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Affirmative Actionの功罪をめぐるSander-Ho論争

明日のQuantitative Methodの課題は、ロースクールの入学における黒人へのAffirmative Actionの功罪ということで、Richard H. Sander, A Systematic Analysis of Affirmative Action in American Law Schools, 57 Stanford Law School 367 (2004)をきっかけとした、以下の論争。

まず、アメリカだなぁ、と思うのは、二人のバックグラウンド。
SanderはUCLAの教授で、NorthwesternでJDとEconomicsのPh.D.をとっている。
一方のHoは、YaleのJD・・・って、まだ学生じゃんと思ったら、HavardのGovernmentで、こちらもPh.Dをとっていて、既にpaperをいくつか発表しているなかなか強者。
で、中身の方はといえば・・・


Sanderは、Affirmative Action(弱者優遇政策とでもいうか、典型的には大学入学にminority枠をつくって、単に差別をなくすだけでなく、積極的にminorityの地位を向上しましょうという話)のために、本来、入れないような高いレベルのロースクールに黒人が入れるようになっているものの、これが、本当に黒人のためになっているかに疑問を呈します。
曰く、本来相応しくないレベルのロースクールに入学できた黒人は、授業の進行についていけないために、同じレベルの白人学生がたくさんいるロースクールに入ることができた場合よりも、学力が向上せず、結果として司法試験への合格率が落ちる結果となっている、と。
この仮説を検証するために、司法試験の合格率をdependentとして、ロースクールの格やロースクールでの成績(GPA)やLSATのスコア、人種などをindependentとしてmulti regression analysisをやった結果として(Sander-1 のp.444参照)、合格率にはロースクールのランク(0.17)よりも、ロースクールでの成績(0.76)の方が強い相関を持っているという結果を得ます。
で、そこから黒人の学生は、affirmative actionのおかげで本来いけないぐらいレベルの高いロースクールに行けるけど(どのぐらい極端かというのは、Sanders-1のp.416のTable3.2を参照)、その代わりに成績は悪くなり、結果として司法試験合格率は低くなるというtrade offに陥っていると結論づけます。
これにかみついたのが、Hoです。ここからが、私の理解がちゃんとできているかが怪しいところですが、Hoは、Sanderがindependentとして用いた変数は、相互に密接に関連しているので、regressionは正確ではないと批判します。
その上で、彼が提唱する(?)matchingという手法での比較を行います。これは、ロースクールのランク以外は、入学前のLSATの成績などにおいて同等のサンプルの下で、トップグループとセカンドグループのロースクールにおける合格率に有意な差が生じるかを見るという、まあ、確かにあるindependent variableが本当に意味のあるものかどうかを見るには、(もし可能なら)極めて適切な手法を用いて、白人でも黒人でもロースクールのランク毎に有意な差は見られない・・・つまり、ランキングは司法試験合格率に影響を与えていないので、Sanderのいうようなtrade offは生じていないというわけです。
これに対して、Sanderが反論を行い、更にHoが再批判を行っているわけですが、まあ、何だか水かけっぽいところもあって、一つ言えるのは、Hoのやったmatchingは、バイアスのないサンプリングが可能な場合にのみできるわけですが、この点はSandersが的確に指摘しているように、元々ロースクールの入学の決定自体が、かなりLSATとかのスコアに忠実に順序づけられているわけですから、トップスクールとセカンドスクールからサンプリングを選ぶといっても、トップの中に1位から10位まであって、セカンドグループが11以下から20位だとすれば、matchingの条件に適合するようなサンプルが1位のスクールや20位のスクールから出てくるわけはなく、例えば9位、10位と11位、12位のスクールに集中している可能性が高いわけです。
とすれば、この時点でサンプルの選択にバイアスが生じているので、マッチングの結果有意な差が出ないのは、寧ろ当たり前であって、その意味ではHoの行った反証は有効ではなく、このことはHoも(暗黙に)認めています。(もっとも、Hoは、それならSanderがロースクールのランクをindependetとして取り扱うのも間違っていると反論しますが、Sanderの方は、1位スクールのサンプルも当然に考慮している数字なので、これはちょっと的外れな気がします。)
現実には、ほとんど全てのロースクールでaffirmative actionを行っている状態では、Ho自身が認めているに、affirmative actionの影響を完璧に抽出するのには、どだい無理があるわけです。
その意味で、この論争というのは、結局、完璧にできない検証をどれだけうまく近似するのかとか、その近似の信頼性は、政策意思決定の参考資料として全く耐えられないレベルなのか、それとも十分に参考にできるのかとかいった判断につきていく話じゃないかなというのが、今の私の印象です。
もし、この印象が正しいとすれば、Hoの経歴から言えば、そのぐらいのことは分かっていて当然のような気がするので、affirmative actionという極めてセンシティブな話題で、わざと攻撃的な議論を挑むことで名前を売ろうという魂胆もどこかにあったのかも知れません。
何れにせよ、今回の論争を読んで、何だか今までQuantitative methodについて、ぼんやりとしか分かっていなかったものが、いろいろ頭の中で整理されてきたような気がします(あくまで「気のせい」ですが)。
というわけで、明日のゼミが結構楽しみだったりします。

Posted by 47th : | 23:55 | Law & Economics

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コメント

時間がないのでtableしかぱらぱらっと見てませんが,Sanders-1のp. 444のtable 6.1って,本当に彼のその仮説をテストするためのものなんですか? 僕なら少なくともinteraction termを入れてregressするなぁ。あと,X-squareとp-valueの双方だすスペースがあるなら,SEをreportしてほしいし,上3つのvarの変域もreportされないとcoefficientは解釈できない。それに,何をceteris paribusに見るかで,controlすべきものは,他にもいろいろと出てくるはず。

Hoについていえば,,multicolliearityは,関心のないindependent var.について存在していても,問題はありません。普通。読んでないので,これ以上は控えますが。

Posted by もりた%これからEconで"The Economics of Sexuality"ワークショップだぁ : 2005年11月14日 14:33

さすが・・・仰ることの半分しか分かりません。
精進致します…っていうか、Economics of Sexualityって…面白そう。

Posted by 47th : 2005年11月14日 15:31

econometricsプロパーなお話を抜きにして,僕の直観だけを言うなら,おそらく,Sanderが正しいです。もうかなり前から「教育は役に立つのか?」という激しい論争がeconomics of educationの世界では続いているのですが,例えば,Hoxbyなどが「良い学校に行けば成績は上がる」と主張しているのに対し,Levittなどは(←確かFreakonomicsは読まれましたよね)「良い学校に行く時点でバイアスがかかっていて(良い学校に行くのは成績が良くなるようなdemographic characteristicsを持っている人間),学校自体が影響を与えるわけではない」と主張しています。どっちのペーパーがより説得的なのかは難しいのですが,僕はLevittたちの方がより説得的に実証していると見ているので,同じような立場のSandersの方が正しいのではないか,と直観を持っているわけです。

Posted by もりた : 2005年11月22日 14:28

>もりたさん
私も直観的にはSanderの主張に魅力を感じます。
とはいえ、affirmative actionをなくせば、minorityがbetter offするという予測の部分には抵抗もあるんですよね。
・・・ただ、Hoにも賛成しがたい・・・そもそも、彼の議論のスタイルが建設的ではなく、趣味に合わないと言うところがあるせいですけど。

Posted by 47th : 2005年11月23日 13:40

 
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