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悪法への挑戦と戦略

別に医療ネタを続けようと意図しているわけではないんですが、やはり関心を惹いたのはこのニュース。

助産行為:「法律には限界ある」堀病院長が開き直り(毎日新聞)

「法律に基づいてやるには限界がある」。保健師助産師看護師法違反容疑で神奈川県警に家宅捜索された堀病院の堀健一院長(78)は、同県警の調べ に、看護師らに助産行為をさせていたことを開き直って認めた。同病院の助産師数は同規模の病院より極端に少ない。厚生労働省は「助産行為は医師と助産師し かできない」との見解だが、公然と反旗を翻した格好だ。
・・・堀健一院長(78)は24日夜、 横浜市瀬谷区の同病院で報道陣の質問に答え、「患者が来るのに助産師が足りない。看護師が内診をすることは必要悪だ」と強調した。今後の対応についても 「(看護師らによる内診を)続けなければどうすればいいのか。看護師による内診をやめたら明日から患者を全部やめなければいけなくなる」と語気を強めた。

まず、最初に本題と関係ないところで一言ですが、見出しに「開き直り」とつけて、主張の正当性を最初から疑ってかかっているかのようなバイアスを与えるやり方は、そろそろ考えた方がいいんではないか、と。記事の内容としては、双方向の意見を紹介していたり、法令に従って真面目にやっているところもあるところの現状も紹介したりして悪くないだけに勿体ない感じが。

で、本題は看護師の内診は必要悪かどうか・・・ではなく、(それは私には判断できませんので)、院長の方が仰っているように、看護師による内診を禁ずることが「悪法」であったとして、「あえて法律違反(と言われている)行為を犯して悪法に挑戦していくこと」をどう考えるかということについてです。


違法≠悪 

「悪法」絡みについては、PSE法に関連して以前とりあげたことがありますが、一般に思われているよりも「悪法」は世の中に遍在しているし、「悪法」を破ることは「違法」ではあるが、それが倫理的に非難されるべきこと(悪)と一致することとは限らないというところです。

また、PSE法の場合と同じく、今回も違法かどうかの境は法律の文言から明確なのではなく、行政庁(厚労省)の解釈上は違法という話のようですから、その意味では裁判所による法律解釈の究極的な判断は未定の領域のようです。

こうした場合に、「あえて法律違反(と言われている)行為を犯して悪法に挑戦する」ということ自体は必ずしも珍しいことではありません。
典型的なのは、税金に絡む事件ですが、国税庁による法律解釈と納税者による解釈が異なる場合に、納税者側が敢えて国税庁見解に反した申告を行って、それに対する更正処分を受けた上で、更正処分取消訴訟を提起する場合です。
日本では(アメリカも同様ですが)、訴訟に持ち込むためには、具体的な「紛争」でないといけない(争訟性)とされているため、実際に納税する前に国税庁の見解が間違っているかどうかを法廷で争うことは難しく、実際に法律違反状態となって、それに対して不利益な処分(更正処分や刑事罰など)がなされる必要があります。
そういう意味では、「敢えて法律違反(と言われている)行為」を犯すことは、裁判所を使って「悪法に挑戦する」ためには、どうしても必要になってくるという側面があります。

余談になりますが、アメリカでは、一般に違法行為に関しては経営判断原則の適用はないと言われているのですが、こうした法律の有効性を争うための「戦略的な法律違反」はなお経営判断原則の保護を受けることができると考えられていたりするわけで、そうした意味でも、「戦略的な法律違反」というのはあり得るわけです。

こうした場合には、これに対して行政機関が不利益処分を行ってくるのは「想定内」の話ですし、こうした「法律違反」は、「悪法に挑戦する」ための一つの正統派のルートになるわけです。

準備と大義

ただ、「悪法に挑戦する」というのは、「国家権力を敵に回す」ということです。
玉砕するというのも一つの美学かも知れませんが、それにしたってその「玉砕」が戦略的な効果を達成するためには、入念な準備が必要です。

