« Affirmative Actionの功罪をめぐるSander-Ho論争 | メイン | Corporationの宿題 »

会社法トリビア:アメリカでは20%以上の公募増資に株主の承認が・・・

昔から、一度ちゃんと読まないといけないと思っていながら、放っておいたものの一つに、株式発行に関するNYSE Ruleがあります。
会社法現代化の試案が講評された頃から、「アメリカの取引所ルールでは20%以上の新株発行は株主の承認がないといけない」という話が、まことしやかにささやかれていたんですが、何でもありのアメリカの会社法の世界を垣間見ていた者からすると、正直いって「本当かいな?」という思いもあって、いつかちゃんと見てみないととは思っていたんですが・・・会社法現代化でも、早々と新株発行に株主総会という話は消えたので、優先度が落ちて放っていたんですが、今日のCorporationの授業で出てきたのをきっかけに読んでみると・・・
よく話題になるのは、NYSE RUle (Listed Company Manual) 312.03(c)だと思いますので、見てみましょう。

(c) Shareholder approval is required prior to the issuance of common stock, or of securities convertible into or exercisable for common stock, in any transaction or series of related transactions if:
(1) the common stock has, or will have upon issuance, voting power equal to or in excess of 20 percent of the voting power outstanding before the issuance of such stock or of securities convertible into or exercisable for common stock; or
(2) the number of shares of common stock to be issued is, or will be upon issuance, equal to or in excess of 20 percent of the number of shares of common stock outstanding before the issuance of the common stock or of securities convertible into or exercisable for common stock.

要するに議決権基準であれ、株式数基準であれ、20%以上の普通株式(又は普通株式に転換可能な証券)の発行には株主の承認が必要となっているわけです。ここの部分が、しばしば20%基準ということで紹介されているのだと思いますが、注意深く読んでいると、ちょっと疑問が湧いてきませんか?・・・
・・・そう、この基準の下では、普通株式への転換権さえなければ、議決権付優先株式(や劣後株式)を発行することには、特に制限はないことになりそうです。何か、ちょっと不思議な気もしますが・・・
次に、実は、この規定には、次のような例外規定が入っています。

However, shareholder approval will not be required for any such issuance involving:
any public offering for cash;
+ any bona fide private financing(注:ブローカーを通じた場合や引受先に5%以上株主のいない場合の私募を指します), if such financing involves a sale of:
- common stock, for cash, at a price at least as great as each of the book and market value of the issuer's common stock; or
- securities convertible into or exercisable for common stock, for cash, if the conversion or exercise price is at least as great as each of the book and market value of the issuer's common stock.

つまり、日本式にいえば、①現金払込みによる公募増資の場合と、②第三者割当であっても、(a)割当先に大量保有報告書提出義務者がおらず、(b)価格が一株当たり純資産簿価と市場価格を下回らなければ、先の株主承認の規制はかからないことになります。
これで相当に納得なんですが、この例外の下では、多少発行額が大きくても、上場会社が行う普通の公募については株主総会は不要です。その意味で、この規定の適用範囲というのは、実務的には遙かに小さくなります。
この意味で、会社法現代化試案などの関係で、NYSEルールの下では、およそ会社が20%以上の株式を発行する場合は、すべからく株主の承認が必要になるかのように言われていたのは、ちょっとミスリーディングな感じがします。
むしろ、Rule 312.03の中で重要なのは、会社関係者への株式発行を総会決議にかからしめる(b)項と、更に次のようにごく簡単に書かれた(d)項ではないかと思います。

(d) Shareholder approval is required prior to an issuance that will result in a change of control of the issuer

この無愛想な一文は、「支配権の変更」を伴う場合には、株主の承認を要求しており、しかも、発行価格とかによる例外は一切規定されていないので、かなりヘビーな規定です。
実際にどういう運用がなされているのかは非常に興味深いところです。例えば、上場会社が、白馬の従者(White Squire)に市場価格にプレミアムをつけて新株を20%割り当てるという場合には、この規定の適用はどうなるんでしょう?
もっとも、これだと、会社が株主総会を開く余裕もないぐらいに切迫しているようなときに大変そうな気もするんですが、そこはRule 312.05で「株主の承認を確保するための遅れが、企業のfinancial viablityを深刻に損なう場合」には、例外として株主の承認は不要とされています。
この辺りも、ちゃんと考えられているんですね。
確か、前に中央大学の大杉先生が指摘されていたと思うんですが、NYSE Ruleのこの辺りは、かなり深いpolicy considerationがあって、規定が相互に密接に結びついているので、「20%以上の株式発行には株主の承認が必要」という断片だけを取り出すと、却ってミスリーディングになるわけで、この辺り、今更ながら関連規定を読んで「へぇ」×17と思ったので、ご紹介まで。

