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アメリカにおける略奪的価格設定に関する最高裁判例(の裏話)

ちょっと前の話になりますが、昨年研修で勤務していた事務所(Weil, Gotshal & Manges LLP)のパートナーのホームパーティーに呼ばれました。
場所はUpper Eastというマンハッタンの高級住宅街で、窓からはセントラルパークが一望できるナイスなマンションの高層階で、改めてアメリカの法律事務所のパートナーの財力を感じたりしたわけですが・・・そんなことはどうでもよくて、私のお世話になっていたそのパートナーは反トラスト法の専門家で、何か去年はどっかで「最も優秀な反トラスト法弁護士」に選ばれたようです。
というわけで大弁護士のはずなんですが、普通に話していると、ただの口の悪いおっさんにしか見えません。でも、たまーーーに「おおっ」ということを口にしたりします。
実は反トラスト法を勉強していると必ずお目にかかる事件のひとつにMatsushita v. Zenithという判例があります。これは、アメリカのテレビメーカーが日本のテレビメーカーを安売りしているということで訴えた事件で、その後の略奪的価格による独占化に関するリーディング・ケースになっています。
このときは連邦最高裁で5対4の僅差で日本企業側に勝訴判決が出ているのですが、松下の代理人をやっていたのが、このパートナー。ということで、ちょっと疑問に思っていたことについて話をふってみたら20年近く前の事件なのに、事案や論点を明確に覚えているんでさすがと思っていたのですが、彼が非常に嬉しそうに話してくれたのが、次の話でした(ああ、長い前振りだった・・・)

あの事件は結局最高裁判事の投票が5-4で分かれて、僅差で勝ったわけだけど、実は、あのときの弁論で一人の判事が、ずーっと下を向いて目をつぶっていて、まるで眠っているようだった。彼は、確か元々人権や労働事件なんかを扱っていた人でこの事件に全く興味を覚えていないように見えたんだよ。
ところが、原告側(Zenith側)の代理人の弁論の時に、突然目をあけて「ちょっといいかな」と質問を始めた。
原告代理人もびっくりしていたんだが、彼は一つだけ「価格が下がることは消費者にとってはいいことなんじゃないのかね?」と訊いたんだ。
原告代理人は、一瞬つまったあと、「いや、それはそうなんですが、とはいっても・・・」と彼らの理屈を説明しようとしたんだが、判事は「わかった」と言って手をふって、その後はまたずっと目をつぶって下を向いて腕組みしていた。
結局、それで5-4だろう。歴史なんてのは、そんなことで決まるもんなんだよ。がっはっはは。

Posted by 47th : | 11:26 | Competition Law : Antitrust (U.S.)

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コメント

こういう話は大好きです(^^;)。
合弁事業とか新手の大規模ファイナンスとかでもこの「すっ呆けた善人」の一言が全体の方向を一気に決定するってことは結構あることだと思います(ちょっとだけ経験則含む)。
法務部仁いたときにタフな交渉相手と協議するときには弁慶の泣き所などすぐに見つからないので「膝かっくん」を狙えといったことがあるのですが、これはまさに「膝かっくん」ではないかと・・・こういう原理原則素朴な疑問って、たま~にひとかどの方が発するから意味があるんで、そのまま当てはまる話ではないんでしょうが。
日本の最高裁でこの手の話というと・・・ははっ、どうなんでしょうねえ(自己規制自己規制)。

Posted by ろじゃあ : 2005年12月26日 01:39

 こういう裏話、大好きです。
 僕も変ったところに勤めていたのでその手の裏話はあるんですが、まずくない程度に書くのが難しいところです^^;

Posted by Taejun : 2005年12月26日 06:27

EC裁判所だったら、「ところで、競争相手がいないのに、それで本当に競争と呼ぶのかね?」となるのでしょうか(EC委員会は急速に米国に”寄せて”行っていますが)。

Posted by 4thestate : 2005年12月26日 17:54

初めまして、色々とリンクを伝ってやってきました。以前から目を通していたのですが書き込みは初めてです。よろしくお願いします。
面白い話ですね。以前「オフィス北極星」というアメリカを舞台にした弁護士の漫画で似たような話(半導体のダンピングの件で訴えられた日本企業が「最終的には消費者には得をさせた」という意見で勝訴する)を読んだことがあります。
もしかしたらこの裏話が元ネタだったのかもとか思いました。

Posted by bob : 2005年12月26日 23:25

>ろじゃあさん、Taejunさん
裏話、喜んでもらえてよかったです。
また何かさしつかえのない面白い話があれば、UPします。
>4thestateさん
DOJやFTCがケースを最高裁に持ち込みたがらないのも、裁判官の直観的な判断をおそれているのかもしれませんね。ゲーム理論に基づいた予測を正確に理解してもらえるとは限りませんから・・・EUでも米国化が進むと競争当局と裁判官との認識の差が出てくるかも知れませんね。
>Bobさん
はじめまして。
オフィス北極星は私も読んでました。その話は覚えていませんが、結構鋭い切り口のいい漫画でしたよね。ちゃんとした取材に基づいている印象があったので、仰るとおり松下事件をモデルにしたのかも知れませんね。

Posted by 47th : 2005年12月27日 10:22

 
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