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「黄金株」原則禁止?

東証、「黄金株」を原則禁止・違反なら上場廃止も (NIKKEI NET)

東京証券取引所は上場企業が特定株主に株主総会での拒否権を与える「黄金株」を導入することを原則として禁止する方針を固めた。・・・黄金株は来年施行の会社法で発行しやすくなるが、特定の株主だけを優遇するため「投資家平等の原則に反する」と東証はみている。企業価値の向上につながる買収まで排除するなど自由な投資を制約する面もあるとみて、上場企業の導入を原則禁止する方針を打ち出した。

前にちょっと冗談めかして、黄金株は、既に上場企業に存在するという話をしたのですが、あれは要するに「拒否権」ということだけ採りだしたら、一般に出ている無議決権優先株だって「黄金株」になっちゃうので、もし規制するのであれば定義をどうするかが非常に大切だということを言いたかったのですが・・・禁止ということになると、ますます、「黄金株」が何を指しているのかということが問題となりそうです。


「拒否権」の活用法

そもそも、種類株式の拒否権(法定種類株主総会)は(たぶん)私の生まれる前から、定款で任意に付与する拒否権(任意種類株主総会)は4年前の平成13年改正で拒否権付種類株式は導入されているので、今回の会社法現代化で可能になったわけではないんですが、元々種類株式というのは、普通株式とは違う形で会社に対してステークスを持っているので、そのステークスのあり方に応じた議決権の設計を認めようということで始まったもののはずです。
実際に、私自身が検討した中でも、(実際には採用しませんでしたが)次のような拒否権の使い方を考えたりしたことがあります。

  • トラッキング・ストック
    これも、つい先日、ソニーのトラッキング・ストックが終了したことについてエントリーを立てたのですが、こうした子会社や事業部門の業績とトラックする株式では、どうやって発行後に普通株式の保有者への利益の移転を防止するのかというのが一つの課題となります。これはトラッキング・ストックの保有者にとっても深刻な問題ですが、発行する側から見ても、この機会主義的行動の危険性があると、新たに発行するトラッキング・ストックの価格がその分ディスカウントされてしまうので、好ましくありません。
    このときに、単にトラッキング・ストックに普通株式と同じ議決権を与えるだけでは、トラッキング・ストックの発行数が普通株式に比べて著しく少ない場合には、余り意味はありません。そこで、例えば、子会社から親会社への配当、親子会社間の一定額以上の規模の取引や子会社の取締役の選任に関してトラッキング・ストックに拒否権を付与しておくといった手法が考えられます。
  • 事業再生の文脈でのエクイティ・ファイナンス
    もう一つ、拒否権が力を発揮する可能性があるのが、事業再生の文脈です。事業再生ではDESやニューマネーのファイナンスに株式が使われることがありますが、この場合も、機会主義的行動をどう防ぐかは悩ましい問題です。
    現在の実務では、再建のメインスポンサーが、普通株式の過半数を握った上で、その他のスポンサーに優先株式や劣後株式を発行し、コントロールについては株主間契約で規定するのが一般的な使い方だと思いますが、メイン・スポンサーが銀行の場合には(大分緩和されてきましたが)銀行法や独禁法上の持株制限があったり、株牛間契約の違反があった場合の救済が難しいという問題があって、なかなかうまくいかないこともあります。
    この場合も、こうしたスポンサーのステークスに応じて、配当や新規借入に対する拒否権を設定したりすることで、こうした問題を回避できる場合があり得ます。

理論的に考えると、拒否権株式の問題点は、把握している経済的利益とコントロールの割合が一致しないために、株主間でのエージェンシー・コストが生じるところにあるわけですが、そもそも把握している経済的価値が異なる場合には、逆に拒否権が株主間のエージェンシー・コストを緩和するツールとして機能するわけで、むしろ実質的な「投資家平等」を達成することができるわけです。
もっといえば、例えば、敵対的買収の文脈で買収者が人的資源を毀損するんじゃないかという懸念がある場合には、例えば、買収後一定期間に限って、重要な会社財産の売却やリストラなどについて拒否権をもった株式を従業員代表に割り当てるような形で、買収による株主価値の向上と従業員へのコミットメントの維持を両立するというように、もっと広い文脈でのステークスホルダー間の利害調整のツールとして用いることすら考えられます。
もちろん、東証さんが指摘するように拒否権付株式が経営陣の自己保身に使われることもあるかも知れません。
要は、拒否権というのは、実質的に「投資家平等」を達成するためのツールにもなり得るし、そうならない場合もあり得るわけで、ケース・バイ・ケースでしか合理性は判断できません。また、たとえ、一義的な目的が、実質的な「投資家平等」のものであっても、副作用として、敵対的買収を阻害する可能性はあるわけで、結局は、そうした主たる目的と副作用のバランスでしか、評価はできないわけです。
東証さんが「黄金株」という言葉で、何を意味しているのか分かりませんが、単純に拒否権付株式を禁止するだけでは、拒否権付株式がもたらす、より微妙なステークスホルダー間の利害調整も不可能にしてしまいます。
この前のラブホテルの話ではありませんが、「規制」においては、「目的」そのものもさることながら、「目的」との関係で適切な「手段」を選択するというのが、より重要な場合があります。
買収防衛策に関しては、まさに、この点が問題で、目的は「不当な買収防衛を認めない」ということで簡単なのでしょうが、それを達成するための「手段」として、「特定の買収防衛策を禁止」することが適切とは限りません。記事によると、東証も「一律」禁止ということではなく、「原則」禁止ということなので、「黄金株」の定義や「原則」と「例外」の枠組の中で、このバランスがうまく採られることを期待せずにはいられません。

Posted by 47th : | 11:38 | Takeover Defense : Defense Mechanism

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コメント

以前、単一銘柄原則が廃止されたときも、結局、運用ベースでは、そのルールがまだ生きているように感じたことがあります。今回も、東証の同じような考え方が出ているように理解したのですが、どうなんですかね。(ところで最近お会いしませんね。ぼちぼち飲みますか、といっても、忙しいシーズンに突入したので、12月になってしまいますか。)

Posted by ぶらっくふぃーるず : 2005年11月19日 14:24

コメントとTBありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。

Posted by 日高正樹税理士事務所 : 2005年11月19日 19:16

 
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