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ポリゴン・ゲーム世代に別所、藤村?

私はIPの専門家ではないんですが、プロ野球ファン&ゲーマーとして何となく気になったのが、このニュース。

プロ野球選手の肖像、使用許諾権は球団側に 東京地裁(asahi.com)

ゲームソフトやカードでのプロ野球選手の氏名や写真の使用許諾を選手側ではなく球団側が行っていることの是非が争われた訴訟の判決が1日、東京地裁 であった。高部真規子裁判長は「許諾権限は球団側にある」と判断。権限が球団側にないことの確認を求めた選手側の請求を棄却した・・・
各球団と選手が結ぶ統一契約書では「球団が指示した写真撮影などに関する肖像権は球団に属し、球団が宣伝目的のため、いかなる方法でそ れらを利用しても異議を申し立てない」としている。選手側は「宣伝目的」は「広告宣伝目的」だけで、「商品化目的」は含まないと主張した。
判決は、統一契約書は51年に米大リーグを参考に作られ、「パブリシティー」(氏名や肖像が持つ経済的価値を独占的に支配する財産的権 利)を「宣伝」と訳した経緯や、それ以前にも別所毅彦選手(巨人)のブロマイドや、藤村富美男選手(阪神)らの氏名や肖像を使用した玩具などで球団などが 許諾していた事情を指摘。「契約書もそうした慣行をもとに制定されたと考えられる」と述べた。  そして「宣伝目的」について「広く球団、プロ野球の知名度向上に役立てる目的」と定義。カードやソフトでの利用はそれに合致し、球団が許諾権を持つと結論づけた。

ご存じない人のために少しだけ解説を加えると、プロ野球選手のブロマイドや最近のリアル系野球ゲームでは選手の画像というのが使われるわけですが、このときにブロマイドの販売会社やゲームメーカーは誰から許諾をもらえばいいのかというお話で、球団からライセンスを受ければいいのか、それとも選手なのかという話です。

既に判決全文も裁判所のHPで公開されているのですが、当事者目録などが入っているとはいえPDFで120頁・・・で、全部読むのはきついわけですが、何が気になったかといえば、新聞記事で述べられているような理由付けの仕方です。

私の印象になりますが、肖像権に関する権利の所在が深刻化してきたのは、 巨大産業となったテレビゲームの人気コンテンツの一つとしてリアル系野球ゲームが普及したことと、球団のブランドを離れて選手個人で顧客誘引力を持つイチローのような選手が現れて、選手の肖像権が大きな経済的価値を有するようになってからという気がするわけで・・・そうすると、早くても90年代半ば辺りではないでしょうか。

こういう新しい問題を解決しようとするときに、そもそもコンピュータ・ゲームどころかカラー・テレビすらなかった時代の統一契約書ドラフトの際の経緯や別所、藤村の話を持ち出すのに、皆さんは違和感を感じられないでしょうか?


ただ、新聞記事によると、争点は統一契約書の規定の解釈だったということなので、そうだとすれば契約起草時の解釈やその後の運用などから「当事者の合理的意思」を認定するという手法そのものは、法的なレトリックとしては、オーソドックスな手法です。

にもかかわらず違和感を感じるのは、契約成立時と紛争発生時点において当事者間の利益やリスクの認識に大きな変化がないという「暗黙の前提」が崩れているにもかかわらず、それがそのまま用いられてしまっているからのような気がします。

契約条項の解釈における伝統的な法的レトリックというのは、「当初合意がされていたのに、後になって都合が悪くなった当事者が『そんなつもりではなかった』という言い訳をするのを封じる」という文脈では、それなりに有効ですし、多くの紛争の実態というのは、そうした「過去を遡ること」、つまり「事実認定」によって解決することが可能です。

こうした「過去を遡ること」に関しては法律家というのは非常に多くのレトリックを持っていますし、その使い方も巧みなわけですが、「過去を遡ること」では解決できない事案に対しては意外なほどにレトリックが乏しかったりします。

テレビゲーム産業の発展やプロ野球選手個人のCM出演の増加によって、選手個人の肖像権がそれ自体として大きな経済的価値を持つという事案は、少なくとも統一契約書の策定時点では予期でなかった状況の変化のはずであり、今回の紛争の本質は、そうした状況の中での肖像権という権利の配分問題だったんではないでしょうか?

全体の効率性という観点からいえば肖像権に関する所期の権利配分をどうすることが取引費用の削減に資するか、更には、インセンティブという観点にどうした影響を及ぼすかという観点から検討されるべき問題であり、結論が何れに傾くにせよ、そのロジックは検証可能です。

この判決では、最後に次のような一文があります。

なお,長年にわたって変更されていない本件契約条項は,時代に即して再検討する余地のあるものであり,また,分配金についても各球団と選手らが協議することにより明確な定めを設ける必要があることを付言する。

しかし、肖像権は球団側にあるという形で、一旦法的な権利が画定されれば、選手側が他の譲歩をしない限り(その価格を支払わない限り)、球団側に再交渉のインセンティブは生じません。
この一文と合わせて、何だか伝統的な法的レトリックの限界の一端を見たような気がしたので、ちょこっと感想まででした。

Posted by 47th : | 22:05 | Law & Economics

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コメント

プロ選手の肖像権についてですが、
アメリカの場合、4大メジャースポーツでは、チームユニフォームを着た状態で撮影されたもののパブリシティ権は原則チームやリーグ側が保有、ユニフォーム以外の場合は選手自身が持つ、という契約だったと思います。

ただ、CMその他での露出を見ていると、日本と違って選手会が強力なせいか、ユニフォーム姿についてもおおむね選手側の意向に沿って許諾が行われているように見えます。

Posted by とむけん : 2006年08月02日 04:47

ごぶさたしてます。
となると、沖原のように期中にトレードされた選手についての扱いは面倒ですね。
私はゲームには詳しくないのですが、「200X年1月1日時点」などというdisclaimerがはいっているのでしょうか。
またサッカーでは「チームを育てる」というようなのもあるようですが、ゲームが進化してトレードが可能になると(もうなってる?)選手とチームの関連性もなりますよね(初期設定が権利のある球団にあればいいのかな?)
そうなると定岡(弟)のように「巨人のユニフォームしか着たくない」という選手の権利(?)は保護されるんですかねぇ・・・

Posted by go2c : 2006年08月03日 18:57

話題とは関係ありませんが、多分ここに書き込むのが一番連絡とりやすいと思うので。木曜日にサンフランシスコ入りしましたが、寒いのにびっくりしました。本日は下見を兼ねて学生証とOn Campus Housingの鍵を入手し、明日、いよいよパロアルトに本格移動です。なかなか素敵なところですよ。

Posted by taka-mojito : 2006年08月05日 04:01

>とむけんさん
ありがとうございます。勉強になります。
アメリカでは、選手会とは別に個々の選手の力も強そうですし、色々と権利関係も複雑になっていそうですね。
>go2cさん
ゲームのパッケージには、確か基準時が明らかにされていたと思います。
昔は、発売された頃にトレードなんかで選手構成が変わっていて、何でデータの更新ができなんだ!と思ったんですが、後に、権利関係の問題があって、最新データにできないこともあると知った次第です。
実は、ゲーム関係の契約はトリビア的に面白い話があるんですが、書けないんですよね(笑)
選手の権利については、確かに、そのうち選手個々人の希望との抵触という話も出てくるかも知れませんね。
>taka-mojitoさん
ようこそStatesへ(笑)
また、メールで連絡します。では。

Posted by 47th : 2006年08月07日 23:56

 
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