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「違法」駐車のコストとベネフィット

(追記あり)

駐禁、車離れたら即摘発 6月から民間委託 (asahi.com)

道路を「仕事場」とする業界の悩みは深い。
 ヤマト運輸は、車を使わない集配システムに切り替え始めている。首都圏を中心に「サテライトセンター」を設け、半径400メートル圏内を台車やリヤカー付き自転車で配達する。
 コストと排ガスを抑えるための試みが違法駐車対策にもなりそうだ。
 違反すれば、反則金の支払いに加え、手続きに時間をとられて配送計画が崩れる。違反を重ねれば、今後は車両の使用制限を受ける恐れもある。
 同社は昨年までに、24時間営業のコイン駐車場と法人契約を結んだ。
 「高層マンションでエレベーターを待ってるだけでも、5分を超えたりしますから」
 その場合、取り締まられる可能性が高い。同社は今後、取り扱い契約を結んでいるコンビニや酒屋などに駐車場の利用を依頼するという。

・・・ということで、何だかエイプリル・フールのネタかと思ってしまう話です。

そもそも、駐車禁止も含めて道路に関するさまざまな法規制は、「道路」という資源を最適に利用するためのツールのはずです。そして、「道路」の有効利用の仕方にはいろいろなやり方が考えられますが、家庭レベルでの物流、つまり宅配便や郵便をスムーズにするということも一つの目的のはずです。

駐車禁止の取り締まりを厳格化・厳罰化すれば、確かに駐車違反はなくなり、「道路の外観」はよくなるかも知れません。

でも、駐車禁止の目的は、「道路の外観」をよくすることではなく、「道路の有効利用」です。

渋滞など考えられないような平日の昼間の住宅地に、宅配の車一台も駐車できないというのは、有り体に言って資源の無駄遣いでしかありません。
もっといえば、そのためにコイン駐車場を利用しなければならないとすれば、それは運送業者に対して実質的に課税するのと同じことです。運送業者に課された税金のために生じるサービス価格の上昇とアウトプットの減少は、利用者の便益を損なうと共に、その課税はどこに行くかといえば、国庫に入るのではなく住宅地のコイン駐車場にいく・・・

という感じで、盲目的に駐車禁止の摘発を厳格化・厳罰化することは深刻な社会的な損失を生む可能性があります。政策立案者に本来求められるのは、そうした社会的な損失と得られる便益(この場合は駐車禁止の厳格化がどれだけ渋滞の解消や事故の減少に資するのか)を十分に比較すると共に、損失を最小化するための補完的な政策を立案することのはずです。

この新聞記事だけで断定的な判断を下すことはできませんが、こうした政策立案における基本的なコスト・ベネフィット判断や、コストを最小化するための検討がきちんとなされたのかは少し疑わしいところ。


ちなみに、NYでは商業車両の短時間の路上駐車は認められていますし、一般車両についても道路によって、あるいは同じ道路でも時間帯や曜日によっ て、全面駐車禁止、パーキングチケットによる駐車許可、全面駐車許可という区分けをしており、「道路」の持つ多面的な機能を見た上で、その有効利用を図ろ うとしている印象があります。まあ、路上駐車のおかげで渋滞が起きたりということもあるので、結果として効率的な利用状況を達成しているかどうかは議論の 余地がありますが、少なくとも、そうしたコスト・ベネフィット分析に対する意識を感じるところです。

・・・というわけで、ちょっと脊髄反射的ですが、政策立案能力の貧しさは多くの人を不幸にする可能性があるよね、というお話でした。

(追記)

