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貸金業法改正の迷走

貸金業法改正の全容が明らかになったと思ったら・・・

貸金業法改正案、自民が結論先送り 特例金利に批判噴出(asahi.com)

貸金業の金利引き下げ問題で、自民党の金融調査会や法務部会などの合同会議は7日、時限的な特例の高金利融資などを認めた金融庁の貸金業規制法の改正案を 協議したが、特例金利の存続期間などを巡って批判が続出したため、結論を持ち越した。11日の合同会議で再協議する予定だが、金融庁案が修正される公算が 大きくなった。・・・
この日の合同会議では、議員から「灰色金利の撤廃が遅すぎる」「全体的に期間を短くするべきだ」との批判が相次いだ。また、金利引き下げに前向きな議員からは「特例が規制の抜け穴になる」と反対する意見が出た。
一方、金利引き下げに慎重な議員も「特例は制度を複雑にする」として、段階的な金利の引き下げを求めた。このほか、利息制限法の金額区分を物価上昇を考慮して5倍に引き上げる案にも「利息制限法は変えるべきでない」と反発の声が出た。
金融庁は、特例金利の容認や期間について「急激な金利引き下げで借りられなくなる人が出る可能性がある」「業者のシステム整備などに時間がかかる」と説明しているが、了承を得られなかった。

今年1月の最高裁判決のロジック(返済のインセンティブを与えるための延滞利率も「任意」ではないとした)に驚きを覚えたことから継続的に関心を持ち始めた貸金業法改正論議ですが、今回のこの改正を見ていると、日本の政策決定メカニズムの抱えている課題が非常に明確な形で浮かび上がっているように思えます。

これまでにも論じてきたように、私自身は上限金利引下げ(※)には依然として賛成できませんが、たとえ結論として上限金利が20%になったとしても、そのロジック自体に一応の合理性があり、そのロジックが事後的な政策評価によって検証され得るものであれば、一度その方向へと舵を切ることもあり得るかも知れません(※2)。

しかしながら、今回の貸金業法改正の過程では、金利引下げによって多重債務者が救済されているロジックが十分に検証されないまま、どちらかといえば「消費者金融業者が高金利で消費者をむさぼっている」というイメージや、実際に存在する多重債務者が高金利に苦しんでいるというそれ自体は単なる状態の叙述に過ぎず金利と多重債務の因果関係を示すものではない事実(※3)に依拠して金利引下げが議論されてきたように見受けられます。

元々がロジックによらないものであれば、少しでも立場の違う人間を説得するにも論拠に乏しく、また、どこまでが許容範囲かという線引きも明らかにはなりません。
今回の迷走は、元々の政策立案過程におけるロジックとデータの積み重ねがおろそかであったことの裏返しのように思われます。
ましてや、検証すべきロジックもデータも存在しない政策については事後的評価やフィードバックを望むべくもありません。


・・・と、最早ロジックの世界でも何でもない政治家の宣伝活動のためのアドバルーン化(※4)してしまった貸金業法問題を傍目に見ながら、この問題に対する自分の関心が急速に冷めていくのを感じるのでした(・・・と、放置してある昔の記事の続きをさぼっているのを正当化してみたりする) 


(※)ここで「上限金利引下げ」ということの意味では、現状のグレーゾーン金利を撤廃して、金利規制を一本化した上で、その金利を利息制限法よりに引きつけるという意味で使っています。そもそも最高裁判例によってグレーゾーン金利の実務上の意味が大きく変わってしまったことからすれば、何ら追加立法がなければ上限金利は利息制限法を基準とせざるを得なくなっていくはずなので、別の面から見ると、現状の出資法上限(29.2%)をグレーゾーンではなく正面から適法化するというのは、「上限金利引き上げ」かも知れませんが、最高裁判決から貸金業法改正の一連の流れとして捉えて「引き下げ」と呼んでいることにご注意下さい。

