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事件の「風化」と社会「科学」の不在(2)

まずは言い訳から

事件の「風化」と社会「科学」の不在(1)には、色々コメントやTBを寄せて頂きありがとうございました。
実は、先週一回続きを書いてアップしたのですが、何か少し時間を置いて読み直したら、違うような気がしたので、ボツにしました。ボツになる前に読まれた方には分かると思いますが、人のスタイルをパクっても、いいことはないですね。
反省です。
で、気を取り直して、自分のスタイルでやろうと思ったら、サーバーが不調・・・その後もページは表示できても、管理画面にアクセスできないとか、いろいろ障害があって気持ちが萎えたので、こちらのサーバー移転を急遽実行に移すことにしました。
ブックマークやリーダーの設定の変更等ご面倒かと思いますが、なにとぞ宜しくお願いいたします。
また、安定運用とか言いながら、自分でMovable Typeのインストールとかやって、今ひとつ理解していないところもあるので、表示とかおかしかったら、それはそれで暖かい目で見てやってください。
といったところで、言い訳はこのぐらいにして本題の方へ。


「因果関係」と「評価」の関係

前回の記事を書いたあとも、いろいろと事故原因の解明は進んでいるようです。
ただ、「あれなくばこれなし」(but for test)という意味での因果関係(条件関係)と、そのことの「評価」の問題が冷静に区別されることが望まれます。
今回の事件ではスピードがクローズアップされているようですが、単に○キロでカーブに進入したという事実や、それが予定されていた速度を○キロ超過していたという事実だけではなく、そのことが持つ「意味」も考える必要があります。
報道によれば、今回の脱線の機構は珍しいものだという話も聞きます。そういう意味では、たとえば、今回の事件におけるスピードの意味を考える上では、今回と同じスピードで同じ区間を走っているときに、条件の違いによって同様の脱線が起きる確率がどの程度あるのかとか、より低いスピード(たとえば制限速度であった70キロ)であれば、今回のような機構による脱線は起きなかったのかといった点が検証されなければならないような気がします。

社会科学的な因果関係とその評価へ

こうしたプロセスは社会科学的な因果関係とその評価についても同じことが言えるのではないかという気がします。
たとえば、私自身、最初に「リストラ社会」や「リスクに対する意識」が今回の事故を生んだのではないかという「仮説」の下に、「アメリカでは高速特急の定期検査でブレーキに原因不明の亀裂があることが判明したので、即時に運行をとりやめた」というようなことを書いて、あたかもアメリカではリスク管理の意識が非常に高いので、重大事故が未然に防がれているかのような書き方をしました。
しかし、これは認知心理学における代表性(representativeness)の典型例で、私は、無意識のうちに、たった一つ最近ニュースで見た例をもって、あたかも、それがアメリカの鉄道会社のリスク管理体制の全てを代表しているものとみなしていたわけです。
よく考えるまでもなく、この判断が合理的であるとは限りません。むしろ、一般的にアメリカの鉄道会社のリスク管理体制を考えたり、それと事故率との関係を考える上では、望ましくないバイアスをもたらす可能性もあるでしょう。
たとえば、私の「仮説」を立証するためには、この一例だけではなく、一般的に>アメリカの鉄道会社が日本の鉄道会社とは異なるタイプのリスク管理体制を敷いているかどうか、とか、具体的にリスク管理のあり方とか意識がどう違うのかというところを踏まえた上で、まずは演繹的に、従来の心理学やそれこそオペレーション・マネジメントの理論とかを踏まえて、「仮説」の精度を高めていく必要があるように思われます。
その上で、アメリカにおける鉄道事故率が日本のそれよりも統計的に有意に低いとか、あるいは、アメリカの鉄道会社の中でリスク管理体制の違いにより事故率に有意な差が出ているとか、一つの会社で歴史的にリスク管理体制を変えたことによって事故率が有意に低下したといったデータをとってみて、実証的に「仮説」が検証できるのかをみていくべきなのでしょう。
こうしたプロセスを経ることによって、思想や立場を超えて、事故の「主因」は何かとか、対策として、何に重きを置くべきかということが議論できるのではないかという気がします。

