書くネタはたくさんあるのに、書く時間がないという苦しい(?)状態が続いています・・・
とりあえず忙しさの原因であったゼミでのグループ・プレゼンテーションが終了。
マイクロファイナンス(microfinance)の専門家とのQ&Aセッションのリードを担当することになっていて、その準備のために論文を読んだり、頭を整理したりしなくてはいけなかったのですが、まあ、実際にQ&Aセクションに入ると、積極的な学生は自分の担当でなくてもガンガン発言するので、十分に時間はとれなかったんですが・・・(そうはいっても、貴重な質問の時間を結構消費したという面もあったりするんですが・・・英語でM&A以外の話をするって難しい・・・)
というわけで、ゼミで専門家に聞けなかった鬱憤を含めて、せっかくなので、ブログ上で色々と勉強したことを吐き出しておこうということで、マイクロファイナンス雑考シリーズの始まりです。
マイクロファイナンスって何?
英語版のWilipediaにはmicrofinanceという項目で、結構充実した解説があるのですが、残念ながら日本版では「マイクロファイナンス」「マイクロクレジット」の何れでもヒットしませんでしたので、ここから始めてみましょう。(ちなみに、Wikipediaの該当頁は一応紹介しましたが、この記載をどこまで信用していいか分からないので、以下の記述においては全く引用していません。このソースと記述の信頼性という問題はWikipediaの一つの課題だと思っていて法学版を作る場合にはその問題が大きくなりそうな気がしているんですが、この辺りはまた別の機会に)
マイクロファイナンスという言葉は、厳密な定義を持っているわけではありませんが、大まかにいうと貧困・低所得の家計と彼らによって運営されている極めて小規模な企業に対する金融サービスの総称ということができます。この金融サービスの中で一番有名なのは貸付(マイクロクレジット)ですが、最近は預金・送金サービス、保険の提供なんかも行われるようになっています。
もう少し、分かりやすい言い方でいえば、普通の銀行や保険会社が相手にしない貧困・低所得者層に対していろいろな金融サービスを提供する活動ということです(・・・って、あんまり分かりやすくなってないか)。
もっとも、銀行がないということと低所得者層が金融サービスを受けられないということはイコールではありません。知人・親類間での貸借や高利貸しといった存在もあれば、信用組合のような互助組織も存在するわけで、単にマイクロファイナンスが提供されるようになったというだけでは、社会的にみて意味はありません。
マイクロクレジット(貸付)のメカニズム~グループ・レンディング
顧客が貧困・低所得者層だということは、直観的にみるとデフォルト・リスクが高いとも思われるのですが、一般に返済率は90%を超えるなど極めて高いことが知られています。このメカニズムの一つがグループ・レンディング(Group-Lending)です。
マイクロクレジットの起源であるグラミン銀行が初期に用いていた典型的なモデルは次のようなものです。
最初に5人のグループのうちの2人に貸付を行います。もし、この貸付の最初の返済が予定通りいけば、4~6週間後、別の2人のメンバーに貸付を行います。その後、更に4~6週間後に、最後の1人、グループのリーダーに貸付を行う・・・このサイクルが繰り返されるごとに、与信枠は拡大されていき、そのうちに家を建てたり、子供を大学にやるのに十分な資金の借入を行うこともできるようになるというものです。
この仕組みには、大きく分けて次の2つのメリットがあると言われます。
- そもそもグループを組むときに、返済を行うことが可能な人を相互に選ぶことで、「よい借り手」と「悪い借り手」を選別することが可能になる(peer selection)。
- 貸付が開始された後も、メンバーがきちんと返済するかどうかを、他のメンバーが監視することによって、実際には返済能力があるのに、意図的に返済がなされない事態(strategic defaults)の発生を防ぐことが可能となる(peer monitoring)。
こうしたグループ・レンディングの仕組みが機能するための前提は、貸し手よりもグループ・メンバーの方が借り手に関する情報を多く持っているということですが、これは必ずしも当てはまるとは限りません。例えば、家族単位で生活が成り立っていて隣人といっても徒歩で1時間ぐらいの距離が必要であったり、逆に都市で人口密集度は高くてもお互いの生活については余り情報を持っていない場合もあり得ます。また、普段の生活での人柄は分かっても、元手をベースに利子相当の付加価値を生み出す才覚があるかは分かりません。
より端的にいえば、グループ・レンディングの仕組みは、情報の非対称性を解消するためのコストを貸し手からグループ・メンバーに移転するスキームであって、貸し手側のコストの減少とメンバー側に発生するコストの増加を勘案しなければ、必ずしも全体的な効率性をもたらすとは限らないわけです。
逆に互いに関する情報を密接に持っていることによって、グループ単位でのモラル・ハザードが生じる可能性もあります。グループが密接な関係を有していて、個人個人のペイオフよりもグループ全体としてのペイオフが行動原理になる場合には、意図的なデフォルトがグループ全体のペイオフを向上させる場合があり得ます。この場合には、peer monitoringは、必ずしも効率的に機能するとは限りません。
また、グループ・レンディングは、必然的にグループを組めない借り手を排除する効果を持ちます。
例えば、ブログはがんがん書くくせに、face-to-faceになると寡黙で、話し出すともう止まらない、なんていという表現からは一番遠いところにいる私なんかは、一緒にグループを組んでくれる人がいなくて借りることができないかも知れません(涙)
逆もまた然りで、私のように「株なんてとんでもない。実質金利プラスなんだから預金、預金」というデフレの片棒を担いでいるリスク回避者は、「自分のことですら、ままならないのに、人のデフォルトリスクなんて引き受けられないよ」と、たとえ誘われてもグループに入るのをためらってしまうかも知れません(他人のデフォルトリスクを引き受けることで、リスク回避者にとっては魅力が薄れるという話です)。
また、単純に「あの人はいい人なんだけど、本当に貧乏だからねぇ」と、周りの人に思われ誘われないということは、実は一番どん底で貧困にあえいでいる人にとっては敷居が高いということになります。マイクロクレジットの一つの目的が「貧困の撲滅」にあるとすると、この状況は本来の目的からは必ずしも望ましくありません。
最後に、単純にグループ・レンディングは、デフォルトが起きた場合のサンクションが、通常の貸付よりも遙かに厳しい結果となる可能性を持っています。日本でも保証人を用いた与信について指摘されますが、デフォルトした場合に、経済的な基盤だけでなく、社会的な基盤にも大きなダメージが残ると、そこからの再起は困難になります。
貧困層にとっては社会的基盤というのは最低限の生存のためのボトムラインであり、この断絶は生命にも影響を及ぼす可能性があるわけで、このダウンサイドのリスクの大きさは、やはりリスク回避的な傾向のある借り手をマイクロクレジットから遠ざける可能性も持っています。
というわけで、グループ・レンディングへの依存度を低めつつ、デフォルト率を低水準に維持するためのメカニズムが既に考案され、実施に移されています。次回は、そうした代替的メカニズムと、その長所短所の簡単な紹介です。
参考文献リスト
とりあえずネットで無料で手に入って、役に立ちそうなリソースのリストです(全部英語という点は、ご愛敬ということで^^)
Posted by 47th : | 07:20 PM