(※2)とはいえ、環境問題などと同じように、いったん壊れてしまうと元に復元してしまうのが難しい資源の存在については、十分に考慮に入れる必要があります。貸金業法改正に関しては、大手消費者金融業者よりも高金利での貸付を担っている中小規模業者の存在です。こうした中小規模業者は、ヤミ金と同視されているきらいもなくはありませんが、高金利貸付について独自のノウハウを持って存在しているという可能性は捨てきれないのではないかと思われます。
大手消費者金融業者と中小業者といった市場構造の多層化が見られる要因についても、本来はより深い掘り下げが必要だと思うのですが・・・これがなされないままに中小業者が放逐されてしまうと、ここに蓄積されたノウハウも散逸されてしまうわけで、あとでやはり上限金利は引き上げた方がいいといっても、それによってこうしたノウハウが復元するとは限りません。

(※3)少し考えれば分かることですが、定期的に収入がある人にとっては元本が数千万にもなる住宅ローンの支払だって可能ですが、会社の倒産や解雇によって収入が途絶えれば、途端に金利の支払いに窮します。問題は、高金利が多重債務の原因なのか、失業や病気などの基本的な収入の減少が原因なのかですが、このブログでも触れた樋口=坂野ペーパーや、これまでの上限金利引下げが多重債務者数の減少と関連を持っていないことや、むしろ、失業や景気の方が強い相関を持っているように見える点からは、控えめに言っても、高金利を原因とみなすためには、説得的なデータが必要なはずです。

(※4)「ニート」や「格差社会」も似たような匂いがするのですが、多重債務者問題の根源はむしろ景気問題や雇用政策であり、あるいは、社会保障の問題の方に多くあり、その意味で仮に多重債務者が急増しているとすれば、疑われるべきは政府の能力であるはずなのに、消費者金融という「悪者」をでっちあげ、それを叩くことで責任を転嫁する道具に使われてしまっているような印象を受けてしまいます。もしそうだとすれば、こうした戦略を政治家個人がとることは、非常に合理的なのでしょう。そして、結局のところ、そうした「テクニック」に簡単にのってしまうメディアと国民のリテラシーの低さこそが、そのような戦略を可能とする要因であり、結局は自業自得ということなのかも知れません(ちょっとシニカル過ぎるかも知れませんが)

Posted by 47th : | 15:26 | Law & Economics

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コメント

fujiです。金利規制のロジックを多重債務者保護と言う視点のみでとらえることに常々疑問をもっています。契約は合理的な自由意思をもった当事者の合意で成立する。返済の目途のない借入や社会通念を逸脱した金利での借入は、もはや合理的な自由意思は存在せず法的にそのような契約に拘束力を与える必要はない。そこで社会通念を逸脱しない金利とは何%なのかが問題となりますが、それは社会情勢や時代と共に変化するので、それを都度の法律で制定する。それが現時点では20%が妥当と判断されている。以上が私の見解ですが、金利規制による消費者保護は結果であり目的ではなく、契約当事者の契約の合理性の問題として捉えるべきと思います。

Posted by fuji : 2006年09月08日 20:10

>fujiさん
以前も同様の話をしたような気がしますが、「意思自治」というドグマだけでは行為能力も意思能力も有する個人の意思決定を法的に無効と評価する線を引くことはできません。(ちなみに、従来の暴利行為に関する裁判例の基準から言っても、年利30%の貸付が公序良俗で無効という議論は難しいので、その意味で法律学の土俵だけで論じたとしても、こうした貸付が無効であるという主張は難しいと思います)。
その点を措いたとしても「社会通念が現在20%」という基準は、いったいどこから出てくるのでしょう?
「社会通念」や「合理性」「常識」は、その客観性が保たれない限り、単に自らの欲する結論を理由付けするためのマジックワードに堕してしまいます。
この点は従来の法律学でも明確に意識され、それ故に、過去の裁判例の積み重ねや立法事実の尊重といった形で客観性を担保するように努力してきた点です。(私自身は、そのアプローチには限界があると感じていますが、)少なくとも伝統的な法律論の方法論を使って、どのような根拠をもって「20%が社会通念である」ということを示していただけないと、議論にはならないのではないでしょうか。
少し厳しい言い方になりましたが、上限金利引下げ問題については、こうした反論可能な論拠を示して、議論を組み立てるやり方が余りにも軽視されてきていること自体がひずみをもたらしているのではないかというのが私の考えです。

Posted by 47th : 2006年09月09日 15:40

 
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