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「強行法規性」のすれ違い?

(910/19追記あり) 

このブログでも一時話題となった会社法29条と定款自治の限界の問題について、サミーさんが成蹊大学の宍戸教授の論稿に関連して定款自治の範囲同(2)というエントリーを書かれています。

非常に興味深いエントリーなので、定款自治の限界や会社法の強行法規性といった議論に興味のある方は、是非ご一読をお奨めします。余りにも興味深かったので、ついでで、私も初質問をしてしまったんですが、お答えしてもらえるかどうか、何だかどきどきしています(笑)

で、本題は何かというと、どうも29条問題について立法担当者の見解と学界の議論がかみ合わないところがあるのは、そもそも「強行法規」というものの理解の仕方についてズレがあるからのような気がしてきた・・・ということで、まだきれいにまとまっているわけではないのですが、思いつきだけメモにしておこうかと。


サミーさんの定款自治の範囲(2)というエントリーの中で、サミーさんは次のように書かれています。

問題は、③の「この法律の規定に違反しない」の解釈ですが、
(1) 会社法は、強行法規性を有するので、会社法が規律している事項については、定款で別段の定めをすることができるということが文言上書かれていない限り、それは定款自治を許さない趣旨なので、そのような事項については「この法律の規定に違反」する
(2) 会社法が規律していない事項については、会社法に違反(潜脱を含む)しない限り、定款に記載することができる
ということを意味するものと考えています。

まず、そもそも「会社法が規律しているか否か」ということ自体、法文からは一義的に明らかになるのか疑問の余地なしとはできない気もしますが、その点はひとまず措いて、ここで注目したいのは(1)で述べられている「会社法は、強行法規性を有するので」という部分です。

私の理解しているところでは、宍戸教授をはじめ学界が問題としているのは、「新会社法において条文から定められた以外のオプション選択の自由が何故 限定されていると考えなければいけないのか?」ということで、これは言い換えると、「何故会社法の条文の任意法規性が限定されなければならないのか?」と いう問いではないかと思います。

それに対する答えが、「強行法規だから=任意法規ではないから」だとすれば、どうも議論がかみ合っていない気がします。

そもそも、旧商法時代から「強行法規とは何か?」あるいは「会社法規範のうち、どれが強行法規なのか?そして、それは何故か?」ということは、司法試験の論文問題などで聞かれることはないでしょうが、かなり重要なテーマとして会社法の議論の根底に流れていました(※)。

ここでの関心は、立法者よりも当事者の方が社会的に効率的なアレンジ(契約)を結ぶ情報と能力を有している場合があるという前提の下で、会社法規範 のうち、どの部分について当事者自治あるいは手続的規制に委ねることが可能で、どの部分についてはそれが許されないかという線引きをどうするかという問題 でした。

つまり、強行法規性とか定款自治の問題というのは、「何故、強行法規は強行法規でなくてはならないのか?」という問題意識の下に立てられた議論だったわけです。

これに対して、どうもサミーさんの書きぶりを見ていると、「少なくとも立法者としては強行法規とするつもりで定めた」ということを出発点として、「強行法規として定めたことで何か実際に不都合は出ているのか?」という問いの立て方をされているように見えます(※2)。

学界の方は、「何故」会社法の全てを強行法規と考えなくてはならないのか?、あるいは、会社法立法にあたって強行法規性の根拠をどこに求めたの か?、ということを問うているのに対して、立法担当者サイドでは、そうした原理的な問題ではなく、具体的に強行法規として設計した会社法の組み立てにほこ ろびが出ているのか?という極めて実務的な問題意識を持っていて、学界が出している具体例は、何れも大したことではなく、ちょっと工夫すれば強行法規として設計した現行 会社法の範囲内で可能なことなのに(※3)、何を拘っているのか分からない、というすれ違いがあるような気もしています。