行政機関がチャレンジしてくることは想定した上で、その場合にどういう具合に戦っていくのかというところまで考え、それに対して準備をして、はじめて「国家権力」という強大な敵に勝てる見込みが生まれてきます。

で、「国家権力」に対抗するためには、何が必要かといえば、綿密な法理論というのは当然として(※)、抽象的な言い方になりますが「大義」です。

医療行為の場合には、おそらくユーザーである「患者(妊婦)の声」というのが非常に重要なはずです。例えば、少し前に話題になった富山の安楽死の事件でも、いったんは高まりかけた医師に対する非難のトーンが弱まったのは、実際の利害関係者である患者の家族の声が医師の味方についたからだったと記憶しています。

今回の場合でいえば、実際に「違法(と言われるかも知れない)行為」を受けていた妊婦(とその家族)が医師をバックアップするどうかがポイントだと思うのですが・・・毎日新聞の記事から推測すると、妊婦の方々は「違法(と言われるかも知れない)行為」を自分が受けていたことを開示されていなかったようにも見えます。

こうした場合、「自分に知らせることなく、そんな違法な行為がされていたのか?」とか「もしそうと知っていたら、多少高くても(不便でも)きちんと助産師のいる病院を選んだのに」という反応が出てしまうような気がします。

こうなると、国家権力に対する勝ち目はますます薄くなっていきます。

それでも、他の産科が「皆」同じことをやっているのであれば、現実にあっていないと言えるかも知れませんが、どんなに数が少なくても法律の規定を守ってやっている競業者がいる場合には、経営努力の問題ではないかという目を向けられてしまう可能性があるように思われます(※2)。

最初に「開き直り」という見出しについて文句を言いましたが、この産科の院長の仰っていることが現実と合致しているかどうかは別として、「国家権力」と戦う準備ができていたかどうかは疑わしいという印象を受けざるを得ず、その意味では「開き直り」という印象を持たれたことは、やむをえない面もあるかも知れません。

一号案件の呪縛

真相は全くのアウトサイダーである私には分かりませんが、ひょっとしたら、今回の産科の院長の主張は、大多数の産科の医師の方々の現状認識を正しく代弁しているのかも知れません。

ただ、一弁護士として残念なのは、「真実」を「国家権力」に受け容れさせるためには、やはり戦略が必要であって、その面で今回の件は十分な用意を欠いているように見えることです。

そして、一号案件というのは、後に続く実務に大きな影を落とします。
例えば、消費者事件などでは、一号案件をどの裁判所に提訴し、多数の原告候補の中からどういう属性を持ったグループを一号訴訟の原告にするのか、一号証人をどうするのか・・・そうした「一号」のインパクトを入念に検討します。

そこまでやってはじめて、強大な相手に対して訴訟という場を使って勝負ができる素地が整うわけです。

・・・というところで、段々とりとめがなくなってきましたが、最後はポジション・トークになってしまいますが、「悪法」と戦うためには、やはり弁護士をうまく使うこと、そして、行政機関がアクションを起こしてからではなく、その前の事前準備の段階での戦略を重視することが大事なんじゃないかと、つらつらと思ったわけです。

 

(※)そもそも、行政機関と対抗できる法理論を立てないままに、「自分はこの法律は気に入らない」というだけでは、裁判所で勝つことはできません。政治的圧力という別のルートを使って国会や行政機関に直接働きかける手段もありますが、この場合も、法理論がないままに利害関係だけをごり押ししても、希望を通すことは難しいでしょう。

(※2)もっとも、当該産科と毎日新聞で紹介されているような厚労相解釈を遵守している産科とを同じレベルで比較できるかについては、より厳密に見る必要があるとは思われます。
ただ、この産科の患者数は日本でも有数の多さということですので、例えば患者プールが少ないため、人口密集地と同様の規模の経済が働かないという話は通じなさそうな気もします。