Posted by 47th : | 14:15 | M&A

関連エントリー

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://WWW.ny47th.COM/mt/mt-tb.cgi/177

コメント

先日はコメントありがとうございました。記事で紹介されているNYSEの上場規則については、私もかつて調べて、論文に少ーしだけ書いてみたことがあります(「会社の結合・分割手法と株主総会決議」)。ので、懐かしくなってついコメントしてしまっております(笑)。

さて、おっしゃるように、「20%以上の株式発行には株主の承認が必要」ということだけを紹介するだけではもちろん意味がないわけですが、たとえば私がかつてこの規則を紹介したのは、「支配権の移転をもたらす新株発行については総会決議を要するというシステムもありうるんじゃないか」という文脈ででした。そのようなシステムを(上場規則にも)一切置かない日本法はむしろ国際的にも珍しいんじゃなかろうか、というのが、その基礎にあった直感です。そして、要綱試案でそのような案が検討されたことの基礎にあったのも、同様の考慮でして(だからこそ、簡易組織再編行為と並べて書かれてある)、決して、単なる「大量新株発行について総会決議を要求する」というアイデアではないと思われます。もちろんこのような案を経済界が受け入れるわけはなく、現代化部会の議論でも一部の学者委員(言葉の使い方からして誰かは分かっちゃいます)から主張されつつも、葬り去られてしまったわけですが…

ちなみに、NYSEの上場規則を参考にした立法論は、私よりもはるか以前に、洲崎先生が不公正発行防止策という文脈で提示されたことがありますし(「「不公正な新株発行とその規制」)、「企業結合関係を生じさせる新株発行については、株主総会決議を要求すべきではないか」ということは、さらにその前に、森本先生が主張されたことがあります(「新株の発行と株主の地位」)。私もこのような伝統にどっぷり漬かって論文を書いちゃったことになります(笑)。

Posted by いとうY : 2005年11月17日 20:02

>いとう先生
コメントありがとうございます。
よくある実務家の被害妄想(?)かも知れませんが、要綱試案のときには、支配権への影響の有無を、(簡易組織再編がそうなので)20%という基準でみるというのが、かなりセンセーショナルだった覚えがあったのですが、私の方こそミスリーディングだったみたいですね。
「支配権の移転」・・・というか、想定されるのは、支配株主がいないところに新たに支配株主を設定する場合だと思いますが(既存の支配株主は先に自分の株式を売ってしまえばいいので)、株主の意思を問うというのは合理的で、「50%以上を特定の第三者に割り当てる場合には承認を要する」というのに反対する理由は(財務的に危殆化しているような場合は別ですが)ないような気がします。
日本では、直接の規制はありませんが、倒産寸前とかいう状況でもない限りは、さすがに不公正発行該当性が推認されたり、あるいは(コントロール・プレミアムを付さない場合には)有利発行の問題も出てくるような・・・
なので、争いがあるとすれば、「支配権の設定までいかないけど、支配権争奪に影響を与え得る数量」(例えば20%~30%あたり)とか、業務提携目的という場合じゃないかと思うのですが、NYSEでは、この辺りどう扱っているのか気になります。
あと、優先株式が(c)項から抜かれているのも気になっていて・・・そういえば、Polaroid事件をはじめ、White Squire関係の事件では割当てに議決権付優先株式が使われるのも、この規則との関係もあるかもという気もしています。

Posted by 47th : 2005年11月17日 23:58

やはり実務家の方にとっては、「支配権への影響の有無を、(簡易組織再編がそうなので)20%という基準でみる」というのは、「かなりセンセーショナル」なようですね。実は、私が論文で書いたのは、まさに、「支配権への影響の有無を、(簡易組織再編がそうなので)20%という基準でみる」こともありうるんじゃないか、ということでした。

