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遅ればせながら、ソフトバンク・ヴォーダフォンについて (3)

前回からちょっと間があいてしまいました。

スキームを忘れてしまったという方のために、スキーム図を再掲します。

前回は①の100%子会社の設立と②買収資金の貸付けのところまで話しましたが、買収資金の貸付けについては共同主幹事7社が発表されています(4/4付プレスリリース)。


なぜTOBなのか?

というわけで資金調達の目途がたったところで、実際の株式取得ということになるわけですが、今回はBidCoによる公開買付けが用いられています(4/3付「BBモバイル株式会社による公開買付けの開始に関するお知らせ」)。

まず、閉鎖会社なのに、なぜTOBなのかというところですが、これは公開買付規制の対象となるのが「上場会社」ではなく、有価証券報告書提出会社になっているからです。

念のため、公開買付けについて定めた証取法27条の2第1項を確認してみましょう。

その・・・「株券等」・・・について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者による取引所有価証券市場における有価証券の売買等・・・に よる買付け等・・・以外の買付け等 は、公開買付けによらなければならない

ボーダフォンは現在は公開会社ではありませんが、現在のような株式所有状況になったのは平成17年3月末なので、今年はまだ有価証券報告書の提出義務を負っています。

ということで公開買付け規制の対象となるわけです。

もう一つのポイントは、VFJの95.7%の株式はVFが保有しているのに、更に公開買付けが必要となるというところです。
このブログでも何度か取り扱っていますが、議決権の1/3を超える株式数が取引される場合には公開買付けの実施が「強制」されます。

もっとも、公開買付けそれ自体は、株主が分散している場合には、個別に少数株主を尋ねて交渉するよりも簡便な場合がありますから、「強制」されなくても、「任意」にやる場合も考えられます。(もっとも、95%の持分を持っているのであれば、産活法の認定を得て現金を対価とした簡易株式交換をやった方が楽な場合もありますが)

価格の均一性? 

ただ、公開買付けの「強制」は、単に公開買付けを行えというだけではなく、その際の「価格」は支配株主と少数株主で「均一」でなければならないと定めています。

証取法27条の2第3項
第一項本文に規定する公開買付けによる株券等の買付け等を行う場合には、買付け等の価格・・・については、政令で定めるところにより、均一の条件によらなければならない。 

そもそも、支配株主の有する持分と少数株主の有する持分とに全く同じ価格を支払わなければならないということになると、何が起こるか・・・今回のように95%まで持っていれば、残りは5%なので大勢に影響はないかも知れません。
でも、例えば、支配株主が70%、一般株主が30%の場合には、一般株主に支払うプレミアムの大きさは取引自体の成否を決める力を持つ可能性があります・・・と、この辺りは今回の本題ではないので、そういう議論が公開買付け制度の設計にはあるんだということだけ触れておきます。

むしろ、今回の件で興味深いのは、シリーズの最初のエントリーでも触れたように、今回は支配株主であるVFに対して支払われる対価は、「実質的には」、①現金68億ポンド、②額面金額3000億円のBC優先株式と③額面金額1000億円のBCへの劣後ローン(優先株式と劣後ローンの公正価値として合計11億ポンド)、④新株予約権、のパッケージだという点です。

ところが、今回のディールでは、②と③の対価として、先にVFがBidCoに対して4000億円(公正価値評価は11億ポンドなので、この関係がちょっと分かりにくいんですが)を払い込んだ上で、それを使ってVFJ株式の公開買付けが行われる形になっているので、公開買付けの対価は現金だけで、しかも、価格は少数株主も支配株主も一緒ということになっています。
ただ、一連のスキームをみてみると、「実質的には」(・・・なんかこの「実質」とかいう話はどっかで聞いた話ですが)、少数株主が現金でキャッシュアウトされる一方で、支配株主にはパッケージでの対価が提供されていると見ることもできます。