だから、何なの?という話にはなるのですが、その辺りの交通整理をしないと、どうも議論がかみ合わないんではないか・・・などと、一時は研究者の卵的なこともした後で実務家に逃げ出し、会社法移行期の修羅場に都合良く海外に逃げ出した外野の人間としては感じたりしたので、メモまでということで。

 (910/19追記)

サミーさんから定款自治の範囲(3)というエントリーで丁寧なご回答を頂きました。

この中では、会社法を強行法規の集合として設計した主たる意図については、少数派株主の保護と登記を中心とした「画一性」の要請をあげていらっしゃいます。

この二つが強行法規性の根拠として十分かどうかについては、また色々と議論があり得ると思いますが、続けて、サミーさんは「「会社法が規律している事項かどうか」「会社法に違反しているかどうか」という点については,当然,解釈の余地はある」と仰っていますし、一連のエントリーでの定款自治の具体的な範囲画定のプロセスを拝見していると、結局は、条文の趣旨に遡るといった作業が必要になるという点では、具体的な場面での結論に大きな差が出てくることは少ないような気もしてきました。

何れにせよ、勇気を出して聞いてみたことで、個人的には非常にためになりました。

お忙しい中、お付き合いいただいたサミーさんにも改めてお礼を申し上げたいと思います。

 

(※)元々は、アメリカで80年代後半から盛んになった議論で、アメリカではシンポのテーマとなったり、"Corporate Law is Trivial"などという刺激的な論文も発表されたりしましたが、日本でも、私の記憶している限りで、90年代前半に出版された特別講義商法Ⅰで神田先 生が「第三者効」ということを基準とすべきという説を公表されたり、前田雅弘教授が閉鎖会社における定款自治の限界についての論文を書かれたりしていまし た。

(※2)もう一つ伝統的な考え方からいうと、定款による別段の定めを認めている時点で、それは伝統的には単にデフォルト・ルール=任意法規に過ぎないという整理が普通で、そこからの逸脱については、まさに他の強行法規に違反しない限りは自由であると考えるという発想があったような気がします。それについて、デフォルト・ルールの逸脱の仕方そのものについても、予め条文が制約を加えているので「強行法規」というとすれば、そこでいう「強行法規」の意味合いは、伝統的に議論されてきたものとは異なっているような気もします。この辺りも用語法の問題といえばそれまでなのですが、何となく根本的なところでの発想の違いを反映しているような気もしています。

(※3)ただ、これには「工夫」すればできることについて、何故、もっとダイレクトな形で定款に書き入れることが許されないのか?また、「工夫」は、ダイレクトな手段と全く同様の法的な効果を保証するのか?という疑問が湧き上がります。
その辺りが興味深かったので、サミーさんに次のような質問をしてみました。

サミーさん
はじめまして。
今回の記事大変興味深く拝見させて頂きました。
種類株主総会の拒否権に時間的制限を設ける件については、A「○○の事項については、▲▲までの間、X種種類株主総会の決議があることを必要とする。」と いうことは書けなくても、B「定款第×条に規定する事項につき拒否権を有する」とした上で第×条で「▲▲までの間になされた○○の事項」という書き方にす れば、実質的に同様の効果を持つことができるという趣旨だと理解したのですが、そのような理解で宜しいでしょうか。
もし、そうした理解で宜しいとした場合ですが(誤解があればご教示いただければ幸いです)、B方式では会社法上問題なく認められることについて、敢えてA方式で書くことが禁じられる理由はどこにあると考えればよろしいのでしょう?
また、○○の事項が取締役の選解任のように定款ではなく法令上既に株主総会の権限とされている事項についてはB方式のような記載方法は難しいようにも思われるのですが、どう考えればいいのでしょう?
ドラフトの工夫も弁護士の仕事の内と言われると返す言葉もないのですが、年明けに戦場に戻るとすぐに直面しそうな類の話なので、お時間のあるときにでも頭の体操としてお付き合いいただければ幸いです。