この点は、何も「リスク管理体制」ということに限りません、「定時運行のプレッシャーは事故率を高めるのか?」「過密ダイヤは事故率を高めるのか?」、あるいは、「コンピュータ制御の導入によって事故率は有意に変わり得るのか?」・・・いずれも一見すると「正しそう」ですが、その「一見の正しさ」を客観的に検証するための手順を踏まないと、たとえは悪いかも知れませんが、魔女裁判と本質的な原理は変わらないということになるのではないでしょうか?
おそらく、今考えれば不合理であっても、魔女裁判が実際に行われていた時代には、「悪いことが起きるのは、魔女が呪いをかけているからだ」という原因付けも「一見の正当性」があったからこそ、社会的に受け入れられたのではないかと思います。
人間の認識とか理解というのは、いろいろなしがらみや偏見に縛られています。また、それを抜きにしても、単純に「思い違い」「勘違い」で物事を見てしまうこともあります。
思えば、裁判における事実認定の理論の歴史は、神ならぬ身である人間の認識力の限界との戦いという面があります。無罪推定の原則や三審制は、裁判官も人間であって誤りを犯すかもしれないという「謙虚さ」がその根底にあるような気がします。
法律家だから過度に敏感になってしまうのかも知れませんが、人間であり間違いを犯す可能性のある者だという前提は、そのことを論評する側にも等しく当てはまることです。
被害者の方々を悼んだり、関係者の方々の悲しみに共感をすることは、とても大事なことですが、だからといって「一見の正しさ」だけで「魔女」を探して指弾することが望ましいわけではないような気がします。

「もどかしさ」と「期待」

私が社会科学の不在という言い方で、最後は「思想・立場の違い」で終わってしまうことに「もどかしさ」を感じたのは、結局は、そうした自分自身の能力の限界を補うものとして「科学」的な方法論が機能してくれるのではないかという「期待」の裏返しなのかも知れません。
こうした起こってしまった悲劇について、「魔女を信じるか信じないか」という思想の違いに終わらせるのではなくて、「魔女のせいにすることが、悲劇の再発防止に役立つのかどうか?」という、ドライと映るかも知れませんが、客観的・実利的な観点からの議論がなされていくことを期待したいと思います。

Posted by 47th : | 12:33 PM

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このリストは、次のエントリーを参照しています: 事件の「風化」と社会「科学」の不在(2):

» 科学的手法・・・文化の違いを数値化する。 from にょぶろ、おいビジネスって・・・大丈夫か?
更新、さぼっておりまして、済みません。にも関わらず、思いのほか沢山の方が訪問して [続きを読む]

トラックバック時刻: May 10, 2005 01:57 AM

» JR西日本列車事故とマンション関係の法律問題 from 法務の国のろじゃあ
JR西日本の福知山線の列車脱線事故による被害者の皆様とご家族の皆様は本当に大変だ [続きを読む]

トラックバック時刻: May 16, 2005 05:51 AM

» 人的ミスをどう防ぐのか?ーJR関西の事故ニュースより from にょぶろ、おいビジネスって・・・大丈夫か?
前回お話した、科学的文化考察「カルチャーディメンション」の話に戻る前に気になった [続きを読む]

トラックバック時刻: May 17, 2005 01:15 AM

コメント

移転お疲れさまです。ぐっと軽くなりましたね。

 手続きの客観性を確保することによって「思想・立場の違い」に左右されない科学的認識を手に入れる、というのはまさに「価値自由」の考えだと感じました。「思想・立場の違い」が本質的には効いていない所まで「あの人はオペレーション・マネジメントの人だから」あるいは「あの人はフェミニストだから」と片付けてしまうのではなく、より良い事実認識のために色々なところから知恵を集めるのは大切と思います。
 おそらく、最も「良い」解決策を科学が与えることはできません。科学的な議論の結果得られるのは答えというより、事前規制と事後チェック、安全だけど非効率とその逆、といった選択問題ではないでしょうか。このレベルの問いは価値判断を迫るものであって、仮説検定にはなじまないと思います。
 問題の提示を通じて、価値観がぶつかり合う所まできちんと辿り着くこと、そしてきちんと意志を持って選ぶこと、をできればいいなあと考えます。百家争鳴の状況が言い訳として利用されるのも一つの政治ですが、そうした事実上の政治ではなく、対立する価値観の止揚の話をしたいものだなと。

Posted by student : May 4, 2005 09:20 AM

>studentさん
コメントありがとうございます。
最後は選択の問題というのは、まさにそのとおりですね。
ただ、私の淡い期待かも知れませんが、少なくとも企業の経営というレベルで考えるのであれば、価値観の対立の前の段階でもっと議論ができるような気もします。

