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企業価値を高めることは買収防衛の「王道」?

toshiさんも紹介されていた、日経新聞に載っていた鹿子木判事のインタビュー記事を読みました。
なかなか耳に痛いお話も・・・

「企業防衛に関する紛争では、やや法律事務所主導で紛争が拡大している傾向が見受けられないでもないようです。小手先の防衛策に頼るのではなく、真摯な経営努力により企業価値の向上を図ることが重要。防衛策フィーバーのような状況には疑問を禁じえません。」

別に紛争を意図的に拡大しているつもりはないんですが、買収防衛策の導入に法律事務所がそれなりに大きな役割を果たしていることは否めないところです。
それに対して、「王道ではない」と苦々しく思われる方が多いのも、もの凄く分かるんですが、ただ、「企業価値を高めることが買収防衛の王道」みたいな論調には、必ずしも納得できないところが・・・


企業価値=株価?

まず、そもそも論として、「企業価値」=「株価」なんでしょうか?
これは、いわゆる効率市場仮説(ECMH)として論じられるところですが、とりあえず、私の知っている範囲では、日本の市場は、(インサイダー情報はもちろんのこと)公表情報すら完全には株価には織り込まれていないとも言われています。(Semi strong formのECMHをサポートする実証研究は私が知っている限りではないのですが、ご存じの方がいらっしゃったら教えてください)
この原因は色々と考えられるのですが、現象としては、ちゃんと企業価値向上にそぐう事業活動をやっていて、投資判断に必要な情報も提供しているのに、それに応じた評価を受けていない会社というのは、少なくとも理論的には、存在し得るわけです。
とはいっても、「そんな企業は全体で見ればごく僅かで、多くの場合は、市場から評価されていないのは、何か問題があるからでしょう」という反論も考えられるんですが、こういう「真摯な経営をやっているんだけど、市場から評価されていない」会社こそ、買収する側から見れば、もっとも「おいしい」企業ですよね?
なので、「株価」=「企業価値」という近似をしたときに生じるエラーを切り捨ててしまうと、それこそ、こうした「真摯」な企業が、真っ先に買収者のターゲットになることが予想されるんですが・・・それもまた、市場が効率的にワークするための一過程ということで割り切ってしまうべきなんでしょうか?
・・・なんか、それはちょっとねぇ、というのが、一つめの疑問です。

強圧的な買収をどうするか?

次に、濫用的買収で、しばしばグリーンメイラーが例にあげられるんですが・・・はっきり言って、ライツ・プラン等の防衛策は、本来グリーンメイラーのように小規模の買付で高値売り抜けを考えている相手には、余り効果はありません。日本の場合は、ある意味で余りに強力すぎる利益供与規制と自己株式買付規制の「おかげ」で、効率的にグリーン・メイリングをやるのは、結構大変なので、これのために買収防衛策を入れる必要はあんまりありませんし。。。そもそも、グリーン・メイラーのもたらす害悪なんて、たかが知れてます。
アメリカで濫用的買収として真っ先に念頭に置かれてきたのは、二段階合併なんかを使った「強圧的」(coercive)な買収です。日本でも、最近、少しずつ認識されてきたようですが、「過半数取得したら、上場廃止しますよ」なんて言われてTOBかけられたら、一般投資家としては、普通は言い値で売る以外の選択肢はないわけです。
このテクニックのために、一般株主が本来の企業価値(and/or支配権プレミアム)を十分に受け取ることができないというシチュエーションが、非常に問題なわけですが、これはいくら企業価値を高めてみても回避できません。
これを防ぐには、公開買付ルール自体を変えるか、買収防衛策を入れるか、何かしら企業価値向上以外の手段が必要なわけで、これも一筋縄ではいきません。

騰貴相場をどう考えるのか?