Posted by 47th : | 12:51 | Corporate Law

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コメント

記事を拝読して随分すっきりしました。会社法の規定について、「強行法規というつもりで定めたから強行法規になる」という考え方が、どうも私なんかにはよく分からないというあたりが、議論が噛み合わない原因のようですね。そのような立法担当者の考え方が条文上明確に表現されているのか、というところも気になっています。「強行法規」と立法担当者が考えている規定すべてに、「本条に違反する定款規定はこれを無効とする」という一文が書かれているわけではないですし、会社法29条の「この法律の規定に違反しない」という文言については、立法担当者とは異なる解釈の仕方がありえますから。

それから、…記事中、(*)の中の、某先生のファーストネームを修正していただければありがたいのですが…

Posted by いとうY : 2006年10月19日 03:21

>いとう先生

仰るとおりで、(※2)で書きましたが、「強行法規」と位置付けながら定款による逸脱を認めているという点では寧ろデフォルト・ルールと考えるのが、伝統的な整理からは普通な気もします。

お名前の点も、ご指摘本当にありがとうございます。

Posted by 47th : 2006年10月19日 09:37

SNSが流行っており、プログは若干古い感があるかなぁって・・面白い媒体ですね。

29条、穏当な所に落ち着きそうですね。
勉強になりました。ありがとうございます。

学会には著名な前田先生が結構いらっしゃいますので((雅)では足りない(省略できない))。。以下
商・・前田庸
   前田雅弘
刑・・前田雅英
民・・前田重行

Posted by t.k : 2006年10月19日 14:11

>t.k.さん

私も一応mixiとgreeに入ってはいるのですが、殆ど使っていません。
どうも相性というのもありそうで、私にはブログの方があっているようです^^;

お名前については間違えてはいけない、間違えてはいけないと思ってフルネームにしたら、却って間違ってしまいました。情けない限りです。
なお、重行先生も商法の先生ですので、特に商法系ではお名前には気をつけないといけないわけで、本当に反省しています。

Posted by 47th : 2006年10月19日 17:08

素敵なエントリー、ありがとうございます。

「強行法規性」とか「定款自治」とか、人によって使い方が違ったり、言葉を見るだけで拒否反応を起こす方がいたり、大変ですよね。少し議論の立て方を工夫しないと、堂々巡りになりそうなことや、どう工夫すればそれを改善できるのかについて、エントリーからヒントを得られたように思います。

Posted by けんけん : 2006年10月19日 20:13

うっ・・
自分も間違えてしまいました。
47th先生・前田先生申し訳ありません。

Posted by t.k : 2006年10月19日 21:51

fujiです。実務的(特に登記関係)にはサミーさんの様に回答していただけると迷いがなくていいのでしょうね。わたしはどうも会社法で”あそぼ”って気にはならないですけど・・・。

ところで追記の日付は10/19では?ププッ。

Posted by fuji : 2006年10月20日 08:59

>けんけん先生
恐縮です。
最近、日本から送ってもらった文献も拝見しながら、何となくもやもやした部分が残っていたので、ブログというメディアの特性を使って実験的にやってみました。
仰るとおりで、エントリーを書きながら、強行法規性といったときに、すぐにEasterbrook & Fishelが思い浮かぶのも、それ自体「会社法」の意義に関する大きな前提に立っているということなのかも知れないと感じました。
少し見方を変えてみると、強行法規性というやや抽象的な議論が、これだけ具体的に議論できるようになったことは会社法の功績と言えるのかも知れませんね。

>t.k.さん
お互い気をつけましょう^^;

>fujiさん
シロクロがはっきりすることについては、はっきりした方がいいのでしょうけど、問題は、それがはっきりさせておくべきことかどうかなのでしょうね。

日付ご指摘ありがとうございます。
帰国を前にして、今が10月であることを認めたくない自分がいるようです。

Posted by 47th : 2006年10月20日 10:22

 
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