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有限責任と「親」の責任

GoogleによるYouTube買収に関して、YouTubeの抱える訴訟リスクはGoogle本体にどのような影響を与えるかが色々なところで議論されているようです。

より一般的にいえば、偶発債務を抱えた企業やリスクの高い事業を営む企業を買収する場合に、その影響をどう見積もるべきかという問題で、これは企業買収にあたってなされる典型的なQAの一つですので、ごく簡単に要点をまとめておきましょう。

有限責任の原則

まず、最初のスタート点は「有限責任」です。

つまり、法人格が別である限り、たとえ親子であっても、子供の責任を親が負うわけではないという原則です。

これが、Danさんが子会社の賠償責任は親会社に及ぶか?で指摘されている次の部分です。

もちろんGoogleを別個に訴えることは可能ですが、あくまでその場合はGoogleが被告であってYouTubeを被告にすることで自動的にGoogleのポケットに手が届くと思うのは間違いかと。

なお、当然ですが、Mergeしてしまった場合は話は別ですし、たとえ「単なる子会社」でも、YouTubeのB/SはGoogleのB/Sと連結されさ れます。YouTubeが損失を出せば、当然それはGoogleのB/Sにも響きます。が、もしYouTubeが損害賠償で債務超過になった場合、破綻さ せてしまえばGoogleはそれ以上の損害を被らないのではないでしょうか。

 また、磯崎さんが指摘されているように、スキームを組む上でも、こうした偶発債務の遮断は重要な考慮ファクターの一つであり、アメリカでは「合併」という言い方がなされても、実際には「三角合併」と呼ばれる、日本の株式交換類似のスキーム(※)が使われ、少なくとも「合併」後しばらくは法人格の独立は維持されることが多いわけです。

では、「有限責任」があれば「親」は「子」の負の財産を心配する必要はないんでしょうか?


有限責任の修正

「有限責任」というのは、 会社法上の原則ですが、企業の責任は会社法のルールだけで決まるわけではありません。また、会社法のルールとしても、有限責任制度に一定の限界が加えられることがあります。すぐに思いつくのは、以下の3つです。

  • 特別法上の修正

    もっとも典型的なのは、特別法上として有限責任の例外が定められているパターンです。例えば、日本では銀行については銀行を傘下におさめる銀行持株会社については、子銀行の財務の健全性を維持する義務等が課されています。つまり、子会社が銀行である限り、有限責任制度は貫徹されていないことになります。
    私はアメリカの知的財産権法について詳しくないので、よく分かりませんが、GoogleとYouTubeに関していえば、著作権保護について出資者や親会社まで責任を追及できるような特別ルールが現在存在するのか、あるいは、将来的にそうした方向に向かう可能性にあるのかという辺りが考える上でのポイントということになります。

  • 共同行為責任

    もう一つ、大きな責任原因としてあり得るのが、「共同行為者」としての責任です(※2)。
    いくら法人格として別個だと言い張っていても、子会社の経営が親会社の具体的な指示の下に行われれば、親も責任を負わないわけにはいきません。
    本物の親子関係にたとえていえば、子供が親の知らないところで万引きをしただけでは、親が窃盗罪に問われることはありませんが、親の指示の下に万引きをしていれば、親自身が窃盗罪に問われるというようなものです。
    もっとも、これが「具体的な指示」であれば話は簡単ですが、大まかな経営方針だけ共有している場合や、役員を派遣しているだけの場合、あるいは資金的関係の場合どうか、といったことになってくると責任の所在は微妙になってきます。
    GoogleとYouTubeの場合も、Google本体がどの程度具体的にYouTubeの経営に関与するかといった事実面でのファクターが大きくなってくるのだろうと思いますが、両者が「独立性」を主張しているのは、有限責任のハードルを越えることに対する警戒心も根底にあるという磯崎さんの「読み」はなるほどという気がします。