Posted by 47th : | 13:58 | Foundations of Law

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» 「堀病院」事件(その2) from 売れない経営コンサルタントのブログ
昨日は産婦人科というエントリーで「堀病院」事件に関連して考えるべきこととして産科 [続きを読む]

トラックバック時刻: 2006年08月31日 10:59

コメント

http://www.sairosha.com/bench/musikaku.htm#37
みたいな事例が2004年には既にあったそうです。
(同種の事件で、罰金50万円の略式命令+医業停止3か月の行政罰)

もう既に、1号案件ではないのでしょう。略式裁判なので法廷での議論はなかったのでしょうね。行政罰を出すのは医道審議会という機関らしいですが、ここでは何らかの議論がされたのでしょうか?

#私も門外漢なので詳しいことはぜんぜんわからないです。

Posted by Apricot : 2006年08月25日 00:01

>Apricotさん

略式命令の話は毎日新聞の記事でも触れていたんですが、略式ということなので「悪法に挑戦した」のではなく、「見つかったので神妙にお縄についた」ということで、挑戦という意味での1号案件とはいえないだろうと。

ただ、今日の報道を見ると、何だか件の院長のトーンは大分落ちてしまったようですね。
案外、挑戦することなく略式で終わってしまうかも知れませんね。

Posted by 47th : 2006年08月25日 11:48

初めてコメントさせて頂きます。

拙ブログでも通達の法的是非をこの際司法府まで持ち込んで、徹底抗戦したらどうかの考察を行なってみました。もちろん私は法律は素人ですので、単純に「悪法許すまじ」ぐらいのスタンスでしたが。

ところが幾つかアドバイスを頂いているうちに、ここでエントリーされている争訟性の問題にぶち当たる事になります。この事件で司法の判断に訴え出る事が出来るのは、堀病院で捜査を受けた関係者のみという事になります。

具体的には院長という事になるのでしょうが、一医療機関が国を相手にして訴訟を起すリスクは莫大です。勝算はお世辞にも高くないわけですし、それに費やす時間と費用も多大なものがあります。マスコミも間違い無く敵に回り、世論も逆風です。医療界も助産師を確保できている病院は高見の見物です。

破産覚悟で出撃しろとはとても主張できません。また他の産科病院でも十分な準備をして、故意の違法を起こし訴訟に打って出れるところがあるとは思えません。

結局医療者、とくに多くの(少なくとも半分以上)の産科病院では確保したくても出来ない助産師不足で、いつでも強制捜査が行なわれる状態のまま放置される事になります。どう考えても不正常の状態と考えますが、これを法的に訴える手段が医療界では無いということです。

医療側が精一杯できる抵抗は遵法闘争とささやかれています。通達を遵守できない産院は速やかに閉鎖し、十分な助産師がいない産院は出産制限を行なう。当然出産する産院が見つからない産婦が出てくるでしょうが、法がそう定め、行政府がその整備を怠っている以上、医療者としては如何ともし難いと言うところです。

この事は遵法闘争として意図的に行なわずとも、今回の事件の影響により自然発生的に起こるとも予想されています。私もそれなりの規模で起こると考えています。今でも危機的である産科が、これ以上追い討ちをかけるように減少すればどうなるか。自明の事かと存じます。

ここのブログの御趣旨とは、いささか異なるものになった事をお詫びします。

Posted by Yosyan : 2006年08月30日 06:50

>Yosyanさん
コメントありがとうございます。
本件の場合は、更に対象となっているのが通達ですので、実際の処分がなされる前に争うのは難しいという面もあります。
とはいえ、法も時代と共に変わっていくものです。本文でも書きましたが、「大義」が味方につけば、戦い方はあるような気もします。
危機感を持っている医者の方がそれだけいらっしゃるのであれば、少しだけ時間とコストをかけて、弁護士使ってみるのも手ではないかという気もします。

Posted by 47th : 2006年08月30日 21:56

 
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