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マイクロソフト訴訟「秘話」?

今世紀(といっても、まだ数年ですが)最大の米国競争法に関する判決といえば、多分2002年に米国司法省がマイクロソフトをシャーマン法2条(違法な独占の維持)等で訴えたマイクロソフト訴訟ということになると思いますが、今学期、Quantitative Method と Antitrust Law & Economics でお世話になっているRubinfeld先生は、実は、そのときの司法省側の実質的なチーフだったらしく、今週のゼミでは、いろいろとそのときの「裏話」が。
差し支えのなさそうなところを、いくつか挙げると・・・

  • Rubinfeld先生は、実は、ごく初期のWindowsに関連する訴訟でマイクロソフトを手伝ったことがあり、もちろんそのことを知っているビル・ゲイツは、Rubinfeld先生が司法省側でマイクロソフトを提訴したことに、相当おかんむりだったらしく、法廷でRubinfeld先生をかなりきつい言葉で罵った(らしい)。
  • マイクロソフトはWindowsは競争にさらされている(従って、OSを独占しているわけではない)ということを立証するために、いろいろな「潜在的脅威」をあげたが、Linuxなんかと並んで、かなりマイナーなOSも「将来Windowsを脅かすかも知れない」とマイクロソフトが法廷でキャンペーンをしたところ、その開発会社の株は一時的に高騰・・・しかし、その後、倒産だか、売却だかでどこかに行ってしまった(らしい)・・・
  • ネットスケープのシェアを70%とするマーケット・サーベイがマイクロソフトから出されたところ、同時にそのサーベイを行ったエキスパートに対して、ビル・ゲイツが「30日以内にネットスケープのシェアが70%であることを証明するようなサーベイが欲しい」と書いたメールがディスカバリーで提出され(・・・訴訟提起後にこんなメールのやりとりがなされること自体が信じられないような失態・・・)、エキスパートに対する反対尋問で、そのメールを示されながら「これでもエキスパートとして、サーベイの結果は信頼性があると断言できますか?」と問われ、絶句・・・最終的には、「それでも、まあ、そう信頼できないわけではない」と言った(らしい)・・・

まあ、そういう小ネタ系もさることながら、やはり印象的だったのは、Rubinfeld先生が、マイクロソフトが、「OS市場を独占していない」という、極めて弱い主張を延々と行うのではなく、「OS市場は独占状態にあるかも知れないけど、これは自然独占で、それ自体は正当な競争の産物だし、ブラウザの一体化は消費者の利便のための技術革新の一環」と言われたら、裁判官の心証は随分変わっていたかも知れないと言っていたことです。
もっとも、Rubinfeld先生が言っていたのは、マイクロソフト事件では、ビル・ゲイツが「ネットスケープとJAVAの台頭はWindowsのポジションに対する脅威だから、これをmatchしてbeatしなくちゃいけない」と書いたメールがディスカバリーで見つかるなど、ネットスケープ潰しの「意図」を証明する文書が、信じられないほどたくさん出てきたので、それがやっぱり致命的だったんだろうと・・・
マイクロソフト事件というのは、理論的に見ても、極めて色々な問題を提起する大変興味深い事件であり、実務的にもその後のシャーマン法2条の活用のきかっけとなった大変重要な事件なんですが、その舞台裏で大きな役割を占めたのは、反トラスト法のことなど全く気にもかけていなかった独裁者の軽率なメールだったというのは、なかなか興味深いお話でした。


Posted by 47th : | 03:07 PM

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コメント

47th様
いつも楽しく拝読させていただいております。
(理解できているかは別ですが。。)
すこし反トラスト法をかじっていたもので,興味を持って読ませていただきました。

2条違反の要件事実といしてintent(willfulness?)を用いるのことに対しては批判が多いと思われるところ,実際上は意図(を証明する物証)が非常に重要だとわかりました。

> これは自然独占で、それ自体は正当な競争の産物だし、

先生はnatural monopolyとおっしゃったのでしょうか。それとも,network effectによる必然的独占を単にnatural monopolyと呼ばれたのでしょうか。瑣末なことですが。