このような結論に至った理屈は、次のようなものです。(1)なぜ合併の存続会社において株主総会決議を要するのか?=合併新株の発行によって(合併後の)存続会社の支配権が移転する可能性があるからではないのか(←こういう見方をするために、アメリカの何パターンかの制定法・判例・ALIの提案・NYSEの規則・Eisenberg先生の『The Structure of the Corporation』を調べました)、(2)そうだとすれば、簡易合併の要件としては、5%ではなく20%あたりの数値を設定すべきではないか(当時は5%でしたので)、(3)「支配権が移転する可能性」という点では、合併新株の発行も(通常の)新株の大量発行も変わらず、したがって、合併の場合と同様の要件で、総会決議を要するという法制もありうるのではないか。

…いずれにせよ、こんな考え方は、実務家には受け入れがたいのでしょうね。私は、「実務家に受け入れがたい提案をするのも学者の大事な仕事(さもなければ学者は不要)」という信念からこういう論文を書いていますので、そのあたりはご容赦いただければ…

Posted by いとうY : 2005年11月18日 02:43

>いとう先生
実務家的にいうと、組織再編と新株発行では、特に事業再生の場面でニューマネーやDESの対価として大量の新株発行が必要になる場合があること(場面の違い)や、シリーズ調達や異なる地域での同時並行的募集が可能なため、「20%」といった一定のthresholdによる規制を本気で規制を避けようとすればシリーズを複数回に分けるなどの手法で回避し得るといった辺りが抵抗感の源にあるのだと思います。もちろん、「お客様への配慮」という部分もあるのですが^^;、公開買付けの1/3ルールなども含め、実務家の抵抗感が強い規制というのは、意外と「正直者が馬鹿をみる」というか「規制の穴を意図的に狙う者にはやさしくなっている一方で、本当に正当な事業目的がある取引のコストを高めてしまう」という一種の逆選択(本当に規制すべき者(規制をかいぐぐろうとする意図を持つ者)は網にひっかからず、まじめな者(規制がなくても変なことはしない人)だけが規制の影響を受けてしまう)状況のこともあります。
その意味で、NYSEのルールのような立て付け方は、こうした実務家のコンサーンをうまく調和させた形になっていて、個人的には、この方向というのは日本でもあり得るような気がします(ただ、法律なのか取引所ルールなのかという部分を含め、チューニングは必要になりそうですが)。
こういう理念と実務的なfeasibilityの調和という部分で、学者の方と実務家のコミュニケーションはこれまで以上に大切になっていくんじゃないかと思います。直接お目にかかって議論できれば一番いいんでしょうが、今回のようにいとう先生とコメント欄を通じて議論ができるのを見ていて、ブログもそうしたツールの一つとして意義があるのかなという気がしました。
今後とも、またいろいろと教えて頂ければ幸いです。

Posted by 47th : 2005年11月18日 09:22

私のぼんやりしたコメントに、大変丁寧にお答えくださって、ありがとうございました。「実務」の経験の全くない私にとっては、47thさんのようにそのあたりの感覚を教えてくださる方が存在することは大変貴重なことです。今後ともよろしくお願いします。

Posted by いとうY : 2005年11月18日 13:58

このテーマ懐かしく拝読しました。そういえば昔いとうY先生とメールでやり取りしたっけなあ・・。 と思っていたところ、読み進むと誰かの名前が出ていたり、いとうY先生の書き込みがあったりと、個人的には笑ってしまいました(他意はありません)。

経済的な効果で総会決議の要否を区別していくのか、そうであれば「経済的な効果」とは何なのか、それとも法形式と経済的な効果を組み合わせて総会決議の要否を決めていくのか、そうだとすると法形式による結論の違いに対してどのような説明をすることになるのか。私は結論を出しかねていますが、買収防衛策についての議論や実務が落ち着いてくるならば(3,4年先?)、その暁には私は日本でも第三者割当についてもう少し厳しいルールを採用するべきではないか、というように漠然と考えております。

Posted by けんけん : 2005年11月19日 03:29

>けんけん先生
コメントありがとうございます。
支配権の移動について株主の関与をどういう形で認めるのか(事前・事後、多数決承認・単独株主権・少数株主権、market out的な考え方の有無)というのは、一瞬、自分の中で考えがまとまっても、また、次の瞬間には悩み始めてしまうところです。
私も、実務家の観点から、引き続き色々と考えていきたいと思っていますので、今後とも宜しくお願いいたします。

Posted by 47th : 2005年11月19日 11:48

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
このブログをご覧になる際の注意点や管理人の氏素性についてはAbout This Blogご覧下さい。