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「陪審制度」は合理的?

ニレコ事件とか敵対的買収絡みの話というのは、私にとっては、余りにも身近過ぎる上に、少なからぬ利害関係?もあるので、生臭くなりそうなので、ちょっと全然門外漢な分野・・・裁判員制度の方へ話をシフト。
直接のきっかけは、札幌からニュースの現場で考えることの高田さんの「法廷ショー」の時代?です。

酒場で彼らは「こうだな」「そんな感じで両手を広げて」と大笑いしながら、法廷パフォーマンスの真似事で笑いを取っていたけれど、これは笑い話ではないのだ。それほどまでに、この制度は問題を抱えすぎているのだと思う。「刑事事件の審理に市民の感覚を持ち込む」とは、いったいどういうことなのだろう? 理念は正しいのかもしれないが、日本の刑事司法をきちんとした姿にするのならば、たぶん、裁判員制度よりも先に、取り調べの可視化(つまり「密室司法」「人質司法」の解消)が優先されるべきだったと感じている。

まず、最初に告白しておくと、私は裁判員制度導入の過程や細かい仕組みについては、正直よく知らないのですが、高田さんの指摘する「「刑事事件の審理に市民の感覚を持ち込む」とは、いったいどういうことなのだろう?」という疑問や、その手法として裁判員制度が適切なのか?という疑問はよく分かるような気がします。
裁判員制度のモデルというのは、陪審制度だと思うのですが、実際に訴訟に携わる中で感じるのは、陪審が判断の合理性を高めると考えているアメリカ人弁護士はほとんどいないということです。
もちろん、私のポジション柄つきあっているアメリカ人弁護士というのは企業の代理を務める側が多いので一定のバイアスがかかっていることは割り引く必要があると思うのですが、それにしても「陪審にかかると、結論がどうなるかは誰にも分からない」とか「いくら証拠関係が有利でも、陪審によって不利な判断がなされる可能性がある」とか言った話は、何度となく聞かれます。
にもかかわらず、何で陪審制度が放棄されないんだろうということを考えてみると、勿論、憲法改正に絡む話になって大騒ぎになるということや「民衆の国アメリカ」のシンボルの一つであるといった経路依存(path dependent)的な説明の外にも、米国特有の複雑な社会階層とその深刻な対立という背景があるような気がします。
映画や小説の題材にもなりましたが、典型的なのが人種問題で、いくら客観的にみて「合理的」な結論であっても、「白人の裁判官によって黒人被告が不利に扱われた」とか「黒人裁判官が黒人被告を不当に擁護した」という形で、米国では、ある裁判の帰結がしばしば社会階層間の対立として政治問題化してしまいます。こういう国では、特定の人種や政治的・宗教的背景を有した裁判官が決めたというよりも、マイノリティも含めた陪審員が決めたという形で、「手続的」にマイノリティに配慮することによって、無用な政治問題化というコストを避けるということが、制度全体でみると合理的な制度設計になっているということではないか・・・何の根拠もない、これぞ本当に「思いつき」なのですが、そんなことを思います。
ただ、そうした社会階層間での対立を防止するという意味で「制度全体」として合理的だとしても、そのことは個々の事件の解決において合理的であることを意味しませんし、むしろ、そうした個々の事件における判断の合理性は制度全体の利益との関係で後退を余儀なくされることもあるのかも知れません。
・・・というわけで、もしアメリカにおいて陪審制が維持されているのが、過去の歴史や既存のシステムへの依存(経路依存性)やアメリカ固有の社会階層の対立との関係だとすれば、それを日本に導入することがプラスになるとは限らないわけです。
もちろん、こうしたプラス面、マイナス面というのは、導入の際に専門家が真剣に議論して検討しているのだと思うのですが、何か門外漢から見ているとしっくりこないなぁ、と、素人丸出しの感想で申し訳ありませんが・・・

Posted by 47th : | 17:42 | Litigation

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コメント

こんにちは。ご指摘のしっくりこない感を共有するものです。ただ日本は平均が高く分散が小さいためアメリカほど予測不可能な結論にはならないかもという感じもしていますが(苦手な人やよくわからない人はずっと黙ったままで、基本的な結論の形が見識のある人の鶴の一声といったものになると思います)この特性が何に依っているのかがよくわからないのでそのような結論になることが担保されているとは到底言えないですね。

私は裁判員制度という言葉を聞いただけでは何がしたいのかさっぱりわからなかったですがtrialと聞いたらよくわかりました。さて日本人にtry and errorという帰納的な結論の作り方ができるのでしょうか。

Posted by bun : 2005年06月07日 00:04

日本の裁判員制度は、陪審制よりはむしろドイツ的な参審制(=市民が裁判官と同じ立場で裁判に関与する)がモデルであると理解していたのですが、そうだとすると47thさんの批判は生きてくるんでしょうかね?何となく形を変えて生きてくるような気もしますが。
僕も裁判員制度が果たして何を狙っているのかよくわからんのですが、「市民の感覚を・・・」というとき、事実認定よりは量刑の方を主戦場にしたいのかな、と思ってました。何も考えてないコメントで申し訳ないです。

Posted by くぼ : 2005年06月07日 01:21

>bunさん
「鶴の一声」・・・ありそうですね^^;
しかも、日本では固定観念とか偏見を明確に自己認識する契機やそれを互いに指摘することへの禁忌があるので、「それはおかしいよ」と裁判員の大半が思っていても、何だか声の大きさで通ってしまったり・・・そういうことがないように裁判官が議論に入るのでしょうが、裁判官が余り議論をリードし過ぎると、また反発をくらったり・・・ただ、ポジティブな方向でとららえると、そういう議論の技法というものを社会的に真剣に考える契機になるのかも知れませんね。
>くぼさん
ご無沙汰してます^^;

>日本の裁判員制度は、陪審制よりはむしろドイツ的な
>参審制(=市民が裁判官と同じ立場で裁判に関与する)が
>モデルであると理解していたのですが

おお、いきなり、裁判員制度と大陸法の不勉強ぶりをさらしてしまいました(汗)。
なるほど「量刑」の方ですか・・・でも野菜の値段じゃないんですから、「市民感覚」と言われても・・・自分の愛車が盗まれたらただじゃおかん、とか、そういうので裁けるか・・・まあ、See what will happenということですかね。

Posted by 47th : 2005年06月07日 10:27

47thさんへ
裁判員制度についてはろじゃあも若干の懸念をもっておったものですからTBさせていただきました。これら2作品はごらんになったことはありますか?

Posted by ろじゃあ : 2005年06月07日 16:44

こんにちは。トラックバックと引用、ありがとうございました。

裁判員制度は教科書的な理念としては分かるのです。ただ、日本で本当に導入できるのだろうかと。殺人事件などは、メディアが興味本位で取り上げ、本当の焦点が見えぬまま、集中豪雨のような報道先行がしばしば生じます。そして、それを目にした人たちが(予断を持って)裁判員になっていく。。。もちろん、職業裁判官も十二分に報道には接しているのですが。

「法社会」への浸透度や関心が高くなく、法教育も十二分ではない日本で、駆け足で制度をつくって実施する。そのへんが、何か割り切れません。


今後ともどうぞよろしくお願いします。

Posted by 高田昌幸 : 2005年06月07日 22:22

 
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