Apricotさんに教えてもらった日通総研のレポートが参考になりそうですので、サマリーを引用させてもらいます。

・本年6月、改正道路交通法が施行され、違法駐車の取締り強化に向けて放置車両に対する使用者責任の拡充や放置車両取締り関係業務の民間委託が実施される。
・東京都を例にとると、違法駐車台数に占める営業用トラック(事業用貨物車)の比率は11.2%に過ぎず、乗用車(56.6%)、自家用トラック (32.3%)の比率が圧倒的に高くなっているが、都市部において貨物車が駐車できるスペースが絶対的に不足していることから、同法の運用いかんによって は、都市の営みに不可欠なトラックによる集配活動が大きな制約を受けるなど多くの問題につながることが懸念される。
・都市内物流対策については、昨年11月に閣議決定された「総合物流施策大綱」においてハード、ソフト両面からの対策の必要性が取り上げられている。同法の 改正はこの施策大綱の方向に沿ったものであるが、実施にあたってはハード・ソフト相まった総合的かつ整合性ある都市内物流対策としてきめ細かく取り組んで いく必要がある
・トラック事業者においては、今回の法改正の趣旨をドライバーに対し十分徹底を図るとともに無秩序な路上駐車とならないようさまざまな努力、工夫が求められ る。行政側においては、トラックベイ・パーキングメーターなどの都市内インフラ整備の促進・加速化の努力、貨物車の業務の公共的・社会的機能を十分勘案し た運用が求められる。また、都市内物流問題全般に関する一般市民の理解、認識が必要であり、トラック業界、荷主企業、行政等が幅広く連携し、コンセンサス の形成に向け、努力していく必要がある。

レポート本体の中にある私の問題意識と重なる部分もメモ代わりに(下線は私の加えたものです)。

市民の日常生活は、物流活動によって支えられている。なかでも、都市内における物流活動の端末部分(貨物や荷物の配送・集荷)は、その大半がトラック輸送により行われている。一般道路における平日昼間交通量の約35%を貨物車(トラック)が占めており(国土交通省「平成11 年度道路交通センサスの概要」より)、いまやトラック輸送なしでは、我々の日常生活、ひいては我が国の産業活動や経済活動は成り立たず、都市活動も機能しない実態にある。
そもそも道路は、自動車にとって通行の場であるとともに、沿道で営まれる生活や事業とのアクセス上不可欠な駐停車が発生する。従って、都市機能を維持していくためには、その双方を両立させることが必要といえる。しかし、都市活動が拡大していくにあたり、その両立が困難になっているところに、都市内物流問題の根源がある
都市内物流対策への取り組みは、一層重要性を増している。昨年11 月に閣議決定された「総合物流施策大綱2005-2009」の「今後推進すべき具体的な物流施策」においても「貨物交通マネジメントの推進」として「都市内物流の改善」が指摘されている。そのためには、ハード・ソフト両面からの対策が必要であり、路上荷捌き駐車施設等の設置と適切な運用、きめ細かな駐車規制、違法駐車の取締り等の施策が具体的に示されている。
今回の道路交通法の改正は、この「物流施策大綱」の方向に沿った具体策の一環といえるが、同法の運用行かんによっては都市内の生活や平常の営みに不可欠な貨物車(トラック)の活動が大きな制約を受けることになりかねない。現状のままでトラックへの取締まりだけが強化されれば、トラックと建物の間のいわゆる「横持ち作業」の増加、長距離化、長時間化によるドライバーへの過重な負担、配送遅延、集配コストの増大等の問題点が惹起される可能性がある・・・
都市内物流の現状からすると、トラック事業者側だけの努力・工夫にも限界があることから、取締りの強化と併せて行政側からのトラックベイ・パーキングメーターなどの都市内インフラ整備の促進・加速化の努力、ハード・ソフト両面からの整合性ある対策の実施、貨物車(トラック)の業務の公共的・社会的機能を十分勘案した「除外路線」、「除外時間」、「除外業務」の設定などの具体策の工夫・実施が望まれる。なお、特に民間委託される場合は、安易な運用とならないようきめの細かい対応が求められる。
このような整合性ある対策の実施に向けては、都市内物流問題全般に関する一般市民の理解、認識が不可欠であり、トラック業界、荷主企業、行政等が幅広く連携し、コンセンサスの形成に向け、努力していく必要がある。

書いている内容は、(私から見ると)極めて真っ当なところなんですが・・・公表は2006年1月31日。
法令自体は2004年6月に成立しているところからすると、公表自体は1年半後、施行の半年前。
法令成立前を含めて、この「正論」の内容に従った働きかけが、どの程度組織的になされ、その成果はどうだったのかというところも、個人的には興味が湧いてくるポイントです。

Posted by 47th : | 00:14 | Law & Economics

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コメント

http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0001676/1/010706buturyusesakutaikou-hontai.pdf
新総合物流施策大綱に、「物流に配慮した合理的な駐車規制を実施する」と書いてあり、

http://www.nittsu.co.jp/soken/logi_r/logi_r02/
業界側も、「同法(道交法)の改正はこの施策大綱の方向に沿ったものであるが」と、
一応評価しているのがどうも実態なので、(大綱からブレイクダウンされた立法措置ということで)
まあコスト・ベネフィットは考慮されていると言えるのでは?

