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ライブドア強制捜査-「風説の流布」の法的論点

昨日見た24のシーズンVが余程強烈だったのか、逆境サスペンス系の夢を見て夜中目を覚ましたりしている間に、日本ではもっと大変なことが起きていたみたいですね。ろじゃあさんからのコメントを見て、日本のニュースを見てびっくり。

東京地検、証取法違反容疑でライブドア本社など家宅捜索 (NIKKEI NET)

ライブドアの関連会社が2004年に企業買収した際、買収方法について虚偽情報を開示し、虚偽の決算を公表していた疑いが強まり、東京地検特捜部は 16日、証券取引法違反(風説の流布など)の疑いで、六本木ヒルズ(東京・港)内のライブドア本社や堀江貴文社長の自宅など関係先を家宅捜索した。今後、堀江社長ら幹部の事情聴取と押収資料の分析を進める。  
(中略)
調べによると、東証マザーズ上場の関連会社、ライブドアマーケティング(当時バリュークリックジャパン)は04年10月、出版業のマネーライフ社を株式交換で買収すると公表。しかし、実際には公表前に買収先企業の株主に現金を渡して事実上、傘下に収めており、開示した内容が虚偽だった疑いが持たれている。

ここであげられている「風説の流布」というのは証券取引法158条において、次のように規定されています。

何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等、外国市場証券先物取引等若しくは 有価証券店頭デリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならな い。

相変わらず読みにくい条文ですが、まず、客観的には、「風説の流布」(虚偽あるいは根拠のないことを広めること)という行為が必要になります。ただし、これだけでは十分ではなく、これはいわゆる「目的犯」ですので、(a)「取引のため」 OR (b)「相場の変動を図る目的」のどちらかを満たさなければいけません(あと「故意」も必要ですが、「目的」が認定されれば「故意」がないというのは、余り考えられないところです)。

とりあえずNIKKEIの報道によると、バリュークリックジャパンによるマネーライフ社の株式交換に関する発表が問題ということのようですが・・・ちょっと、これだと分かりにくいですね。asahi.comの記事の方が、もう少し詳しいようです。


調べでは、同社は「バリュークリックジャパン」という社名だった04年10月25日、出版社「マネーライフ」社を株式交換の形で完全子会社にすると発表した。しかし、マネー社はライブドア本体が同年6月、別の投資ファンドに買収資金を出す形で事実上買収済みだったという。
バリュー社はこうした事実を隠し、ライブドアグループとして新たにマネー社を買収したかのように装った疑いが持たれている。特捜部は新事業などでバリュー社の企業価値を高め、同社株の価格をつり上げるための偽計取引だったとみている。
さらに、バリュー社は株価を上げるため、同年11月に出した決算短信で第3四半期の売上高、経常利益、当期純利益を水増しして虚偽を公表(風説の流布)した疑い。

問題のプレスリリースというのは、2004年10月25日付けの「株式交換による株式会社マネーライフ社の完全子会社化に関するお知らせ」のことなんだと思うのですが、確かに、ここにはマネー社の100%株主として「VLMA2 号投資事業組合」という名前があるだけで、ライブドアの「ラ」の字もありません。ただ、法的には直接の株主はファンドですし、その実質保有者を開示しろという要請はありません。その意味では、このプレス・リリース自体に積極的に「虚偽の記載」があるというのは少し難しい気もしてきます。

そうすると、ここでの「風説の流布」というのは、「開示すべき内容を開示しなかった」という「不作為」を問題としたということなんでしょうか?

確かに、証券取引法で定められた有価証券報告書その他の開示書類については、「重要な事実を記載しなかったこと」(material omission)も違反の対象となっているのですが、これらの規定は、証券取引法上の法定開示書類についての規定であり、かつ明文で不作為(不記載)も処罰の対象とされることになっているのですが、「風説の流布」については、不作為については法律上は言及はありません。

とすると、一つの法的なハードルは、「風説の流布」にこうした不作為的要素(プレス・リリースの公表自体は作為なので、完全な「不作為」ではないわけですが)をどこまで取り込めるかというところになりそうです。私は、すぐに限界的なケースを考えてしまうのですが、「法定開示書類」という縛りのないところで、不開示的な要素が「風説の流布」に含まれるという解釈を推し進めていくと、例えば、不正確な報道が第三者によってなされたり、市場に不正確な憶測が流れたりした場合に、積極的にそれを是正することなく放置したような場合には、どうなるんだろう? というところを考えてしまいます。

次に一般的な解釈として「不開示」的な要素も含まれるとしても、今回の事案において「ファンドへの出資関係を開示すべき法的義務」というのが認められるのかというのもハードルです。
今回のファンドがどういう形のものだったのかは分かりませんが、コントロールは信託(charitable trust)が持っていて、資金提供者は形式的には単なる債権者に過ぎないという形がとられることも多いと思うんですが、こういう場合には、資金提供者はファンドのコントロールを有しているわけではなく、従って、ファンドを通じて保有している企業は連結とかの対象にならないという考え方というのはあったんじゃないでしょうか?
もしかしたら、今回のケースでは、6月の時点で既にファンドの唯一の投資家になっていた、とか、実際にコントロールを及ぼしていたという事情が存在する可能性もあるとは思うのですが、何となく、今回の件は、単にライブドアがどうのこうのというのではなく、ファイナンスの世界で存在している一種の「暗黙の了解」に踏み込む可能性もあると思うのは考えすぎなんでしょうか?
全然事案は違うわけですが、むかーし、マイカルの破綻処理で倒産隔離に関する業界の「暗黙の了解」に冷水が浴びせかけられたときのようなインパクトを潜在的に持っている件のような気がしないでもなく・・・

