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「経済学」論議と「水からの伝言」

最近TBを受け付けにくくなっているようで悩んでいたので、磯崎さんがなされた対処法を私も試してみることにしてみました。うまくいくかどうか分かりませんが、しばらくこれで様子を見てみたいと思います。

さて、今日は何だか関係あるんだが、関係ないんだがよく分かりませんが、私の中では結構関係あるもののように感じた二つの話題のご紹介です。

前者は著名なブロガーである小飼弾氏のエントリーで、経済学者の飯田泰之先生が書かれた「ダメな議論―論理思考で見抜く」を紹介しつつ、次のような評をもらされています。

・・・税込み714円以上の価値は確実にある。のだが....

ダメ出しで終止してしまっている。

「それでは、よい議論とはかくあるべきか」という提言が見当たらないのである。

それは、著者の飯田氏に限らず学者という学者に共通した宿痾で、特に経済学者に顕著に見られるというのは私の偏見だろうか。だから、どちらかというと読後感は「やはりこういう議論に陥らないよう気をつけよう」というより、「はいはい、ああいってもこういってもダメな議論とおっしゃるのでしょうねえ」という投げやりなものになりがちだ。・・・(中略)

我々のほとんどは経済学者ではない。同学の学者どおしが議論を戦わすのは大変結構なことだ。しかし、我々のほとんどは、学者のみなさんの議論を吟味するだ けの時間も余裕もないのだ。どんなにダメな結論でも、終わらない議論に勝ると思うのが、全知でもましてや全能でもない我々の本音なのではないか。

 後者は「水からの伝言」という、どうも最近人口に膾炙しているらしい(私も今回初めて知ったのですが)「お話」(きれいな言葉を聞かされた水は美しい結晶を作るが、汚い言葉を聞かされた水は美しい結晶を作らない?)に対して、物理学者のお立場から、それは科学的な「事実」ではないと丁寧に説明されているサイトです。(ちなみに、このサイトはID論について前に書いた頃からBloglinesに登録させていただいている幻影随想経由で知ったものです。余談になりますが、幻想随想さんの似非科学批判はどれも痛烈かつ的確で実に参考になります。)

このサイトではQ&A方式がとられているのですが、その中で私の印象に残ったのが次の二つのQ&Aでした。(是非、全文を読んで頂きたいと思うのですが)


Q「水からの伝言」が事実でないというためには、実験で確かめなくてはいけないのでは?

A  たしかに、科学の基本は実験です。 今の科学は、これまでの数多くの実験や観察で得られた事実をもとにして作られています。

だからといって、すべての考えを、いつでも実験して確かめなくてはいけない、というわけではないのです。 科学の知識がある程度まで増えてくると、新しく実験しないでも、何がおきるかが、ほぼ確実に、わかるようになります。・・・(中略)

もし、「実験に対しては実験で反論するのが科学のルールじゃないのか?」と思われている方がいらっしゃれば、それは、まったくの考え違いです。 上のような事をていねいに書いたのは、ほとんどの読者のみなさんが(そして、「水からの伝言」の実験をしている人たちが)科学者ではないからです。 もし、これが科学者どうしであれば、話は単純です。 これまでの考えとは違う新しい説が本当かどうかが問題になるときには、新説をだしている科学者の側に、説得力のある証拠をだす責任があります。 仮に「水からの伝言」を「科学のルール」で判断していいなら(私は、そうは、していませんが)、「ともかく、温度と過飽和度を一定に保ち、全サンプルについての統計を取ってくれ、話はそれからだ」で終わりです。

Q 科学的な「事実」よりも大切な「真実」があるのではないですか?

A 科学は、人の活動のごく一部ですから、プロの科学者でも「科学がすべて」などと思ったりはしません。

事実だけにもとづいては語れないような何かを語ろうとするのは、尊い考えだと思います。 しかし、そうであれば、わざわざ本当ではない(可能性がとても高い)「水からの伝言」をもちだす必要はないと思います。 「真実」を語るための、もっと正直な方法をさがすべきではないでしょうか?