引用された新聞記事にも「コストと排ガスを抑えるための試みが違法駐車対策にもなりそうだ。」
と書いてあるのを信じるならば、運輸会社にとっても必ずしもコストアップという訳でもないようですし。

Posted by Apricot : 2006年04月03日 08:21

>Apricotさん
貴重な情報ありがとうございます。
日通総研のまとめが参考になりそうですので、本文の方でも引用させていただきます。

Posted by 47th : 2006年04月03日 11:31

こんにちは。
私も脊髄反射的に反応してしまったのでTBさせていただきます。
ご指摘のように厳罰化でなく駐車規制のルールに合理性があるかがポイントですね。
日本でも地域単位では色々工夫がされている問題でもあるので、この規制が議論のきっかけになればと思います。
ところで以前シドニーで民間委託業者にキップを切られた経験から言うと、(くやしいですが)やはり民営化すると効率は上がるようです。

Posted by go2c : 2006年04月03日 11:57

>go2cさん
拝見しました。
渋谷のセンター街が生まれ変わったというのは凄いですね。
こういう地域単位での知恵を活用するというのは、色々な場面でポイントとなっていくんでしょうね。
個人的には、麻布警察署から歩いてすぐの六本木通りの二重駐車の列が何故放置されているのか、今回の改正であれはどうかなるのか非常に興味があります(公権力が手の出せないものに、民間が・・・(以下自粛))

Posted by 47th : 2006年04月03日 12:20

業界側からの働きかけがわかる記事として 物流ニッポン新聞の記事が参考になると思います。
http://www.transport.jp/butsuryu/pastnews/h060203l.html
朝日新聞の記事中にもあった、各警察署単位で作られる「ガイドライン」で考慮を確保しようとしているようですね。

PSE法の「グレーゾーン」の話にも少し似てますが、ことこの駐車違反の件に関しては、地域の事情に合った対応が要求されると思いますので、このような制度運用が社会的に望ましいのかなと思います。

余談ですが、道交法はグレーゾーンの宝庫ですよね。子供に
「なぜお父さんは40キロ制限の道なのに50キロで走ってるの?」
と聞かれた時、子供にも理解できて教育的にも適切な回答って難しいです。

Posted by Apricot : 2006年04月03日 20:09

六本木のタクシーはひどいですよね。でもあれは運転手が乗っている「停車」なので取り締まれないのかと思っていたら、麻布警察署のHPを見たところ、今年の3月から六本木交差点付近は「駐停車禁止」になったようで、警察も地道に努力しているようです。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/1/azabu/kotu/kotu2.htm

apricotさんのおっしゃるとおり道交法はグレーゾーンの典型例になっていますね。東横インの社長も自分の行為をそれになぞらえて顰蹙をかっていましたし。

Posted by go2c : 2006年04月03日 21:21

>Apricotさん
おおっ。また貴重なリンクをありがとうございます。
これは伝聞なので本当かどうか分からないんですが、アメリカのどっかの州では、最高速度として具体的な数値が定められておらず、「周囲の状況に照らして合理的な範囲を超える速度」といった感じの決め方になっているところもあると聞きます。
これはこれで困りそうですが、ルールが「絶対的」な世界は却って息苦しいし、非効率ということではないでしょうか?
私はまだ子供に聞かれたことはありませんが、聞かれたら、とりあえず「何のために制限速度はあるんだろう?」というところから一緒に考えようかと思います・・・ただ、高速道路で特定の地点に近づくと突然周りの車も含めて急に制限速度を守り出す現象について尋ねられたら「大人になったら、木の陰に隠れている箱の意味が分かるようになるんだよ」とだけ答えることにしますw

Posted by 47th : 2006年04月03日 23:35

>go2cさん
ということは、六本木交差点の夜は様変わりしているということなんでしょうか?
いや、日本に帰ったときの楽しみが一つ増えました^^
ありがとうございます。

Posted by 47th : 2006年04月03日 23:37

> 渋滞など考えられないような平日の昼間の住宅地に、宅配の車一台も駐車できないというのは、有り体に言って資源の無駄遣いでしかありません。

その場合、そこが駐車禁止になっていることのほうをなんとかすべきだと思った私は筋が悪いでしょうか?