最後に、「目的」の部分についても、そもそも「その買収が市場に好感される」ということが相当の確率で存在しないといけないわけですが、株式分割のような場合と違って、買収の株価への影響というのは、結構水物のところがありそうです。(少なくとも米国での実証研究では、買収の発表は買収側企業の株価にマイナスの影響を与えるという理解があるわけですが、日本ではどうなんでしょうね?)
また、報道によると、今回は「ライブドアの株価安定」という点を目的に据えてるようですが(また、ライブドアとVC社の株価を究極的に一体化してみないと10月時点の発表それ自体は重要なイベントではないという理屈はとれないはずですので)、2004年10月の株価上昇は、本来2004年6月に生じるべきだった株価上昇が先延ばしにされていただけであって、10月の発表による株価上昇は、単に「より正確な情報が市場に到達したことによってファンダメンタルに近づいただけ」ではないかという見方もありそうな気がします。
こういう「後から正確な情報を追加開示したことによってファンダメンタルに近づいた場合」でも「風説の流布」に当たるとすると・・・なんか、これも結構いろいろとインパクトがある話のような気がします。

まあ、事案関係がはっきりしないので、何をいっても今の時点では「憶測」に過ぎないわけですが、もう一つ見方を変えてみると、上に述べたような解釈論のハードルというのは、当然に証券取引等監視委員会でも検察でも検討されているはずで、それでもなお、これだけの資源を投じて捜査に踏み切った点には、単にルールを定めるだけでなく、それが実際にエンフォースされなくてはならないという規制当局としての「強い意志」の現れなのかも知れません。

何れにせよ、対象が「ライブドア」というだけでなく、その背後にある法的な理屈の上でも非常に重要な事件になっていくのかも知れません。

Posted by 47th : | 09:44 | Securities

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コメント

ども、引きずりだしてしまったようですいません(意図通りだったりするわけですが)。
ご指摘のとおりで、目に見えない「何か」が確実に動いているのかもしれません。他のブログでいわれてるような、明日の証人喚問と結びつけたお話はちょいとおくにしても(^^;)。
むしろ先週末の貸金業についての最高裁判決に感じられる「何か」の方が親和性があるような気もします。
47thさんが懸念されてるチャリトラやらケイマンSPC型のさまざまなモデルに対する共通の「何か」なのかはよくわかりませんけどね。
まあ、以上ははっきりいって戯言だと思います。ろじゃあのこの手の懸念って大体杞憂に終わりますので。
でもねえ・・・今回はちょいと違う意味で潮目の変化を感じるところもあるんですよねえ。くどいかもしれませんが。

Posted by ろじゃあ : 2006年01月16日 11:30

マネーライフ社の買収に関する情報開示に点については、あるいは、証取法158条の「偽計」(もともとライブドアグループ内での身内取引なのに、あらたなグループ化にようにみせて、親会社のライブドア社の株価をつりあげる)、という法律構成なのかもしれません。

Posted by KA : 2006年01月16日 17:28

>ろじゃあさん
元々、昨年の証取法改正自体で流通市場での不公正な取引に網をかけていこうという方向性はあったんでしょうが、執行の面でも何か変えていこうという動きがあったのかも知れませんね。
確かに、これが単発で終わるとは・・・ちょっと考えにくいところです。

Posted by 47th : 2006年01月16日 17:29

>KAさん
「偽計」ですか・・・そうですね。
偽計だとしても、やはりその偽計の中核は開示しておくべきことを開示していなかったという点ではないかという気がします。
おそらく、本件については、何かまた別の事情があるんだと思うんですが、日本の場合はこれまでのところ裁判例が少ないので、一つの特殊事案から出た裁判例が予期しない影響を実務に及ぼすこともあるので、そういう意味で、今回の検察の理論構成は興味深いところです。

Posted by 47th : 2006年01月16日 22:17

こんにちは。
いきなり精力的なエントリーに圧倒されております。
私も、この事件の検察側、被疑企業側弁護人の対応に非常に興味があります。偽計、風説流布の事案への適用については私もエントリーしてみたいと思います。
今回は、新聞をみてもなかなか「専門家」のコメントが少ないようで。。

Posted by toshi : 2006年01月16日 23:29

toshiさんもご参入で。
>今回は、新聞をみてもなかなか「専門家」のコメントが少ないようで。。
そりゃそうでしょう。
証取法だって数が限られてるのにそれについての刑事分野のお話ですから(^^;)。
それに嫌疑がイマイチホントにこれ一本?って言うところすらわからない訳ですから、コメントの仕様がないというのもあるでしょうねえ。

Posted by ろじゃあ : 2006年01月17日 00:53

あるいは、専門家にとっては、今回の件は対岸の火事ではないので、少なくとも世間が期待するような「年貢の納め時」的な論調では書けず、息を潜めて今回の事案とか理論構成の情報収集に奔走しているとか・・・

Posted by 47th : 2006年01月17日 11:47

47thさん、それいきなり直球球すぎ。
山田太郎が清原に三球連続ど真ん中投げるように松坂に求めてるようなもんっす(^^;)。
でも確かに、会計士の先生とか弁護士のセンセで手がけた案件の影響まじめに検討してる方々は多いような気がします。
投資サービス法の生みの苦しみなのかはたまたそれ以外の・・・(^^;)。
さすがに眠いので仮眠します。

Posted by ろじゃあ : 2006年01月17日 13:37

 
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