他にも、対価が証券の場合なんかをどうするという話もあるんですが、最後に、何か見落とされていると思うのが、支配権争奪局面での騰貴相場をどう考えるのか?という点だと思います。
この前のニッポン放送とか、今回の阪神電鉄、TBSを見ても分かると思うのですが、こうした支配権争奪場面に入ると株価は簡単に騰貴状況に入ります。
で、この騰貴は別に企業の潜在的価値が顕現したわけでもなんでもなく、一部の非合理な投資家と、その非合理性を予測した合理的な投資家による過剰反応の産物でしかありません。
これは一種のバブルの時の証券市場の狂騒と同じで、最近は「行動経済学」とか「行動ファイナンス」とかいった領域で研究の対象となっている話ですが、要は支配権争奪場面での市場というのは、本来的な企業価値とか、そういうのとは違う原理で動き出してしまうわけです。
このときに、「誰か」が、支配権維持にかかる手続、特に買収者が本当に出せる金額とか買い入れることのできる量とかをきちんと見極めるプロセスがないと、結局、この騰貴相場では椅子とりゲームで、プロはうまく手じまいをして、犠牲になるのは一般投資家ということにもなりかねないわけです。
この「誰か」が、誰であるべきか、というのが議論になるわけですが、実務的に言ったら、(社外)取締役ぐらいしか適任者がいないんじゃないの?というのが、実務家としての印象になるわけです。

・・・ということで、私の場合は、いろいろと買収防衛策の問題点も知りつつ、それをなるべく緩和するような仕組みを工夫した上で、なお「企業価値を向上しても、やっぱり買収防衛策は必要だよね」と思うわけです。
この辺りについては、今、もう少しまとまった書き物で準備中ですが、読者の皆様のご意見も聞かせていただけると幸いです。

Posted by 47th : | 09:45 | Takeover Defense

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コメント

確かに、買収に対して社外取締役が企業価値を検討することが実務的にあるべき方向かと思います。ただ、TBSの例ですが、社内の第三者機関「企業価値評価特別委員会」の諸井氏が楽天の手法を批判したというのがニュースになってましたが、その批判の内容が、「楽天のやり方は失礼だ」等、なんだかなあというもので、これって企業価値という観点なのかなあという感じがしました。もっとも、報道が詳細を伝えていないだけかとは思うのですが、このことから一般化して考えるに、社外取締役が今後どのように防衛策発動を検討していくのか、ということも課題になるのではないでしょうか。

(また、ついでに言うと、防衛策を支える主なルールというのがあくまで行政レベルのガイドラインにとどまり、しかも、そのガイドラインの内容が結構幅のあるものであるということを踏まえた上で、上記の裁判所サイド(鹿子木判事)の若干冷ややかな反応を見ると、防衛策の法的安定性が気になるのですが、そのへん、どうなんですかね?つまり、ガイドラインにそっているとはいえ、あまり強いものをつくると裁判所にひっくりかえされたり、他方、弱いものをつくっても意味ないどころか、買収者に逆手にとられかねないのではないかと。こんな微妙な防衛策をつくるなんて、例のMETIの報告書に名前をつらねている弁護士(「おわりに」も含む。)しか、作り得ないような気もするのですが。)

Posted by ぶらっくふぃ~ずる : 2005年10月19日 11:46

TBありがとうございました。エントリーの後半部分(騰貴相場をどう考えるか)につきましては、私も10月17日付けのエントリーでいろいろと書かせていただきましたが、「企業の潜在的価値の顕現」ということをどう考えるべきか、思案しておりました。47thさんは「行動経済学」の視点を例示されておられますが、「立証」という面からすれば「敵対的買収事例と株価の動向」のような検証例を丹念に積み上げていくことが最も説得力があるのかな、と思ったりしております。
実務的にみて判断者の問題については、社外取締役ということになろうかと思いますが、代表訴訟の不提訴理由を通知する立場として、監査役がからむような事態も想定されるように予想しています。単に取締役会の発動理由を「書き写して」いればいいというわけにはいきませんし。(まあ、実際に防衛策が発動されなければ問題は出ませんでしょうけど)

Posted by toshi : 2005年10月19日 22:45

 
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