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ブログ論壇考(5)

前回は書き手のコストという面を見ていったわけですが、では、そのコストの逆側にある書き手のベネフィットって何なんでしょう?

内的ベネフィット

まず、純粋に考えを文章化することや、その時の思いつきを書き留めておくことのベネフィットがありそうです。
これは日記の延長のようなもので、想定読者は自分自身ということになり、必ずしも公開する必要はありません。

コミュニケーション・ベネフィット

ただ、多くの場合、ブログは公開されて不特定多数の人の目に触れることが予定されていたり、人のブログにTBをしたりするわけで、必ずしも内的なものに限られません。

こうした多くの人の目に触れることの一つの意味は、その意見に対してコメントやTBなどの反応を得て、さらにそうしたツールを使って議論が成立することによって、自分自身の考えをより深めるというところにあるように思われます。

注目ベネフィット

もっとも、そうしたコミュニケーションを成立させるためには、必ずしも読者数を増やす必要はなく、むしろ、同程度あるいは自分よりも多くの知識や情報を持っている人や、ロジックを踏まえた議論能力を持っている常連の読者を対象にした方が密度の濃いコミュニケーションが成立する可能性があるような気がします(もっとも、最初にそうした読者をどうやって獲得するかというところの苦労はあり得るわけですが)。

ただ、そうでなくても、「多くの人から注目されている」ということ自体がモチベーションになっている面はあります。多分、心理学的にはもっとちゃんと説明がつくんではないかと思うんですが、カウンターを設置したり、そのカウンターのアクセス数が気になったり、あるいは、ブックマークの数が気になったりということは、ごく普通のことだろうと思います。

もっとも、ちょっと気をつけなくてはいけないのは、この「注目」の部分の比重が高まってしまうと、読者受けのいい記事や注目を集めることが目的化したエントリーを書きたくなってしまうこともあるような気がします。

リアルでのベネフィット 

また、こうした注目は、それによる心理的な満足だけに留まらず、更にリアルの世界でのベネフィットにつながることもあり得ます。
例えば、顧客獲得や、人脈の拡大、出版といった部分でしょうか?
もっとも、この部分が強くなってしまうと、自分の考えを伝えるというよりも、読者をどう獲得するかとか、その読者にどういう影響を与えるかという部分に対する考慮が強くなりすぎる可能性もあります。

コストとの兼ね合い 

これは印象論なんですが、政治家やマーケッティングが目的のブログを除けば、最初は誰しも読者が少ない状態から始めるわけですから、コストは、自分自身の考えをまとめたり、発展させたりといった部分のベネフィットで釣り合っているんじゃないかと思います。
それが、段々と読者を獲得してくると、注目やリアルでのベネフィットを重視するようになってくるのかも知れません。
ただ、そうなってくると、いろいろと鼻につくところも出てきてしまうような気がします。
ブログを長続きさせるコツというのは、結局、このベネフィットとコストの釣り合いをうまくとるところにあって、リアルの世界での環境が変わってしまうと、コスト構造が変わってしまうため、今までのベネフィットの範囲では釣り合いがとれなくなったり、注目やリアルでのベネフィットにシフトしてしまう危険があるというところで、ブログの休止ということになるのかも知れません。

競争とベネフィットの逓減

ところで、お察しの通り、注目やリアルでのベネフィットを求める形でブログを続けることについて、私は明らかにネガティブなところがあります。一つは、カウンターにせよブックマークにせよ、注目の指標としては極めて不正確なものという気がしていて、それが目的化してしまうと非常に危険な気がするところですが、その点は、ちょっと時間がないので軽く触れるに留めて、ここでは、一つそうした注目やリアルでのベネフィットは、ブログの書き手間での競争が進めば、自ずから減少してしまうという点を指摘しておきたいと思います。

非常に簡単な話ですが、まだブログの絶対数が少ない時代には、ちょっとコストをかけてエントリーを継続したり、話題のトピックをフォローしていれば、それだけである程度の注目を集めていくことが可能だったような気がします。
ただ、ブログの書き手が増えてくると、段々そういうことも難しくなってきます。
読み手にとっても、ブログを読む、とりわけ、ある程度論理的な構造の文章を把握して読むということには、それなりの時間や前提知識、ロジック分析能力が必要なわけですから、単純に書き手が増えたから読むブログを増やすというわけではありません。
巡回するブログを減らしたり、あるいは、エントリーを読むのに費やす時間を減らしたりと、対応は様々だと思いますが、ブログの書き手が増えれば、それだけ読み手の注目を集めるのは簡単ではなくなります。