「愛と感謝」を大事にしようというメッセージにしても、「水が言葉の影響を受ける」などという話とは切り離して、人の心のあり方、人の生き方への提言として、発していく方がずっと素晴らしいと思います。

私だけが思うのかも知れませんが、弾さんの「ダメな議論」を通じた経済学者に対する問いかけと田崎教授の「水からの伝言」に対する回答は、どこかでつながっているような気がしています。

弾さんは経済学者ではないので、経済学の作法に縛られる必要はありません。それはその通りだと思います。
また、弾さんは、経済学の範疇では捉えられないことを伝えようとしているのかも知れません。

ただ、そうであれば、例えば、「人間の幸福はお金を持つことだけではない」と伝えればいいのであって、そこに「GDPの概念がおかしい」とか、「経済成長という考え方がおかしい」ということを、(その経済学的な理解に誤解のある形で)言う必要はないのではないでしょうか?

「水からの伝言」と同じように、ある特定のメッセージを伝えるために、長い年月を経て科学的に共有されてきた理解が(意図的にせよ無意識にせよ)誤解されて使われていることがあれば、それを正そうとする(ダメ出しをする)ことは、その学問にコミットする者としてはごく自然な対応であるような気がします。

ネット上での「経済学」を巡る議論については、そもそも伝えようとするメッセージの妥当性とその方法論の適切性が混同されている点(※)で、どこか「水からの伝言」を巡る議論に似ている・・・ふと、そんな気がしました。

 

(※)もう少しだけ付言すると、「水からの伝言」でいえば「真実や愛情、優しい言葉が大切」というメッセージ自体は非常に妥当なものであるけど、その方法論として科学的な「事実」を歪めて利用している点を科学者の方は問題とされているように見受けられます。
これに対しては、「世の中の多くの人は『科学者』ではないから、別に科学的な事実がどうのこうのにそんなに神経質になる必要はない」という反論があり得ますが、これに対しては、そうした科学的な「事実」に対する誤解が悪質な詐欺商法の温床になり得ることや、そもそも「科学」に対する信頼が揺らぐ可能性があるということだろうと思います。
更にいえば、「科学」の重要性というのは、空気のようなもので、普通に生きている分には、その恩恵をかみしめることはないのかも知れませんが、それを専門にしている人々にとっては、その重要性やそこで見出された「事実」とその限界を冷徹に認識することが何よりも重要だと考えているという点で、温度差が生まれるのかも知れません。
この温度差は典型的な自然科学だけに限らず、社会科学でも同様です。「法」や「ルール」、あるいは「責任」といった言葉をふりかざす人ほど、「法学」が直面してきた、そして今なお直面している様々なジレンマや制約原理には関心が薄かったりするわけです。

(追記)

このエントリーが「素人は口を挟むな」という趣旨だという誤解を与えたかも知れないので、補足のエントリーをあげておきました。 

Posted by 47th : | 12:32 | Law & Economics

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コメント

「水からの伝言」の紹介ありがとうございます。「水からの伝言」がまかり通ったら、自然科学が無茶苦茶になるどころか、法も法でなくなるわけで、精神主義で黒も白にする恐ろしい世界を感じました。

Posted by 売れない経営コンサルタント : 2006年11月10日 02:34

話の発端である『ダメな議論』に関しては話を追えていないのでコメントを差し控えますが、法に関して無知な素人である僕が 47th さんの書く記事に対して敬意を払う最大の理由は、「法は万能ではない」「でも法が役立たずというわけでもない」ということを僕にわかるように説明してくださったからです。
ご紹介いただいた「『水からの伝言』を信じないでください」も、科学が万能ではないことと科学からわかることが丁寧に説明されていて、素晴らしいと思いました。
と、何となく僕が 47th さんのブログ記事の中核だと思っているものと「『水からの伝言』を信じないでください」の中核らしきものがパラレルに見えたのでコメントしてみました。

Posted by fcp : 2006年11月10日 13:06

>売れない経営コンサルタントさん
「水からの伝言」のような話そのものもさることながら、それに対する田崎先生のQAの問題整理の的確さと誠実さに心を打たれて紹介した次第ですが、参考になったのであれば幸いです。

>fcpさん
過分なお褒めの言葉ありがとうございます。
私自身は、田崎先生のQAを見て、自分の専門分野について分かりやすく伝えるという努力を最近疎かにしていたかも知れないとも思ってしまったところです。
これからも、ささやかながらやっていくと思いますので、どうか宜しくお願いいたします。

Posted by 47th : 2006年11月10日 13:51

 
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