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「開発」(あるいは「発展」)って何だろう? (おまけ)

今日の授業のゲスト・スピーカーWilliam Easterly教授の話から興味深かった点をいくつかメモがわりに。

経済成長と分配問題

前に書いたようにEasterlyの基本的な立場は、一人当たりGDP(GNP)の成長であり、余り国内の分配のあり方には立ち入らないというものでしたが、やはり質疑の中でもここに相当焦点が当たりました。

Easterlyによれば、経済成長にかかわらず、国内の所得分配のあり方は長期的に見てもほとんど変化しないので、やはり経済成長が重要とのこと。

ここまでは著作に書いているところからも予想できた答えです。ただ、他方で、Easterlyは経済成長の鍵である技術発展のためには政府の積極的な関与が必要であるということも言っており、さらに経済成長においては歴史的な経緯を無視できないと強調していることから、私の中では、勝手に技術発展を促すという程度においては既存の所得の再分配に肯定的なのではないかと思っていました。

歴史的産物としての不平等と資源再分配

この点について、歴史的な経緯から所有権の配分がいびつになっているような国においては、例えば日本における戦後の農地解放のように国家権力による資源の再分配が必要ではないかという問いがでてきたのに対して、Easterlyは言葉を選びながらも、その点に政府が介入することは人々の予測可能性を奪ったり、再分配の過程そのものにおいて新たな歪みが生じたりといった可能性もあり望ましくないと説きます。

彼は、技術の発展や経済成長自体が自然と社会の資源分配のあり方を是正するといいます。例えば、技術の発展により生産における土地の重要性が低くなれば、歴史的経緯からつくりだされた土地所有権の不公正の問題は長期的にみれば是正されると・・・

民主主義と経済発展

もう一つ意外だったのは、彼の著作を見る限りは、Easterlyはセンとは違って経済発展と政治的なあり方をダイレクトに結びつけないように思ったのですが、今日の話の中では、かなり強い調子で民主主義は経済発展にとって望ましいという見方を展開していました。

ポイントは、民主主義は国民に対するアカウンタビリティを増し、また、極端な政府が誕生するのを防ぐというものです。もっとも、単に民主主義というだけではだめで、彼は少数者の保護がなされているかどうかが必要であって、単なる多数決主義であってはいけないとも言います。
個人的には、単なる多数決主義と少数者保護を有する民主主義というのを、きれいに区別できるか若干疑問もあるところです・・・などと思っていたら、パレスチナのハマス勝利に絡めて例のごとくBeckerとPosnerが極めてプラグマティックな民主主義に対する見方を示しているところが、何かタイミング的にはまっていて一人でうけてました。

アカウンタビリティとモニタリング

最後に(実際の順序としては最初に話していたのですが)、Easterlyの話で最も印象深かったのが、開発分野におけるアカウンタビリティの不足とモニタリングの難しさです。
開発における成果を適切に評価するための物差しがないことと、援助国や援助機関のアカウンタビリティの欠如が、経済成長をもたらさない援助をもたらしている・・・そのために、これまでに3.2兆ドルの援助が費やされながら、未だにたった4ドルの清潔な布団?(自信なし)があれば防げるマラリヤによって死亡する子供が後を絶たないという状況が起きている、と。

著作からは神経質な学者肌の人を想像していたのですが、実際は中学校の国語の先生(分かるかなぁ)という感じの親しみを感じさせる人で、学生の質問にジョークを交えながらも、真摯に応えていたのが印象的でした。


Posted by 47th : | 15:02 | Law & Development

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トラックバック時刻: 2006年01月31日 08:58

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トラックバック時刻: 2006年02月04日 08:18

コメント

有効需要の申告のためのみのコメントです^^。私がもっとナイーブでウブだった大学生時代、この手の開発経済的な仕組みを取り上げ、ゼミでとりあげたことがあります。ナイーブすぎてケチョンケチョンに批判されたのですが、ナイーブ人生のスタートとしては今でもあれでよかったのではないかと思うところです。また楽しみにしています。

