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パブコメのススメ (4)

一応、前回の記事で企業価値研究会の論点公開のパブコメ関係の話は終わろうと思っていたのですが、別関係のエントリーでコメントを頂いたtoshiさんの「ビジネス法務の部屋」を拝見していて、「そうそう、これこそ色々な意見が寄せられるべきだよね」という点があったので蛇足を一つ。

「企業価値基準」について

論点公開では、「3.防衛策の濫用を防ぎ合理性を確保するための「企業価値基準」の確立」(98頁)というところで、次のように述べられています。


企業買収とは、買収者の提案と現経営陣の経営方針のどちらが株主に支持されるのかという相対的な比較検討の局面であり、企業価値を高める買収提案であれば買収が実現し、企業価値を損ねるものであれば買収が実現しないことが望ましい。したがって防衛策の適法性は、企業価値を基準として判断すべきである。

これは、おそらくは前に紹介したニッポン放送による新株予約権発行にかかる一連の決定における枠組みを意識したものではないかと思われます。

「企業価値基準」=ユノカル基準?

この裁判例でとられた「企業価値基準」を直接に比較するアプローチに対する問題点というのは、前に指摘しましたが、論点公開では、そうした「企業価値」を直接に比較するアプローチではなく、①会社への脅威の存在、②脅威との関係での防衛手段の相当性、③慎重かつ中立的な経営判断プロセスの3つの審査基準を提案するものです。
これは、いわゆる米国のユノカル基準をベースにしたものですが、このブログでもユノカル基準を紹介したときに、それを日本に取り入れることの是非や取り入れ方については色々とコメントやTBを頂いたところですし、toshiさんの仰るように裁判で考慮されるべき「企業価値」の内容をより具体化すべきではないかという意見も当然に出て来る話ではないかという気がします。
裁判における判断枠組みというと、専門的な話のような気がするかも知れませんが、余り難しく考えずに、「どういう説明のされ方をすれば自分が納得し易いか?」とか、「自分が考えるときに問題を整理し易いか?」という視点で考えてみればいいような気がします。
「裁判」というのは究極的には国民へのサービスであって、ユーザーが納得できないようなサービスは提供する側に問題があることが多いわけです(もっとも、他方で、「わかりやすさ」や「人気とり」になってしまってはいけない領域もあるわけですが)。

「脅威」とは?

次に、ユノカル基準的なアプローチをとることとしたときに、何をもって「会社への脅威」と考えるのかというところについても、いろいろと考える材料があるのではないでしょうか?
ここも論点公開では難しく書いていますが、ちょっと乱暴にまとめると、こういうことです。

構造的強圧型


・・・買収者が1株1000円で公開買付けをしてきたときに、「TOBの後で上場廃止になったら、1000円では売れなくなるよ」とか「後で現金合併するときには800円しか出さないよ」と言われるので、本当はもっと高く売れるはずだと思っていても、1000円でTOBに応じないといけないような状況に追い込まれるパターンですね。(グリーンメイラーがここに入っている理由はよく分かりませんが・・・)

代替機会喪失型


・・・買収がかかったときに、経営陣が「もっといい条件の買収者(ホワイト・ナイト)を探してきますから、もうしばらく時間を下さい」とお願いするパターンですね。

株主誤信型


・・・これが一番議論を呼ぶところでしょうが、「買収者の提案した価格は本来の企業価値よりも安過ぎる」というパターンが典型的な例です。この典型的な例について、「安いかどうかは、株主が判断すればいい」となるのか、「株主には判断に十分な情報がないから経営陣が買収価額の是非を判断します」ということになるのかがポイントになります。
ただ、実は、この論点公開が悩ましいのは、そうした典型例以外にも、どうも「株主価値だけではなく株主以外のステークスホルダーの利益を害する場合」も、この範疇に入るようにも読めるところです。
これが「長期的には株主利益につながる範囲」の話をしているのか、それとも「株主利益は上がっても企業価値全体として価値が毀損される(と予想される)場合」も含むのかは、ちょっと微妙です。
特に後者については、いろいろな考え方があるのではないでしょうか?

