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証券市場の公正と信頼?

とりあえずIn-Classのテスト2つが終わりました。
久々の「テスト」は結構疲れます・・・実は、こういう「テスト」の類は、「出題者の意図は何だろう?」とかいう邪念が入り込むので苦手です(- -)・・・そんな余計なことを考えない、まっすぐな人間ならよかった・・・
まあ、でも、終わったからいいや。
ただし、まだ、Take-Homeという持ち帰りの試験が残っています。Antitrustの方は、問題文がなんと16頁も!!・・・考えるのは面白いし、時間もあるので、こちらはなるべく邪心を排除して、楽しみながらやることにします^^
さて、こうやって、NYで一学生としてテストに追われる日々を過ごしている間に、日本では例の誤発注取引事件が大変なことになっているようですね。
ろじゃあさんに発破をかけられた?ので、考えてみましょう・・・と、思ってみても、あんまり細かくニュースを追っているわけでもなく・・・というよりも、私の主たる情報源はろじゃあさんの速報エントリーだったりするんで^^;、とりたてて付け加えることはありません・・・そもそもの担当者の単純ミスもそりゃ悪いし、それを防止できなかったみずほ証券のシステムも問題だし、警告を無視したのも悪いし、取消処理をできなかったシステムもおかしい、システムが作動しなかったときに売買停止などの次善策を講じなかったのも悪い、とはいっても、あらゆる事態を想定してシステムをつくることも難しい・・・
というわけで、非常に難しい問題であり、今後の展開にいっそう注目です。以上。
・・・で、いいような気がするんですが、何かもやもやすることがひとつ。


今回の件は、単なる誤発注、しかも、相当明かな誤発注であって、今回の取引自体から生み出されたプラスの価値は何もないく、どんな処理をしても、最終的には、せいぜいみずほ証券(売主)から買主への富の移転がもたらされるだけで、社会的な効率性には何ら寄与しませんよね。
・・・じゃあ、何故、この取引がenforceされなきゃいけないんでしょうね?
テクニカルに民法上の意思表示関連の規定を適用することが難しいことは、京産大の吉永先生taka-mojitoさんのブログで触れられているとおりなんで、私も、現行の民法の解釈上、当然に取消とか無効になると主張するつもりは全くありません。むしろ、私が疑問に思っているのは「ポリシー」の部分です。
また、「このローエコかぶれの弁護士め!」と石を投げられると困るんですが、何で「取引安全」が大事かといえば、ひとつの理由は、問題となっているその取引自体は社会的な厚生を直接に高めなくても、その取引を保護することで、将来の同種の取引における取引費用を削減するところにあるということができるんじゃないかと。
証券市場における取引において錯誤無効や詐欺取消の適用が制限されるべきだとすれば、その理由も、こういう「事前の」取引費用の削減・・・つまり、相手のことを調査しなくても、一度約定すれば必ず執行されることが保証されていることで、取引を安心してできるようになるというところにあると考えられます。
・・・でも、そこには、自ずから限界があるはずです。つまり、「この取引を無効にしても、誰も将来の取引に際して困らないよね」という場合には、「将来の同種取引に際しての取引費用の削減」なんてことを考える必要はなく、その取引自体のコストとか効率性を直接に問題とすればいいはずです。
そこで、私の中にわき起こる疑問は、今回の取引を守ることが事前の(ex ante)効率性をもたらすことになるのか?という点です。
今回の件でwind fallを得た投資家の取引完了への「期待」を保護することは、事前の効率性をもたらすんでしょうか?
少なくとも、事前の効率性への「悪影響」は2つほど考えられます。
ひとつは、こうした市場関係者の誰にとっても一見明白なエラーによる富の移転をもarbitrageすることの動機付けを与えるということです。例えば、今回、みずほの誤注文を知っても買い注文を入れなかった証券会社や大口投資家も、今回の取引が保護されることを見れば、「次は絶対に遠慮しないぞ!」ということになり、次回、同じような一見明白なエラーがあった場合には、更に機会主義的行動が加速されることになるんじゃないでしょうか?これって、「事前」の効率性なんでしょうか?
もうひとつは、こうして一見明白なエラーによる機会主義的行動についても、そのトリガーを引いた者が全ての責任をとる形になると、そのエラーを避けるために、多額のコストが投下されることです。よく、アメリカのPL法と懲罰的賠償を揶揄する例に、(ちょっと正確でないかも知れませんが)ぬれた猫を渇かそうと電子レンジに入れた買主が、電子レンジメーカーから億単位の賠償金をせしめたので、以後電子レンジメーカーは、およそあり得ないような用法についてまで「これをやってはいけない」という注意書きをしなければならないようになった、というような話がありますが、これと今回の件は似てませんか?
磯崎さんが書かれていますけど、チェックのクオリティとコストは当然ながら比例するわけで、「通常はあり得ない事態まで想定してチェックしておかないと責任を免れない」というルーリングは、事前の観点からみて効率的な結果をもたらすかというと・・・私には疑問があるわけです。
もちろん、今回の件は「あってはいけないエラー」です。でも、そのエラーと条件関係(あれなくばこれなし)にある結果の全ての責任をエラーの主に押しつけていいかどうかとは別です。
Just印象だけですが、今回の単純エラーの損害を拡大したのは、プロの市場プレイヤーの機会主義的な行動=誤発注であることを知って行われた行動が間に介在していると考えることもできるんじゃないでしょうか?
こういう場合には、機会主義的行動によって損害を拡大させた者にも、一定の損害の負担を求めること(具体的には、思ったような利益は得させないことと、取引が空振りに終わったことによる費用程度ですが)で、今後、こういう「一見明白なエラー」が起きたときに、それを拡大させないような事前のインセンティブを与える解決の方が、トータルでみたときに「証券市場の公正と信頼」を守ることにつながるような気がするんですけど・・・どうでしょう?