今後も記事を楽しみに読ませていただきます。

Posted by good_country : November 13, 2005 04:38 AM

>かなりマイナーなOSも「将来Windowsを脅かすかも知れない」とマイクロソフトが法廷でキャンペーンをしたところ、その開発会社の株は一時的に高騰・・・しかし、その後、倒産だか、売却だかでどこかに行ってしまった(らしい)・・・

BeOSですか?
あのOSは一時Appleが買い取るという話がありましたが、その話がつぶれて(備考1)、BeOSは結局Palm Sourceに買い取られました。その後、Palm SourceはBeOSを元にPDA、スマートフォン用OSを作りましたが、採用したメーカーは無く、Palm Sourceは経営が傾き、日本のACCESSに買収されるという歴史をたどっています。だから、今はACCESSが保有していることになりますね。

(備考1)ちなみにこの時Appleはスティーブ・ジョブズが経営していたNeXTを買い取り、NeXTのOSが現在のMacOS Xの元となりました。また、この時スティーブ・ジョブズがApple社に復帰したことが、その後のAppleの復活に繋がりました。NeXT OSとBeOS、明暗がはっきり分かれた技術のお話です。

Posted by Baatarism : November 13, 2005 08:15 PM

>good countryさん
すいません。ちょっと言葉足らずでした。
「自然独占」というのは、元々学生が持ち出したtermで、正当な競争行為の結果もたらされたものという程度の弱い意味です。non illegal monopolyとでも言う方が正確かも知れませんね。
network effectが必然的に独占をもたらすのかについては、直接議論はしなかったのですが、ゼミの課題として与えられたRubinfeld教授の論文(Daniel L. Rubinfeld, "Antitrust Enforcement in Dynamic Network Industries ," Antitrust Bulletin, Fall/Winter 1998, pp. 859-882.)では、netwerk effectと独占は必ずしも導くものではないという主張をかなり強くされていました。
>Battarismさん
そうそう、確かBeOSです。
IT技術の世界は、本当に予測が難しい世界で、ゼミで学生の一人がITの世界に独禁法が口を出すのは誤りだと、かなり強硬に主張していたのが印象的でした。
ただ、反トラスト法の学者・実務家の意見は、いわゆるnew economyはいつの時代にも存在し、そのたびに特別だと言われたが、時がたってみれば、その差は相対的に過ぎなかった・・・ITの世界も同じであり、伝統的な反トラスト法の考え方は、なお有用性を持つというのが強いようです。私も、法律家なんで、そう信じたいところですが、インターネットを使えば、瞬時に世界中に情報を伝達可能な世界というのを、本当に今までと同じに考えていいのか、まだまだ悩んでいるところです。

Posted by 47th : November 13, 2005 10:55 PM

アメリカのアンタイ・トラスト法で意図・主観が重視されることについては、日本人として違和感を覚えることが多いのですが、どうも陪審制が影響している(司法省にとっては、事業者の悪しき意図を示す証拠を示したほうが、勝訴判決を得やすい)、という点があるのかもしれません。良し悪しを別にして、アメリカのこの手の裁判はドラマチックな面白さがありますよね。

Posted by けんけん : November 14, 2005 07:31 PM

47th様
お返事ありがとうございます。先生のその論文,未読でしたので近いうちに読もうかと思います。

なお,私が通っていた(っている)大学では,かつてNeXT STEPを全学的に導入した稀有な大学でありました。導入時のセレモニーにジョブズがきたそうです。

Posted by good_country : November 15, 2005 07:50 PM

>けんけん先生
ごぶさたしています。確かに、アメリカはドラマチックですよね。あと、アンタイ・トラストの事件自体が、ドラマチックなので、コーポレーションよりもはまってます^^
>good countryさん
おおっ、生ジョブズですか。
すごいですね。うちは、NexTELどころか、英語版以外のWindowsすらサポートがまずいです。

Posted by 47th : November 15, 2005 10:39 PM

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