最後に

最後に、最初にも紹介しましたが、toshiさんの「ビジネス法務の部屋」で指摘されている社外取締役の果たすべき役割なんかも、考えるべきことがたくさんあるような気がします。
「自分が社外取締役だったら」とか「社外取締役はいかにあるべきか」という視点からコメントを考えてみるのも、いいかも知れませんね。

ところで、ふと思ったんですけど、実は多くの方にとって「買収合戦」っていうと、即、ニッポン放送とライブドアなんですよね。
でも、あれは、色々な意味でイレギュラーな事件という気がします。
というわけで、もう遅いのかも知れませんが、機会があれば、ビッグディール―アメリカM&Aバイブル〈上〉 / 同〈下〉などを読んでみると面白いかも知れません。
一般向けに書かれている割には、結構、深いところまで書かれていたりするので、ちょっと分量が多いのが難点ですが、それなりに楽しめると思います。
というところで、では、また。

Posted by 47th : | 15:25 | Takeover Defense : METIガイドライン

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(前回のラスト・・・そんなことを考えながらろじゃあは秘密の検討会本番に臨むのであ [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年05月10日 03:44

コメント

いつも拝見しております。
リンクさせて頂きました。メルアドが見当たらなかったのでここに書かせて
頂いております。URL欄に記入したページからリンクさせて頂いております。よろしくお願いします。何かございましたら、メールにてお願いいたします。
とりいそぎ、ご報告まで。

Posted by kousinpage.com : 2005年05月08日 15:11

koushinpageさん。
ご丁寧にありがとうございます。これからも宜しくお願いいたします。

Posted by 47th : 2005年05月09日 16:58

パブコメ締め切り間際ですが、記事化しておいたものをトラックバックつけさせてもらいました。この問題、(3)で書くつもりですが、差止めの仮処分と、本訴の中間的というか第3の手続きとして『ポイズンピル』の合法性を確認するための手続きを作るべきなのではないかと思います。問題はTOBが仕掛けられたときにレフリーが凶器とかのチェックを試合前にするのと同様の手続き(これは某先生の受け売り)として入れるか、TOB等が無くとも平時に一般の株主からも確認が出来るようにするかなどを考える必要があるかもという点ですかね。いやあ、頭の体操としてはハードですねえ。

Posted by ろじゅあ : 2005年05月10日 04:01

47thさんこんばんは。130ページ読了しました。2点コメントしたいと思います。1)郵貯等の存在が長く金融市場をゆがめてきたため、資本市場が十分に効率的でなく、社会的に有用な価格情報等を提供できていない可能性がある。そうした市場で形成される価格を基にした利害関係者の判断はゆがめられている可能性がある。2)toshiさんご指摘の通り、日本の社外取締役はそうでない取締役に比べて、必要な仕事がしづらいことが多く、必要な情報や権限が与えられない等形骸化しやすいので、期待できない。ご指導ありがとうございました。これからも楽しみにしています。

Posted by bun : 2005年05月10日 06:34

トラックバックありがとうございます。また、このパブコメ(4)の記事、いつもながら引き出しの多さ(深さかな?)に感服いたします。考えの参考にさせていただきます。

>bunさん
コメントありがとうございます。
私も現状の「社外取締役」では期待された役割を担うことが難しいと考えているのですが、でも法制化される以上はなんとか株主や企業価値向上にとって有用なものへ変わっていってほしい、という強い期待はあるんです。むかし、私が学生だったころに会社法の教科書の片隅に「会社の社会的責任」という用語解説があったんですけど、同じように「そういえばむかし、社外取締役って一時流行ったよなあ」みたいな、そんなもので終ってしまってほしくない、と思っています。

Posted by toshi : 2005年05月10日 09:38

>TOSHIさんこんばんは
お返事ありがとうございます。おっしゃる通りでもし社外取締役が予定されている通りにきちんと機能したら社会にとっても会社にとっても有益なことだと思うのですが、あまり大きくない部類の会社の社外取締役の実態は悲惨なものと認識していてまず有形無形に排除されて身動きがとれなくされるものと聞きます。日本では内の人間と外の人間の間に扱いの差を設けるのが自然なので会社が共同体的な存在と認識されている限りはこうした排除がどうしても行われてしまうだろうと残念に思っています。

Posted by bun : 2005年05月11日 10:08

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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