Posted by 47th : | 17:20 | 雑感

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コメント

ちゅどぉぉん・・・。
さすが47thさん(;^_^A。
ありがとうございます。
大審院の判決も読みなおしてますがなんか昔の人たちのがしっかりしてる部分があるのではと考えてしまいますた。
当たり前のことをまっとうに考えるとどうなるかと市場の信認をどう調整するかということを現実的な視点も含めて考えるという私考がなぜ難しいのか。
もすこしみんなの見解あわせてろじゃあも考えますわ。

Posted by ろじゃあ : 2005年12月13日 19:24

手形法の講義をしていると,「100円手形事件」という超有名事件がありますね。

Posted by もりた@Vail : 2005年12月13日 22:48

>もりたさん
高山病は大丈夫でしょうか?
Veil羨ましいです。学生だからしょうがないんですが・・・
懐かしい(?)手形事件、ありがとうございます。
こっちに来て、実際にチェックを使っていると、数字なんて改変は簡単だから、文字基準にすべきだよなというのは、感覚的に分かるんで、あれはあれでいいのかなという気がします。
で、まあ、今回のはどうなんでしょうね?

Posted by 47th : 2005年12月14日 12:07

毎度素人考えで恐縮なのですが・・・

"市場での成約は絶対"という、馬鹿らしいほど単純な、証券業界の自治ルールによって保たれてきた、司法の介入の余地すら事実上無い状況そのものが、効率性につながってきたのではないでしょうか。
例外をひとつ認めることは、どこかに線を引くことを要求しますので、理論上、司法の判断を仰ぐ権利を全ての参加者に認めることになって、取引の安全をそれなりに損なうように思います。

今回の誤発注をみずほ証券が、裁判に持ち込んで無効にしようとした場合、証券業界が引き続き証券会社として認めるのか、大いに興味があったのですが。

Posted by 獏 : 2005年12月14日 12:13

>獏さん
単純なルールが一定の効率性をもたらすのは、仰るとおりだと思います。ただ、単純なルールを利用した機会主義的行動に対しては、それに対処することは(できるかできないかはともかく)必要であって、そうしたことを通じて、より効率的なルールが形成されるんではないかという気がしています。
この話のアナロジーとして頭に浮かんでいるのは、課税に関するルールやアメリカの反トラスト法の世界のPer Se Rule (競争者間の価格に関する合意は、いかなる正当化があっても違法として処理をするというルールですが、余りにも硬直的な運用から生じる非効率性に対する問題意識から少しずつ緩和されつつある)だったりします。

Posted by 47th : 2005年12月15日 10:56

はじめまして。誤発注騒動でいろいろ探していてたどりつきました。
この事件で、身の回りの米銀・欧銀、証券の連中から何度も「何で日本ではこんな取引をenforceするんだ?」とゲップが出るくらい尋ねられて辟易としていたんですが(東証のルールブックでは認められていないという説明ではもちろん連中納得しない- 何で変えないんだってなりますから)、日本語のサイトではそういう疑問を呈しているところがあまり無いようでしたので47thさんのエントリを見て少しほっといたしました・・・

Posted by くま : 2005年12月17日 07:26

 
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