このディールを公開買付け一段階でやろうとすると、証券取引法における対価の「均一性」の要件との抵触がダイレクトに問題となりますが、こうやってステージを分けると、「形式的には」証券取引法に触れないわけです。

ところで、②と③の発行が有利発行としてなされるのかは分かりませんが、少なくとも④の新株予約権の発行は「無償」とされています。BidCoはSBの100%子会社ですから、(税金の問題を除けば)有利発行に異議を唱える人は誰もいません。

ということは・・・こうしたLBOの場合には、いったん有利発行で買収SPCの株式を支配株主に与えておいて、株式自体は他の少数株主と同じ価格をつけるというテクニックを使えば、証券取引法における公開買付けの「強制」のうち、後者の対価平等の要請を実質的に緩和することが可能になるとも考えられます。

・・・これを、「法の趣旨の潜脱」と呼ぶのか、それとも、「現行法の枠内で合理的な取引を行うための当事者の知恵」と呼ぶかは人によって違うのかも知れませんが、仮に、支配株主と少数株主との間では「実質的にみても差をつけてはならない」とすれば、どうなるでしょう?

ストレートにいえば、(a)SBは追加でよそから3000~4000億円の資金調達をしなければならないか、(b)少数株主にもBidCoの優先株式・劣後ローン・新株予約権のパッケージを提供しなくてはならないということになり、(a)'資金調達が頓著しく困難になったり(レバレッジの高まりやモニタリングの弱まりを受けて金利が高くなる)、(b)'少数株主の存在仁より有価証券報告書の提出その他新会社の運営のコストが高まったり、転換権条項を与えることが難しくなったり・・・と、そもそもディールそのものが頓挫する可能性が高まります。

もうちょっとひねって考えてみると、先にVFの方で現金スクゥイーズ・アウトを行ってしまうという手もあります。これであれば、対価の内容が全額現金かパッケージかの差は問題とされません。ただ、公正価値ベースで対価の価値に差をつけようとすると、なお問題が出てきます。もっとも、少数株主の側で株式買取請求権を行使して裁判所に持ち込まないといけないので、最初から公開買付けをやるよりは、会社側からみると望ましいかも知れません。
ただ、Aという手法を使えば達成できる目的を、Bという手法を使う場合には禁止するというのは、単にAという制度に誘導するだけであって(法的手法間のアービトラージですね)、本質的な政策目標は達成されません。Bという手法がAという手法に比べて望ましくないという理由がない限りは、こうした法的手法間のアービトラージを積極的につくり出すことを正当化することは難しいでしょう。

あるいは、VFJの株式を持っている持株会社の株式を買い取るという形式をとるということも考えられます。日本の公開買付規制は 、形式的には、その会社の株式を持っている持株会社の株式を買い取る取引は規制していません。その意味では、持株会社を使えば、実質的に強制公開買付規制を逃れる余地というのは残っているわけです。
これもまた法的手法間のアービトラージですね。

・・・と、いろいろと話が脱線して、分かりにくくなってきたかも知れませんが、今回のLBOは、「強制公開買付制度」について、①そもそも趣旨として支配株主と少数株主に支払われる対価の平等性をどこまで追及すべきなのか、例えば、今回のようなパッケージ・ディールが少数株主に支払われる対価と平等ではないというだけで禁じられてしまうことのコストとベネフィットをどう考えるべきなのか、という、「そもそも論」と、②仮に強制公開買付制度による「価格の均一性」を貫くとしても、「実質的に」支配株主と少数株主との間で対価が異なる場合をどこまで、どうやって規制するのか、という「方法論」の両面について考える材料を与えてくれるお話だと思います。

最近、法律の立案能力ということを話題にしていますが、日本の証券取引法の現行制度のあり方や最近の法改正の方向性について、「そもそも論」と「方法論」のそれぞれの面で評価してみると興味深く読むことができるかも知れません。(続く(予定))

Posted by 47th : | 12:42 | M&A

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