Posted by 47th : May 4, 2005 01:09 PM

47thさん、移転落ち着いてきたようですね。
皆さんがJR西日本の事故について書いておられたのですが
どうもこの被害を受けたマンションの方々の今後の問題について触れておられるマスコミの記事が、問題解決のための問題の検討へ向けられてるのかどうか判断できませんでしたので、ちょこっと書いてみました。このマンション建替え問題は両弁護士会が尽力した阪神大震災からの貴重な教訓だと思うのです。TBは(1)の方に付けるほうがよかったかもしれませんね。いつも付け方が下手ですいません。JR西日本は今年の総会どうするんですかねえ。他人事ながらやはり気になってしまいました。もはや職業病かもしれません(^^;)。

Posted by ろじゃあ : May 16, 2005 05:59 AM

>人間であり間違いを犯す可能性のある者であうという前提は、

この部分がおかしいと思います。よろしければ修正お願いいたします。

Posted by somonkun : May 30, 2005 08:11 PM

>somonkunさん
ご指摘ありがとうございます。
修正してみました。何せ思いつくままに書いてエイヤっということも多いので、誤字脱字等他にもあると思いますが、そのあたりはなにとぞご海容を。
これからもよろしくお願いいたします。

Posted by 47th : May 31, 2005 11:09 AM

> 過密ダイヤは事故率を高めるのか?

いわゆる「過密ダイヤ」では事故率を高めることはないようです
http://be.asahi.com/20050528/W12/0023.html

Posted by 小僧 : June 7, 2005 11:14 AM

>小僧さん
興味深い記事ありがとうございます^^
記事にまとめるときに短縮されているからなのか、「過密ダイヤ」という言葉の使い方がおかしいというのと、「ダイヤ」と安全性を結び付けようとする論調がおかしいという、どちらにもとれてしまうのが、ちょっと残念でしたが、こういう専門家の客観的な情報から学べることは多いんですよね。きっと。

Posted by 47th : June 8, 2005 10:21 AM

> 「過密ダイヤ」という言葉の使い方がおかしいというのと、
> 「ダイヤ」と安全性を結び付けようとする論調がおかしいという

どちらも正しいと思われます。
もう少し正確に言えば「ダイヤ」と安全性を安直に結び付けようとする論調がおかしいということなのでしょう。

> こういう専門家の客観的な情報から学べることは多いんですよね。きっと。

他にも専門家の情報として私が知っているのは前に bewaad さんのところでコメントに書いた
http://www2.kanazawa-it.ac.jp/knl/etc/scenez01.html

でしょうか。

蛇足
社会科学の不在以前にどこにどのような論点があるのかを把握しづらいことが問題と個人的には考えています。

http://d.hatena.ne.jp/makyabery/20050528/1117190391

に書かれた話にもつながる訳ですが

Posted by 小僧 : June 10, 2005 01:14 PM

>小僧さん
実は、この論点についてbewaadさんが、いつもながらの切味鋭い論陣を張っているのを密かにROMっていたので、この記事の続きが読みたいと思ってました。今度日本に戻ったときに探してみます^^

論点が見えにくいというのもそうだと思います。その原因の一つとして、一つ一つの議論を見たときに、その記事の信頼性を評価するものさしがなく、結局、一見のもっともらしさや文章力が基準となってしまって、ノイズが除去できないとか、ノイズが増幅してしまうということもあるような気がします。
(実際、法律学界の議論というのは、そういう傾向があるような・・・どっかから撃たれそうですが)

Posted by 47th : June 10, 2005 01:36 PM

> (実際、法律学界の議論というのは、
> そういう傾向があるような・・・どっかから撃たれそうですが)

言辞のレベルで役が付くのはどこの業界でも似たようなものだとは思われます。
#だからプレゼンのテクニックが.....

それはさておき
個人的に知っている事故関連の link についてやっつけで
http://www.geocities.jp/hammersmith_golden/Amagasaki_JR_west/Amagasaki_link.html
に記述してみました。

これ位は大学のメディアリテラシーでの学生サンのレポート課題にいいと思うのですが、
どっかでやってくれませんかねぇ。
特に Weblog については結構面白い結果が出ると予想しているのですが。

Posted by 小僧 : June 11, 2005 09:22 AM

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