特に、丁寧にロジックをおって考えるタイプのエントリーというのは、読者の方でもそのロジックを丁寧におって、最後にそれが自分にとって役に立つかどうかということを判断しなければいけません。そうすると、読んだ結果、常にタメになるものであればいいのですが、そうでない場合には、その時間は無駄になってしまいます。そうすると、同じ時間を使って、3つ4つ他のブログを見て、その中で「当たり」を見つける方がいいという方向に流れるかも知れません。
そうした意味では、こうして競争が激しくなってくると、丁寧に考えたエントリーで注目を集めるというのはそれだけ難しくなります。しかも、往々にして、丁寧に色々考えた先の結論というのは、それほど爽快感のあるものではありません。上限金利規制なんかでも、色々考えた先の結論というのは、少なくとも金利規制で多重債務者が救われると考える根拠は薄弱というところまでで、現にいる多重債務者対策としては、開示の充実や取立規制の厳格化、社会的なセーフティネットの拡充、景気回復とか、それ自体としては地味なものしかないわけで、結論は、"silver bulletはない”という、全く面白くも何ともなく、政治的にみると全くアピーリングではない結論にしかならないわけです(「○○問題の根は深く、これ一つでという解決策は到底ありません」と延々と街頭演説で話す候補者が票を集めるとは思えませんよね・・・)。

しばしばメディアの大衆への迎合姿勢が批判されることがありますが、少し考えてみると、そうした行動様式が日本における読者獲得競争において有利だから採用されているだけかも知れません。
そうだとすると、ブログの世界における読者獲得競争なら違う結果になると言えるんでしょうか?
扇情的な見出しや、ウケはいいが真実とは異なる構図を設定した上での批判、特定の情報源の情報の信憑性をそれが希少だから(多くの人は知らない(と言われている)から)というだけで受け容れてしまう状況・・・多くの読者を集めるというテクニックという観点からみれば、こうした既存のメディアの方法論というのは、ブログの世界でも有効であるような気がします。

こういうことを考えると、自分の考えや、それを他の人と交換して考えを深めていくという以上に、注目やリアルでのベネフィットをブログに求めて、こうした読者獲得競争に参加していくことには、それほど魅力を感じることができないし、むしろ、そうした読者獲得競争に参加することによって、深く考えることよりも、一見の分かりやすさや扇情に走ってしまうこともあり得るとすれば、私の価値観からはマイナスのような気もします。

また、結局、ブログというのは本来的には参入障壁も低いわけで、放っておけば、そういう意味での超過ベネフィットというのはなくなっていきます。
その超過ベネフィットを維持しようとすれば、差別化や、あるいは、新規参入のハードルを実質的に高めてしまうといった、非常に戦略的な行動が求められることになるわけで・・・そうしたところに入り込んでいくと、誰でも参加できて、自分の考えを伝えることができる、という意味での、ブログのよさというのは薄れていくようにも思えます。

というわけで、色々と書きましたが、ブログにかけるコストを、注目やリアル社会でのベネフィットで回収しようというビジネス(?)モデルというのは、何となく持続可能性に乏しいような気もします。

あるいは、読者拡大を目論まない狭いコミュニティ内部での意見交換ツールと、既存メディアのプチ版としてブックマークやアクセス数を競うブログに二極化していくのかも知れません。

そうだとすると、ブログによって、従来ギルドの中に囲われてきた専門的な知識や情報が、より多くの人によってアクセスできるようになるというのは幻想で、結局、リアルの社会でも従来存在していたアカデミックな言論界と大衆メディアの棲み分けが、ネットに移行してくるだけになるのかも知れません。

今でも図書館にいけば、一般人でも各種学界の専門誌は読めるわけですが、実際にはそれを読み解くためには相当の前提が必要になるわけで、物理的なアクセスが容易であるということと、知的なアクセスが実現することには大きな溝があります。
ブログは、その溝を埋めるかも知れないという期待を持っていたのですが、実は、そうでもないのかも知れない・・・

と、ちょっと悲観的なことも思うわけですが、次回は、そうした状況の中で役割が高まることが期待される通訳能力について考えてみたいと思います。


Posted by 47th : | 12:59 | ブログ論壇考

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コメント

こんばんは。もう帰国のご準備は済まされたのでしょうか?
このブログ論壇考シリーズ、毎回楽しみに拝読しております。私も同感できる部分が多いですね。ブログはネット社会に公開されているわけですが、究極においてはSNSと近接するのではないでしょうか。
ところで、ちょうど、このエントリーを読んでいるときに、私も「通訳能力」(おそらく47thさんの考えておられるものと同じかと思います)について考えておりました。もし情報を発信する側に、ヤル気と根気があるならば、この通訳能力を発揮できる媒体としてはブログは最適ではないかなぁと。
続編、楽しみにしております。

Posted by toshi : 2006年11月28日 07:31

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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