ侮るべからず

ところで、この難癖をつけてきたのがウォール街嫌いの(というよりもウォール街叩きで名をあげようとした)Spitzerのようなところであれば、「またか」で終わりそうな話なのですが、DOJが動いたというのは、結構ミソというところはあります。

DOJ(とFTC)という連邦の競争当局は、過去にもIBM、ATT、マイクロソフト、インテルと業界の巨人を叩くことに生き甲斐を感じている(笑)ところで、むしろ、これまでウォール街に対して余り踏み込まなかったことが不思議なぐらいの話です。

また、米国の競争当局は多数の専門のエコノミストを抱え、上で書いたような協調理論や、その実証のテクニックについては凄まじいノウハウを持っています。

まだ任意質問の段階とはいえ外から見える形で動き始めたということは、少なくとも理論的な枠組みについてはある程度見込みがあると考えたからではないかと思います。
かつてのマイクロソフトも然りですが、従来の競争法の枠組みの中で必ずしも十分に議論されてこなかった学際的な領域については、米国の競争当局はprivate lawyerよりも一日の長を持っている場合があります。そうした意味でも、これを機に金融の世界における競争法適用議論が一気に活発化していくのではないかということで、引き続き注目したいところです。

Posted by 47th : | 11:33 | Competition Law

関連エントリー

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://WWW.ny47th.COM/mt/mt-tb.cgi/547

コメント

初めまして!
わたくし自身の拙ブログでコラムを書くためにモハメド・ヤヌスで検索をかけた結果こちらにたどり着きました。
ご紹介の本、ぜひ読んでみたいと思います。
そして、同じNYに、47thさんのような方がお住まいで、このように素晴らしいブログを主催してらっしゃることにとても感銘を受けました。
また、時間の許すときにお邪魔して過去記事もじっくり拝見させていただきたいと思います。
NYも寒くなってまいりましたね。
どうぞお体ご自愛くださいませ。

Posted by Rumi Common : 2006年10月25日 09:17

>Rumi Commonさん
はじめまして。
ブログ拝見しました。私の知らないNYの世界に目が回りましたけど(笑)
NYに2年以上いながら、見かけたことがある芸能人といえばアントニオ猪木という情けない状況です(友人の奥方はサラ・ジェシカ・パーカーと会ったそうですが)
NYならではのネタというのは余りありませんが、宜しかったらお時間のあるときに眺めていってください。

Posted by 47th : 2006年10月25日 20:34

コメントしてください




保存しますか?

(書式を変更するような一部のHTMLタグを使うことができます)

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
このブログをご覧になる際の注意点や管理人の氏素性についてはAbout This Blogご覧下さい。