道路の有効利用ということで、おっしゃっていることと同じ方向を向いているとは思うのですが、すぐ後に「摘発を厳格化・厳罰化すること」と続いてしまっているので……。

守られない規制を作ってモラルの低下を招くくらいなら、規制しなければいいのに、というのはナイーブに過ぎる感想のような気もしますが、どんなものでしょうか。

Posted by 通りすがり : 2006年04月04日 06:24

私が子供の頃、「車についているこの機械(レーダー探知機)は何?」の質問に、回答をはぐらかされたことが、今でも記憶に鮮明です。(^_^;

そういえば、NYCでは、人口800万人に対し、年間1000万枚の駐車違反切符が切られている(東京と2桁違う!)という資料も見つけたのですが、
http://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku11/2siryou/siryou2-2.pdf
だいぶ、市民レベルでも日本と意識が違うのではないでしょうか? アメリカで駐車違反の切符を切られた知人がいるのですが、確か罰金は$10だったと言っていた様に思います。想像するに「経済合理的」に行動する市民が多いんじゃないかと思われますが・・・

Posted by Apricot : 2006年04月04日 07:30

>通りすがりさん
いえいえ、仰るとおり、そもそも駐車禁止に指定するのかどうかも含めて政策判断はなされるべきだと思います^^
守られない規制を放置すると、規制の有する抑止効果が弱まるというのも、仰るとおりで、行動経済学と法という分野でも研究されているトピックの一つです。
何れ機会があったらご紹介したいと思います。
>Apricotさん
10ドルだったかどうかは自信がないのですが、日本と違って罰金以外のペナルティ(累積で免許停止とか)はつかないという話は聞いたことがあります。
アメリカでは、そもそも「駐車違反といった経済活動に関連するものは、完璧なエンフォースメントは社会的に必ずしも望ましくなく、社会的に適度なレベルを維持するための方策をどうすべきか」といった議論が少なくとも学会レベルでは結構盛んですので、政策立案側の意識も日本とは大分違うのかも知れません。

Posted by 47th : 2006年04月04日 11:59

余計な話ですが、私の経験では、駐車違反の罰金は、マンハッタンで95ドル、NJのある町で35ドルでした。州法か条例で異なるようです。マンハッタンの時は、確か違反チケットで、期日までに罰金をチェックで郵送すれば良く(確かクレジットカード可)、不服があればxxまで申し立てよ、という内容でした。
NJの方は、一応「Complaint-Summons」で「You are hereby summoned to appear before this court」という書き出しでした。そのBoroughのMunicipal Courtに出向いて罰金を払いに行ったのですが、Municipal CourtのAdministrator曰く、「人の家の前に駐車する場合は、その家の人が警察にナンバープレートを事前に通知しておけば、駐車違反の対象とならない」とのことでした。そのAdministratorおばさんは親切な人で、「あなたの今言った事情を判事に話してみたら?多分、罰金払わなく済むと思うけど」とまで言ってくれました。私は素直に罰金を支払いましたが、厳格な規則の適用は全く考えておらず、所定の目的を達成する為に、かなり柔軟にかつうまく運用しているような感じでした(逆に考えればかなり恣意的に運用されるきらいがあるのですが)。上記は小さな町の例ですが、運用を見るかぎり、47thさんの仰っているように、政策立案側の目的意識ははっきりしていたような印象を受けました。

Posted by taghit : 2006年04月04日 23:39

>taghitさん
実体験に基づく貴重なお話ありがとうございます^^
期日までにチェックを送ればOKという辺りが、ビジネスライクでアメリカの雰囲気をあらわしているような感じですね。
何かアメリカの方が法律とモラルの峻別がはっきりしているような気がしますよね・・・モラルは宗教の領域だと思われているからでしょうか?

Posted by 47th : 2006年04月05日 18:08

 
法律・経済・時事ネタに関する「思いつき」を書き留めたものです。
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