Posted by neon98 : 2006年01月30日 19:24

コメントありがとうございます^^
私の場合、少々人格が分裂気味なので、ナイーブな目標を掲げつつ、論理展開はドライだったりしますが、今後ともおつきあいいただければ幸いです^^
っていうか、近々飲みましょう。ホントに。

Posted by 47th : 2006年01月30日 19:47

シリーズとっても面白かったです。意外な言及も多かったですよねぇ(特に民主主義のくだり)。TB頂いていきます。
私も需要申告させてください!また楽しみにしています。

Posted by そらまめRRZ : 2006年01月31日 09:08

私も需要申告を。
エントリを拝見して思い出したのがニジェールの飢餓についてのエコノミストの記事(Vol 376, No. 8440 (2005/08/20)、私は山形浩生さんのサイトの翻訳(http://cruel.org/economist/famine.html)で読んだのですが)での飢餓の原因は食糧不足でなく購買力不足にあるという分析。
貧困の解決には、開発・経済成長という中長期的な視点と共に、今ある貧困に対しては国際貿易論的な視点も重要なんじゃないかと思います。
上の記事では「食料を巡る市場の支配をめぐって、一集団が繁栄するが故に別の集団が苦しむことが生じ、そして最後尾の人々は悪魔の餌食となる」というセン教授の教授の言葉が引用されています。

Posted by go2c : 2006年01月31日 10:08

>そらまめRRZさん
法律家との視点の違いも何となく伝わってきて、面白かったですね^^
私はこの分野については、まだ本当に勉強し始めたばかりなので、勘違いとかあるかも知れませんので、何かおかしい点があればご指摘下さい。
>go2cさん
今回のご紹介したEasterlyも、経済成長における政府の役割の重大さを説く一方で「悪い政府」が成長を妨げるという点も指摘しています。「悪い政府」の典型の一つが社会の一部の層のための外貨規制・貿易規制であり、仰るように国際貿易論的な視点も重要だと思います。
その辺りについても、いずれ緑の革命の意味などに絡めて考えてみたいところです。

Posted by 47th : 2006年01月31日 13:40

47thさんの思惑が外れてか、思惑通りか、全然話題が飛んでも、興味深く読んでしまいました。

数年前に少し興味を持ちながら、そのままになっていた分野なので、この機会にちょっと勉強したくなりました。
(Easterlyではなく、アマルティア・センの本が読みたくなって買ってしまいましたが。。。)

そのうちまた続編を期待しています。

Posted by K : 2006年02月02日 09:01

>Kさん
楽しんで頂けて幸いです^^
開発分野の話は、アメリカでは、外の問題であると同時に自分たち自身の問題でもあるという認識があります。
私も、日本のビジネスに携わる人間の目からみて、「自分事」として考える視点を提供できたらと思っていますので、よければこれからも遊びにいらして下さい^^

Posted by 47th : 2006年02月03日 17:01

初めまして。
久々に開発経済学について頭を使わせてもらいました。
学生時代、Development and Democracyというタイトルで、数カ国の学生とディスカッションしたことがあるのですが(今から思えば、大層なテーマで議論したものです)、マクロの経済発展か所得の再分配かという所が争点の一つになったように記憶しています。ジニ係数も出てきたような気が・・・
社会人になって、すっかりそういったことに頭を使わなくなっていたのですが、久しぶりに拝読してスイッチが入った感じです。基本的な用語の意味すら忘れていたので、記事内容を理解するだけでも時間がかかりましたが。
いいブログに出会えたと、喜んでいます。これからも読み応えのある記事をお願いします。

Posted by dunkel : 2006年02月04日 08:16

>dunkelさん
はじめまして。
私の本職は、ライブドアじゃありませんが、株式交換やら優先株式の発行やらの「錬金術」系(笑)なんですが、そういう仕事をしている時から頭のどこかにいつも、こういうことが世の中の幸せとどう関係するんだろうという漠然とした思いがあって、留学を機に勉強し始めたところです。
誤解や偏った見方などもしているかも知れませんので、もし何かお気づきのことがあれば、またコメント頂けると幸いです。

Posted by 47th : 2006年02月04日 20:23

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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