  • 法人格否認の法理とそのバリエーション

    最後に会社法内のルールとして、非常に例外的に、法人格の区別を無効とする場合として「法人格否認の法理」がよく知られています。
    しかし、日本でも米国でも「法人格否認の法理」が認められる場合は極めて限定されていて、YouTubeのように独立の事業体としての実態がある場合に、これが直接に適用される可能性は極めて低いのが現実です。
    ただ、そのバリエーションとして親子会社間の一体性が強い場合には、一種の監督責任的なものを認めたりすることで上述の「共同行為者性」のハードルを低くしたり、倒産の場面で他の債権者よりも債権の順位を劣後化させる(equitable subordination)といった法的テクニックがあります。こちらの方は、もう少し適用範囲が広くなりますし、特に100%親子会社関係を構築する場合には、実質的に有限責任原則が緩和されるリスクは考慮に入れる必要が出てきます。

こうした「有限責任原則の修正」は必ずしも珍しい現象ではありませんし、いくら法人格を別個にしても経営の一体性が高まれば、そのリスクは高まっていきます。
その意味で、GoogleのYouTube買収に際して、GoogleのDeep Pocketが狙われる可能性は非現実的なものではありませんし、池田先生がGoogle/YouTubeの深いポケットで指摘されているリスクは法的にテクニカルな面は別として(※3)、ディールにおいて現実的に考慮しなければならない重要な要素であることは間違いありません。

法律論の曖昧さ

というわけで、親法人が子法人の負債について責任を負うか?という問いに対する答えは、「原則としては有限責任で責任が遮断されるが、現実にはさまざまな修正原理が存在し、ケース・バイ・ケースで考えざるを得ない」ということになります。

そして、実際の場面では、この「ケース・バイ・ケース」の部分について、我々のような弁護士は一つ一つのリスクを特定し、そのリスクを軽減するための工夫を提案し、最終的に残るリスクを提示することになります。
この部分が、いわば弁護士のスキルというか、ノウハウという部分になって、個々の弁護士、あるいは事務所の力量というのが出てくるところです。

法律論には、必ずこうした「ケース・バイ・ケース」の部分が存在し、しかも、多くの場合、それは細部の違いに留まらず、結果そのものに影響をもたらします。

おそらく、他分野の人から見て法律論が分かりにくい、あるいは、取り扱いにくい理由の一端がここにあります。
例えば、今回の件については、Danさんのエントリーは親子でも有限責任の範囲内という範囲では正確ですが、GoogleがYouTubeの訴訟リスクをどこまで承継するかという面についていえば、池田先生の洞察は依然有効たり得るわけです。

この辺りの曖昧さや微妙さは、情報処理技術の向上に伴う法的知識のデータベース化の動きの上でも重要なボトルネックになるような気がしているのですが、それはまた機会を改めて考えてみるということで、とりあえず今日はこんなところで。

 

(※)順番からいえば、アメリカの三角合併制度の日本版が株式交換制度といった方が正確ですが、説明の便宜ということで。なお、三角合併制度は、施行はずれますが、新会社法で導入されることになっています。三角合併については、過去記事もご参照下さい。

(※2)「共同行為者性」というのは、ブログでの便宜上、名前を付けただけのもので、講学上は一般にこういう用法で使われているわけではないので(特に学生の方は)ご注意下さい。

(※3)池田先生のところにもコメントさせて頂いたところ、法的にテクニカルな面についてはご同意頂けたようです(池田先生のエントリーの(**)参照。ただ、法的にテクニカルなところで完全に正確ではなくても、GoogleがYouTubeの偶発債務を負担するリスクに曝されているという点においては私もその通りだと思いますし、池田先生のエントリーで示されている問題意識そのものの価値が減ずるものではないと思います。
これは、私自身、経済学の素人的発想で法的なものを分析する際に、経済学のプロからみると?という点があるだろうなと思いつつ、法律家からの切り口や問題意識そのものを提示することの価値はあるんではないかという、ブログを使った学際的なコミュニケーションのあり方につながってくるわけですが、それはまたおいおい。 

Posted by 47th : | 11:57 | M&A

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